ヒロアカ世界に転生したは良いけど主人公不在らしいです。どうしろと!?   作:サブレ.

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第二十六話

文化祭に向けて、着々と準備が進んでいきます。俺も忙しさで割と死にかけている。

まず、朱里様がようやく目を覚ました。峠も越えて、衰弱はあるものの回復の目処が立ったので維殿もとても喜んでおられた。お腹のお子も無事であらせられるらしい。何よりだ。

次に、イタリアの某マフィアの跡取りがちょっとめんどくさい事態を引き起こしそうだという報告と、ヒューマライズがちょっとめんどくさい事態を引き起こしそうだという報告と、某ドクターがちょっとめんどくさい事態を引き起こしそうだという報告が同時に入った。

映画ァ!!!

 

「どないせーっちゅーねん」

『口調』

「某マフィアとヒューマライズは各国に任せりゃいいだろ、日本の俺らが出張る話でもなし。ドクターに関しても保留!今手を出してもしっぺ返し確定!後手に回るリスクを取る!」

『了解。で、例の件だが。全員ノリノリだったぞ』

「嘘だろ俺の家族」

 

提案しといてなんだけど、いいのか…?社会的に。

 

『若様も同じ状況なら』

「まあOK出すな」

『家族だな』

「俺も今そう思ったところ」

 

しかしこれで、ジェントル&ラブラバの対処はOK。父親、あれでも医者としてカウンセリング的なこともしてた人だし、多少期待……。

 

「……不安だ」

 

父親も字家だしな。ヒーロー免許は持ってないとはいえ、自我など不要をモットーに、ただお家の使命の為に戦う字家の血を引く人だ。当たり前だけど御当主様の血は俺より濃いし。

母親は字家とは別時空で自我が希薄というか、字家の人間が自我を塗りつぶすことを一種の誇りとさえ思っているのに対して、母親は完全に環境に抑圧されたタイプである。母親に激似の妹がフリーダムに妹としてのびのび育ってるのが奇跡みたいなお人だ。まあ父親からの愛情をたっぷり受けて、ゆっくり自分を育て直してるし、俺たち子供のことを目一杯愛してくれた敬愛するお人でもある。

……今度、電話しようかな。

 

『あと、養子にならないかって提案が』

「全却下!」

 

訂正、絶対電話する。

 

+++++

 

「えっ、エリちゃん来てるの!?エージ寄越すから対応お願い」

「来い」

「あーれー」

 

演出班の休憩時間を利用して字家の仕事をしてたらかっちゃんに部屋から引き摺り出された。極秘事項……まいいか、かっちゃんなら。口硬いし。

 

「レッドさん!」

「こんにちは、エリちゃん。エージだよ」

「わあい!」

「相澤先生、文化祭当日、エージお貸しした方が良さそうですか?」

「そうだな」

 

エージと戯れるエリちゃんと、通形先輩と三人で、学校に慣れるために一度遊びに来たそうだ。A組に可愛い可愛いと褒められて人見知り発動していたが、エージのおかげでリラックスできたようで、何より。

……獅子折神みたいなOFA探知機能なしで、動く折神作っても良いかもしれないなあ。亀とか猿とかで。

いっそ発信機とか内蔵して迷子防止機能つけてもいいかも。後で企画書作ってみよう。

 

 

エリちゃんといろんな場所を散策して、食堂で休憩タイム。エリちゃんが両手でコップを持っているので、俺は片手でお茶を啜りつつエージと戯れつつ、エリちゃんの質問に答えていた。

 

「有意義だったようだね」

「お疲れ様。ずいぶん骨を折ったって聞いたけど」

「その節はどうも」

「骨折った?怪我?」

「たくさん頑張ったってこと」

 

まあ、まだ仕事残ってるけど今口に出すことでもあるまい。ジェントル&ラブラバを父親一人で抑え込めるかっていう問題も……それは大丈夫そうだな、なんか。

 

「無理してない?最近、家の事情が積み重なってて大変そうだって聞いてるけど」

「倒れないギリギリを狙って仕事振られてるのでなんとか。とりあえずまだ御当主様に文句は必要ありません」

「ごとうしゅさま、悪い人?」

「良い人ではないな。エリちゃんが想像するような概念としてのヒーローからはかなり遠いよ。とんでもなく偉い人ではある」

 

普通は十代の子供に、一般人が向けられたら失神待ったなしの殺気を向けない。

 

「気になってたんだけど、君から見た二代目志波烈堂ってどんな人なんだ?」

「職業としてのヒーローを推し進めた人ですね。その意味では偉人ですよ間違いなく。概念としてのヒーローと職業としてのヒーローを分離できなかった点については長年悔やんでおられますけど」

 

これは確か、晩年の初代当主も同じことを思っていたはずだ。しかし当時の社会的なヒーローの役割の大きさから、断念せざるを得なかったと、そう聞いている。

そして、その二つの意味を兼ね備えたオールマイトが平和の象徴として40年君臨したことは、御当主様にとって間違いなく一種の敗北ではあったと思う。

 

「そっちじゃなくて、個人のことさ!好きな食べ物とか」

「え?そんなものありませんよ。まあ字家当主らしく強くて、偉い爺さんらしく無理難題を押し通すこともありますけど、最適解を選んで推し進める力が強いだけとも思いますし。羊羹をよく食べるのだって、もう亡くなられた腹心の部下の好物ですし。俺も御当主様の好物知らないです」

 

殺気だって、対AFO戦を見据えた訓練のようなものだしな。

笑顔のまま固まってしまった通形先輩に、追撃する。エリちゃんはよく分からないと首を傾げていて、ミッドナイトは頭を抱えて、校長は感情の見えない笑顔のままだ。

俺もまた、笑顔で通形先輩と対峙する。

 

「字家のヒーローに自我は不要です。ルミリオンがプロになったら、字家とも関わると思うので、その辺覚えておいていただければ幸いです」

 

余計なお節介はヒーローの本質。それを本気で信じて突き進むからこそ釘を刺しておかなければならない。

字家のヒーローに、志波に、「私の物語」は一切不要であるのだと。

 

+++++

 

「ねえ、楽しい?」

「へ?」

 

夕食後、ソファに座ってお茶飲んでたら、耳郎君が隣に座ってきた。なんだいきなり。

 

「とても楽しいよ?……あれ、俺そんなに楽しそうに見えなかった!?うわ、ごめん!」

「いや、ウチも楽しそうに見えるんだけど、その……先輩がさ」

「何やってくれてんだあの人は。えっと、とりあえず俺は後悔してないし困ってないし寧ろ大変だー!!って叫んでるけど前向きだから、そこは大丈夫。上鳴君がテスト勉強で騒いでるようなものだと思ってくれれば」

 

分かりやすい例えを出したら、とりあえずは納得してくれたようだ。しかし、字家の在り方についてはやはり気になるところではあるらしい。A組が全員こちらに寄ってきた。

 

「字家の役割みてえなのは分かるけど」

「ああ。重圧は大きいのではないか」

「でも必要じゃん?」

「必要だからってさ、自分を殺す必要はなくね?」

「そうだよ、もっと自由になっていいと思う」

 

中堅どころとはいえとあるサポートアイテム会社を所有してるし、字家が独自に運営している準ヒーロー、予備ヒーロー制度をブラッシュアップして地方公共団体で実践できないかアプローチかけたり。試験内容の精査もしたり、元プロヒーローの会会長は大叔父だし。

 

「んー……実際さ、日本でヒーロー活動するなら字家って避けて通れない訳。一年生だからまだ教科書の範囲外なだけで、授業でもやるんだよ。それくらい影響力高いの、字は」

 

例えば朱里様の見合いが本格的になった際、「年齢も近いし話だけ持ち込むけど勿論断ってもいいよ」というノリで御当主様がベストジーニストに縁談を持ち込んだ。

それを、断りきれずにお見合いが成立したのだ。あのベストジーニストが。

今でこそ仲睦まじい夫婦だけど、始まりは権力である。

 

「その字家がさ、特定のヒーローに肩入れするのはまずいだろ。そりゃ御当主様も俺も他の志波ヒーローズも多少の好き嫌いはあるけど、それを表に出したら、他のヒーローが追随しちゃう可能性がある」

 

ま、これはあくまで本音と表向きの説明がミックスしたものだけど。事実でもあるからな。

 

「だから、意図的に自我を消すくらいでちょうど良い。俺たち字家のヒーローは元々お家の使命のために生きてるんだから、それ以上を表に出したら大変なことになる」

「そのお家の使命って」

「この世を守ること」

「それがそんなに大事なのか?家がそう言ってるから、ではなく、字真墨としての感情はどうなるんだ」

「それはな、しまっておくんだよ。初代当主が手記に残したみたいにさ。初代当主の手記の閲覧が許可制なのも、初代当主のパーソナリティをどこまで開示するのか、ってところもあるから」

 

だから例えば、公安のヒーローのホークスやレディ・ナガンには閲覧許可が降りたことはない。オールマイトも志波烈堂の自我を殺した在り方を見て字家に苦言を呈するのは目に見えていたから、一部の閲覧に制限された。

 

「俺は今最高に楽しい。その最高に楽しい瞬間を、いつかの未来まで持っていくんだ。それはきっと、志波烈堂として生きる日々の糧になるし、志波烈堂、字家当主として生きれば、それだけ君たち未来の普通のヒーローが助かるはずだ。

ああ、勘違いするなよ。俺は、我慢してるんじゃない。そうやって生きるのが目標なんだ」

「本当に、自分でそう決めたんだな?」

「勿論だよ。俺は俺の意思で、この時代錯誤で馬鹿馬鹿しい道を選んだんだ。その意味では皆んなと一緒!

大丈夫!本気で嫌になったら字家滅ぼすから!」

「気軽に滅ぼそうとすんじゃねえ」

 

かっちゃんに頭叩かれた。いってえ。

でもま、A組から理解を得られたからそれでいっか。

 

+++++

 

「もしもし、お母さん?……おいこら、これお母さんのケータイだろ、なんでお前が出たんだ。ハイハイ、お兄ちゃんのよそゆきの声を揶揄うんじゃありません。妹孝行はまた後日な。で、お母さんは?

……ん、久しぶり。俺は元気だよ」




「オイ、真墨」
「なあに、かっちゃん」
「俺、お前の初代当主の日記全部の閲覧許可降りたとか言ってなかったか?」
「かっちゃんだからな〜」
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