ヒロアカ世界に転生したは良いけど主人公不在らしいです。どうしろと!? 作:サブレ.
後に神野の悪夢などと称される事になるこの大事件は、オールマイトの勝利のスタンディングと引退で幕を閉じた。
俺は無理に退院して大騒ぎしたのが祟って高熱が出て入院日数が伸びた。御当主様と叔母は揃って父親に怒られてた。
父よ、あなた御当主様を叱る事できたんだな……いやいっつも鷹揚とした人だったからさ。
後日、一時退院した俺は本邸に赴いていた。AFOは友達が多い。内緒話をしたいのなら本邸以上に安全な所はないからだ。
「御当主様、字真墨、罷り越して御座います」
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二人きりの部屋の空気は重い。オールマイトが引退した今、オールマイト級の切り札の役目は繰り上がりでNo. 1になるかと思われるエンデヴァーではなく、字家の封印の文字になると思われるからだ。
少なくとも“あの”オール・フォー・ワンがオールマイトと同等に畏れたという意味で、封印の文字が完全に防がれた神野の事件の後でも、字の名前はいまだに力を持っている。
少なくとも、魔王の力以外で封印の文字を防ぐ方法は今の所存在しないからだ。
「まあ、象徴までは行かずとも抑止力の方はエンデヴァーに頼ることになるだろうがな」
「朱里様のご容態は?」
「集中治療室に居るが、芳しくはない。医者が言うには、明日が峠だとのことだ」
「ベストジーニスト……袴田維殿は?」
「消沈しておったわ」
でしょうね。
朱里様は、大病を患い体力が大幅に落ち、雄英高校を留年、志波烈堂と次期当主の座を返上した過去を持つ。その後遺症は現在にまで及んでいるはずだ。
ぶっちゃけ、モヂカラの総量だけなら朱里様より御当主様の方が上かも知れないほどに。
「しかしながら、今回書いた封印の文字は朱里様の体力では保たないものかと思っておりました」
「それについてだがな、真墨。回復したとして朱里はしばらく前線には復帰できぬ」
「それは、なぜ?」
「懐妊しておったわ」
「…………へっ」
カイニン。かいにん。懐妊?
「………………懐妊!?あ、あの朱里様がですか!?は!?」
「医者が言うのだからそうなのだろうよ」
「身重で神野へと赴かれたのですか!そ、その、お腹の子はご無事なのですか!?」
「無事だそうだ。今の所は、な」
「袴田維殿はこのことを……知りませんでしたよね」
「知っておれば縛りつけてでも連れて行かなかっただろうよ。あれはそういう男だ」
おおう、自分も重傷を負いつつ目の前で妻が生命エネルギーを使い果たして倒れて搬送先で妻が懐妊していることを知り更には妻と子供どちらを優先するか突きつけられるベストジーニスト、内心の修羅場が過ぎる。
「御当主様のご意向は」
「伝えておらぬ。我が娘とはいえ、朱里はすでに字家を離れた身。口を出せる領域ではあるまいよ。
全員助かってくれればと、祈るばかりだ」
この人、そういう線引きはしっかりするんだよな。字家に対してはしょっちゅう強権発動するけど、字家を離れた人に対しては“要望”程度にとどまることも多い。
もっとも、ヒーローに対しての発言権強いのと、相談役的な立場もあって、字家以外の要求がものすごい勢いで通りやすいのを利用することも多いけど。
少なくとも、プライベートへの干渉はなるべく避けている感じはする。
しばらくの沈黙を使って、お茶を一口飲んだ。カラカラに乾きかけていた口の中を潤す。
ぶっちゃけ、ベストジーニストや朱里様の話題に関しては、この話し合いの序章と言っていい。
「して、本題は」
「真墨、お前も察してはいるだろう。九代目OFA 継承者、自称『海賊』と」
「一族内における、秘伝文字……影武者の文字の扱いについて」
長い話になりそうだ。
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御当主様との会談は丸一日に及んだ。
その後、雄英高校の全寮制が発表されて家庭訪問が行われた。普段は御当主様とか朱里様の話題が出がちなので、大きめとはいえ俺の生家が普通の一戸建てで、相澤先生もオールマイトもちょっと意外そうにしていた。
俺、この家出身なんですよ、なんか半信半疑だけど!
あと御当主様曰く、突然仮免すら持ってない生徒を強権で駆り出したお詫びに、この全寮制導入にあたって必要になった費用の二割を寄付したらしい。その辺よろしく、と言われた時の俺の気持ちよ。
加減を考えろ!!!
ダンボールの荷解き、ほとんど刀とか書道の鍛錬道具だなあ。部屋のお披露目会でも、刀じゃん!と突っ込まれた。いや、普通に使うんだよ。
「そういえば、いつも大きな剣を振り回していたわね」
「なんで二本もあるんだよ!予備か?」
「いや普通に場合に応じて二刀流するからその鍛錬用だけど。合宿のヴィラン戦の時とか烈火大斬刀の二刀流やったし」
「えっ、こわ……」
「聞いといて引くなよ」
「持ってみていいか?」
「いいけど重いぞ」
「うわっ」
そんな会話をしつつ流れで開催された部屋王決定戦?はスイーツが美味しかった砂糖が優勝した。いいのか、それでいいのか?
しかし、寮生活だと密談も一苦労だな。砂糖のスイーツにクラスメイトが気を取られてる隙に、かっちゃんとアイコンタクトとハンドサインで日時を指定した。
雄英高校はその財力に任せて見守りロボや監視カメラも多いからな、気をつけないといけない。
誰だ寮生活に合わせて見守りロボ増やす金出したの。御当主様だ。
「緑谷出久で間違いない、か」
「ヒーローには伝えてある。あとはプロに任せろっつってたけど」
「いやあ。難しいと思うな。少なくとも使える力はオールマイトと同等だ」
「テメェの家の影武者の字が使われてるってことは、まさか」
「ま、一族の誰かのやらかしの可能性が高いわな。字じゃなくて勘当された人もいるから、そこも含めて精査することになってる」
頭と胃が痛くなる話だ。
字の能力……モヂカラでやらかした事案なら、俺たちでケジメを付けなければならない。
ヒーローとは本来自警団に端を発している。そして、字家は時代錯誤と内外から表現されるように、現代のヒーロー性より、自警団としての性質を色濃く受け継いでいる側面がある。
「俺がギャアギャア騒ぎつつ調べてる案件についてはちょっと待ってくれ。オールマイトに関連してるから、そっちの関係者に情報開示許可もらう」
「あ?いいのかよ」
「少なくとも緑谷出久の関係者で開示していい相手がかっちゃんしかいない。引子さんとか論外だろ」
「あー…….」
「ただ、まあ。オールマイトが引退したのはかっちゃんのせいじゃない。どっちかと言うと傷の蓄積と、うちのやらかしの可能性が高い」
「気休め言ってんじゃねえよ」
「うん」
さて、そろそろ時間だ。戻らないと何を突っ込まれるかわからない。
二人並んで歩く。その間にも、状況の共有は行う。
「事件ファイルは」
「持参してるに決まってんだろ殺すぞ」
「さすがかっちゃん」
「今後の動きは?」
「兎にも角にも仮免取れとのお達しだ。何度も強権発動するのは良くないからな。
「俺も噛ませろ」
「わかってる。仮免取得したらこちらから提案しておく」
「ジーパン野郎と、……秘書の容態はどうなんだよ」
「ベストジーニストは回復傾向にある。朱里様は……芳しくないかな。一番危険な時期は脱したけど、予断を許さない」
そうかよ、の言葉を残して、かっちゃんは静かになった。そろそろお開きかなと思って、軽く手を振って自室に戻ろうとした、ところで。
「使えるのか?」
何を、だなんて考えるまでもない。
誰相手に、だなんて口にするまでもない。
答えなんて、決まっている。
「使うよ。たとえ死んでもな」
それが、継承者というものだ。
筆者「ベストジーニストが曇ってるのは何故だ」