ヒロアカ世界に転生したは良いけど主人公不在らしいです。どうしろと!? 作:サブレ.
文化祭直後から、轟君が慌ただしくなった。
そしてビルボードチャート発表を目前にして、俺も慌ただしくなった。
「ごめんな、轟君。冬美さんと夏雄さんはこちらで一時的に身柄を預かる。仕事と学校には影響出ないようにするつもりだけど……」
「多少騒がしくなるのは仕方ねえよ」
「すまんな。流石に見逃せないんだ、ヒーローの大家としては」
そんな会話をした数日後。ヒーローたちへのランキング内示が行われた。俺は内示前にざっくりリストをチェック済みなので知ってた。
にしても思い切ったねえ。いや、最初の言い出しっぺは俺で、色々と調整測ったのは御当主様だけど。
プッシーキャッツの復帰の挨拶を受けて、洸汰君とも再会。そして数日後、ビルボードチャート発表の日。
「どうも」
「……フン」
轟炎司と軽く顔合わせして、俺は発表会場にいた。理由は大雑把にいえば次期当主としてプロヒーローとの顔合わせのためだ。
ヒーローとしての正装、コスチュームこそ着ているが、やっぱ他のヒーローと比べると地味目だなあと思う。ちなみに字家の志波ヒーローズはランキングから除外されてるので、載ったことは一度もない。
俺は舞台袖で待機中。そうして、ランキングが発表され始めた。十位リューキュウから始まり、少しずつランキングの数字が小さくなっていく。
そして。最も注目されるベスト3。
三位、ベストジーニスト。は、休業中。
二位、ホークス。登壇。
一位、エンデヴァー。は、
現在、舞台袖で俺の隣にいる。
私服で。
「無理に登壇しようものなら止めろとか言われましてもね、無理に決まってるじゃないですか」
「封印の文字に抗える自信はないぞ、俺は」
「あれ書くのにそこそこ時間食うんですよ」
ざわめく会場。
二人足りないトップ10。
異様とも言える雰囲気の中、ヒーローたちは誰も何も言わずにしんと黙っている。
そんな中、淡々とした司会の、『ビルボードチャート特別審査員のご挨拶です』の言葉だけが美しく響き渡った。
登壇したのは、見事な紋付袴に身を包んだ御当主様だった。ヒーロー業界にほんの指先でも突っ込んでいるのなら理解できるはずだ。
この男が、ヒーロー界を事実上牛耳っているのだと。
「まずは見事ランクインした者たちの健闘と献身を讃えよう。それはこの場にいないエンデヴァーとベストジーニストも含めてである。汝らの力によって、我々一般市民の生活は陰に日向に支えられた。心より礼を伝えたい」
「「一般市民……?」」
あ、声が被った。
わかる。御当主様が一般市民なの絶対おかしいもん。属性だけ抜けば一般市民なのかもしれないけど感情が拒否してくる。
そっと会場を伺えば、あらゆるヒーローも「一般市民……?」と困惑していた。笑いどころじゃないんだが、なんだこの謎の一体感。
「そして、心から残念だ。ビルボードチャートNo.1に選ばれたフレイムヒーロー・エンデヴァー。かの男はこの国にいるヒーローの中で最もNo.1に相応しく、最も相応しくない男である」
淡々と、威厳に満ちた言葉に、ざわめきが瞬きの間に静まり返った。
「かの男の長年にわたるヒーローとしての働きは極めて大きく、素晴らしいものであった。故にこそ、エンデヴァーをこの舞台に登らせることはできぬ。よって今宵、長きにわたる日本のヒーロー界において初めてNo.1が不在となった。極めて嘆かわしい」
言葉はむしろ暴言に近いかもしれない。なんで相応しくない男しかNo. 1になれないのだと責め立てているに等しいのだから。
しかしながら、目の前にいるのは彼らが持つヒーロー免許、その制度の骨子を作るに貢献した御人である。
耄碌したと捉えるか、オールマイト以前を知る者として今の風潮を嘆いていると捉えるかは、その人次第ではあるか。
「オールマイトは長年のNo.1として素晴らしいヒーローであった。エンデヴァーは次代のNo. 1にふさわしい実力を持っている。故にこそ、この場にいる、この言葉を聞いているすべてのヒーローに告ぐ」
鋭い視線が、一瞬轟炎司を捉えた。
「───モラトリアムはとうに終わった。いい加減夢見心地から現実に帰るがいい、小童ども」
鳥肌が立つ。トップヒーローの誰もが、御当主様から目を離せないでいる。
そのまま御当主様は舞台から降りると、俺たちの元に歩いてきた。鋭い目つきに心臓の動脈を刺されるような殺気は込められておらず、随分と優しいな、と内心で首をかしげた。
「炎司。先ほどの言葉、ひとつたりとも嘘を言ったつもりはない。他の誰も、お前が本来立つべき地位には立たなかった。その意味をよく考えろ。行くぞ真墨」
「はい、御当主様」
そのまま歩き出す御当主様の後に続く。この直後にトップヒーロー相手に挨拶回りかあ……針の筵の予感がピンピンするぜ!
+++++
えー、結論から言うと挨拶回りとても疲れました!!!
でも直接会って名前と顔を覚えられたのはプラスだと考えましょう、うん。リーキュウとかは顔見知りだしね!
ホークスの笑顔がとても怖かったです。この人相手に今度会談申し込まないといけないの、だいぶ心が重たいなあ。
翌日、エンデヴァーの会見が行われた。
長年にわたる実子に対する虐待、妻へのDVの公表、謝罪。無期限の事務所閉鎖。
ちなみにエンデヴァーが抜けた穴は叔母こと志波雨流が何人か知り合いのヒーロー誘って穴を埋めることになっている。フォロー体制がすぐに整うのが字家独自のネットワークの特性なのである。
いやー、字家って怖いな。
「これでとりあえずNo. 1の信頼失墜からのヒーロー制度に対する極度の反発は抑えられるかと」
「エンデヴァーのスキャンダルに関する対応はこの辺りが潮時か。これ以上の干渉は逆効果になりかねんな。轟冬美、轟夏雄に関しては」
「ナナシのヒーローの認識干渉の個性を一時的に活用しております。社会に対する大きなダメージが与えられた訳でもなく、二人に関しては純然たる被害者。マスコミの対処もつつがなく」
「適当なタイミングで公安委員会……否、適当な職員の汚職について流す。市民の関心をそちらに向けさせれば落ち着くであろう。解体に関しては任せる」
「わかりました。それにしても、史上最大の逆風を受けたNo.1となりましたね」
「炎とは風があるほど燃え盛るものよ。その程度超えられなければそもNo. 1になどなれはせん」
「もしかして、エンデヴァーをかなり気に入っておいでで?」
しばしの沈黙。御当主様は手元のタブレットから視線を上げて俺と目を合わせて、ふっと笑い、再びタブレットに視線を落とした。
「…………まさか」
うん。その沈黙が、答えだな。
そりゃあそうだ。オールマイトの君臨は御当主様にとっては一種の敗北だった。ヒーロー界の誰しもがオールマイトを讃える中で、彼に一種の反発を抱いていたのは、御当主様とエンデヴァーくらいのもので。
同じ気持ちを持っていたのなら、そりゃあ、目をかけたくもなる。
「エンデヴァーの今後は?まさかひたすら謹慎という訳でもないでしょうに」
「それを今調整中だ。荼毘のことも気になるからな」
「サイドキッカーズを放逐せず叔母、志波雨流に一時的に預けているのもその為ですか」
「No.1の実力、飼い殺すにはあまりに惜しい」
「同意です」
つーか、そんな余裕はかけらも残っていない。
原作知識が適応されるなら、ヴィランは今着々と準備を整えている最中なのだから。
こちらも、打てる手はすべて打たなければならない。
少なくとも一年生の間は、この忙しさから抜けられそうにないなあ。
かなしいなあ。
数ヶ月前の会談
「No.1ヒーローになった後に個性婚や虐待について公表されればヒーロー界全体の信頼が揺らぎます。何か対策を取るべきかと」
「対策……具体的には」
「考えうるのは繰り上がりでしょうか。しかし公安であるホークスは委員会から許可が降りるか分かりませんし、ベストジーニストは休業中……そうなると四位のエッジショットが一位に」
「否、そんな回りくどい真似をしたところで、次から次へと一位を辞退されて終わりだろう。そんなおこぼれのNo.1を受け入れるようならトップヒーローになどなれはせん」
「ならば、どうしましょう」
「不在にするか」
「えっ」