皇帝と呼ばれるドイツ人のラインハルト様 作:ロシデレは良い
1年A組
1年A組ここが、ラインハルトと良世の二人が、この学舎で所属するクラスである。
唯一、ヒルデだけは隣のB組であるが、ホームルームが始まる10分前までは、ラインハルトと良世と話すのが日課である為、このクラスに入った。
そして三人が教室のドアを開けて、ガラガラと言う教室の引き戸を開ける音がし、部屋に入ろうとしたその瞬間。
「あっ!ラインハルト様!」
「カイザー、良世君、ヒルデさん、グーテン・モルゲン!」
「グーテン・モルゲン!マイン・カイザー!あっ、あと良世君と、妹ちゃん!」
先ほどまでクラスメイト同士で談笑していた、教室の生徒達が一斉にラインハルトの方を向き、まるで士官学校の生徒の様に、皆一斉にラインハルトに敬礼した。
「Guten Morgenみんな。朝から元気な様で何よりだ」
「おはよう」
「みんな、Guten Morgen」
これも生まれついての帝王のなせる技か、見ての通りこの教室は、一学期が始まってから1ヶ月も経たないうちに完全にラインハルトに掌握されていた。
そして、A組生徒と言う名前の、自分の臣民たちに、皇帝であるラインハルトは微笑み、そう述べると敬礼で返し。
学園の皇帝の片腕の地位を確立している良世は、少し呆れた様子で無愛想に一言
そして、親愛なる皇帝陛下の妹君であるヒルデは、にこやかに笑いながら、普通の女子高生ぽく手を振った。
「ははは、今日も朝から賑やかだったねー」
そしてヒルデは、窓際のラインハルトの席の近くの窓に寄りかかると、面白い物でも見たと言いたい様な様子でそう言った。
「賑やか?騒がしいの間違えだろ、全く、先ほどの安藤先輩のあの格好にせよ、少し風紀が緩み始めるのでは無いか?」
一方の良世は、ラインハルトの席の前の自分の席に座ると、疲れた様にそう呟き、徐に鞄から本を取り出した。
「そうだな…まぁ、服装のチェックは、我々保安委員会の管轄外だが、一応放課後に生徒会に一言言っておこう。まぁ、しかし取り締まるだけでは、生徒達の反感を買ってしまう。緩めても問題なさそうな校則や変えるべき慣習は変え、常に進歩をしなくては…ついては、今生徒会が進めている夏服の導入には、我々保安委員会も後押しをしてみるか」
「それ賛成!この制服も、デザイン的には良いんだけど、流石に夏に長袖は地獄だからねー」
そして、我らが学園の皇帝ラインハルトは、先ほどの校門での出来事を思い出し、少し笑うと同時に、真面目そうにそう呟いた。
因みに、ラインハルトが述べた保安委員会…正式名称は、学生保安委員会と呼ばれる、この聞き慣れない組織は、一年前の中学三年時、転校して来たばかりのラインハルトと、この組織を立ち上げようと邁進していたとある高校二年生とが協力し、学校の理事会に直談判するなどの、熱心な活動を通じて創設した、この学園だけに存在する全く新しい委員会である。
その職責は、学園の治安維持と規律の維持と言う、風紀委員と類似しているが、風紀委員が服装の乱れや風紀の乱れなどを戒めるなどの、細かい事をチェックし取り締まる事を担当する一方で、保安委員会の職責は、中等部及び高等部を含めた、学園全体でのイジメや度が過ぎた非行、さらには部費のちょろまかしを筆頭とした部活動などの生徒が行う活動の不正や腐敗に関して、生徒の視線から情報収集や捜査を行い、取り締まる事を目的とした組織である。
そして、それらの職務を遂行するため、学校側から、生徒や部活動に対する調査権や、違反者の査問と退学や停学勧告権なども、幾つか制約はあるものの与えられており、日本の公的な機関で例えるなら風紀委員が警察だとすれば、この保安委員会は公安や内閣情報調査室のような組織に仕上がっている。
そして、そんな強い権限を持っている委員会の委員長にラインハルトは、前任の委員長から名指しで後継に指名され、委員長職を継いでいた。
本来高校一年、しかも中3からの途中編入という経歴のラインハルトが、新設とは言え、委員会の委員長と言うのは異例中の異例であり、ラインハルト自身も、共に創設に関わった前任の委員長の事は珍しく尊敬していた為、少しだけその決定に難色を示したが、前任からどうしてもと強く推され、そして他のメンバーもほぼほぼ満場一致でラインハルトの委員長就任を歓迎した為、その職責に就く事となった。
そして、もちろん妹のヒルデも委員会に所属しており、副委員長兼保安委員会生徒監査局と名付けられたその中でイジメや非行などの生徒間での問題を調査する部署のリーダーを務めている。
「しかし相変わらず、ヨーゼフ君は真面目だね〜保安委員の私達より委員ぽいよ。どう?そろそろ一緒に…」
「断る、俺は演出や舞台脚本を考えるのは得意だが、捜査などの仕事は専門外だ。それと、良い加減俺をメガネくんだの、ヨーゼフだの、変なあだ名で呼ぶのはやめろ。俺は、"よしつぐ"だ。何だヨーゼフとは?俺は、アルプスの少女の飼っている犬では無いぞ」
そして、そんな強い権限を持ち始めた委員会の副委員長であるヒルデは、揶揄う様に良世に、自分達の委員会に入らないかと誘ったが、良世はすでに放送委員会と演劇部に所属しており、そんな暇はなかった。
因みに、ヨーゼフと言うのは、ヒルデがよく良世に話しかける時に使う、メガネ君に並ぶあだ名である。
本来、良世の名前は"よしつぐ“と読むがある時ヒルデが、彼の名前の漢字が"よいせ"とも読める事から、その言葉をドイツ語にもじって、ヨーゼフと冗談混じりに呼ぶ事があった。
しかし
「ヒルデ、その辺にしておけ。良世は、冗談が嫌いなんだ。他人の好かない事をやるのは、あまり褒められた事じゃ無いぞ」
ラインハルトが述べた様に、良世は冗談が嫌いで有名であり、その為、そこまで良い気持ちにはなれてなかった。
「はーい、もー相変わらず冗談が通じないんだから」
「仕方ないだろ、これが俺なのだからな」
「…Das stimmt sicherlich」
無愛想にそう言う良世に、ヒルデは、ドイツ語で“確かにそうだ"と、メガネをかけた堅物を見て、少し笑いそう言った。
「おっと、そろそろ時間じゃないか?」
そうしている間にも、ホームルームが始まるまで後11分になった。
「もう始まりか…やれやれ、今日もしばらく兄様に会えなくなるのか…Ich fühle mich einsam…」
周知の事実だが、ヒルデはブラコンである。
その為、隣とはいえ、別のクラスのため、しばらく会えなくなる事に対して、からかい半分本心半分で、寂しいとドイツ語で言った。
すると
「Sie ist meine kleine Schwester, die ich überhaupt nicht alleine lassen kann ... Ich möchte, dass du mit mir zu Mittag isst, also muntere mich auf.」
<全く放っておけない妹だ…昼ご飯は一緒に食べるよう、だから元気を出せ>
「Wirklich?」
<本当?>
「Ja」
<あぁ>
そして、ラインハルトはその寂しそうな様子のヒルデを元気付けようと、そうドイツ語でそう言った。
「Das ist ein Versprechen, mein Bruder.」
<約束だよ兄様>
するとヒルデは、たちまち水を得た魚のように元気になり、そう言いながら、ウッキウキで走り去って行った。
「Gib heute dein Bestes, Hilde」
<今日も頑張れよヒルデ>
そしてそんなヒルデの背中を、ラインハルトは笑顔見送った。
1週間のうち3〜4回は行われる、この茶番であるが、最後にヒルデを見送るその瞬間だけ、ラインハルトの顔は、学園の皇帝ではなく、単なるヒルデの兄であるラインハルトの顔になる。
「相変わらず、シスコンの皇帝陛下だな…」
いつもの鋭く覇気に満ちた顔と比べれば、なんとも柔な笑みをたまに向けるラインハルトに、良世はそう言った。
「悪いか?」
「いいや」
そして、その問いに対して、そう返してきたラインハルトに、良世もまた、堅物とは思えない、わずかな笑みを浮かべ言った。
1年B組
「おっはよー!」
「ヒルデさん、おはよう」
「おぉ、ヒルデ姫今日も元気だなー」
「おはよー清宮君、丸山君、おやおや丸山君は、今日もモテてないようだね〜」
「うるせー!!モテてないのは余計だ!!」
「あははは」
教室に入り、元気いっぱいに挨拶したヒルデに、最初に挨拶して来た男子生徒の清宮光瑠と丸山毅にそう挨拶すると同時に、いつもモテないと発作のように時々嘆き始める丸山を揶揄うようにそう言った。
「バカじゃないの?」
「フッ…バカか。そうだな、時と場所をわきまえずに作品への愛を語ること…それをバカと言うなら確かにそうなのかもしれないな」
「ごめんなさい、救いようがないバカだったみたいね」
「アーリャさんは今日も絶好調っすね…」
すると、教室の奥の席から、孤高のお姫様のアーリャが、右隣に座る容姿は整っているが少し冴えなさそうな男子…久世政近に対して、何やらなじっていた。
「おっはよう、アーリャちゃん政近君、今日も朝からアツアツで何よりだね〜」
その光景を見たヒルデはニヤニヤと笑いながら、アーリャと政近の二人にそう言った。
「てっ!!別にそんなんじゃねぇよヒルデ!」
「そそそそうよ!た、ただ久世君が夜更かしして眠いとか言っていたから注意しただけで!べ別にそんなんじゃ!」
「あーそうなんだーへー」
二人は慌てた様子で否定したが、その姿に、ヒルデはまるで子猫同士の喧嘩を見て面白がる様にそう言った。
「まぁ、でも夜更かししちゃうのも分かるよ〜政近君。昨日の深夜アニメ、私も見たからね」
「おっ、まじか!さすがアニ研部長のヒルデだな!」
だがすぐに、ヒルデがそう言うと政近は食いつく様にそう言った。
因みにヒルデは大のアニメオタクであり、好きがこうじて、アニメ研究会なる部活も立ち上げ、保安委員会の仕事の側、自分の趣味に興じている。
そしてその為、同じオタクである政近とは、クラスも同じことから、共通の趣味を持つ間からで仲も良かった。
その為、たまに学校でもアニメの感想を言い合うのだが
「いやーぜひ感想を話し合いたい…所だけど…」
今日は…と言うより、今日もと言うべきか、横目でアーリャの方を見ると、彼女は政近と仲良く話している自分に対して不満があるのか、プクーと頬を膨らませて、不満そうにこちらを見ていた。
「今はやめておこう。もうすぐ授業も始まる事だし」
「そうか…じゃあ、暇な時にでも感想会をしようぜ」
「忙しくなければ…だけどね」
その為、ヒルデはアーリャに気を使い話を打ち切り、自分の席である、アーリャの前の席に座った。
そして一限目の教科書とノート、そしてなぜか黒い革の手帳を出した。
「ふぁ…」
一方の政近は、愛も変わらず眠そうであり、大きなあくびをしていた。
すると
「Милашка」
「うっ!」
その姿を見たアーリャが、ぼそっとロシア語で呟き、その声を聞いた瞬間、政近は顔を赤くし、アーリャの方を向いた。
そしてヒルデはなぜか万年筆を取り出し、その黒皮の手帳にぺんを走らせた。
「何よ?」
「いや…何か言ったか?」
「別に?"みっともない"って言っただけよ」
「そりゃ失礼」
アーリャのその答えに政近はそう言った。
一方のヒルデは…
(ぷぷぷぷ…アーリャちゃんたら、政近君に可愛いって…可愛いのは君もだよ本当に…)
唇をギュッと閉ざし、笑いを堪えながら、そう心の中で思っていた。
実はヒルデにはアニメの他に好きなキャラのコスプレ、そして人には言えない秘密の趣味ともう一つ、秘密にしている趣味がある。
それはアーリャの政近に対するデレを中心に、彼女の恥ずかしい情報や弱点を記録する事である。
ヒルデは、ドイツ語しか出来ないと思われているが、実は、いつかドイツの情報機関で働く事を夢見ている為、全ヨーロッパ諸国の言葉を理解できるし、書けるし、喋れる。
その為、先程アーリャが政近に対してボソッと言った言葉の、本当の意味も理解していたのだ。
Милашка…ロシア語で可愛いと、そうアーリャは言っていた。
そして、アーリャは今回だけで無く、転校し、中3の文化祭終了後から、時々政近に対してロシア語でデレる事があった。
そしてロシア語が出来るヒルデは、その事を知ってから…
(⚪︎月某日早朝
アーリャちゃん、眠そうにあくびをする久世君に対してМилашка…ロシア語で可愛いと発言…
アンタも十分可愛いと、私は思った瞬間である)
こうして、自分の近くでデレた瞬間、その時の言葉、自分の感想を、克明に記録する事が趣味になっていた。
しかも
「ヒルデさん、何書いて…本当に何書いているの?」
ご丁寧に、その内容は、オランダ語、ポルトガル語、スペイン語、フランス語、ポーランド語と、ヨーロッパ各地の言語の単語をランダムに散りばめ、手帳の内容を暗号化してあり、スラングもふんだんに使う為、常人には理解不能にしてあった。
「この変なノート、いつも書いているね、楽しい?」
その問いにヒルデは、ニヤリと笑うと。
「Natürlich...ich kann nicht anders, als mich darauf zu freuen.」
<勿論…今から楽しみでしかたないよ>
ドイツ語で、そうボソッと言った。
実は、ヒルデがこの記録をつけているのは、単に可愛いアーリャのデレを記録するだけでは無い。
ヒルデは、いずれアーリャと政近の距離が急接近し、あと一押しで結ばれると言う絶妙なタイミングが来ると思っており、そのタイミングで。
ヒルデ「⚪︎月某日早朝
アーリャちゃん、眠そうにあくびをする久世君に対してМилашка…ロシア語で可愛いと発言…
アンタも十分可愛いと、私は思った瞬間である」
アーリャ「へっ…?」
ヒルデ「✖️月△日
アーリャちゃん、久世君に対してまたロシア語でデレる…その時の言葉は…」
ヒルデの脳内世界にはその時に、自分が今まで記録していた、アーリャの政近に対するロシア語でデレた瞬間の記録を淡々と読み上げる自分
そしてそれを聞き、まるで湯気がでそうなほどに真っ赤に顔を赤らめ、恥ずかしさのあまり目に涙を浮かべるアーリャの姿が浮かんでいた。
そしてニヤリと、サイコな笑みを浮かべ。
ヒルデ「Эй, одинокая принцесса Арья, я записал почти все моменты, когда ты тайно влюблялась в Масачика-куна! ! Что вы думаете? Вы смущены? Если тебе неловко, просто скажи это честно, хахахахаха.」
<どーだ、孤高のアーリャ姫さんよーアンタが今まで政近君に密かにデレていた瞬間は、ほぼ全部記録してあるのさー!!どうだ?恥ずかしいか?恥ずかしいなら恥ずかしいと、素直にそう言いたまえ、ハハハハハ>
「*:〆〆×→〆×÷〆々×・・〆〆**・00:=々€〆…キューン」
今までの会話は、全部筒抜けだったぜとでも宣言する様に、片手に例の手帳をちらつかせ、そしてロシア語でそう告げる自分の姿
それを聞いたアーリャが、もはや言葉にならない言葉を発し慌てふためき失神する、理想の未来の姿が目に浮かんでいた。
そしてそんな未来を実現する為…アーリャのそんな姿を見たい為に、ご丁寧にヒルデはこの手帳にデレた瞬間の記録をつけていた。
(ふふふ…赤らめて取り乱すアーリャちゃんの顔を考えると…ワクワク…)
そしてその瞬間を待ち遠しく思っているヒルデは、心の中でまるで某スパイ漫画に出てくる女の子の様な言葉を浮かべながらも、その瞬間の姿は目からはハイライトがなくなり、サイコパスな笑みを浮かべていた。
(まぁ、恨むなら…情報収集が特技で、人の弱みを握る事が大好きな、私と同じクラスになってしまったその不幸を呪うが良い、可愛い、可愛いFrau Arya)
そして、ヒルデはその時が来る事を楽しみに、今日も政近にデレるアーリャのロシア語を克明に記録していた。