ヒロアカ世界に転生したは良いけど主人公不在らしいです。どうしろと!?   作:サブレ.

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第八話

脳無が三体だったか、これはひどい。刀を肩に担ぎながら、路地裏を中心に駆け回りつつグラントリノを探す。

脳無がいた、そしてヒーロー殺しが直近で活動していたのは、保洲市。

原作でもたしかステインと死柄木が接触していたのがこの頃。脳無がいることを見ても、この原作知識はそのまま適応されると判断していいだろう。

 

「しっかし、まあ……」

 

脳無の使い方が上手い。一番弱いのは群衆の中に放ち、強いのはヒーローにぶつける。そして本命のヒーロー殺しは路地裏。ヒーローは完全に後手に回ってんなこれ。

うち一体は既に倒されてるのが幸いか。

飯田君のことを探しながらも、肩に乗せた獅子折神は何処かをじっと見つめている。その視線の先が脳無にないことは最低限確認した。

 

「グラントリノと合流……する暇がない」

 

刀だけ携えて騒ぎを中心とした周囲の路地裏をとにかく探し回っていたら、見つけた。飯田君とステインと、倒れてるヒーロー!

場所が狭すぎて烈火大斬刀は使えない。そのまま刀身に火の力を纏わせる。片手で刀を取り扱いつつも、スマホで最低限の連絡を済ませた。

位置情報の一括送信。これでとりあえず、最低限の原作メンバーが揃った。

あとは、なるようになるしかない。

 

「火炎の舞!」

 

そのまま、刀自体をぶん投げてステインと飯田君及び倒れてるヒーローの間に割って入ることで、とりあえず適とヒーロー側の分断に成功した。

 

「助けに来たぜ、有精卵ですまないが大丈夫か!?飯田君は動けるか、プロの応援が要る。人目のある場所に!」

「身体を動かせない……!斬りつけられてから、おそらく奴の個性……!」

 

そういやあったなあ、そういう個性!ぶっちゃけステインの印象、オールマイトガンギマリ厄介ファンが強すぎて他が割と霞むんだわ!

流石に二人同時に抱えて守り切る自信はない。悠長に文字を書いてたら当然、ステインにやられる。

USJにおける雑魚敵ともまた違う。これが“本物”のヴィランか。どれだけ本気で訓練しても所詮は味方同士である稽古では決して得られない感覚だ。

 

「君には関係ないだろう、手を出すな!」

「何悠長なこと言ってんだ?助けにくる人間が全員親類縁者やお友達な訳ないだろ」

 

地面に刺さっていた剣を抜いて、二人を背にして構える。ステインは油断なくこちらを見据えている。

USJ襲撃犯とは天と地ほど差がある。あの時ほど楽にはいかないだろう。

 

「助けに来た、いい台詞じゃないか。だが俺はこいつらを殺す義務がある」

「奇遇だな。俺も三代目志波烈堂として人を助けこの世を守る義務がある」

「ぶつかり合えば当然、弱い方が淘汰される訳だが」

「結果として負けようと、人を守るという目的が達成されればそれでいい」

 

誰か一人が傷つくのなら、ヒーローであるべきだ。ヒーローとは貧乏籤を引くのが役割であるのだから。

視線が交差した、次の瞬間。

先に踏み出してきたのはステインの方だった。

 

 

長物を武器とする同士、狭い路地裏に刃と刃がぶつかり合う甲高い硬質な音が響き渡る。時折鍔迫り合いになり、時に火花さえ散る剣撃は、見るものが見れば一つの殺陣のように美しいに違いない。

が、不利なのはこちらだ。まず俺は巻き込んでしまわないよう大きな炎も烈火大斬刀も使えないし、少しでも擦り傷を負えば動きを止められる。何より背中に動けない人を守っているので、血を舐められるのは避けても投げナイフダメージがそこそこ溜まってきた。

が、そろそろだな。あえて大きな隙を作ってステインの動きを限定させた瞬間、俺が作った物ではない大きな炎がステインを襲った。

 

「あっつ……さすがだな、轟君」

「字……いや、真墨。こういうのはもっと詳しく書くべきだ。遅くなっちまっただろ」

「応援は?」

「あと数分もすればプロも現着する」

「さっすがあ」

 

会話しながら、轟君が動けない二人をさらにステインから遠ざけてくれた。これで多少動きやすくなった。しかしその過程で、轟君もそれなりに傷を負ったけど。

 

「腕は無事か」

「致命傷には至ってない」

 

腕にナイフが刺さってるってことは、ステインから得物を奪ったということでもある。そんな訳で回収させないためにも刺されっぱなしにしているのだが、見た目は悪いな。

が、動くにも邪魔なので抜いて背後に放り投げた。からん、とナイフが道路に落ちる。

 

「真墨は担ぎながら逃げるのも厳しそうだな」

「二人揃って血を流しすぎたな。後方支援頼む、打ち合いは俺がやる」

「危ない橋だが、それしかねえか」

「あ、そだ。飯田君」

 

背中を向けたまま、飯田君に語りかける。少しでも何かのきっかけになればいいが。

 

「偉大な名を継ぐって大変だよな」

「どれだけ言葉を尽くそうと無駄だ。そいつは私欲を優先させる偽物にしかならない!英雄を歪ませる社会のガンだ、誰かが正さねばならないんだ」

「時代錯誤の原理主義者だ。飯田、人殺しの理屈に耳を貸すな」

「偽物が愚かだと誰が決めた。偽物が本物に劣っていると誰が証明した。

偽物が、本物を成し遂げられないだなんて、馬鹿な話があってたまるか」

 

轟君と俺、それぞれの視点からステインの言葉を否定する。オールマイトの光を見た以上、本物の英雄が存在することは決して否定しない、できないけどな。

 

 

 

飯田君の活躍もありなんとかステインを倒した。その直後にプロが現着したので代表して轟君がステインを引き渡して、終了。

獅子折神は、俺たちがステインと戦っている間に挙動が元に戻っていた。たぶん索敵範囲内から索敵対象が居なくなったんだと思う。

 

 

俺たちは速やかに保須総合病院に搬送されてそのまま入院生活となった。同クラス同性だしいいでしょ、と言わんばかりに四人部屋に三人入れられる。

 

「いやー、すごい経験したな。格が違った」

「あんだけ殺意向けられてなお立ち向かったお前はすげえよ」

 

お揃いの入院着で駄弁ってたら、保須警察署長さんと俺たちの面倒を見てるグラントリノとマニュアルの三人が顔を出した。

……本当に三人かこれ。

 

「君たちがヒーロー殺しを仕留めた雄英生徒だワンね」

「はあ、まあ」

 

保須警察署長から語られたステインの現在の状況と、法律やルールに照らし合わせた俺たちの処遇について。提案という形だがほぼ決定事項として語られたのは、全部エンデヴァーの功績にして、俺たちの戦闘は無かったことにしようぜ!というもの。

まあ要するに握り潰すという訳だ。諸々を鑑みたらそっちの方がいい。

飯田君も頭を下げて反省したので、これで話はひと段落した。

……あのさあ。

 

「……あの、一つよろしいでしょうか」

「なんだワン」

「ここにいる大人、もう一人いますよね」

「そうなのか?」

 

轟君が首を傾げた瞬間、かろん、とほんのわずかにリノリウムの床を蹴る音がした。気配の正体に思い至り、即座に座っていたベッドを滑り降りて跪く体制に入る、寸前。

 

「よい。今回はただの見舞いだ、楽にせよ」

 

空間を支配するほどの威厳ある声が病室全体に響いた。百戦錬磨のグラントリノや人の上に立つことに慣れた警察署長でさえ一瞬で緊張状態になる。

飯田君と轟君は、一方に視線を向けたまま動けなくなっている。ここにいる中でこの空気を打ち破れるのは俺くらいだ。頭痛がしてきた。

 

「楽にせよ、と仰るのなら先程までのように気配を擬態させていただけませんかね……御当主様」

 

ひょこりと、一見好好爺のような表情で、しかし存在感は保ったまま。

御当主様が姿を見せた。

 

+++++

 

御当主様はマジのガチで見舞いに来ただけらしい。「己の後継の様子を見に来て何が悪い」と言ってたけど、せめて朱里様くらい柔らかくなっていただけませんかね。

お見舞いの品の羊羹は一番高いやつだった。

ちなみに大人三人は帰った、というか逃げた。

 

「呵呵、この者がお前の級友か」

「はい、とても良くしていただいております」

「飯田天哉です」

「轟焦凍です」

「ほう、インゲニウムの弟にエンデヴァーの息子か……確かに、中々どうして良い目をしているではないか」

 

その言葉に、飯田君は少し嬉しそうな表情になり、轟君は複雑そうに目を逸らした。二人とも有名ヒーローの血縁者だけど向けてる感情は真逆だしなあ。

そんな様子を察してか、御当主様が過去を思い返すように顎髭を撫でた。

 

「エンデヴァーは、あれでいて中々の問題児……馬鹿者であってな」

「あの、御当主様。もう少しオブラートに包んでいただけませんか。御子息が目の前におります」

「教え子を素直に評価して何が悪い」

「親父が教え子……?」

「過去に雄英で教鞭を取っていた時代があってな。轟炎司は教え子の一人よ」

「初耳です、御当主様」

「視野が狭くなりがちで頑固な男であった。良き方向に転がることもあったものの……そう、上手くは行かなかったようだな」

 

御当主様は轟君に向き直ると、深々と頭を下げた。御当主様はヒーロー社会におけるレジェンドの一人、そんな人に頭を下げられて、轟君がわかりやすく狼狽する。

 

「今となっては前線を退いた一介の老骨に過ぎぬが……真墨より話は聞いた。苦労したようだな、救けてやれず、すまなかった」

「……アンタには関係ないだろ」

「関係なくとも救うのがヒーローの務めよ。炎司に灸をすえるには、少し遅くなり過ぎたようだ」

 

御当主様が頭を上げた。俺に向けているいつもの威圧感ではなく、柔らかな老人の雰囲気を纏っている。

できるなら普段からこんな感じでいて欲しいんだけど。

 

「長く生きたなりに知恵も力もある。今更かも知れぬが、炎司のことで苦労があれば頼りなさい、力になろう」

「ありがとう、ございます」

 

御当主様の用件はそれだったらしく、名刺を轟君と飯田君に渡して帰って行った。

ペットボトルのお茶を飲みつつ、羊羹を取り出す。我ら食べ盛り、おやつはいくらでも胃袋に入るのだ。

 

「雄英高校の教師だった時期があるとは聞いていたが……」

「あーあの、仮免試験とかである雄英潰しの元凶な」

「そうなのか?」

「あの人、そもそもヒーロー免許における試験内容の骨子作った人だから。そういう人が教鞭取ってる雄英高校有利じゃん潰そうぜっていう風潮の大元だよあの人」

「改めてすごい人だな……」

「ヒーロー制度できる前の時代の自警団出身者だからな……」

 

この時代に老人を見たら生き残りと思え、をガチで体現してるからな。

おっかねえ人だよ。

 




筆者「路地裏組がサラブレッド組になってしまった」
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