ヒロアカ世界に転生したは良いけど主人公不在らしいです。どうしろと!?   作:サブレ.

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第十一話

結局あの後、体力の極度の消耗のためかっちゃんと並んで入院した。

略字でここまで消耗するとは、俺もまだまだ修行が足りんな……。まあスーパー化会得前に使ったらこうもなろうか。

爺ちゃんや叔母、御当主様からは、スーパー化は一年の林間合宿で使えるようにしておくように、という旨の連絡が入っていたので、例年一年生の夏にスーパー化の習得をするのが慣例のようではあったが。

 

 

翌日。

事前に赤点のやつは林間合宿行けません、と説明があったけど普通に合理的虚偽だった。でしょうね。

俺とかっちゃんは赤点回避。ちなみに赤点組は合宿中に補修やるらしい。そらそうだ。

配られたしおりをペラペラ捲りながらスケジュールに想いを馳せる。この一週間でスーパー化を会得することができれば、帰宅後に本格的に秘伝文字の継承が始まる。

秘伝の文字を継承するということは、人に俺のために死ねと要求する覚悟をすることだ。

ヒーローの覚悟とは真逆だなあと思うが、ヒーロー制に乗っからなければ社会に適合できないので仕方ない。

 

「じゃあさ!明日休みだしテスト明けだし、みんなで買い物行こうよ!」

「いいな、俺も行きたい」

「おい爆豪お前も来い!」

「行かねえ予定ある」

「予定?」

 

首を傾げると、かっちゃんがそっと「保須」と耳打ちしてきた。なるほど、現場百遍ね。

俺は確かここで死柄木遭遇イベントがあった筈だから行く予定だ。

ま、オールマイトの力は消えかかってるし継承者は今の所いないから、死柄木が接触してくるかは分からないが。

 

「りょーかい」

「ん」

 

かっちゃんは手をヒラヒラ振って、先に帰って行った。

俺もしおりを改めて捲り、必要なものや買い足すものを確認しながらスマホを手に取った。

 

 

 

この辺りじゃ一番大きな複合型商業施設、木椰区ショッピングモール。

欲しいものがバラバラなのでそれぞれ分かれて行動することになったので、考え事をしていたら皆目的地にバラバラに出発して、俺が取り残された。

 

「あの、字君」

「ん、麗日君か。君は買い物しないのか?」

「うん、虫除け買おうかなって。字君は?」

「俺は、オールマイトのグッズ?」

「意外やね」

「そうかもな」

 

調査の側面が強いからな。という訳で麗日君とも分かれて、俺は一人きりになった。スマホに取り込んでおいた、オールマイトグッズのデータをざっと見返していると、背後から陽気な声で話しかけられる。

……来たか。

 

「おー雄英の人だスゲー!サインくれよ」

「サインを求められても……望む字は書いてやれそうにないけどな」

「……へえ!気づいてんだ。こんな所でまた会うとはな」

「あいにく、耳は良い方でな。久方ぶりだな」

「それじゃあ」

 

視線が交錯する。喉元に指を当てられるが、ここに相澤先生はいない。

それでも冷静に、背筋を伸ばして、動揺を見せないで。

 

「「お茶でもしようか」」

 

さあ、お話し合いのターンだ。

 

 

 

「だいたい何でも気に食わないんだけどさ。今一番腹立つのがお前だ」

「へえ、俺?襲撃では脳無にダメージを与えたし、ヒーロー殺しと交戦したからな。だからか?」

「さあな。志波烈堂、同じヒーローに対して俺のために死ねって言えるって本当か?」

「詳しいな。……今は無理だが、いずれ言えるようになるさ。それを口にするための当主だ。

字家はこの世を守るために生まれた」

 

この世を守る。

偉大なるご先祖様、初代志波烈堂の残した在り方だ。

 

「オールマイトをはじめとした今のヒーローの在り方と、俺たち字家の在り方にははっきり言ってずれがある。時代錯誤ってことだ」

「へえ、じゃあ、アンタら志波の侍の在り方って?」

「ヒーローという肩書きを背負ってしまえば個の意思など尊重されない。俺たちは歯車の一つとしてこの世を守る」

 

御当主様が90を過ぎてなお当主の座に座っているのも。

かつて次期当主と目されながら袴田に嫁入りして一族から抜け出た朱里様も。

意思を一切確認されず次期当主の座と三代目志波烈堂の名前を渡されたのも。

 

それが侍などと称される所以。一度でもヒーローを志せば、個の意思より人権より自由より、この世を守るというお家の在り方が尊重され、適合するしかない。

 

「じゃあ、お家の為なら人も壊すのか。この世界がヘラヘラ笑っていられる為なら、人が一人壊れても良いんだな」

「……字家の在り方に巻き込んで良いのは字家の者だけだ。それ以外を巻き込まなければ存続できない在り方なんて、滅びたほうが懸命だ。

つーか、俺が三代目志波烈堂の名に於いて滅ぼす。滅びろ」

 

某家みたいに3クール一緒に戦ってきたレッドが影武者でした展開は最悪だ、ごめんだ。

ベストジーニストだって、時折名前を借りる以外に巻き込まないように細心の注意を払っている。エンデヴァーに対してだって、御当主様も悪しき前例とならないよう教え子への必要以上の接触を絶ってきた。

大家であるということ。一族であるということ。権力には不自由が付きまとう。

死柄木は、俺の回答にそれなりに満足したらしい。

 

「じゃあ精々がんばれよ、字真墨。三代目志波烈堂」

「ああ。死柄木、お前は字という一族に何を思う?」

「この世を守るというお題目がどれほど愚かで脆弱で、空虚なものか突きつけてやるさ」

「……なるほどね」

 

死柄木が去ったのを確認してから、スマホを開いて警察を呼んだ。事情聴取に応じて、解放された頃には夕方だった。凝った肩を回しながら、かっちゃんからの不在着信に折り返しつつも、思考はフル回転していた。

御当主様に問いたださねばならない事項が、山のようにある。

 

 

 

「良かったのか?」

「本人が会いたいっつってんだよ」

 

翌週の休み。

林間合宿の直前に、俺はかっちゃんに案内されてとある病院に向かっていた。インターネットで確認した通り、心無いゴシップ記者による突撃を受け、心労がピークに達した緑谷引子は現在入院しているそうだ。

ボックス席タイプの電車で揺られながら、かっちゃんの調査結果を確認する。

 

「保須のグッズショップの内装を見てきた。例のマスコットコーナーはこの辺だ」

「出入り口の少し奥、ね。監視カメラは」

「壊されてたみてえだな。ピンポイントで」

「個性社会だ、画角の外からカメラ壊すのは容易いだろうな」

 

店員のいない店でマスコットを現金と引き換えに持ち去った人間は、その程度には頭が回ったようだ。明らかに慣れている、プロと言っても過言ではない、かもしれない。

 

「これがデクだとして、なんでアイツがマスコットを選んだのか考えてみた」

「グッズなら他にもあるから?」

「なんでもいいなら、一番近くにあった商品を狙う。でもそいつはそうじゃなかった。“そのマスコット”じゃないといけなかった」

 

その答えを、緑谷引子が持っているのかもしれない。

 

 

海外勤務で簡単に帰って来れない夫の代わりに今はかっちゃんの母が入院のサポートをしているのだという。

何度か会っている光己さんに頭を下げて、病室のドアと向かい合う。事件に対する心無い好奇心で倒れたというのに、俺に向かい合っていただくのは並大抵の覚悟じゃないだろう。

からり、と扉を開いて、すぐに頭を下げた。

 

「初めまして、字真墨と申します。この度はお会いしていただき、心より感謝申し上げます」

「顔を、あげてください」

 

言われてから顔を上げる。

目の下に隈を作った、緑谷引子がそこにいた。

その窓枠には、小さなオールマイトのマスコット。

───ビンゴ!

 

「貴方は、出久が生きていると、そう信じてくれると聞きました」

「はい、今確信を持ちました。緑谷出久は、生きていると」

「本当に……?あの子が、生きているなんて」

「っ、危ない」

 

俺に縋りよろうとしてベッドから落ちかけた引子さんを、光己さんが慌てて支えてベッドの上に戻した。

 

「どうか、出久を、あの子を。息子を助けてください。帰ってくることが難しくても、あの子が笑って生きてるなら、それで」

「はい」

「出久……よかった、よかったあ……」

 

ほろほろと泣き出してしまった引子さんに、光己さんが限界だと視線で合図してきたので、すぐに引き下がった。わずかな時間の邂逅だったが、収穫はあった。

病院から出て少し歩いた場所にある公園。誰もいない寂れたブランコで遊びながら、情報を交換する。

 

「なるほどなあ、そりゃかっちゃんでさえ絞り込めない訳だ。……365日分の誕生日が刻印されたシリーズのマスコットとはな」

「SNSの投稿には交換ってあっただろ。ありゃ不良品なんだ。オールマイトの髪が一本傷ついてる」

「引子さんの誕生日とも一致してた。つまりあれは」

「……誕生日プレゼント、だあな」

 

十年前、当時の緑谷出久は六歳。

当時の感覚を引きずったまま、それでも誰かに喜んでもらいたくて選んだ選択肢だとしたら。

 

「ったく、林間合宿が間近なのが頭痛い」

「一旦中断だな。つっても、警察は動かねえだろうが」

「保須の謎の客が緑谷出久だろっていう仮定から動いてるからな、俺ら」

 

物的証拠が弱すぎる。もう少し、プロや大人が出張って来れるまで、こちらで奮闘しなければならない。

間近に迫った林間合宿に想いを馳せつつも、俺とかっちゃんは一度帰るためにブランコを飛び降りた。

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