ヒロアカ世界に転生したは良いけど主人公不在らしいです。どうしろと!?   作:サブレ.

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こんばんは


第二十四話

「御当主様、字真墨、罷り越して御座います」

 

えー、本日晴天。

格好の顔合わせ日和です。

 

 

「七村十蔵です。よろしくお願いします」

「よろしくな」

 

相手が年上だろうと立場はこちらが上なので、敬語を廃して挨拶する。そういう、年上に命令する訓練も兼ねているのだろう。

20歳ということもあり、若い。執事とわかるよう執事服を着ているので清潔感もある。長い髪は後ろで一つに束ねていた。個性は浮揚で攻撃力などに影響しないため、モヂカラを使って作り上げたギミックを駆使して戦うのだという。

髪の色とか顔のパーツを差し引いた全体の印象が誰かと被っている気がする。

七村さんは一通りの執事としての教育と経験を積んでいるので淹れてもらったお茶もとても美味しかった。八百万君に紹介してもらったハーブティーも今度淹れてもらおう。

七村さんが後ろに控えた状態で何度目かの話し合いが始まった。

 

「さて、真墨。お前の持つ未来視について改めて聞かせてもらおうか」

「はい。然し乍ら一つ確認させていただきたく」

「なんだ」

「この知識は、正確には未来予知ではなく、平行世界の物語にこざいます」

「根拠は」

「字家が存在しておりません。無論、御当主様も、俺自身も」

 

ざっくりと、その知識はコミックスの形をしていること、字家が存在していないこと、大まかな被害について説明する。御当主様の表情は大変険しいが、いつもの喉元に突きつけるような殺気をパワーアップするのはやめて欲しい。

喉元だけじゃなくて米神にも刃が突きつけられているような心地だ。

 

「なるほどな……その平行世界における九代目継承者が緑谷出久であったと」

「はい。九代目継承者緑谷出久こそが主人公であり、彼を中心にOFAの物語が展開されました」

「故に緑谷出久を単独で調べるに至ったか」

「は。しかし、叔母……志波雨流が当時の緑谷出久誘拐事件の捜索に参加した際、警察と同じ結論に至った故、他者を巻き込むほどの信憑性はないと判断した次第に御座います」

「影の文字を使われたやもしれんな。あれは凡ゆる物の影を生み出す。……OFAの影武者を除いてだが。

秘伝の影武者の文字の使用の件、そして緑谷出久の件についてはしばし待つが良い。炎司の件も含めて、総合的にこちらで手を打っている最中でな」

「わかりました」

 

総合的、な。何をお考えになっているのだか。

お茶を啜って唇を湿らせた。御当主様と会話する時は緊張して喉が渇く。

 

「お前がその世界の知識の中で重要視している……この世界でも共通だと考えている情報は?」

「第一に、AFOの脅威。第二に、死柄木弔の存在。第三に、OFAの力について」

「死柄木弔の正体は誰だと考察している?」

「七代目継承者、志村菜奈の孫息子。志村転弧」

「その情報は誤りだ」

「は、そうなのですか?」

「志村転弧はそこにおるでな」

「……へ?」

 

指差した先を向けば、待機していた七村さんが立っている。いや、確かに髪の毛水色だけど……え?

 

「え、はい!?……あ、七村って志村菜奈からお取りになられて!?」

「お、バレた」

「浮揚は志村菜奈の浮遊!?」

「おばあちゃんの個性より多少強くなってるけどな。ある程度任意の方向に好きに飛んでいけるぜ」

「あー、……天使って『“し”むら“てん”こ』で天使なのか!」

 

いや確かに字家は色んな犯罪被害者の経歴ロンダリングやってるけどさあ!?そんな展開ありか!?

顔色をあれこれ変えながら大混乱していると、はぁーと御当主様がため息を吐かれた。

 

「真墨、お前の知るAFOは手駒のスペアを用意せぬ敵だと思うか?」

「思いませぬ……然し乍ら、現在の死柄木弔は何者なのですか?神野の現場にて会話を聞いておりましたが、確かに志村弧太朗の息子であると」

「息子は一人しか作れぬという訳でもあるまい。事実、志村家に息子は二人、娘が一人おったよ」

「それは……そうなんですが」

 

つーか、この内容を七村さんこと志村転弧抜きで話していいのか?視線で問いかけると、御当主様の視線が七村さんを向いて頷いた。

 

「あー……質問よろしいですか」

「構わん」

「御当主様が死柄木弔の正体に辿り着いたのはいつ頃に」

「神野の事件後、オールマイトと会った際だな」

「AFOは、死柄木弔を志村弧太朗の息子だと表現した。しかし、志村菜奈の孫だとは言わなかった」

「そうだ」

「托卵ですか」

「結論早すぎるだろ」

「あれ、間違ってるか」

「あってるけど」

 

あってるじゃん。

まあ、字家って血を繋ぐことに関しては偏執狂か?ってくらい拘りあるから、その発想に至りやすいってのもあるけど。

そういう狂気がなければ、御当主様の次の当主が俺にはならないからな。

 

「志村太朗。俺の一つ下の弟で、父親は知らねえ」

「太朗……そりゃまた、含みのありそうな名前だな」

「一応、父親の名前が弧太朗だから。兄が弧、弟が太朗の名前を継いだって名目はある」

「あーなるほど、体面は繕ってるのか。AFOの仕込みの可能性は」

「十分にあるだろうな。真墨、お前の持つ平行世界の知識において“志村転弧でなければならなかった場面”はあったか?」

「否。ヒーローへの怒り、憎悪、殺意、仲間への想い、それに至る過去、その全てがAFOの用意した舞台装置。かの魔王の手のひらで踊るのみが“死柄木弔”の役割ゆえ」

「なんか複雑だな」

 

死柄木弔の正体は誰でもいいのだ。素養のある者をヴィランの王へと仕立てあげればよい。

極論、俺にも死柄木弔の素養はあると思う。次期当主として結構抑圧されてる部分は自覚している。

 

「志村太朗の出生にAFOは関係しているでしょうか」

「十中八九、しておるだろうな。志村弧太朗についてはこちらで独自に張っておったが、その妻に手出しするとはなぁ」

「まあ、ヒーロー自体嫌いだったからな。正面から警護できないなら、色々と隙もあっただろうし」

「……例の殉職はこの件でありましたか」

「七村、後に資料を渡してやれ」

「かしこまりました」

 

封印の文字を扱えるヒーローが大伯母の子供にいたのだが、殉職したと聞いていた。USJ事件の日に轟君に対して伝えた事件だ。

大伯母自身、元より虚弱体質であり、大病を患って若くして亡くなっていると聞いた。

……ん?あれ?

 

「御当主様、つかぬことをお聞きしますが……大伯母が亡くなられた際の病魔は、再発であったのですよね」

「……ふむ、そうだな」

 

昔の話とはいえ、御当主様にとっては娘を亡くした話題だ。どこか懐かしむ、悼むような表情の御当主様に、この人もこんな表情があるのだなあと少し感慨深くなる。

 

「最初の発症はまだ学生の頃であったな。長く入院したものよ。寛解したと、家族で喜んだものだがなあ」

「治療に際して、ヘアドネーションを、利用されましたか」

「……したな。真墨がその知識を持っているとは思わなんだが」

「元は級友の知識にございます」

 

現代技術であれば元の髪の毛があれば培養して自分の髪の毛で作ったかつらを生成できるのだが、何十年か前までは他人の髪の毛を使ってかつらを作っていた。

と、八百万君が言ってた。

 

「その鬘は、金髪にございましたか」

「そうだな。確かに金髪で、っ!?」

 

やはり、気づいたか。

御当主様の視線が鋭くなる。同時に、俺の視線も。

 

「オールマイトの利他精神は、我々が言えたことでもありませんが、狂気的な部分を含んでおります。七代目継承者志村奈々と出会うより前に、ヘアドネーションに参加された経験があるのでは?鬘は処分なされたので」

「……否、一部を保管しておった。身体を荼毘に伏した際に、骨壷に共に収めたよ」

「鬘になるほどの髪の毛です。……筆に加工するも容易いでしょう」

 

髪の毛を使って作った筆は、その人の生体エネルギーを強制的に吸い出すため、消耗が異常に多くなる。

その本来起こる生体エネルギーの消耗が、体の一部を取り込むことで力を継承するOFAの特性と反応を起こしたのだとしたら?

 

「頭に入れておこう」

「よろしくお願いします」

 

墓場を漁る必要があるので、確認するにしても後日になるだろうが、速やかに対応されるだろう。

御当主様が即座に自分の執事を呼ぶのを見届けて、俺は七村さんに話しかける。

 

「ところで、俺はどう呼べばいい」

「ご随にどうぞ、ご主人様?」

「じゃあテン君で。天使のテン君」

「なんでだよ」




七村十蔵/天使
元志村転弧。薄雪という名前の姉がいる。現在はコーギーのパンちゃんと一人と一匹暮らし。ヒーロー免許を取得しており、アイテムを駆使して戦闘を行う。
個性は浮揚。おばあちゃんの浮遊より少し自由度が高いらしい。
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