ヒロアカ世界に転生したは良いけど主人公不在らしいです。どうしろと!?   作:サブレ.

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第三十五話

「雄英にあらずんば志波にあらず」

 

多分この価値観が無ければ、あの男は雄英高校不合格を理由に挫折せず、緑谷出久も拉致の憂き目に遭うことはなかったのだろう。

然し乍ら、雄英高校とは、我々字家を秩序に縛り付けるために必要不可欠な楔であるからして。

 

「志波のヒーローに自我は不要」

 

字家の血統を継ぎ、志波として、志波を支える者として生きることを決めたのならば、自己を喪失する覚悟を決めなくてはならない。

数多くの人間を消してきたように、最期に己の存在を消失することを覚悟しなければならない。

 

まあ、つまり。

あの男はどう足掻いても…………志波として不適格だったのだろう。

その歪みを、緑谷出久一人に背負わせてしまったことは。ワン・フォー・オール継承者に要らぬ不安や痛みを与えてしまったことは。

字家としてあまりに恥ずべき出来事であることは、間違いないのだけれど。

 

+++++

 

「出久落ち着け!こいつはヴィランじゃねえ!」

「“この家に字家が誰かを連れ込んだ”という事実そのものが地雷なんだろ!」

 

竜化して空を飛び回る。海賊こと緑谷出久は一点、俺だけを狙っているので、俺を囮にしつつショートの作る炎や氷の壁で翻弄、かっちゃんに説得を試みてもらい、背後から天使、エンデヴァーの二人が捕獲を試みているのだが……ダメだ、相打ち覚悟で倒しにきてる。

封印の文字は、使ってる隙がない。本気のOFAの相手がまさかここまでキツいとは……!

 

「……知ってるよ」

「は?」

「知ってるよ!何回も、ずっと聞かされてきたから!二代目に、七代目に!字家は理由もなくそんなことをしないって!」

 

黒鞭が飛んでくる。火炎の舞で叩き切る。捕まったが最後、全力の一撃を喰らうことは想像に難くない。

 

「じゃあなんで意地はってんだテメェは!」

「理由があったらするんだろ!?僕以外の他の人にも、かっちゃんにだって!」

「っ!」

 

───否定、できない。

お家の使命のためならば、「この世を守る」ためならば。人を消すことすら厭わない字という家が。

字家ではない人間を生贄に捧げることはしないつもりでいるが。本当に土壇場で、それをしないでいられるのか。

当主として、暴走を止めなければならない。暴走するくらいならば滅ぼすという決意は。

暴走の危険を承知しているのと同義だ。

 

「んな訳、あるかぁ!」

 

かっちゃんが吠えた。俺と海賊の視線が一瞬そちらを向く。天使によって完全に死角から放たれたはずの電撃を、海賊は軽々と避けてみせた。

 

「なんで!かっちゃんが言い切れるんだよ!」

「コイツがんな暴走する前に!俺がコイツをしばき殺すからに決まってんだろ!」

 

相変わらずとんでもない練度で天使とエンデヴァーの攻撃を捌いていくが、海賊ではなく緑谷出久となった彼は、ものすごい勢いでかっちゃんと叫びあっていた。思わず笑ってしまうと、隣に攻撃するのをやめた轟君がきていた。

 

「なんかあったのか」

「いや。……かっちゃんに首輪付けられるなんて、光栄だなと思っただけだよ」

 

思わず自分の喉仏に触れてしまった。相澤先生をして、決して折れず堕ちないと言わしめたあの爆豪勝己が、俺の暴走前に爆殺すると仰った。

こんなことを思っている場合ではないというのに……なんだか、天にも昇る心地だ。

暗く険しい道のりに差し込んだ、光明。絶対に手放してはいけない唯一無二。

この男に見限られない限り、俺は人としての生き方を誇れるのだと。

 

「……?よくわかんねえけど、いいことなんだな」

「ああ、これ以上ない!人生で最も素晴らしい瞬間だよ間違いなく!これだけで百年生きていけるくらいに!」

 

……ああ、そうか。御当主様が今まで折れずに字家当主を背負い続けていられたのは、“これ”を見つけたからだったのか!

 

「でも、爆豪はお前を見てねえぞ」

「それでいいんだよ、むしろそうあるべきだ」

 

人を隠し、己を消してきた存在だ。そうあるのが正しい。

さあ、やるべきことをやろうか。字家当主、志波烈堂として!

 

「天使、志波烈堂より命ずる。死んでも俺を守れ」

「御意」

 

相手を戦意喪失させ、どちらの犠牲者も出すことなく無力化する。それこそが現代ヒーローに与えられた役割。

 

「志波烈堂、これより封印の文字を使用する。対象は海賊・緑谷出久」

「時間は?」

「三十秒」

「分かった」

 

残火ではない本物の炎。略字でどれだけ抑え込めるかなんてわからないけど。

ほんの一瞬でいい。

 

「真墨」

「なんだ」

「たぶん、海賊はお前のことが怖い。だから、」

「ああ、分かってる」

 

筆を構えて、ゆっくりと文字を書いていく。エンデヴァーと天使の猛攻が加速する。

書き切るのに使った時間は、期末テストの時よりずっと短い。

 

「個性、封印!」

 

+++++

 

海賊こと緑谷出久が、墜落した、それを天使が捕まえて、地上まで降ろす。

緑谷出久は、俺を睨んでいた。それと同時に、どこか戸惑ったような視線も向けていた。

サイドキックが警察や救急に連絡をしているのをぼんやりと聞きながら、向かい合う。そのまま、腰を折って頭を下げた。

 

「改めまして、お会いできて恐悦至極にございます、ワンフォーオール九代目継承者。私は偉大なる初代当主が玄孫にして次期当主、三代目志波烈堂、字真墨と申します」

「……長い名前だなあ」

「俺も、そう思います」

 

緑谷出久が、目を閉じて意識をいずれかに集中させた。おそらくは歴代継承者と話し合っているのだろう。

しばし待った後、開かれた瞳には強い覚悟と意思が宿っていた。それを確認してから、再び頭を下げる。

ここからは、字家と継承者の会話となる。それを察してか、周囲はしんと静まる。

 

「此度は、我らが一族の遺伝子を引き継ぎ、愚かにも字の名前を名乗りし不届者による数々の狼藉、申し開きのしようもございません。……今更、と思われても仕方のないことではあると重々承知しておりますが」

 

そのまま、膝と手のひらを地面につける。額を地面に擦り付ける。

 

「誠に、申し訳ございませんでした」

「……僕も、さっきまで字家とあの男を混同してたけど。でも、君たちは、あの男のことは何も知らなかったんだろ。じゃあ、君が謝ることはないんじゃないかな」

「否」

 

それには明確に首を振る。血脈を重視し続ける家ならば、負の面にもきちんと向き合わねばならない。

 

「我らにとって、血統とは決して無視できぬもの。何より守り通すべきもの。血統なくして当主の座に着くことは叶わぬ身として、無為に生み出された人間であろうと、我らが血脈であるならば、その咎は当主もまた背負うべき罪にございます」

「僕の、両親は」

「字の手によって、護衛体制を整えております。子息の帰還を、待ち望んでおられます」

 

字家はヒーローの大家である。継承者のバックアップくらい造作もない。

そのような受け答えをしながら、緑谷出久の沙汰を、じっと伏せたまま待っている。

 

「……字家のことは、初代や二代目、七代目から聞いたよ。君たちがそんなことをする筈がないって。その通りだった」

「は」

「字家は、詐欺師(うそつき)だって聞いたけど、本当なんだね」

「「ウソツキ」」

 

轟君とかっちゃんの声が揃った。俺は伏せたまま、思わず笑ってしまった。

なんて的確な表現なんだと。

さすが初代と二代目だ。

 

「顔を上げてほしいな」

「は、仰せのままに」

「うーん、そんなに畏まられるのも変な感じだ。ヒーローにとってはすごい偉い人だと思ってた」

「まあ、偉いですね。一応」

 

社会的ヒーロー界的地位は確かに高い。No. 1ヒーローの選定にめちゃくちゃ口出しできるくらいには。ここは、否定してはいけない場所だ。

少し、弛緩した空気が流れていた。

さて、次の手を打つにはそろそろか。

 

「オールマイトが九代目に会いたいと希望していらっしゃいます。俺もまた、九代目に個別にお聞きしたいことがございます」

「聞きたいことが……いったい何を?」

「敵連合が一人、荼毘の正体について」

「……!」

「俺は彼の正体を、轟炎司の長男、轟燈矢であると推測しています。それについて、直接交流のあった九代目にご意見を伺いたく」

「待て!」

 

思わず、エンデヴァーが口を挟んだ。狙い通り。

 

「燈矢は死んだ。たとえ字家であろうと、許されない嘘だ!」

「我々は詐欺師(うそつき)ではありますが、使い所は弁えます。これはあくまで、神野の現場を見ていた俺の個人的な推察にすぎません」

 

あくまで次期当主の非公式の見解。

故にこそ大々的に意見陳述はしていないが……完全に無視することもできない。

直感ともいうべき推察で、緑谷出久を特定したという実績があるために。

 

「どういうことだ」

「さあ、俺もそれを今調べたいと思ってるところだ」

「わかった。僕の分かることは、全部話すよ」

「ありがとうございます」

 

これで轟炎司、轟焦凍に対して布石を打てた。

荼毘が正体を表したとしても、動揺は最小限に抑えることができる。

この直後、かっちゃんが緑谷君に付き添って病院まで移動することに、轟親子は別で頭を冷やすために移動する。天使に移動手段を任せて、俺は軽く頭を働かせた。

 

───これで、かっちゃんの心残りは解消。エンデヴァーとショートの荼毘との関係性への覚悟も促した。

 

さて、次の布石を打つ時間だ。

 

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