ヒロアカ世界に転生したは良いけど主人公不在らしいです。どうしろと!? 作:サブレ.
今日も今日とて授業である。
本日はバス移動した先にあるUSJ(ウソの災害や事故ルーム)にてレスキュー訓練である。
確か御当主様のご意向で、レスキューだけは心得ておけとヒーロー志望の有無を問わず高校生は必ず救命関連を覚えさせられるのが字家の慣例だ。
確か父さんと伯父が医者になったのもこの時の経験がきっかけのはず。
俺のコスチュームは特に行動を阻害したりはしないので、コスチュームに着替えてバスに乗った。バスの車内では、まだお互いに知らない個性の話で持ちきりになる。
いや、俺の個性は系譜からヒーロー出まくってるから既知なんだけどね。
騒がしい個性の話題を聞き流していたら、隣に座っていた轟君から唐突に話しかけられた。
「おい」
「わ。なんだ?」
「お前が、字家の次の志波烈堂か?」
「さあ。火のモヂカラが得意なのは確かだけど」
志波烈堂の名前、ひいては次期当主は火のモヂカラを扱えるものと決まっている。何故ならば、字家に初代当主が遺した特別な文字は火のモヂカラの系譜だからだ。
「火のモヂカラを扱える人なんて、俺以外にもいるしなあ。…………一人、殉職したけど」
「そうだったな……悪い」
「いいさ。気になるものは仕方ない」
火の個性といえば、エンデヴァー。エンデヴァーといえば公式で地獄などと形容される捻れ傷つけ合いもはや修復不可能となった家庭環境。
俺が一族のごたごたをめんどくさいと思いつつ悪くない、むしろ良い環境だと判断してるのは、轟家よりマシだろ!みたいな部分があるからだ。
勝手に自分の環境に納得するためのダシに使った罪悪感もあるので、こちらも多少探られても怒ることはできない。
一方的に家庭環境知ってるのはプライバシー的に、な。
「轟君も、跡を継ぐなんて話は他人事じゃないだろ」
「俺は、あいつと同じ個性は使わない。お前はどうなんだ」
「さあ。少なくともモヂカラについては忌避してないが、将来どうなるのかは、な。御当主様が何を考えていらっしゃるのか」
そんな話をしていたらバスが会場に到着したので、自然とお開きになった。
個性にまつわる13号先生のお話を聞いていた。人命のためにどう個性を使っていくのか、というスピーチを心に刻み込み、さあこれから授業だ!というタイミング。
ずず、と空間が歪んで、侵入者が現れた。
「──!」
咄嗟に青山君に視線をやると、青山君は顔を真っ青にしながら唇を噛んで、微かに首を横に振った。少なくとも彼の意思ではない。御当主様と爺ちゃんは、間違いなく対応してくれたのだ。
では何故、ここに侵入できたのか、は俺が今考えることじゃない。
「一かたまりになって動くな!13号!生徒を守れ!」
「なんだありゃ?」
「入試のときみたいな」
「違うな、本物の“非常事態”だ」
俺の家みたく常に結界張れるわけじゃないしな、雄英高校。あれ結構モヂカラ使う。
で、向こうにいるのは死柄木弔……今はまだ発展途上の、のちの王。
「…………」
倒しときたいが、今の俺の刀主体の戦いだと崩壊させられて終わる。しかし、烈火大斬刀の取り扱いは爺ちゃんに怒られるくらいにまだまだひよっこだ。
13号に続いて避難のために移動しようとするも、一瞬の隙をついた敵に阻まれる。
やっぱこうなるよな、と思いつつそのままワープで水難ゾーンに飛ばされた。
僭越ながら平和の象徴オールマイトに息絶えていただきたい、ね。
それができたら苦労してねえよ、魔王も御当主様も。
+++++
個性:蛙の蛙吹君の手により、水の中に落とされた直後き陸地、正確には船の上へと投げ出された。
船の上には俺たち二人の他に峰田君がいて、孤立している訳ではないのが幸いだ。
「ありがとう助かった、蛙吹君」
「梅雨ちゃんと呼んで。しかし大変なことになったわね」
「筆は……ん、ある。俺は戦闘に関しちゃ問題なしと」
「なんでそんなに冷静なんだよォ!」
冷静に自分の状況を把握してたら、峰田君に突っ込まれた。腕を掴まれてぐいぐい引っ張られる。おちつけ。
「個性が割れてるのはごく一部。少なくとも俺は割れてるかもしれないけど、蛙吹君は割れてない」
「なんで分かるのかしら」
「俺のモヂカラは火の系譜だから、水に落とそうと思うのは合理的判断。逆に水辺こそ強さを発揮する蛙吹君を水辺に落とすのは不合理。
オールマイト、というか俺らを殺す算段くらいはあるだろうけど、冷静に対処すればなんとかなると思うぜ。
なにせこちら側の強みを把握されてない」
とりあえずやるべきは、この囲まれた状況を突破すること。原作だと緑谷がSMASHで大渦作ってもぎもぎで全部くっつけて倒したんだっけか。
念のため個性の紹介をお互いにして、簡単な作戦会議を終わらせる。渦の作り方は違えど作戦は原作と同じものを採用。
俺が懐から筆を取り出す。まずは刀を出した。それで水面に向かって書いた文字は『渦』。
書き終えた瞬間、水面に大渦が発生した。俺たちの乗ってる船を巻き込んで、ヴィランが中央に吸い込まれていく。
「俺たちの船まで壊すなよ!!!」
「デカ過ぎた……だから水系文字は苦手なんだ」
要特訓、と頭に刻みつける。ヴィランを峰田君のもぎもぎで一網打尽にした後、蛙吹君に引っ張られるような形で丘に上がることに成功した。
水辺に肩まで浸かって、先生の戦闘の邪魔にならないように様子を伺っていたが、脳無の登場により戦局が一変する。パワーじゃ抹消は敵わないということか。
「あれが脳無、ね」
「知ってるの?」
「噂程度には」
嘘は言ってない、爺ちゃんと叔母がさらっと注意喚起していたので覚えている。原作知識を抜いても、ある程度の基礎知識を持っているのは字家に生まれた特権のようなものだな。
さて、どんな改造をされているのか知らないが、俺はまるで死柄木の視界に入っていない。
これを活かさない手はないだろう。
刀に対して『大』の文字を書く。ただの刀が二メートルを超える巨大刀へと変化した。
「なんだそれ!」
「烈火大斬刀大筒モード・舵木五輪弾」
膝をついて、体の半分以上を水の中に沈めながら肘をつき烈火大斬刀を固定、照準を相澤先生を拘束している脳無に合わせた。
「蛙吹君、俺はこれから相澤先生を助けるためにあの脳無を撃つ。その後ヴィランの狙いは俺に向く可能性が高い。峰田君を連れて避難してくれ」
「いいえ、私も残るわ。撃った後に私が字ちゃんを連れて逃げれば、助かる可能性は上がるもの」
「ありがとう。蛙吹君は念のため水の中に潜っていてくれ」
会話をしながらも狙いは一点に集中させる。しかし、死柄木は俺が脳無を狙っていることに気付いたようだ。
「やべえよ、気付かれてる!」
「問題ない」
死柄木の個性は発動型、つまり抹消の効果が及ぶ。目の前に死柄木が接近しても、弾道を塞がれてる訳ではない。相澤先生を拘束し続けるなら脳無も簡単には移動できない。
「それじゃあ、平和の象徴としての矜持を少しばかり、へし折って帰ろうか」
相澤先生ならば、何を置いてでも
顔は、崩れない。
「成敗!」
敢えて踏ん張ることはせず、五輪弾が発射される反動を使いそのまま後ろに吹き飛ばされることで死柄木から距離を取った。そのまま、蛙吹君に回収される。
「重いわね」
「ああ悪い、消す」
烈火大斬刀を消して、脳無の様子を伺った。脳無は明らかに俺を標的に移して、しかし明らかに動きが遅い。無事に着弾したらしいが、五輪弾で倒れないってやっぱヤバいな脳無。
そして、それと同時に。USJの出入り口である自動ドアが吹き飛んだ。
「もう大丈夫!私が来た!」
「!?オールマイト……!」
待て、何かおかしい気がする。烈火大斬刀なんて大物出したせいか、火の気配に敏感になってるのかもしれない。
オールマイトと脳無の戦いを、消して見逃す部分がないように目を細めて観察する。周囲はオールマイトの強さに大盛り上がりしているが、周囲とは反対に、俺の背筋は凍りついたように冷えていた。
脳無がぶちのめされ、教師陣の増援も到着したためか、死柄木と黒霧は撤退を選んだようだ。
「今回は、失敗だったか……まあいい。お前の時代はいずれ終わる」
終わらせる、ではなく、終わる。
「いつかまた会おうか、志波の侍」
視線が俺に向く。
そうして、襲撃の主犯である死柄木と黒霧は去っていった。ふぅ、と直近の安堵のあまりため息をついた。
しかし、考えることは山ほどある。後で御当主様に手紙の一つでもしたためなければなるまい。
あの脳無には俺が舵木五輪弾を撃ち込んでいて多少弱体化している。なので原作よりオールマイトは楽に脳無を倒せたはずだ。
にも関わらず、オールマイトが出したパンチの数は……音からの概算だが、150は超えていた。
全盛期なら5発で事足りたはずなのに。
その翌日、俺は本邸に呼び出されていた。扉の向こうから発せられる抜き身の刃を喉元に突きつけられているような空気に気を引き締めつつ、応接室となっている部屋の引き戸を開ける。
この部屋はモヂカラを扱える者の密談の場所なので、御当主様の執事や使用人は入れないようになっている。よって、自分で戸を開いた。
「御当主様、字真墨、罷り越して御座います」
楽にせよ、と言われて顔を上げる。洋風の応接室の中央のテーブルには緑茶と高級羊羹が置いてある。背筋を伸ばしつつ、密談というよりは曽祖父と曽孫の距離感を意識してお茶を一口。
あ、美味い。
「先日のUSJ襲撃の話は聞いている。オールマイトの件だったか」
「はい」
「オールマイト……八木俊典は、あの力を聖火に例えている。それなりに本質を得た例えだ。火のモヂカラを扱う者は、ある程度OFAの個性の存在を感じ取れるものだ。
聞こう。あの日あの場所で、お前はオールマイトの何を感じ不安を抱いた」
「御当主様、恐れながら申し上げます。オールマイト、八木俊典の保有するOFAの力は……現在、減少を始めているのではありませんか?」
そう、あの日実際に見たオールマイトの力は全盛期より確実に弱かった。
まるで、原作通りにOFAが継承されたかのように。
ふむ、と御当主様が立派な顎ひげを撫でた。
「やはりたどり着いたか」
「原因の程は」
「突き止めておらん。しかし当てはある。そしてオールマイトの弱体化が始まった今、OFAとは全く別の魔王と戦う手段を実用化する必要性は極めて高くなった。心せよ、真墨」
「はっ!」
原因不明、ね。少なくとも原作通り、オールマイトが完全に残火を使い果たす可能性も視野に入れなくてはならないときた。
一度御当主様の御前を失礼して、あてがわれた客間の和室で腰を落ち着ける。
さて、御当主様の言葉からは推測できる可能性は二つ。
一つ目、御当主様にも内緒でオールマイトが後継者にOFAを託している。
二つ目、まじで原因不明。
「さて、どっちかねえ」
どちらにせよ、俺も他人事ではいられないだろうけど。