ヒロアカ世界に転生したは良いけど主人公不在らしいです。どうしろと!?   作:サブレ.

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第二十一話

混戦に次ぐ混戦といったところか。海賊、俺たちヒーロー陣営、オーバーホール。

ルミリオンは第一印象からは想像しにくいところがあるが、相当な実力者だ。そのルミリオンが倒されているということは、何か……それこそ個性消失弾を使われたか。

あるいは、海賊を庇おうとしたか。

 

「海賊、悪いけどエージは返してもらうぞ」

「ルミリオン!無事か!」

 

手を伸ばして獅子折神を手に取り、即座にモヂカラを流し込む。するとエージが久しぶりにスリープモードから起動して、海賊の方を向いて哭き始めた。本物だ、トガヒミコのような偽物ではない。

ルミリオンのことはサー・ナイトアイが受け止める。エリちゃんは海賊の腕の中でしっかりと彼の服を掴んでいた。

オーバーホールの狙いはエリちゃん。即座に優先順位を付けて、オーバーホールの元へと駆け出す。

 

「オーバーホールの確保を優先します!」

「このまま畳みかけろ!」

 

海賊こと緑谷出久はかっちゃんを返してくれた実績がある。それを根拠に、イレイザーヘッドの抹消で個性が使えなくなったオーバーホールに全力で迫るも、タッチの差で抹消が解除されてしまい、オーバーホールの個性によって床から多くの棘が迫ってくる。

 

「あっぶな!」

 

ギリギリで避けたが、刀は弾き飛ばされてしまった。接近していたのが仇になったか。

懐から、筆を取り出したのと同時に、音本もまた拳銃を取り出す。銃口はこちらに向いてるし、周囲は棘だらけで避ける方向がほぼない。

あ、これはやばい。慌てて獅子折神をカバーに入らせる。

 

「音本、撃て!!!」

 

魔王すら恐れる封印の文字。確かに、個性ごと壊してしまえば楽だろう。頭をフル回転させて逃れる術を模索していたら、くい、と袖を引っ張られた。

パァン、と軽い音。スーツ姿の男性が俺を抱え込むようにして銃弾から庇っていた。

 

「サー!?」

「悔しいが……オールマイトに代わる力は私でもルミリオンでもなく、貴様に頼る他にない」

 

御当主様はご高齢であり。

朱里様は未だ目覚めず。

俺は未熟とはいえ秘伝文字を継承した。

ぐ、と歯を食いしばる。これが切り札であるということ。

他のどのヒーローに庇われてでも、個性を保有して役目に辿り着かなくてはいけないということ。

 

「か、んしゃ。します!サー!!!!」

 

一度サーを後ろに下がらせると、俺とサーを……いや、サーとついでに俺を庇うように海賊がオーバーホールの前に立ち塞がる。エリちゃんは腕の中から背中に回されていた。

 

「海賊、提案がある。端的に行こう」

「なんだよ」

「今、俺が一番なんとかしなきゃいけないのは治崎だ。そして君は、オーバーホールと字からエリちゃんを守らなくてはならない」

「侍が、オーバーホールを倒すのか」

「最大火力は俺か君の二択だ。適材適所で行こうぜ」

 

つまり海賊がルミリオンやサーやエリちゃんを避難させ、俺がオーバーホールを倒す。ついさっき、音本は治崎と融合したから、個性消失弾を使われる心配はもうない。

 

「……字家が全員ヴィランじゃないことは分かってるよ」

「……!」

「でも、君自身が本当に二代目の言うような人なのかはまだ、わからない」

「いや、十分だ。感謝する」

 

さて、やろうか。

筆を構える。書く文字は刀でも光でもなく、『竜』。

自傷必須の、今の俺の最大火力。

 

「一筆奏上」

 

竜の力が俺を強化する。背中には悪魔を思わせるような漆黒の羽が生えてくる。

個性『浮遊』を保有し超火力を持つOFAとの戦闘での力不足から編み出した、今は俺だけの必殺技、変身形態。

 

「志波烈堂・竜化(ドラゴンモード)……推して参る!」

 

+++++

 

烈火大斬刀を構えて、融合形態となったオーバーホールと空中で切り結ぶ。

 

「海賊も侍も、壊理も……力の価値を分かってない!」

「個の力に依存した運用は組織全体にひずみをもたらす。字家や日本社会を見れば分かるだろうが!」

 

奇しくも、時代遅れの組織の若頭同士。戦闘中だというのに、奇妙な心地で問答が続く。

信念が違う、故に平行線だが……きっと根っこの部分に、ほんの僅かに通じ合うものがある。

 

「どいつもこいつも大局を見ようとしない!」

「見ているさ!結論が違うだけだ!」

「俺が崩すのはこの世界!その構造そのものだ!──字、壊した先にあるのがお前たちの守ろうとして奪われた“この世”そのものだぞ!」

「現実の何もかもを破壊して得られる“この世”に意味などない!平和も世界もすでに変遷したんだ……俺たちが立ち止まってるだけで、社会はとっくに不可逆の進歩を得た!受け入れろ!!!」

 

字家が語る“この世”は、極論、超常が始まる前に確かに存在していた平和のことだ。

もう二度と手に入ることのない、極道が力を持ち、人がその人として生きられる世界。

立ち入ることを禁じられた幻想郷だ。

でも、理想があるのなら、そこに近づくことはできる筈だ。

その信念の元に、字家はヒーローの名を背負ったのだから。

 

「詭弁だ!いずれ滅びるぞ!」

「その時は滅べばいいんだよ!」

 

死穢八斎會と字家。元は同じ、荒廃した社会で秩序を取り戻さんとした集まりだ。

死穢八斎會はヤクザとなり、字家はヒーローとなった。

それだけの違いだ。ヤクザが滅びようとしているのなら、字家だって役割が消えれば滅びるし、無理やり延命するのなら俺が責任を持って滅ぼすまで。

今のように。

烈火大斬刀そのものにモヂカラを流し込み、刀身が炎を纏う。いつもの赤い炎ではなく、より熱く、より高く。

炎が赤から白へと、白から青へと変化する。僅かでも扱いを間違えれば、烈火大斬刀ごと俺が焼け落ちるだろう。

背中の羽が風を切る。

 

「烈火大斬刀・百花繚乱!」

 

回復できないほどのダメージを、死なない程度に与えるのはとても難しい。だからこそ、治崎の回復能力にかけた。

まず、炎熱で高ダメージを与える。それを分解・再生している僅かな隙に、刀身そのものでオーバーホールを地面に向かってぶん殴った。

 

 

烈火大斬刀を肩に担ぎ、ホバリングしながらオーバーホールの様子を伺う。どうやら上手い具合に倒せたようで、何よりだ。

ふと、視線を感じた。振り返ると、エリちゃんを抱えていない、単身の海賊が浮いていた。

あれだけ派手な戦闘だったのに振り落とされずにいた獅子折神が反応している。

空中で、海賊と向き合った。

 

「僕を捕まえるのか」

「無茶言うな。OFAの力を持った人間と今やり合って勝てると思うほど自惚れちゃいない」

 

モヂカラは生体エネルギーだ。使えばそれなりに体力を消耗する。

おまけに竜化は肉体のリミッターを外すようなものなので、内側からの自壊ダメージが結構あるのだ。今はこれ以上の継戦は避けたかった。

 

「字家は、滅びるのか」

「いずれは滅びるよ。でも、今じゃない。字家は現代に適応できてしまったからな。もうしばらくは、時代錯誤なりに適応して生き残ってくさ」

 

死穢八斎會は、字家のアナザーとも言える存在だと思う。ただ、死穢八斎會はヤクザとして血の繋がりのない盃の結束を強く重んじて、字家は血統の継承を強く重んじた。そして、死穢八斎會は指定敵団体と呼称されるようになり、字家はヒーローの大家などという栄誉を手に入れた。

 

「エリちゃんを助けてくれて、ヒーローになってくれてありがとう、海賊」

「……僕は、ヒーローじゃない」

「肩書としてはそうかもな。でも、海賊がヒーローになれないなんて、おかしいだろ」

 

海賊の肩書きの由来はおおよそ予測はついている。しかし、ここで口にするにはリスクが高すぎた。だからこそ、そんな曖昧な言葉しか口にできない。

今は、ここまでだ。

警察や救急の混乱の中で、海賊は消えていった。俺も地面に着地してプロたちの指示のもと後始末を始める。

海賊こと緑谷出久を母の元に連れて行くのは、もう少し時間がかかりそうだ。

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