ヒロアカ世界に転生したは良いけど主人公不在らしいです。どうしろと!?   作:サブレ.

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短いです


第三十六話

「かっちゃんと大喧嘩した?」

『ああ。緑谷引子とは近日中に』

「了解。詳細は文面で寄越してくれ。以降の諸々の手続き関連は一度御当主様に引き継ぐ」

『轟炎司からの問い合わせは』

「証拠のない推察にすぎないから口頭質問は全てはぐらかす。質問事項は書面で起こすように言っといて。これは轟焦凍も統一する。朱里様の案件は?」

『準備は抜かりなく』

「流石」

 

テン君と電話でやりとりしながら、緑谷出久のカルテのコピーにざっと目を通す。インターンについてはその他字家案件を引き続き担当することになるだろう。

時間はいくらあっても足りない。次の一手もまた、早めに打たねばならないだろう。

 

+++++

 

「こんにちは、緑谷出久少年!」

「こここ、こんにちはオールマイト」

 

本日は病院にて、八代目継承者八木俊典と九代目継承者緑谷出久の顔合わせに同席している。

にこやかなオールマイトに対して、緑谷君はガッチガチになって可哀想なほど震えていた。憧れのヒーローに会えた喜びと、オールマイトの個性を不可抗力とはいえ奪ってしまった罪悪感が混ざり合っているのだろう。俺の裾を掴んで盾にしている。

もっとも、オールマイトはからりとしたものだ。そういう態度を意図的に選んでいるのだろうが。

 

「会えて嬉しいよ。なんて呼べばいいかな?海賊って名乗ってたとは聞いてるけど」

「それは……」

「海賊の名前は略奪者(パイレーツ)不正規品(コピーキャット)のダブルミーニングですので、オールマイトはそう呼ばない方がいいと思います」

「なんで君が知ってるの!?」

「テン君から報告受けました」

 

人を消す程度に情報の扱いに慣れた字家である。その程度なら簡単に手に入るのだ。

大体、その話でかっちゃんと大喧嘩していたんだから嫌でも耳に入る。

 

「えーっと、字君……だったら色んな人と被るよね」

「真墨でいいですよ。かっちゃんも真墨って呼びますし」

「あの、僕と同い年だよね?だったら、敬語はいらないよ」

「そうか?じゃあ、これで。よろしく……だなんて、字家次期当主の俺が言っていいのかわからないけど」

「でも僕も、君と仲良くしてみたい。歴代継承者も、君のことを知りたいって言ってる」

「継承者が?」

 

これにはオールマイトも驚いたようだ。字家の社会的地位や役割はよく知っているが、黎明期においての情報はある程度意図して絞ったこともあり、特に初代や二代目の情報はオールマイトには最低限しか渡っていない。

 

「うん、今代の字の詐欺師(うそつき)はどんな人かって」

「うそつき……えっ、真墨少年はウソツキなのかい」

「まあ、我々にとっては褒め言葉の一種ですかね。ほら、何人も消してきた一族ですし。社会に対して詐欺を働いてるようなものでしょう」

 

言い方はアレだが、嘘ではない。

嘘とは吐き方と吐きどころが一番大事なのだから。

 

「真墨少年は、緑谷少年のことも消すのかな」

「まさか。本人や家族の了承もなしに消しはしません。ましてやオールマイトの後継者なのですから」

「あのっ!僕はオールマイトの後継者になっていいんでしょうか……?」

「勿論だ。君は神野で、爆豪少年を救けてくれたじゃないか。

ましてや、歴代継承者も認めているんだろう?私だって同じ気持ちだよ。

君は、ヒーローになれると」

 

オールマイトが躊躇いなく、緑谷君を抱擁した。緑谷君は少し肩を跳ねさせて、それから大きくて丸い瞳から、ボロボロと涙を流し始める。

長い時間の、先代と今代の抱擁を眺める。俺と御当主様も側から見たら似たような関係なんだろうけど抱擁はしないなあ……というか、場合によっては御当主様のことを利用しないといけないわけで。

しかし、その思考は表に出さず。落ち着いたあたりを見計らって、俺は字家次期当主かつ当主名代としての言葉を口にする。

 

「字家次期当主、三代目志波烈堂の名において、緑谷出久を全面的に後援することをこの場で宣言します」

 

+++++

 

緑谷出久の入院先から出て、テン君の運転する車の中で資料を読み込む。やることはいまだに山積みとなっている。

 

「で、どうだった?」

「実力はかなりある。それに独学とはいえ分析に長けてるからな、緑谷君」

「へえ、たとえば」

「当主と志波烈堂の関係性に切り込んできた」

 

実のところ、俺は三代目志波烈堂ではあるが、三代目当主ではない。ここのカラクリに気づいているのはかの魔王、根津校長、あと数人のヒーローたち。

隠しているわけではないが、勘違いするように意図的な名乗りをしている。表向きは、御当主様の女性遍歴や朱里様の立場の変遷を理由にしてある。

あの人、地味に恋愛遍歴すげえからな。功績で半分塗り潰されてるけど。しかも身体の関係は先妻後妻のお二人のみであとは全部プラトニックなの恐ろしすぎる。

そんな感じで、“真の理由”にたどり着いてるのは一人もいない。魔王も含めて。

魔王がこの真の理由に辿り着いていたのだとしたら、とっくの大昔に、字家は滅んでいる。

 

「まあ、OFAの内側に根ざす歴代継承者の意思があるのならば、そこにたどり着くのも容易いのかもしれないけど」

 

半分カンニングのようなものだ。それほどまでに、付き合いは長い。

 

「魔王に露見するんじゃないのか」

「言うて魔王も本来なら引退したほうがいいボケボケジジイだからなあ。ぶっちゃけ御当主様の方が矍鑠としてる」

 

初代が夭折して以来、ヴィラン界を牽引してきたのがオールフォーワンなら、ヒーロー界を牽引してきたのが御当主様である。

そして御当主様から、朱里様と俺は、オールフォーワンに対するちょっとしたカードを持たされた。使い所を間違えれば人類の存亡に直結する、そんなカードを。

しかし魔王は字家に特攻入るような効果的なカードを持っておらず、力任せに潰すしかない。

治安維持や平和やこの世を守るという観点では字家はずっと敗北し続けているが、互いの弱点の探り合いという意味でいうなら字家は勝っている。

ややこしい。

 

「それ言えるのは志波烈堂ぐらいだからな」

「肝に銘じておく」

 

魔王の話を聞いて「でもこいつボケボケなんだよな……」という一文がよぎるせいで、歴代の志波烈堂は魔王の甘言に惑わされることがない。これはカードの効果の一つと言っていいだろう。

 

「そのカードはいつ切るんだ?」

「いずれ。最低でもアメリカに義理は通さないとな」

 

爺ちゃんから送られてきた資料をめくる。

 

「三人の個性の封印なあ……死ぬ気でやらなきゃ死ぬな、これ」

 

アメリカで三日連続、合計三人の凶悪敵の個性封印。スターアンドストライプとの会談の交換条件としては、安いと見るべきだろう。

 

さて、どうなることやら。

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