ヒロアカ世界に転生したは良いけど主人公不在らしいです。どうしろと!? 作:サブレ.
そして。
エンデヴァー総指揮の元、ヴィラン掃討作戦が開始されたがめちゃくちゃスパルタでした。さすが実力No.1のヒーロー、ひたすら暗躍系と両立しながらやってた身にはキッツイ。
御当主様、俺のブートキャンプも兼ねてエンデヴァーの元においたなこれ。
「腐っても雄英高校のヒーロー科ならばこれくらいはできんと初代当主に顔向けできんなあ」
とは御当主様の弁である。確かに。
ちなみに仮免試験も制度作った御当主様の曽孫だし字家次期当主なんだから当然受かるよなぁ?みたいな空気の中受けたからな。受かったけど。
そんな感じで二ヶ月。無事にヴィランは掃討されましたイエーィ。ヴィランは字家傘下の
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そうして冬のある日。
エンデヴァーとのインターン兼ヴィラン掃討作戦の只中で、俺はテン君からの報告を受けていた。
「事実か」
『ああ、“事実”だ』
「りょーかい……明後日一回実家に顔出す。朱里様のご容態に変化があったら時と場合選ばなくていい即報告。ジーニアス事務所に探り入れろ、報告は詳細に、形式は問わん。
病院周辺に居住する協力者がいたよな?レポートは」
『準備中だ。今夜にも送る』
「分かった。レポートは紙で送れ。例の面会は最低でも二ヶ月後まで延期。グラントリノとサー・ナイトアイに渡す日誌の閲覧許可証予定早めて作るから、今日の夜九時を目処に誰か雄英高校に受け取り役寄越して。先生に話は俺から通しておく」
電話を切って大きくため息。今回の作戦の根っこは御当主様が握っているため、しばし小休止という形になるだろう。事態が大きく動くのは構わないが、こうも立て続くと厄介だ。
「魔王の忠臣がこうもピンポイントで釣れるとは……」
具体的なレポート次第ではあるが……父親もあれでなかなか食わせ者だ。テン君の口調も合わせて判断すれば、悪い結果ではないはずだ。多少の舵取りは必要かもしれないが。
……と、なると。
「……視野にいれるべきというか、実行のための根回しか」
下手に使えば人類の絶滅戦争さえ起こしうる、字家の保有するvsAFOの最大最高の切り札。
もっとも、あまり使いたくはないのだが。既に切り札を切るための手続きは御当主様が進めている。
さて、とりあえず目下の仕事を進めなくては。許可証をサクッと書き上げて封筒に入れ、封蝋を押す。古めかしいがなんだかんだで有効な手だ。
この許可証を字家の使用人が申請者に直接届けて、約束の日に未開封の封筒三通を持った申請者が本邸に直接赴き、その場で封筒を開け、必要な許可証が揃っているのを確かめてようやく初代志波烈堂の手記が読めるという手続きだ。
めちゃくちゃめんどくさい前時代的な手続きだけど、これくらい厳重にしないと切り札にも関わってくるのである。
あと、別に公文書でもなんでもない、私的な所有物の公開なので「嫌なら見るな」で押し落とせるのも大きい。
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二日後。
俺、お母さん、妹、そして着いてきてもらった相澤先生は警察から事情説明を受けていた。
すなわち、父親の失踪について。
警察から状況を説明してもらう。妹は俺にべったり張り付いて、母親は顔を後白くさせて今にも泣き出しそうな雰囲気だ。
重たい空気の中、警察が帰るまでの時間はとても長く感じた。
そうして、全て終わった後。はあー、とため息を吐いてしまったのは仕方ないだろう。
「えー……多忙な中茶番につき合わせて本当にすいません、相澤先生」
「いやあ、申し訳ない」
ひょこっと別室から飛び出してきた失踪したはずの父親。せめてもう少し言葉通り申し訳なさそうな感じでいてくれ父親よ。
「この人は本物なんだな?」
「はい。相澤先生も個性を使って確認していただいて構いません」
「しかし、どうして失踪なんて話に?」
「話せば長くなりますが……モヂカラを使用してヴィランの罠にかかったフリをしましてね」
「影の文字で肉体だけ再現して逃走したというところかと」
「そう、そんな感じ」
「息子に説明を投げるな!まあ、忍者の変わり身の術みたいな感じです」
「お茶が入りましたよ」
「お菓子もありますよー」
お母さんと妹がお茶を入れ直してくれたので、改めて団欒タイム。この二人、さっきまで取り乱す寸前の演技をしていたとは思えないくらいのリラックスモードである。
「真墨はしばらく僕が失踪したという体で生活します」
「分かりました」
「社会的にも失踪扱いなので、しばらくはゴシップ誌の取材があるかもしれません。雄英高校にはご迷惑をお掛けします」
「文化祭の時にネタになる事件起こしたので、多少面白がられるかと」
雄英高校ヒーロー科生徒の実父が酔って迷惑系YouTuberと揉め事起こして実息子に取り押さえられるって、字面だけでツッコミ多いしな。
父親はともかく、母親と妹もノリノリでOKだすとは思わなかったよ。
「真墨、相澤先生の好きなお菓子はなあに?」
「いえ、お構いなく」
「相澤先生はサルミアッキ好きだよ」
「サルミアッキ?あら、あったかしら」
「あるよ!」
「なんであるんだよ」
そうして、全寮制導入以来となる先生の面談みたいなことが始まった。恥ずかしい。
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で、だ。
失踪したのは父親だけではない。ベストジーニストもそうだ。この辺は父親が失踪前後でうまい具合に調べ切ってくれた。さっすが字家の血を継ぐ人間、ヒーロー免許持ってないのにこういうのは上手い。
「というわけで、作ってみたよ。龍折神。獅子折神のベストジーニスト版だ」
「ありがとう父さん。すごく助かる。これは朱里様にお渡ししてもいいか?」
「もちろん、そのつもりだ」
「死んではないんだよな?仮死状態でいいと」
「生きたまま、たとえば焼かれたり埋められたりする危険は一応ある」
「綱渡りだなあ……ホークスに作った俺との直通コネクションじゃお守りできなかったのへこむ」
「まだまだ学生だってことだ。全てを背負い切れると思わない。切り替えるといい。まだまだ山場はこれからだぞ、若様」
「はあい」
弱音を吐き出し、次のお仕事へ。
朱里様が入院していらっしゃる病院へ。未来の話をせねばならない。
テン君がお菓子を出してお茶を淹れてくれたのでそのままお茶を飲みながら話し合いへ。
防音の効く個室だし、テン君が外で見張ってるし、一応医者に聞かれても問題ない話し合いではあるが、やはり緊張する。
「予定日に変わりはありません」
「朱里様と御子様の無事が第一です」
「ええ、本当に。あの人がいないのは、少しばかり寂しいですが……」
「学生の身でNo.3の御身をお守りできなかった……などというには不遜でしょうか」
「できることをやったのでしょう。あの人も私もプロのヒーローです。覚悟はできています」
「然し乍ら、御子様はヒーローではありません」
そう、その話をしにきた。
朱里様は数少ない封印の文字を取り扱える者。トップヒーローのベストジーニストのサイドキックであり袴田維の妻であるがために多少日陰にいることができていたが、今後はそうもいかないだろう。ジーニアス事務所の実質的なNo.2なので、復帰後は彼女が事務所をまとめ上げる必要がある。
そして、封印の文字は敵連合の幹部に当てる切り札的側面もある。朱里様の戦略的な重要度は今後の決戦において鰻登りになるだろう。
「次期当主たる字真墨に要請します」
「はい」
「私に代わり、我が子をお守りください」
椅子から立ち上がる。そして、腰を九十度に曲げて深く頭を下げた。
「……かしこまりました、朱里様」
やはり、ヒーローは貧乏籤だ。
七代目の選択を繰り返すことを、止められるどころか助長することしかできないのだから。