ヒロアカ世界に転生したは良いけど主人公不在らしいです。どうしろと!? 作:サブレ.
ベストジーニストを選んで苛立ってるかっちゃんからの返信メッセージにそっとエールを送っておいた。あの人から学べることってめちゃくちゃ沢山あるから、良い選択肢だと思うんだけどなあ。
ちなみに俺は退院後、再び訓練と鍛錬と職場体験、ではなく。
保須市全域が描かれた大きな白地図を床に広げて、グラントリノと向かい合っていた。手元には数色のサインペンと、百均で買ってきた将棋やチェスの駒。
「獅子折神が反応したのは新幹線の中だな?」
「正確には外、です。グラントリノが外へ飛び出した直後、俺もまた新幹線の外に降り立ちました。反応があったのはその時です」
「座ってろって言ったはずなんだがなあ……時間は?」
「正直時間までは……いや、ちょっと待ってください。おそらくSNSの投稿を探せば……あった」
最初に立っていた時間と場所、方角なんかを書き出していく。そのまま俺の辿った場所にマルを付けて、将棋の駒で獅子折神が当時向いていた方向を示していく。
「獅子折神が探知したOFAの力、動いてるな」
「極端なスピードでこそありませんが。目撃者は」
「あの騒動で殆どがヒーロー殺しか脳無に向いていてなぁ。ヒーローや警察もそっちにかかりきりだ」
「俺がヒーロー殺しではなく獅子折神の反応を優先していれば、もう少し詳しい情報もあったのですが」
「いや、あの騒ぎじゃどっちみち反応は追えなかった」
路地裏での交戦から再び獅子折神の反応を確認するまでの数分で、探知したOFAの力は獅子折神の探知圏外へと移動した。
この時間が鍵になるかも知れない。
「特異な出来事はありますか?」
「倒した脳無のうち、ヒーローが交戦を名乗り出たのが二体。一体は“誰が倒したか分からない”」
「……!その脳無について詳しく教えてもらうことは」
「ちょっと待ってろ、写真をもらってきててな……どこだったか」
グラントリノがガサゴソと鞄の中を漁る。そして取り出してきた写真は、翼のあるタイプの脳無だった。USJで見た個体とはだいぶ違うな。
なんだろう、この脳無、覚えがある気がする。なんでだっけ?
しかし気になるのは既視感の方じゃなかった。
「随分と綺麗な死に方の脳無ですね」
「ああ、俺も警察の鑑識も同じ意見だ。瞼が閉じてあるし、手も組まれている」
「花まで添えてありますしね。ここまで丁寧に取り扱って、ヒーローや警察に通報の一つもしないなんて歪な話です」
眠るような体勢の脳無に、添えられた野花。葬送の言葉が相応しいように思える。
「この脳無の死体があった場所は」
「ここだ」
「戦闘の形跡は」
「この辺りだな」
青いペンでグラントリノによって書き込まれた場所。そこに俺が赤いペンで、獅子折神が向いていた方向の索敵範囲を書き込んでいく。
「重なりますね」
「重なるな」
つまり、この脳無を葬送した何者かが、OFAの持ち主である可能性が高いということ。
原作知識持ちの俺としては、真っ先に思い至るのは緑谷出久。しかし俺の推測が合っていたとして、どうしてどうやってOFAを手に入れたのかという疑問は付き纏い続ける。
それに、緑谷出久は何年も前に行方不明になった、今では死亡認定も可能となった子供だ。
理屈抜きにして、緑谷出久を可能性に上げることはできない。
「とにかく。OFAの力がこの保須市にいた可能性は高いな。それだけでも収穫だ」
これ以上二人で練っていても思考の堂々巡り。グラントリノが色々と書き込まれた白地図をしまうのを見ながら、俺もペンを片付けつつ思考する。
理屈で緑谷出久を捜査上に浮上させることは不可能。
ならば、理屈以外で緑谷出久に関して動くやつに助力を乞うべきだ。
「頼むぜ、かっちゃん」
職場体験終了。
久々にみんなと再会した気がした。いやー、CMに出た人がいたり、セルフ反省会してる人がいたり、様々。
俺の肩にはサポートアイテムということで獅子折神が乗っている。もちろん食いつかれた。
「何それー!」
「職場体験の時に合わせて御当主様の指導のもと作ったサポートアイテム!」
「自作!?すごいね!」
「わっ、めっちゃかわいい」
正確にはオールマイトをダシにサー・ナイトアイとグラントリノと二代目志波烈堂とベストジーニストの名前を並べて相澤先生に“お願いした”。OFAの探知は急務であるがゆえだ。
圧力って怖いね。ごめんなさい相澤先生。
「名前は?」
「獅子折神。でも御当主様と朱里様も同じの持ってるから固有の名前ってわけじゃないかな」
「じゃあさ、切島に名前つけてもらえば?」
「俺ぇ!?」
「なんで切島?」
「似てるじゃん」
「うん……?」
折神を見る。火のモヂカラを使っているだけあって、赤い。
赤→レッド。
獅子→ライオン→ライオット。
切島のヒーロー名、レッドライオット。
「……なるほど?」
「じゃあこの子の名前、エージ?」
「いいんじゃない?エージ」
「エージ、よろしくな〜」
「俺が兄貴だからな、エージ!」
なんか名前が決まってしまった……いや別に良いんだけど。
わちゃわちゃしてたら、髪の毛が七三分で固定されたかっちゃんが覗き込んできた。うけるなその髪型。
「あ?コイツ、ジーパンの事務所にいた奴じゃねえか」
「えっ、そうなの?」
「朱里様のところの子だと思うけど」
「なんで朱里様?の所の獅子折神がベストジーニストの事務所にいるんだよ」
「だってベストジーニストと朱里様、夫婦だから」
直後、割とデカめの叫び声が教室に響いた。
別に誰と誰が結婚しようと自由だろうに。
+++++
今日の訓練は救助訓練レース。これはサクッと終わらせた。一度保須市の中を全力で駆け回ったおかげか、周囲の視界がより広く持てているような気がする。
森の中で駆け回ることはあっても、こういう都市部を駆け回れることは訓練とかでもない限りできないから、学ぶところは多い。
そして、訓練終了後。俺とかっちゃんは二人きりで密会していた。
「デクが生きてる……?」
「可能性があるかもしれない、と俺個人が踏んでるってだけ。ぶっちゃけプロヒーローとか警察はまず動かない。それくらい確信が弱い。つーか証拠がない」
「いや……テメェはなんでかは知らんけど、最初っからデクが死んでないって思ってたよな」
「そうか?」
やべえ、ばれてら。
流石に原作、漫画の主人公だから何かしら生きてるような気がする、とは言えない。だから事実を織り交ぜつつ、嘘は言わずにかっちゃんを答えるしかない。
「そう思った理由はあんのかよ」
「守秘義務の関係だな。口外しないよう厳命されてる。ただ、気休めで言ってるんじゃないってのは信じてほしい。俺なりの判断基準を踏まえた上で伝えてるんだ」
「そうかよ。場所は、保須か?」
「ああ。ヒーロー殺しやら脳無やらで証拠得るどころじゃなかった」
正確には脳無の死に方を見て感触を掴んだ、みたいな感じだけどな。
かっちゃんはギュッと目をつぶってしばらく考え込んでいたが、やがて俺を睨みつけるように視界に入れた。
「家族にはもう言ってんのか?」
「緑谷出久の家族にも、御当主様にも、俺の家族にも誰にも伝えてない。かっちゃんだけだ」
「誰にも言うな。特にデクの家族……母親には」
「分かってる」
緑谷出久の母親は、どれだけ憔悴しているのだろう。きっと、親でもなんでもない俺には想像の及ばないことだ。
それを、かっちゃんは目の前で見てきたのだろうと、察するのは簡単だった。
「近いな、期末テスト」
「……ああ。もう、誰にも負けねえ」
「負けたのか、かっちゃんが」
「俺ァあの日もうとっくに、デクに……出久に負けてんだよ」
……そうか。
それが君の、最初の挫折か。
口には出さず、視線も向けず。教室に戻るために二人並んで歩き出す。
緑谷出久のことは、その日はそれ以上話題に上らなかった。
三連休どこまで進めるか分からないので、頑張れるよう、応援をください(強欲)