ヒロアカ世界に転生したは良いけど主人公不在らしいです。どうしろと!?   作:サブレ.

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第三十七話

アメリカに渡って四日目。本題前だというのに既に疲れている。

 

「さすがヒーローの本番アメリカ……凶悪ヴィランの上限値が高い……」

 

死刑執行するもしないもとにかく収容しておくだけで死人が出かねないヴィラン×3を三日かけて封印するのは流石に骨が折れた。懐妊なさってたとはいえ朱里様を意識不明にまで追い込んだ新字体の封印の文字を三日連続だ。

なのでスイートルームじゃなきゃ休めないとわがまま言ってみたら、わがまま言う前にとっくに富豪御用達の高級ホテルスイートルームが用意されていた。

爺ちゃんめ、仕事ができすぎる。

 

 

全米を恐怖に陥れることも可能な超凶悪ヴィランの個性を封印したせいか、ホテルの従業員の態度もかなり恭しい。そのせいで、ホテル側にかなり細かいリクエストをしなければならないが、その辺は一切合切を御当主様が派遣してくれた使用人が仕切ってくれた。

流石である。ちなみにこの使用人はテン君の姉君だ。

紅茶、クラブハウスサンドイッチ、ギリシャヨーグルトの朝食を済ませる。この朝食、メーカーから素材まで全部リストが送られてきて内容を吟味したらしい。いやほんと、手間かけてんなあ。

それだけ、俺がVIP待遇という訳だ。なにせAFO級のヴィランを三人、永遠の凡人にしたのだから。

黒塗りの車のお迎えが来て、走ることしばし。途中でコーヒーのサービスを受けつつ、たどり着いた重厚な建物の中に入る。

俺の今の服装はヒーローコスチューム。つまり相手もヒーローという訳だ。

案内人と制限時間の確認をして、軽く頷く。さて、“本題”の時間がやってきた。

扉が開く。

笑顔で、高らかに、軽やかに。

どこかの喜劇の舞台のように、楽しげに声を張り上げた。

 

「やあ、会えて嬉しいよ!当代のシバレッド!」

「初めまして、お会いできて光栄です。アメリカのNo. 1ヒーロー、スターアンドストライプ!」

 

+++++

 

恭しくコーヒーとケーキが運ばれてきた。このコーヒーも、わざわざリストのコーヒー豆全てをテイスティングして選ばれたものだ。VIP待遇が過ぎると思わなくもないが、アメリカ政府が恐れているのは“志波家次期当主の顰蹙を買う”ことである。

現在、自在に封印の文字を扱えるのは俺、朱里様、御当主様の三名。うち御当主様は高齢、朱里様は入院中。

つまり、安定して封印の文字を扱えるのが俺しかいない。俺の不協を買えば、もう二度と収監の過程でさえ死者を生むような凶悪ヴィランの個性を封じる手段を手にできなくなる。

だからこそ、まだ十代の仮免の小僧相手にここまで丁重にもてなしているのだ。

 

「まずは感謝しなければね。私たちの国を助けてくれてありがとうと」

「こちらこそ、お会いしていただきありがとうございます」

 

アメリカは凶悪ヴィランの個性を封じられる。

俺はスターアンドストライプに会って用件を伝えられる。

幸にして、Win-Winの取引となった。

 

「さて、私への用件とはなんだい?」

「字家が近く、日本国内において対AFO専用のカードを切りますのでご報告に」

「…….それは、封印の文字や影武者の文字とはまた別なのか」

「ええ、全くの別物です。個性や武器、戦力ですらない」

「その正体は」

「回答を拒否します」

 

スッとスターアンドストライプの目が細められたが、詰問はされない。

俺がスターアンドストライプの機嫌を損ねることはできないように、スターアンドストライプも条件は同じだ。

 

「……まあ、アメリカに直接牙を向くような代物ではありません。あれはAFOにしか通用しない。その点だけは断言します」

「しかし、そのカードを切ったAFOはただでは済まないんだろう?」

「はい。もしもカードを切った後に日本のヒーローが敗北する事態が発生した場合」

 

すう、と深呼吸。コーヒーで潤したはずの唇が乾いているが、おくびにも出さずに言葉を紡ぐ。

 

 

「オールフォーワンと世界人類の絶滅戦争に発展します」

 

 

沈黙。

俺とスターアンドストライプの背後に立ってる付き人が息を呑んだ。

俺たちはじっと互いの瞳を見ている。

 

「それは、確か?」

「字家の公式見解と思っていただいて構いません」

「それほどまでに危険なカードをどうして切ろうと思う?」

「AFOを魔王の椅子から引き摺り下ろすことができる」

 

それがどれほど稀有なことか、アメリカのNo. 1たる彼女はよく理解しているようだった。オールマイトを心の師と仰ぐ彼女なら当然か。

 

「魔王との戦いの歴史は、オールマイトよりも我々字家の方がはるかに長い。ゆえにカードを複数蓄えた、それだけの話です」

「魔王の椅子から引き摺り下ろすカードは二枚あると?」

「ええ、その通り。互いに一枚では破壊力に欠けるため、重ねがけが前提となります。切るべきときに、たった一度」

 

カードの問題点は、あくまで魔王の椅子から引き摺り下ろすためのものであり、倒すためのものではないということ。

倒すにはOFA、もしくは封印の文字が不可欠となる。

 

「オールマイトは知っているの?」

「正体については歴代志波烈堂のみが把握していますが、概要については根津校長やオールマイトなど複数人に」

 

実際、今この瞬間スターアンドストライプに存在そのものは開示しているしな。

この後、ぼちぼち雑談に移行して会談は終了間近となった。立ち上がって軽く挨拶してドアから外に出ようとして、振り向く。

 

「ああそうだ。最後に」

 

正直なところ、ここまでの会話はスターアンドストライプじゃなくてもよかった。No.2、あるいは政府高官や日本における公安委員会のような組織でもいい。

スターアンドストライプにこだわったのは、このわずかな時間、正式な会談が終わって別れるまでのこの瞬間が欲しかったから。

 

「これは、あくまで非公式の俺個人の推察にすぎませんが。死柄木弔は、自己認識が混濁している可能性が高いです。

 

ご参考までに」

 

これで、目的は全て果たした。

 

+++++

 

アメリカ政府が用意してくれたプライベートジェットで爆睡しながら数時間、日本に帰ってきたぜ。

スターアンドストライプとの顔つなぎができたのもよかった。少なくとも今回個性を封印したヴィランは全てスターアンドストライプが捕縛したヴィランであるので、その点も含めて爺ちゃんの外交手腕が唸ったということだろう。

 

「日本って醤油の匂いがするっていうけど本当なんだな」

 

そんなことを思いつつ、車で雄英高校まで送迎してもらう。やはり疲れているので最低限の報告を電話で済ませてから爆睡した。報告書は叩き台だけ作ってテン君に清書してもらおう。ズルだけど今回は許して欲しい。

 

 

「ただいまー」

「おかえりー!」

「うん、いまかゔぁっ!?」

 

えっ、目の前に緑谷出久がいる。しかも雄英高校の制服を着ている。

なんでさ。と思ってたら相澤先生に手招きされた。

 

「緑谷が昨日から雄英高校の一年A組寮で生活することになった。とはいえ、授業に組み込む……編入するのは来年からで、今年は寮生活をしつつ社会的なリハビリに励んでもらう」

「あー、エリちゃんみたいな。監視も兼ねてます?」

「そうだな。あとはオールマイトの関係で、雄英高校にいた方がいいとサー・ナイトアイから進言を受けた」

「ああ成程、あの人から…‥」

 

確かに緑谷久は海外赴任、緑谷引子は入院中だから、諸々の事情を鑑みれば雄英高校で生活を一手に引き受けるのは良い手段だ。OFAの継承などのこともあるし、敵連合と行動を共にしていた時期の事情聴取もやりやすいだろう。

考えたなあ。

 

……字家に対する、情報隠蔽の演習も兼ねてたなこれ。実際見事に、俺はこの重大情報の獲得に一手遅れたわけだ。

報連相体制、御当主様に怒られそうだなあ。

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