ヒロアカ世界に転生したは良いけど主人公不在らしいです。どうしろと!? 作:サブレ.
メールで本邸とやり取りをしながら決行日を待ってたら、サー・ナイトアイから俺宛に質問書が送られてきたとの連絡が入った。あの忙しさでよく作ったな。回答は決行日以降でいいよーとのことだった。
でもなあ、サー・ナイトアイ。原作知識によるとあの決行日で死ぬんだよな。
死なせなければいい話なんだけど、先人曰く言うは易く行うは難し。しかしながら、全取り完勝が求められるのもまたヒーローのさだめ。
窮屈な話である。
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ヒーローと警察が一堂に介し、構成員の個性について情報共有を行う。ヒーローがカラフルで個性あふれる装備なのに対して警察は規律を重んじた共通装備。
そして俺と相澤先生は、ヒーローにしては地味気味だが警察から見れば十分自由というなんとも中途半端な装備をしている。
まあ俺は、今回だいぶ派手になりそうな気もするが。
「獅子折神の動きは?」
「サー・ナイトアイが調査した内部構造及びエリちゃんの居室と一致する動作をしています。現在の座標は居室と思わしき部屋ですが、エリちゃんが手持ちしていたのなら何かしら動きがあるかと」
いつもなら空を飛んだり自律して動物らしい挙動をする獅子折神も、スリープモードになってしまえば自律行動を取ることはない。
しかし場所を感知することは出来る。簡易発信機、便利だなあ。
マル暴の刑事がインターフォンを鳴らしたと同時に、カチコミが始まった。最前線より少し後ろで相澤先生と並び周囲の攻撃への対処をプロヒーローに任せつつ、折神の居場所を探知する。
にしても凄い一丸っぷり、字の一族の使用人を思い出す。なんだかんだで字家に命や人生を救われた人が集まってるから、本邸にカチコミかけられたらこんな感じになりそう。
魔王以外にカチコミかけられるのか?という疑問は置いといて。
「折神の移動、開始しました。構成員を足止めに逃亡する腹積りかと」
「ルートは?」
「現在───」
サー・ナイトアイと呼応しつつ、バブルガールたちの力を借りて隠し扉の先へと進む。
その先は動物の体内でもこんなに脈打つことねえぞ、と言いたいくらいに蠢いていた。
「考えられるとしたら本部長入中!」
「モノに入り自由自在に操れる個性、擬態!」
「志波烈堂、獅子折神の場所は!」
「直線方向で、あっちです」
指をさす。ルミリオンの個性ならば突破できるので先行して、俺たちが後から追いかけることとなった。
俺たちは壁に追いかけられたり落とし穴に落とされたり、びっくりドッキリ地下迷宮をちょっとずつ攻略しつつ先へと進む。サンイーターたちの活躍により、今の俺たちに迫ってくる壁はない。
「少し意識を落として場所を探ります」
「了解した」
プロに伝えてから意識を潜らせる。獅子折神の居場所はっと……えっ。
「……うん?」
「どうした?」
「獅子折神が結構なスピードで動き回ってます」
「なに?」
「スリープモードになってるので原因は不明です。現在エリちゃんが持っているかも定かではない」
とりあえず意識を浮上させる。こうなっては獅子折神の座標は意味をなさない。
ロックロックが舌打ちをした。
「役に立たねえな」
「元々獅子折神そのものを発信機として使うのは想定外なので、ここまで機能しただけ十分かと」
そもそもはOFA継承者を探知するためのサポートアイテムなのだから。
直後、再び壁が迫ってくる。ロックロックが壁を固定し、俺が刀で破壊しつつ進む様は刑事曰く愚鈍なモグラだそうだ。一理ある。
圧殺は無理だと判断されたのか、次はイレイザーヘッドと二人きりになるように分断された。一点狙いするなら警察ではなくヒーロー側だろう。
ロックロックに化けて狙ってきたトガヒミコに対処するため、イレイザーヘッドを突き飛ばしてトガヒミコのナイフを受け止めた。
身軽なトガヒミコが一度距離を取る。
「トガヒミコ、刃で志波に勝とうなんざ百年早い!」
「ふーん、そう言って剣を振りかざすんですね、志波の侍は。だから海賊くんが怖がるんじゃないですか」
「!海賊もここに来てるのか!?」
「弔くんのお友達、私のとても好きな人。弔くんも海賊くんも、志波の侍は大っ嫌い」
嫌い、ね。
そういう人もいるだろうな。死柄木は俺のことが一番気に食わないって言ってたし、海賊は字の被害者だから。
それでも。
「お前がこの世を乱すというなら、見逃す訳にもいかないな」
この世を守る。
字家のヒーローとしての在り方。
字家次期当主として、決して曲げてはいけない祈り。
「志波の侍の言うこの世ってなんなんですか」
「人が、その人として生きて死んでいける世界」
教えられたのは体育祭の後、職業体験の直前に獅子折神を作った時に教えられたこと。
どうして志波のヒーローに自我は不要なのか。
どうして字家は生まれたのか。
どうしてこの世を守らなければいけないのか。
「字家の人間が罪を犯したことは認めよう。字家が残酷なまでに一族のヒーローを歯車として押し固めるのは事実だ。
それでも、この世を守るために戦うことはやめねえよ」
すでに、そんな
少なくとも、魔王が倒されるその日までは。
「字家次期当主、志波烈堂の首。取れるものなら取ってみろ。
……俺も、本気で相手をしてやる」
本気で殺意をぶつけると、何かを察したトガヒミコが警戒心MAXの猫のように飛び跳ねて高いところへと降り立った。本気で殺し合えば俺が勝つ、それくらいの実力差はわかっていたようだ。
「お仕事中、うっかり死んでしまえば弔くんが悲しみます。お姉ちゃんは帰らなければならないのです」
「……お姉ちゃん?」
死柄木弔とトガヒミコって、そんな関係だったか?疑問を抱いた次の瞬間、壁が蠢きトガヒミコが何処かへと消えてしまった。殺意を解いてイレイザーヘッドに向き直る。
「イレイザーヘッド、ご無事ですか」
「悪いな、庇われた。あとあまり煽りすぎるな」
「了解です」
トガヒミコについての疑問が生まれたが、まあいい。というかそこについて考えてる暇がない。
疑問点は修羅場の中でばかり増えていく。ままならないものだ。
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入中を無力化し、敵連合にいいように翻弄されつつもなんとか幹部を一人撃破してひと段落した。あとはルミリオンと合流してエリちゃんを保護、オーバーホールを撃破しなければ。
前に進んでいると、不意に聞き慣れた声が聞こえた、ような。
「……エージ?」
獅子折神のエージ。エリちゃんに預けた俺のサポートアイテムの聞き慣れた鳴き声がした、と思った瞬間。
分厚い壁を蹴り砕いて現れた、ずっと探している九代目の継承者。腕の中にはエリちゃんとエージ、背中には傷を負ったルミリオン、背中に迫るのはオーバーホール。
すとん、と何かが納得した気がした。
そうだよな、だからこそ君は九代目として戦い抜いた。AFOもまごうことなき“影武者”としてその存在を認めたのだ。
助けを求める顔をしていた。ただそれだけでどこまでも駆けていける、ヒーローという殻を被った自己満足の世界への奉仕者。
彼自身も、助けを求めているはずなのに。
視線が交錯する。一瞬の無言ののち、二人揃って言葉を発していた。
「侍!?」
「海賊!」