ヒロアカ世界に転生したは良いけど主人公不在らしいです。どうしろと!?   作:サブレ.

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第三十四話

さて、本日は例の誘拐犯が根城にしていたと思われる別荘地のとある家の調査である。

テン君が運転する車で、インターン組三人でざっと表向きに残された見取り図を頭に叩き込む。絶対なにかある間取り図してんな。

 

「乗り込むって言ってっけど、犯人はそこに住んでンのか?」

「死亡の可能性が濃厚。つーかほぼ確実。もう少し生存の可能性があるなら、間違いなく遺伝子掠め取られて激怒してる大叔父が出張ってくる」

 

大叔父のことは苦手だけど、あの人優秀ではあるからな……。言動は一定の信用を置けるし判断基準にもなる。

苦手だけど。

ついでに言うと娘の遺骨荒らされた御当主様もバチギレしてるし姉を辱められた爺ちゃんもまた怒り狂っている。

一周回って犯人死んでて良かったなってレベル。あの三人の社会的影響力やべえから。

でも字家相手にやったことは落とし前つけなきゃいけないレベルのことで、じゃあどうする?そこにいるだろ若き次期当主が。

みたいな流れだった。いや、いいんだけど。

 

「そういや、真墨の大叔父には会ったけど、祖父にあたる人って何やってるんだ?」

「爺ちゃんは外交特化してる人。今は俺の従兄の、まあ爺ちゃんから見たら孫だな。その人連れてアメリカ行ってる」

 

俺のわがまま関係だと思うが。この前わがまま言ったから仕方ないのーで叶えるために粉骨砕身してるんだと思う。

従兄連れてってるのは、多分後継者だからかな。大叔父は叔母に業務引き継ぎ始めてるし、御当主様以外もぼちぼち世代交代の準備中なのである。

今の社会情勢だんだんきな臭くなってるしな。この情勢を乗り切るついでに後継者教育して、落ち着いたら、もしくは自分が死んだら世代交代という目算だろう。

そんな話をしていたら、目的地に到着した。

 

+++++

 

今回踏み込むのは俺たちインターン組三人、エンデヴァー、テン君の五人。エンデヴァーのサイドキックや地元ヒーロー(字家傘下ではない)は外で待機。

ドアを破壊、はせず、モヂカラを使って鍵を実体化する。その合鍵でサクッと中に入る。

別荘地なだけあって家は大きい。事前に手に入れた間取り図は5LDKで、都会の狭っくるしい家なんかよりは一応大きいが、轟家の日本家屋や字家本邸に比べたらこじんまりしている。

 

「便利だな」

「実際便利です」

 

たのもー。入った家の中はとても埃っぽい。リビングに踏み込むと、そこは明らかな“異常”があった。

ソファやテレビは薙ぎ倒されている。カーペットはちぎれている。雑然と荒れた部屋の真ん中に、干からびたミイラとなった死体があった。

 

「例の従叔父だな」

「予想通りですね。秘伝の文字の力を生半可な鍛錬で扱おうとするとこうなります」

 

ある意味、俺の未来とも言えなくもない。手には金色の毛を使った筆が握られていて、おそらくはオールマイトの髪の毛だろう。テン君が手袋を履いて筆を回収した。

失敗して死ぬ時は俺もミイラか。

 

「この男が緑谷出久の誘拐犯か。しかし、死亡認定されるに至った映像はこの男が?」

「影のモヂカラを使えば偽装は容易いですよ」

 

俺がこの場で一度『影』の文字を書いてみる。死体の横にもう一つ、全く同じ死体が出来上がった。偽物の方に触れて即座に消す。

 

「今は死体で再現しましたが、生物も同じように作り出すことが可能です」

 

本人の技術にも依存するとはいえ、使いこなせればかの殻木球大や魔王すら欺き通す、それがモヂカラだ。

証人保護プログラム(経歴ロンダリング)を扱うからある意味当然なんだが、人を騙すことに関しちゃ、字家は結構得意だ。それと同じ力を持ち、ヒーローの大家としてお手本が山のようにあったこの男が、人一人隠せるようになるのは、努力すれば不自然な話でも無かったのだろう。

俺たちも、一歩間違えればこうなりかねない、危険な一族だよなあ。在り方自体は指定敵団体に近いわけだし。

 

「監禁かよ。飯とかは」

「ほら、はい。モヂカラの元は生命エネルギーだから、飯多めに食ったり体力つければ一人分の水食料くらいならふつーに面倒見れる。衣服も出せる。結界も張れる。割と万能に近いんだよ」

 

コツ掴めばある程度生命エネルギーの消費の無駄も削減できるしな。俺が封印の文字(略字)を三回くらい連発できるようになったみたいに。

それでも新字体の、簡略化してない封印の文字は下手すりゃ死ぬレベルでキツいので、OFAの影武者なんて使った日には、それこそミイラになる。

死体を運び出して再び探索。間取り図をもとに隠し通路を見つけ出して先に進む。

 

「んだここ」

「鍛錬場?かな。ほら、爺ちゃんの家で使ったじゃん」

「あそことはだいぶ違うだろ」

 

大きな、広間というか鍛錬場というか。雄英高校受験にあたりかっちゃんや俺も何度も使った爺ちゃん家のそれに似ているが、雰囲気はまるで違う。

ちらりと後ろを窺えば、轟親子が顔を青白くさせていた。しかし、轟君はともかくエンデヴァーに遠慮するつもりは一切、ない。

 

「エンデヴァー、このような“訓練”において、家主が子供を隔離するために部屋を作るとしたら、どのような構造が理想ですか」

「いや……」

「我々字家は、あなたの“加害者視点”を借りたいのですが?」

 

早めに追い打ちをかける。子供を無理やり“特訓”という名の虐待かけて周囲から隔離した人間の視点なんてそう簡単に得られるものではない。きっちり活用させていただく。

そうして、エンデヴァーによる幾つかの視点と轟君からの補足を受けて探索を再開。幾つかの隠し部屋を発見した。

 

「成程な。万一地下室を検められても、自己鍛錬用ですって言い訳が効くように設計されてる訳だ」

 

無駄に知恵が回る……と言いたいけど、割と字家が使う手でもある。むしろこちらで取り入れたい構造もいくつかある。

 

「なんで感心してんだよ」

「人を消すって、結構大変なんだよ。字家がこれまで何人必死こいて消してきたと思ってんだ」

「それだけ聞くとヴィランみてえだな」

「まあ、この世を守るっていうお家の使命が無ければヴィラン寄りの一族ではある」

 

俺の父親も実質消したみたいな感じになっちゃってるし。

手袋を履いて手分けして御用改していると、一つ明らかに悍ましい部屋があって眉を顰めた。

 

「…………地雷踏んだ間違いなく」

 

四畳半の部屋。ベッド。壁際に置かれた引き出しを開けると、なんかこう、Rとか大人の、が頭に付く玩具がごろっと。

不快感を飲み下して、玩具の引き出しの奥底に隠し底を発見。そこにあった、一冊の古びたノート。

 

「……ま、隠すには丁度いいな」

 

監禁してる子供は決して自分から近付かない。覗き込まない。協力者がいたとして、その人でさえ触れようとは思わないだろう。

ペラペラと捲る。既知の情報が事細かに記載されている。見つけたのが俺で良かった。それ以外だと大問題になってるところだった。

やはり、この誘拐犯は転生者であるらしい。何を持って誘拐に至ったのか、その答えがここに記載してあった。

 

 

「『字家という存在など聞いたことがない。この家の存在のために、緑谷出久が九代目継承者になれないことなどあってはならない』」

 

 

転生者として、気持ちはわからんでもない。だがな、うちのせいにすんな。

そもそも、緑谷出久に悍ましい加虐を与えたのはお前自身だろう……だなんて、死人には耳を傾ける力すら残っていないか。

 

 

「『幸いにも、字家の力を継いでいる。この力は万能だ。必ずや俺が緑谷出久を九代目継承者に相応しいヒーローへと育ててみせる。そうすれば、オールマイトも喜んでくれるはずだ』」

 

 

オールマイトの厄介ファンか?

無茶苦茶な理論だ。フツーに喜ばねえから。んでもって、無理やり継承に成功したはいいものの自分が死んでちゃ世話ねえよ。

 

 

「『そうすれば、字家も俺を認めてくれるはずだ。原作知識を持つ俺を志波に入れなかったことを後悔させてやる』」

 

 

ページをめくる。

 

 

「『俺が一番字家を上手く使える。俺こそが当主に相応しいと思い知らせてやる』」

 

 

志波、ねえ。確かこの男、雄英高校受けてまっとうに落ちてたはず。最初は推薦で、次に一般で受けて両方。

つーかこいつ、オールマイトの厄介ファンというより志波の厄介ファンか?出生的には母親が厄介ファンと見た方がいいか。

てか志波に敵愾心抱いてんのか憧れてんのかどっちなんだよ。直接問いただしたいのだが、生憎もう死んでいる。

 

整理しよう。

こいつはまず字家の遺伝子を使って生まれ、原作知識をもって少なからず社会に影響を与えたいと思っていた。そして強大な権力を持つ字家の血統であり原作知識という未来知識持ちでありながら、ただの一個人として埋もれるのを良しとしなかった。

なので、志波になってヒーローとしての力と社会的な力を得ようとした。そして、挫折した。理由は単純、雄英高校に落ちたから。

 

 

雄英に非ずんば志波にあらず。

 

 

「なんのために俺がクソみたいなプレッシャー下で雄英高校に受かったと思ってんだか」

 

権力を乗りこなすには箔も、教育も、実力も、人脈も、何もかもが必要だ。

そして、自分より遥かに年齢も実力も上のヒーロー相手に立場が上になることだってあり得る。人だって、その気になれば消してしまえる。

なりなくてなっていいものじゃない。本来ならば滅びて然るべきだというのに。

 

 

字家の能力はこの時代に必要不可欠だとしても。

字家の権力そのものを肯定する人間は、字家当主に相応しくない。

 

 

「……だーから、だめなんだよ。それにどっちみち」

 

残念ながら。

俺は、お前の上位互換だ。

さらにページをめくろうとしたタイミングで、肩に乗せていたエージが哭いた。即座にノートを閉じて元の場所にしまい込む。

 

「こちら志波烈堂。“海賊”がこちらに接近中と思われる」

 

部屋を飛び出しながら通信機で説明すると真っ先にかっちゃん、そして轟親子が飛び出してきた。迷いなく外に出て、周囲を警戒しながらエージの反応を伺う。

そして。

 

「……今更、ここに来たのか。侍」

「どれだけ遅くても、目を逸らし続けることに意味はないからな、海賊」

 

海賊が、空を飛んできた。

 

「出久!」

「……かっちゃん。見たの?」

「は?見たって何を……」

「大丈夫。字は、僕が倒すから」

「正気ではないな」

「…………」

 

海賊が俺にターゲットを定めた。

多分理由は、俺が字だから。

字の被害者を、これ以上出さないために。

数瞬の沈黙ののち。

海賊が、こちらに向かって弾丸のように飛んできた。

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