ヒロアカ世界に転生したは良いけど主人公不在らしいです。どうしろと!?   作:サブレ.

1 / 37
第一話

俺の名前は字真墨(あざますみ)、転生したらヒロアカの世界だっただけのごく普通の子供である。

うちの家は、混乱期にめちゃくちゃ偉大な初代当主が作り上げたんだよ〜と言われる程度にデカくて諸々のしがらみがある家だった。とはいえ、俺の生まれた家自体は医者の父親にスーパーでパートをしている母親、俺、妹の四人家族。祖父母がいて、伯父一家と独身でヒーローの叔母。

俺の世界はそれなりに平穏に回っていたので、たまにややこしいと感じる一族云々を含めてもアタリの部類だと思う。

 

生まれた時からじわじわと感じるデジャヴと付き合いつつ、三歳の時に父親の見守る前で、筆で半紙に「火」と書いたら半紙が燃え上がったことで個性が発覚した。と同時に本格的に、ヒロアカ世界の知識が蘇った。

 

「わあっ!」

「すごいぞ真墨!お前は父さんと同じ“個性”を持ってるんだな!」

 

火を消火したあとに、父親は俺を抱き上げてぎゅーっとした後、楽しそうにぐるぐると回って喜びを表現した。これが俺の個性、モヂカラ。筆を使って漢字を書くことで、書いた文字を具現化する能力。

割と強個性だな……と思う。たしか戦隊ヒーローが戦う時に使う能力だったはずだから強いのは当然だが。

まあ、せっかくこんな強い個性を持ってることだし、ヒロアカ世界なんだからと俺がこんな夢を持ったのは自然なことだろう。

もっとも、この時若干三歳の俺の発言で、俺の人生は確定してしまったのだから、お家騒動というのは厄介なものである。

 

「おとーさん。おれ、将来ヒーローになる!」

「!……すごく大変な道のりだぞ。真墨や父さんのご先祖様の初代当主のような、立派なヒーローを目指すことはできるか?」

「うん!」

 

なんの躊躇いもなく頷いた俺に、大きくなった俺から言えるのはひとつ。

 

 

頷くのは良いからもう少しちゃんと話聞いとけよ、である。

 

+++++

 

五歳くらいから、ヒーローの叔母に刀の稽古を付けてもらいつつ、モヂカラの鍛錬を始めた。祖父の持っている土地はモヂカラや刀の鍛錬に使うために結構広大だ。

ちなみに刀の鍛錬に関しては字家生まれの人間はよほどの事情がない限り全員やってるので、医者の父や伯父、年上の従兄も全員参加である。祖父母以下のちょっとした交流会のようなものだ。

父と伯父の試合を見ながらよく冷えたラムネを飲んでいると、隣に従兄二人を同時に返り討ちにしてきた祖父が座った。

 

「真墨、オマエはヒーローになるのか」

「うん、オールマイトと一緒に戦えるようなヒーローを目指す!」

「……!そうか。じゃあ、親父にも伝えておこう。オールマイトと肩を並べるヒーローとは、初代当主様もお喜びになるだろう。辛い道だが、気張るようにな」

「はい!」

 

この初代当主、なんと黎明期にAFOとやり合い、その後雄英高校の設立にも携わったというまさに教科書に載るクラスのレジェンド。その血統、正しく英雄である初代当主の血を引く者として、ヒーローの叔母はそれはそれはプレッシャーを受けたらしい。

祖父や叔母、父親の厳しい道であるという言葉は、俺を思っての言葉であることはよくわかる。

本当に、厳しくも愛されてるなあと思うのだ。

 

「みんなー、休憩にするわよー」

「スイカ食べる人!アイスも用意あるからね!」

「スイカ!」

「アイス!」

 

さっきまで祖父に倒されて寝転んでいた従兄たちが刀を丁寧に、しかし素早くしまうと母親や祖母の元へと走り出した。転ぶでないぞ、と祖父が注意する。

 

「ほら、お前も行っておいで。ラムネは爺ちゃんが預かっておこう」

「いいの!?俺のアイス、チョコ取らないで!」

 

わーっと全員が冷房のついた部屋に集まって、テレビをつける。スイカやお菓子、麦茶、冷凍庫から出したアイスクリームを食べながら団欒していると、不意にテレビの雰囲気が切り替わった。

 

『ニュース速報です。昨日未明、静岡県の緑谷出久くんがヴィランと思われる人間に連れ去られ、行方不明となっています。警察は近隣住民に警戒を呼びかけるほか、ヒーローと提携して行方を探しており──』

「んぐっ」

 

ちょい待て。

淡々と読み上げられるニュースに映し出された少年の写真は間違いなくこの世界、僕のヒーローアカデミアの主人公のもので、思わずアイスを吹き出しかける。叔母が急遽この集まりに来れなくなったのはこの事件が原因か。

アイス吹き出しかけたのは同年代だからと納得されつつ、俺の頭は混乱の極みにあった。

えっ、ちょっと待って。

主人公どうした!?

 

 

 

時は経ち、俺は折寺中学校に進学した。ごく普通の若干荒れ気味な公立中学校である。両親は私立中学校の受験も選択肢に入れてくれたけど、適当な理由をつけて断った。

折寺中学校に進学した理由は、爆豪勝己(かっちゃん)のことがちょっと気になったからである。緑谷出久と同い年であることはあの日のニュースで分かってたしな。

結論から言うと、かっちゃんはかっちゃんだった。ただ、緑谷出久の失踪事件に関してはそれなりに思う所どころか、大きな傷を残しているらしいのは分かった。

具体的に、聞いたことはないけど。

 

「かっちゃーん!進路希望出したか?」

「かっちゃん言うな真墨!で、テメェも雄英受けんだろ?推薦じゃなくていいのかよ」

「俺は推薦はダメだわ、志波烈堂の玄孫が推薦とかフツーに不正疑われる。あとみんな推薦使ってないから自力で突破してこいって御当主様が」

 

しかも雄英高校ヒーロー科以外は認めない、そこ以外を目指すなら一族から外すし字の名字を名乗ることは許さないとまでのお言葉だ。うちの一族厳しいよね。これを突破した叔母含む一族のヒーローメンタル強すぎ。

 

「でさー、今週末かっちゃん爺ちゃんのとこ来る?爺ちゃんが、せっかくだから爆豪君連れておいでーって」

「ったりめーだろ」

「あそこ個性訓練便利だよなあ」

 

雄英高校を記念受験する者は折寺中学校に数多くいれど、本気で目指していて、かつ合格圏内なのは俺とかっちゃんくらいのものだ。

というか俺は血筋的に合格確定だろくらいの扱いを受けてる。そして合格しないと一族内での俺の立場が終わる。雄英高校、倍率300の偏差値79なのに。

そんなセンシティブな事情をなんとなく察してるかっちゃんは、俺に注目が集まってる中でも近寄るんじゃねえ!とか言わずにいてくれるし、俺はお礼代わりに爺ちゃんに頼んで、敷地での個性訓練に招待しているわけだ。

すまん、まじで。

 

+++++

 

試験当日。

筆記は普通にクリア。多分いける。

実技試験は、持ち物は多少自由だったので、予備を含めて百均で買った書道の筆を何本かパーカーの懐に突っ込んで参加することにした。

叔母がヒーロー引退したから使わなくなったサポートアイテム借りるって手も無くもないけど、それこそ不正だしな。

 

かっちゃんとは別会場なので、ぼけーっと次の試験を待っていたら、隣に麗日お茶子と飯田天哉、あと青山優雅がいた。すげー、原作キャラクターだ。

そういや内通者って青山だっけ。全部終わったら御当主様に相談してみるか。

あの人マジのガチのレジェンドだしなんとかしてくれるだろう。

 

 

『ハイスタートー!』

「っと」

 

アナウンスが始まった瞬間にとりあえず走り出しながら筆を懐から取り出して、空中に『刀』の文字を書き込む。即座に顕現した刀を手にして、敵ロボに斬りかかった。

祖父と叔母はこれよりキッツい訓練してきたんだぞ、俺やかっちゃんがこの手にかかるわけないだろ。

かっちゃんここに居ないけど。

にしても楽だ。常に精神を研ぎ澄ませてなお多少余裕がある。ロボットだしな、敵。

適度に敵を倒しつつ、邪魔な瓦礫を脇に避けたり、疲弊してる受験生にモヂカラで出した水を渡したり。大きめの怪我を負った人を安全な場所まで運んだり。

そうこうしてると、最初の説明にあった0点ギミックの超巨大ロボがビルをかき分けて現れた。

ふむ。周囲を探して……あ、いた。

 

「えーっとそこの、ボブカットで物浮かせられる…、そう君!」

「えっ?うち!?」

「そう、君。ちょっと手伝ってくれるか?うん、大したことじゃないんだ、っと」

 

爆風が襲う。バランスを崩しかけた彼女の腕をとって、転ばないように支えた。

 

「いくつか瓦礫あるだろ。それを、空中に浮かせたまま留めることはできるか?足場にしたいんだ」

「あれを、倒しに行くの?0Pなのに」

「うん。0Pでも敵は敵。誰かが引かなきゃいけない貧乏籤ならさ、俺が引いても良いだろ。もっとも君にも付き合わせちゃうことになるけど……」

「ううん、やる。転ばないように支えてくれてありがとう」

「こちらこそ、提案を飲んでくれてありがとう」

 

うし、足場があるとないとじゃだいぶ楽さが違う。いくつかの小さな瓦礫が持ち上がって空に停止した。十分だ。

すう、と深呼吸して、空中の瓦礫を足場にして、一気に0Pの敵に接近した。刀にあらかじめ「火」のモヂカラを込めていたので、それを解放する。

 

「───火炎の舞」

 

刀に纏った炎の奔流が、0Pの敵を吹き飛ばした。そのまま後ろにゆっくりと倒れていく。

そのままうまい具合に着地をするのと、試験終了の合図がくるのは同時だった。やれやれ。

 

「ありがとう、君のおかげで倒すことができた。俺は字真墨。君は?」

「麗日お茶子。すごいね、真墨く」

「ふざけてんのか!!!」

 

突然、どこかから罵声が飛んできた。刀を納めてからそちらを見やると、受験生の一人が俺に向かって罵声を浴びせている。俺の立ち回りが気に食わなかったのか。

とりあえず、麗日を背中に隠す。俺の受ける罵声だしな。

 

「舐めた態度で受験して、ポイント取っていきやがって!遊びなら最初から来るんじゃねえ!」

「他人のために強く戦えるものを。この場所はそのために作られたと聞いた。“戦えず逃げ惑う者”のために戦った俺や彼女が不適格だと判断されるような学校なら、俺から願い下げだ。良かったな、受かるぞお前」

 

偉大なる初代当主、志波烈堂の理念が機能してない学校なら普通に自主退学も視野に入れないといけないと言うか、最悪御当主様に報告入れないとやばい。

対AFOの意味でも。

 

『ヘイ、リスナー!喧嘩はそこまでだぜ!受験生は順番に───』

 

プレゼントマイクの案内を聞きながら、俺は刀のモヂカラを吸収して消した。モヂカラを使って出した物はモヂカラを吸収すれば消すことができるし、吸収しなければそのまま残り続ける。

もっとも還元率は雀の涙、0.1%にもみたないけど。少ねえよなあ。

さて、帰るか。どうせ爆豪は原作通り受かってるだろうけど。

 

 

 

後日、合格通知が届いた。レスキューP多めで判断されてて一安心。雄英高校を辞退する必要はなさそうだ。

さて、御当主様へ報告に行かねばな。

 

それにしても、お家騒動加速しそうでちょっとうんざりしている。

御当主様がマトモなことが幸いである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。