ヒロアカ世界に転生したは良いけど主人公不在らしいです。どうしろと!? 作:サブレ.
へいへい、字真墨ですぜ。
時期は六月末、そう期末テストが迫っていた。中間の順位は俺の仲良い人だと、八百万一位、飯田二位、俺三位、かっちゃん四位、轟五位。
入試では首位を譲ったが中間では勝ったので全力で喜んでしばかれたのは記憶に新しい。
「志波の侍なら演習とか余裕だろうねー」
「って調子こいてたら足元掬われるのが世の常だけどな」
「たしか、字家の御当主様が元雄英高校の先生なんだよね。何か知ってる?」
「御当主様が退任したの二十年前だぞ。生まれる前だわ」
食堂でも、期末試験の話題で持ちきりだった。お米を頬張りながら演習についてあーでもないこーでもないとやってたら、頭の方に何か近づいてきたので手を差し出してぶつけられようとしてきたトレーの角を押さえて止める。
「えー……B組の物間君か。奇襲しかけたかったらもう少し気配消したほうがいいぞ。わかりやすすぎる」
「これだからA組は!体育祭に続いて注目を浴びるような要素ばかり増えてくよね、ただその注目って」
なんだコイツ。
つらつら喋っている物間君を見上げてたら、拳藤君が物間君を仕留めて静かにしてくれた。ありがとう。
一応原作では、例年の対ロボット演習ではなく先生との二体一の実戦形式だった。でも、俺が今いるこの世界においては原作通りになるかどうか不明だ。
なので具体的な発言は控えさせてもらった。どっちみち、楽な試験でもないだろうし。
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職場体験から試験勉強までの合間、休憩時間を縫って緑谷出久の失踪事件について改めて調べていた。
世間的には失踪と銘打たれているが、警察での正確な取り扱いは誘拐事件だ。富裕層でもない無個性の子供をわざわざ誘拐する筈がないだろう、という世間的なバイアスが滲み出ている。
死亡認定が出せるのが七年だが、緑谷出久が消えてから今年で十年目。インターネットの海を漂っていれば、事件を面白おかしく書き立てるゴシップ系のニュースサイトが十年目突撃インタビューとして緑谷引子に会いに行った形跡があった。
かっちゃんがピリピリしていたのはこれが原因だな。
「んー……あ、そだ」
緑谷出久は熱心なヒーローオタク、オールマイトオタクだった筈。保須市におけるヒーローグッズを取り扱っている専門店のSNS公式サイトをざっとリストアップ。
その投稿を保須市の事件前後まで遡ってチェックしていく。
すると、奇妙な投稿が一件。いいね数などは普段の投稿よりは確かに多いが、コミュニティの輪を抜け出るほどでもない、その程度。
【従業員が避難中にオールマイトマスコットを千円で購入されたお客様がいるようです。ヒーローの避難指示には従いましょう。そして購入されたお客様、商品の交換とお釣りをお渡ししたいので、この投稿を見たら連絡ください!】
「…………!!!」
オールマイトマスコットについて詳しくないが、商品情報を見れば……いやグッズの種類多いな!?とりあえずかっちゃんに聞くかそっちの方が詳しいだろ。
「かっちゃん!」
『うるせえ!何時だと思ってる殺すぞ!』
「まだ日付変わる前だ!それよりちょっと確認してほしいことがあって……」
守秘義務の範囲は伏せつつ、ざっくり事情を説明するとかっちゃんは息を飲んだ後、少し時間よこせ、と言って電話を切った。
念のため投稿の魚拓とスクショを撮って保存する。あのかっちゃんが時間よこせ、と言ったのだからすぐには答えは出てこないだろう。
画面を閉じる。試験も迫る中だ、とりあえず睡眠を確保して次の動きに備えなければ。
翌日。
目の下に隈を作ったかっちゃんに「ん」と差し出されたそれは、オールマイトのマスコットグッズの資料だった。まじで一夜で作ってくるとは思わなかった。ビビりつつ資料を捲ると、オールマイトのマスコットの発売時期や種類などが事細かにまとめられている。
「さっすがかっちゃん」
「多すぎてそこまでしか絞り込めねえよ。つーかなんでマスコットってわかったんだ」
「盗難被害ないか在庫チェックしたか、メモ書きか何か残したのか……」
「本当に“アイツ”ならメモでも残してたんだろうが」
「そこは要問い合わせだな。筆跡……まあ変化してる可能性もあるが、」
「余裕そうだな、お前ら」
不機嫌そうなよーく聞き覚えのある声がして、振り返れば相澤先生が立っていた。時間は予鈴の一分前。俺たちの手元にはオールマイトグッズの資料。
やっべ、話し込みすぎた。
慌てて教室内に駆け込んだ。セーフ、だと思いたい。
筆記試験はつつがなく終わった。そこそこ手応えあるし変な結果にはならないだろう。ちなみに普段授業でも一緒にいる獅子折神のエージだが、流石に試験中は没収である。
演習試験は、二人でチームアップを組んで先生と戦ってもらうぜ!という、原作と同じやつだった。
そして、俺はかっちゃんと組まされた。なんでだと思ってたら相澤先生に理由をちゃんと説明された。
「お前たち二人、期末試験対策に身が入っていないようだったからな」
ばれてら。でも人の存在証明と期末テスト天秤にかけて両立しただけ偉いと思うんだがなあ。
内緒にしてるんだからしゃーないか。
「相手は、私がする!」
「光栄です」
オールマイトか。OFAが消えつつある今、俺か朱里様がこの人の代わりとして切り札にならないといけない。そういう意味では、間違いなく超えていかねばならない人だ。
そしてバスでドナドナされた先にある試験場で試験内容が説明される。格上の敵に会敵した場合の対応を見るために、制限時間30分で逃げるか敵を確保せよ、というルールだ。
試験開始までの間に簡単な話し合いというか作戦タイムが設けられる。横並びで移動しながら、淡々と行動について話し合う。
「どっちがいい?」
「倒す一択だろ」
「その場合、かっちゃんにオールマイト相手に三分粘ってもらわないといけないんだが」
「あァ!?その間テメェは何やってんだよ」
「字家の秘伝の文字のひとつ、封印の文字でオールマイトを封印しようかな、と」
「封印すんじゃねえ」
「流石に完全な文字は使わないし使えないって。今回使うのは略字!これなら威力は弱いけど、一時的な封印には使える。その間に拘束するも逃げるもかっちゃんにお任せだぜ」
「……三分あれば、書けるんだな」
「書いてみせる。三代目志波烈堂の名にかけて」
なんで書けるかって?勝手に練習したからだよ。略字なら比較的命の危険も少ないから勝手な練習もお目溢しされるし。
秘伝文字にもランクみたいなものがあって、旧字体>新字体>略字で威力とモヂカラが比例する。俺が扱えるのは秘伝文字のうちの封印の文字(略字)のみという訳だ。
「テメェの力なんざ無くても俺が守ってやるよ。おとなしく突っ立ってろ」
「はぁい」
試験開始と同時に、ビルの上に立つ。かっちゃんとは別行動だ。
そして開始と同時に、筆で空中に文字を書き始めた。
「……っ」
一筆書くだけで、身体中のエネルギーが吸い取られていくような気がする。気を抜けば倒れるような気がして、足元と視界に力を込めた。
しかも、練習の時とは違って今は脅威が目の前にある。この文字を捨てて反抗してしまうのは簡単だけど、これはいつか俺が経験しなければいけないことだった。
自分のために、命を捨ててくれと誰かに頼む覚悟。
三分が長い。一文字があまりに大きい。
かっちゃんがボロボロになりながら立ち向かう中、俺は血を流すこともなく、文字を完成させなくてはならない。飛び出して行きたいのを必死に我慢しながら───ようやく、完成した。
「外道、封印!」
オールマイトが、封印の文字の影響を受けて吹き飛び、ぴくりとも動かなくなった。成功したことを察して、その場にくずおれる。
疲れた、指一本も動かしたくない。呼吸が不安定になって、全力失踪した直後のようにゼエゼエと必死になって酸素を取り入れる。
でもこれでオールマイトは無力化した。あとはかっちゃんが手錠かけてくれれば勝ち……と思ったところで、影がさす。
腹に腕を差し込まれて、ぐわりと持ち上げられた。
「かっちゃん」
「逃げんぞ」
かっちゃんのコスチュームはあちこち破けていて、怪我もたくさんしていて、対照的に俺は怪我なんて一つもしてない。
「置いてって良いんだぞ?手錠嵌めれば良いじゃんか」
「うるせえ黙ってろ殺すぞ。俺は───」
かっちゃんが俺を担いで駆けていく。そのままゲートを走り抜けたので、これで揃って試験クリアとなるだろう。かっちゃんの独白は、試験クリアのアナウンスの中でもはっきりと聞こえた。
肉体的な消耗は日常だが、ここまで精神的にきたのは初めてかもしれない。自分のために誰かが命を投げ出さなければならないことを、もっと考えないといけない。
「俺はさ、なんかこう……志波烈堂としての覚悟も何もかも足りなかったなって痛感したよ」
「そうかよ」
字家の時代錯誤な当主を中心としたチームアップは、きっとこのために作られたのだなあと思いながら、かっちゃんに地面に投げられた。そのままかっちゃんも横に倒れ込む。
かっちゃんの独白が、リフレインした。
『……出久が誘拐された時、その場所にいたんだよ』
Q.秘伝の文字って幾つあるの?
A.バフの文字とデバフの文字の2つ。デバフの文字が封印の文字
Q.オールマイト大丈夫?
A.一時間くらいで復活したらしい。全盛期だと30秒くらいで復活してると思われる