ヒロアカ世界に転生したは良いけど主人公不在らしいです。どうしろと!?   作:サブレ.

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第三十二話

例え当主でも普段使いはしない繊細優美な食器類、ノーマルではなく季節限定品の羊羹、最高級品質の玉露。

やはり俺一人で会いにくるのとはお出しされる全ての格が違うなあと思いながらお茶を一口。これ飲んだの、中学の時にかっちゃんを連れてきて以来である。

まあ俺も普通に良いもの飲んでるんだけどね。一番上かって言われると違うって塩梅。

 

「よく来たな、楽にするがよい」

「最初手で殺気を突きつけた人間が発する言葉でもないでしょうに」

「なあに、若者が気になってな。爺の悪い性分よ」

「悪いと御自覚かあるのならば、控えていただけませんかね」

「そろそろ本題に入っては」

「ふむ、それもそうだな」

 

エンデヴァーの一言で、曾祖父と曽孫の戯れを中断する。御当主様の部下によって配られた資料には、事前配布された資料には載ってなかった細やかな情報……字家本邸から持ち出せないようなものが掲載されている。

 

「まず前提として、その誘拐犯については遺伝子上において字家の直系……孫に当たる。息子の一人が不妊治療の際に精子と卵子を提供して掠め取られた形だな」

「魔王の干渉は」

「ないな。もっともそれを警戒していた。故に、一般人による突発的な衝動に対応できなかったようだが」

 

遺伝子上は大叔父の息子に当たるわけか。

金目当てなのか個性目当てなのか。当時の犯人……看護師だったのか。この人自分で産んでるみたいだな。

 

「個性はモヂカラでしたか」

「そうだ。故に、なぜ字家の血を引き字家の個性を持ちながらただの一般人に甘んじねばならぬのだとフラストレーションを貯めていたようだ」

「なるほど」

 

犯人のバックボーンは理解した。追加でエンデヴァーがいくつか質問をして御当主様が滔々と答えてるのを頭に入れながら羊羹を一口。

栗だこれ。

 

「問題は、なぜその男が他でもない緑谷出久に目を付けたのか、なのですが」

「それも調査内容の一つだ。炎司が腑抜けた時は尻を叩いてやれ」

「構いませんが、本人の前で仰ることですか」

 

デリカシーがない。視線で咎めたら、不敵に笑って返された。ここに張本人とその息子がいるんですよ!同行するの俺なんだけど!?

 

「して、その調査についてだが、多少厄介であってな」

「厄介?」

「極めて優秀な“予言書”があると噂でな。それを求めたヴィランで周辺地域がひしめきあっている。それを掃討せねば、調査どころではあるまいよ」

「予言書……」

 

……青山君の内通ルートを潰しながらも、襲撃が発生したのはこれが原因か?

転生者が他にいる?

追加の資料が渡されたが……うわ、この数どうなってんだ。ここ数ヶ月、俺が入学したよりちょっと後くらい?からヴィランの数が爆増している。こわあ。

これ掃除するのに何ヶ月かかるんだ?

 

「さて、エンデヴァーよ。二ヶ月だ、どう思う」

「十分です」

「……ぉぅ」

 

すっげえ。言い切れるものなんだ。

俺が今まで手回ししてきたのって大概、事態が悪化しないように、もしくは有利に働くようにするのもがほとんどだから、すでに悪化してしまった状況をひっくり返す……跋扈したヴィラン退治について、ここまで断言できるのかと、なんか感動。

これがNo.1か。将来テン君みたいな、このレベルのヒーローの指揮を取ることを考えると、ちゃんと実力を正しく理解できるようにならねば……!

 

「ふむ、さすがよな。お前を派遣できるよう根回しした甲斐があったもの」

「……げ」

「げとはなんだ」

「そうなのか?」

 

……成程。

エンデヴァーの家庭内DV問題をリカバリ可能な状態で公表して世論をある程度誘導。その後字家の監督の元ヒーロー活動を再開させることでエンデヴァーのヒーローとしての地位を段階を踏んで再建。もっとも風当たりの強い最初の活動は字家が監督することで批判の盾となり、これら全てがヒーローという団体に恩を売る形になる。

何故ならば、時と場合に応じる形になるが、足を踏み外したヒーローの更生を後押しすると表明したようなものだからだ。さらに、この轟家の事態に最初に気づいて公表とフォロー体制を整えたのも字家である。

ついでに、字家内部から発生した問題にNo.1ヒーローという日本が保有する最高クラスのカードを切ることができる。

 

「脳無戦、もしやイレギュラーにございましたか」

「否、封印の文字の有用性が揺らいでいたところに丁度よかったわ。少なくとも脳無の個性を封じられるのであれば、他のヴィランにも通用するでな」

 

思わずこめかみに手を当てた。

 

「……こんの、腹黒狸」

「これくらいは出来るようになってもらねばな。ホークスに対する手腕、なかなか上手かったではないか。期待しておるぞ」

「かしこまりました……」

 

はー、期待が重たい。後の公安委員長にコネクション持てるって意味では字家次期当主としても有用な繋がりではあるんだけどな。

茶を啜っていたら、呆然と俺を見てる轟君と目が合った。テーブルの上には手付かずの栗羊羹とお茶が二人分。

あれ?御当主様からの差し入れって名目で羊羹何種類か差し入れして反応観察した時には、二人とも栗羊羹美味しいって食べてたのに。

 

「……二人とも、食べていいんだぞ?」

「食えるか!」

 

かっちゃんが爆発した。いや、そんな怒らんでも。

 

+++++

 

「いつもあんな感じなのか?」

「ヒーローは現場主義だから意外だろうけど、字家としての仕事っていつもあんな感じ。報連相、交渉、挨拶、顔合わせ、会談、根回し、情報共有、調査、エトセトラ」

「暗躍か」

「うーん否定できねえ」

 

俺たちは堅苦しいお話し合いの息抜きに庭を散策中。御当主様とエンデヴァーは少し離れたところで一対一でこれまたお話し中である。

 

「殺気向けられたのも、いつものことなのか?」

「まあ戯れ兼鍛錬みたいなもんかな。AFOの存在にビビらないようにっていう、あれ。

うちは変で時代錯誤な家だけどさ。少なくとも楽しいこととか……あえて冷たい言い方をするなら、字家であるメリットって言うの?そういうのはちゃんとあるよ」

 

少なくとも、俺にはたくさんの楽しい思い出がある。誕生日は毎年祝ったし、運動会や授業参観には必ず父か母か祖父母が来てくれて、熱が出たら母に看病してもらった。

いとことは父親と伯父の真剣勝負にうまい棒を賭けたり、爺ちゃんに寝起きドッキリ仕掛けようとして失敗したり、水鉄砲で戦ったり。

時代錯誤な在り方なりに、まあまあ適応もしてたのだ。

 

「うちとは違うな、やっぱり」

「轟家の場合はエンデヴァーがあんな感じなのに加えて、冷さんの実家もなかなか大変な感じだったのが悪かったのかもな。抑圧酷かったみたいだし、実家も頼れないとなるとなあ……」

 

ずざ、と音がした。音の方を見ると、轟君とかっちゃんが二人で後ずさっていた。

 

「いや、なんでコイツの母親の事情そこまで詳しいんだよ……」

「俺より詳しくねえか……?」

 

あっめちゃくちゃ引かれてる。確かに自分よりお母さんの事情に詳しいクラスメイトとかキモい。

でも、聞いてほしい。冤罪なんだ。

 

「ちっがーう!俺のお母さんが轟冷さんと同じ一族の出身なの!同じ氷叢家!!!お母さんの一族の家系図頭に入れてたら氷叢冷の名前もあっただけ!!!」

「お、おう……?」

「俺のお母さん、実家と疎遠にしたの!親族の擦り寄りを警戒して最低限の事情を頭に入れただけなんだよ!!!理解して!!!」

 

この弁解は、最終的に御当主様がエンデヴァーを池に叩きつけるまで続いた。そこそこでかい水飛沫が上がったのは余談である。

つーか、客人を池に叩きつける家主がどこにいるというのだ!!!何やってんだあの人は!!!

 




「俺って真墨と親戚なのか?」
「えーと、俺のお母さんと轟冷さんか従姉妹兼再従姉妹、遺伝子的には腹違いの姉妹だから……多分、再従兄弟?」
「……兼?」
「兼」
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