皇帝と呼ばれるドイツ人のラインハルト様 作:ロシデレは良い
その夜
「よう、来たか」
政近の住むマンションに、二人の客が訪れていた。
「Guten Abend…政近」
「やっほー、政チー君」
学校の皇帝、ラインハルト・フォン・ライヒスブルクと、その妹のヒルデであった。
「我々が来た理由…分かっているな?」
そして挨拶の後、開口一番にラインハルトは、真剣な顔で政近にそう聞いた。
「例のアレだろ?ふっ、抜かりねぇよ…ラインハルトこそ、例のアレは…?」
「Ja、問題ない、約束の物は持って来た」
すると政近は自信満々の様子でそう言い、一方の何かを持って来る約束をしていたラインハルトも、そう言うと手に持っていた、ジュラルミンケースを見せた。
「よし、入れ…」
そして、互いに約束の物を用意していると確認すると、ラインハルトとヒルデの二人は、政近に招き入れられ、部屋に入った。
「約束の物は、これで良いか?」
そして部屋に入り、お茶をもらうと同時に、ラインハルトは大きめの箱が入った紙袋を、政近に渡された。
そして中身を確認すると…
「間違いない…マスターグレードサザビー…感謝するぞ、政近」
ラインハルトは、目を輝かせながら、紙袋の中に入っていた例のブツこと…機動戦士ガンダム逆襲のシャアに登場するモビルスーツ、型式番号MSN-04サザビーのマスターグレードのプラモデルを見た。
実はラインハルトは、学校では皇帝だの、生まれながら支配者だのと言われているが、その実ロボットアニメやSFアニメ好きのオタクと言う面があった。
特に、アニメ好きになったきっかけを作った、ドイツ空軍大佐の父の影響で、ガンダムシリーズや銀河英雄伝説などの少し古いアニメや、そのグッズであるプラモデルは大好きであり、クラシックスタイルな自室の棚には、普段自分が読んでいるゲーテやマキャベリ、またはビスマルクやフリードリヒ大王の伝記や著作などの、難しい本がぎっしり詰まっている本棚の横の棚には、ぎっしりと、プラモデルや好きなSF小説や漫画が置かれていると言う、光景が広がっていた。
そう言うこともあり、政近や妹のヒルデとは好きなアニメのベクトルは違うが、違うからこそ、互いに好きなアニメを教えあったりするなど、案外仲が良かった。
「あはは…兄様、子供みたいで可愛い」
「仕方がないだろヒルデ。発売日当日は、先のラグビー部の不祥事の査問会の為の資料作成があったのだからな。それにしても、近頃は転売ヤーなる、不届な輩共のお陰で、復刻版プラモデルも、すぐに手に入りづらくなる時代だからな…本当に、政近には感謝しか無い」
昂る気持ちをある程度抑えているとは言え、明らかに目を輝かせているラインハルトに、ヒルデは少し笑いながらそう言い、それに対してラインハルトは、感傷に浸る様子でそう言うと、政近に感謝の意を伝えた。
すると
「おう、感謝するなら例のやつをくれ」
今度はお前の番だと、言いたそうな様子で政近は、手を差し出した。
「勿論、用意してある」
そしてそう言うと、ラインハルトは先ほどのジェラルミンケースから、政近が所望する、例のブツを渡した。
「おぉ、これこれ!ツクヨミのフィギア!」
そのブツとは、政近がやっている携帯ゲームに登場するキャラ、ツクヨミのフィギアであった。
政近とラインハルト、互いに欲しいグッズがあったのだが、何の奇跡か、グッズの発売日当日は、それぞれ大事な予定が入っていた。
その為、政近はラインハルトが欲しいプラモデルを
ラインハルトは、政近が欲しがっているフィギアを、それぞれ用意し、今日互いに戦利品を交換すると言う事になっていたのだ。
「しかし…学校の皇帝様が、フィギアを買う為に、オタクの列に並ぶか…中々に見物な光景だっただろうな〜」
すると、ツクヨミのフィギアを受け取った政近は、このフィギュアを手に入れる為並ぶ、ラインハルト皇帝陛下の姿を思い浮かべ、揶揄うようにそう言った。
だが
「その点は心配は要らない。こんな事もあろうかと、俺の母の親戚の従者をしていた人を、日雇いで雇って、俺の代わりにフィギュア購入の列に並んでもらっていたからな。買い物はその人に任せて、俺たちは、少し遠くのカフェから高みの見物をしていた」
「クソ!このボンボンめ!」
だがラインハルトは、自分の羞恥心を傷つけないよう手筈をつけており、少し勝ち誇った様子でそう説明したラインハルトに、政近は悪態をついた。
「でも兄様も意地が悪いよね〜Frauアイには、列に並ぶ簡単なお仕事だとしか説明しないで、並ばせるなんて」
「よく言う、そのアイディアを俺に提案したのは他でも無い、お前だろ。彼女に仕事内容を詳しく教えたら、絶対拒否されるから、騙した方が良いと」
「騙したんじゃ無いもーん、内容を少し省略しただけだもーん」
「本当にタチが悪いな」
ラインハルトとヒルデは、笑いながら、微笑ましくそんな話をしていたが、一方で政近は、その騙されて並ばされた人が気の毒だと、そう心の中で思っていた。
するとその時
「へーい!ブラザー!!可愛い妹ちゃんが来たぜー!!」
玄関の方から、そう元気よく叫ぶ女の子の声が部屋に木霊した。
その声を聞いた瞬間、ラインハルトは口に含んでいたお茶を吹き出しそうになるのを堪え、飲み込むと、思わず少し赤らめた顔を隠すように、顔を逸らした。
すると
「ありゃまぁ、学園の皇帝様と、その妹君も来てたのか〜」
二人を少し揶揄うようにそう言った、女の子の正体は…
「あまり二人を揶揄うなよ、有希」
まさかの、学校生徒から深窓のおひい様と呼ばれ、慕われている周防有希、その人であった。
ペルソナ…
心理学者のカール・グスタフ・ユングが提唱した、個人が社会的な環境に適応するために用いる"他人に見せる自分"を指す心理学用語であり、言わば人間が社会で生きてゆく為、常につける心の仮面である。
ラインハルト自身も、己の夢や野心を叶える為、学校では、SFアニメやプラモが好きなオタクとしての自分を、誰からも慕われ尊敬されるような、若き金髪碧眼の皇帝と言う仮面で隠している。
そして、学園では名家のお嬢様らしい、お淑やかな人物として知られる周防有希も、実は学校で見せている姿は仮面であった。
「おう、楽しんでいるようで何より」
実際の仮面の下に隠されていた周防有希の正体は、ノリが良く、ハイパーセンス持ちを自称する重度のアニオタであった。
さらには、隠しているのはそれだけでは無かった。
「あちゃー、有希ちゃんとの甘いひと時を邪魔しちゃうかなー。ねぇ、政近お兄ちゃん?」
「別に構わねぇよ」
「Me too。と言うか、ヒルデっちも、ラインハルトも、私達が実は兄弟って、しってるじゃかー今更何を、躊躇うと言うのかねぇ、マイフレンド達?」
実は政近と有希は、兄妹であった。
家の都合で、二人は学校では兄妹である事を隠してはいるが、ラインハルト、ヒルデが転校してしばらくした、三年の秋の頃、二人が兄妹である事を、ラインハルトとヒルデは知り、それからは四人➕もう1人の、計5人だけの秘密として、この事は口外しないようにしていた。
「それにしても有希ちゃんが居るって事は…もしかして綾乃ちゃんも来てるの!?」
そしてその5人目は、有希の従者を務める少女、君嶋綾乃と言う人物であり、どうもヒルデは彼女の事を気にって居るのか、主人である有希に、彼女は来ていたのかと聞いた。
だが
「残念、今日は綾乃は来てないよ、お客さん」
何やら目を輝かせているヒルデに、有希はそう言った。
「そっかー残念」
それに対してヒルデは、残念そうにそう言った。
するとそんな時、ヒルデはとある事に気がついた。
「所で、さっきから兄様は黙ってるけど、大丈夫?」
先ほどまで、政近や自分と楽しそうに話をしていたラインハルトが、有希が来た瞬間黙り込んでしまった。
「うん?そうか…まぁ、何か会話が無いからな…黙ってしまうのが自然と言う物だハハハ…」
「ふっ、ラインハルトは相変わらずクールなやつだな…」
クールな様子でそう言ったラインハルトに、有希はフッと笑いながらそう言った。
だが、ラインハルトの心の中は全くクールでは無かった。
(Wow, Yuki Fräulein ist da! Lüge! Ich war nicht bereit! ! Oh nein, ich glaube nicht, dass man es mir ins Gesicht sieht! ? Er liebt Anime und ist ein bisschen ein Otaku, aber er behält immer noch sein Aussehen als Reinhard, ein Mann, der es verdient, Kaiser genannt zu werden! !)
≪うぉ、Fräulein有希が来た!うそ!心の準備ができてなかったのに!!やばい、顔に出てないかな!?アニメ好きで、少しオタクだけど、それでも皇帝と呼ばれるに相応しい男、ラインハルトとしての体裁は守れてるよな!!≫
ラインハルトの心は、まさに濁流の如しであった。
学園の皇帝、カイザー、天才と呼ばれ、人外じみた能力とカリスマ性を持っているラインハルトとは言え16歳の男の子であり、決して賢者では無い。
恋もすれば、誰かを好きになる事もあり、好きなタイプだって存在する…
つまり一言で言うとこうである
学園の皇帝ラインハルトは周防有希に恋してる!!
しかも、公のお淑やかな周防有希も素の周防有希も、両方好きと言う、まさにガチ恋であった。
だが、とある感情が邪魔し、ラインハルトは顔にも、言葉にも、周防有希に対する好意を、出す事が出来なかった。
学校生活でなら、皇帝ラインハルトとしての仮面と、心のスイッチのおかげで、普通に彼女と話す事は出来るが、一度仮面を外してしまえばもうダメ!
緊張の余り、会話もあまり出来ないと言う、皇帝の威厳はどこに行ったのかと問いただしたくなるほどの、まさにヘタレと化していた。
だが、そんな恋愛に関しては、ヘタレの一面があるラインハルトも、今回は違った。
(Puh, wenn ich es bisher wäre, könnte ich von hier aus wahrscheinlich nicht schießen, weil ich so nervös bin ... aber dieses Mal ist es anders.)
≪ ふっ、今までの俺なら、緊張の余りここから打てる手はないだろう…だが、今回は違う≫
実はラインハルトは、今回有希が政近の家に来る事は、予測していたのだ。
当然、有希の政近宅訪問は家族間のプライベートであり極秘情報、いくら二人の本当の仲を知っているラインハルトとは言え、おいそれと聞くわけにはいかない。
だからこそ、ラインハルトは情報を集めた!
有希の性格や、その他とある筋から手に入れた情報を分析し、周防有希の行動パターンを計算し、割り出した。
人間スーパーコンピュータとも言えるほどの、天才的な高い知性と知力、脳細胞の全てを使い計算した結果、今日この日、彼女が政近の家に訪問する可能性が高いと、目星をつけた。
そして、そこからの行動は早かった
ラインハルトは、有希とお近づきになる為の作戦準備を、すでに済ませ、そして今その作戦が始動したのだ!
(Der Betrieb beginnt)
≪作戦開始≫
ラインハルトは気持ちを落ち着ける為、深呼吸をすると立ち上がり…
「そう言えば政近…」
「なんだ?」
「交換条件とは言え、俺のプラモデルを確保してくれたんだ…本のお礼だが、良かったら今晩の夕飯、俺が作ろう」
そう政近に言った。
Operation Hoenil in der Küche
厨房のヘーニル作戦と"今"名付けた作戦がスタートした。
ヘーニルとは、北欧神話において、射手を意味する神であり、その作戦とは、ラインハルト自身が厨房に立ち、ドイツ料理を作る事で、家庭的ながらもスマートな姿をアピールし、有希のハートを射抜くと言う、シンプルな作戦であった。
「良いのか?」
「あぁ、構わない」
ラインハルトはそう言うと、色々と食材が入った袋を、政近達に見せた。
「そうか…じゃあ悪いが頼めるか?いやーまだ夕食食べてなかったから良かったぜ」
「おっ、今日の夕食はラインハルトが作ってくれるのか。ふっ、お手なみ拝見だな」
「ふっ、辛い物好きの二人の口に合うかは分からないがな…」
今更、あまり遠慮する間柄でない為、政近と有希の二人は、ラインハルトの、大いなる計画が隠されたご好意に乗る事とした。
(よし、第一関門はクリア…ここで、さっき食べたなんか言われたら作戦が破綻するからな…まぁ最も…政近の行動パターンや、部屋に入った時のキッチンの状況を見れば、まだ夕ご飯を食べていないのは、すぐに分かるがな…)
そして一方のラインハルトは、内心今の所計画がスムーズに進んでいる事を実感していた。
すると
「よし、俺も手伝える事があるなら手伝うぜ」
政近が親切心から、ラインハルトを手伝おうとした。
(政近が手伝うのか…本当ならFräuleinに手伝って欲しかった所だが…まぁ良い、Fräulein有希はシスコンらしいからな、むしろ愛する家族である兄の政近と共に料理をすれば、それはそれで好印象に…)
それに対して、ラインハルトはそう心の中で考えた。
するとその時
「えー、せっかく政ちーとアニメの事で語り合ったりしたかったのにー」
手伝おうとする政近に、不満たらたらな様子でヒルデがそう言った。
「いやーでも、やっぱりラインハルトだけにやらせると言うのは…」
気が引ける、そう政近が言おうとしたその時
「ふっ、ブラザーここは俺に任せな」
なんと有希が、そう言いながら席を立ち上がった。
その意味する事は…
「えっ…まさか」
「おうよ、ブラザーの代わりにこの私が手伝うぜ」
(Was! !)
≪なんだと!!≫
まさか、有希がラインハルトの手伝いをしてくれると言う、ラインハルトにとっては願ってもない事であった。
だがここで、余りにも都合が良すぎる展開に違和感を感じた。
そして
(Vielleicht!)
≪もしかして!≫
そう心の中で思うと、ふとヒルデの方を向いた。
すると、ヒルデは何も言わず、ただ一瞬ウィンクをした。
(Oh, meine Schwester! !)
≪わ、我が妹よ!≫
なんとヒルデが空気を察し、自然な流れで有希がラインハルトの手伝いをしてくれるよう、誘導したのだ。
そのナイスファインプレーに、ラインハルトは、今度彼女の欲しい物を買ってあげようと心に誓っていた。
「やっぱりさー私としてはツクヨミも良いけど、イヨの方が好きだなー」
「ヒルデは、相変わらずのくノ一キャラ推しかー」
政近とヒルデの二人が、アニメ談義に花咲かせている中。
「…」
ラインハルトと有希の二人は、淡々と料理をしていた。
(…せっかく、Fräulein有希と料理を作ってるんだ、何か話を…えっと…今の世界情勢…Nein。経済…Nein!えっと…普仏戦争におけるモルトケ将軍の作戦指揮と、ビスマルクの外交手腕についてNein, Nein, Nein, Nein, Nein,!!なんで、こんな時に限ってろくな話題が出て来ない…)
せっかく好きな人と一緒に料理をしていると言うのに、楽しい会話の話題一つ、こんな時に限って出てこない事に、ラインハルトは苛立ちを感じずにはいられなかった。
(やはりここはアニメの話を…Nein,ロボットアニメや少し昔のアニメ派の俺では、Fräuleinとの好みにズレがある…)
だが、このまま黙ったままでは、せっかくの作戦も意味が無くなり本末転倒…ここは何とか、話題を絞り出そうと、その優秀な頭脳をフル回転させていた。
すると
「おーい、ラインハルト君よー」
「えっあ…どうした?」
「いや、野菜、こんな感じで良いかなと思ってさ」
どうすれば良いか考えていたラインハルトに対して、そう有希が話しかけて来た。
「あぁ、それで大丈夫だ」
「そりゃ、良かった、良かった」
何とか話のきっかけはつかめた、そう考えたラインハルトは次に何を話すべきかと、頭をフル回転させた。
すると
「あの二人…仲良さそうだね」
徐に有希が、政近とアニメ談義を花咲かせているヒルデを見て、ラインハルトを揶揄う様にそう言った。
「ラインハルトお兄様は、ああ言うの見ていて、何とも思わないのかい?」
「それは…政近にヒルデが取られるかもしれないと言う事か?」
「ふっ、言うまでもなかったか」
有希と政近の関係を、ラインハルトが知っている様に、有希もラインハルトが、シスコンだと言う事を知っている。
その為、シスコンの兄として、ああ言うの、どう思っているのかと気になり、聞いたのだ。
だが
「…何とも思わないな」
以外にもラインハルトは、冷静な様子でそう言った。
「ほう、その心は?」
「俺自身、政近とヒルデがもし結婚するなら、政近らな構わないと思っているからな…なんて言ったって…」
そしてそう言いながら、食材を鍋に入れた時。
ラインハルトは、まるで猛禽類の様な目で政近を見る…いや、どちらかと言うと睨みつける様な目線で見つめると。
「政近は俺にとって、全力で潰してやりたい人間ランキング、第一位だからな」
そう言った。
「今は、爪を隠して、怠惰な毎日を送っている様だが…いずれは、その眠りを無理矢理にでも目覚めさせ、正々堂々、己の全力をかけて勝負を挑みたい…」
ライルハルトと政近…二人は多くの面で違う
ラインハルトは、野心と野望を胸に、常にその野望を叶える為に邁進し、あらゆる事に勝利する事を使命とし、常に向上心を持って、家族でも一族の為でも無い、自分の為に、自らが定めた覇道の道を突き進む天才
政近は、高いスキルと力を持っているが、基本現状維持を心がけ、やる時にはやるが、それ以外は怠惰の限りを尽し、争い事を避ける天才
攻撃の天才と守りの天才
覇道をゆく帝王と誰かを支える軍師
曹操と孔明
ラインハルトとヤン・ウェンリー
そう評するように、ラインハルトと政近はタイプも性格も目標も違う、だがまさに二人は"天才"というこの二文字において共通する。
だからこそラインハルトは、同じ天才である政近の事を認めており、同時に彼を生涯のライバルであると自負し、いずれ本気を出した彼と戦い、決着をつけたいと心の中で思っていた。
そして、そんな政近に対抗心を燃やしているラインハルトを見て有希は。
「ふっ…嬉しいな…」
思わずそう小声で言った。
「えっ?」
「何でも無い」
有希が言った小声に少しラインハルトは築いたが、有希は誤魔化すようにそう言った。
「話がずれてしまったが、そう言うわけで、自分が認めた男と愛する妹が結婚するのなら、俺は文句無いさ…だけど、妹と政近が結婚する事は絶対にないさ」
「ずいぶん自信満々だね〜ラインハルト兄様は」
絶対にないと、そう言い切ったラインハルトに、有希は揶揄う様にそう言った。
「ふっ、当たり前だよFräulein。だって、俺の妹はそもそも…」
それに対してラインハルトは、自信満々にそう言ったが、話の途中で突然…
「いや、何でも無い」
何故かそう言い、この話を突然打ち切った。
「おいおい、ここまで来てもったいぶるのはよせよ」
「いや、流石にこれ以上は個人情報だから無理だね」
話の続きが気になる有希は、ラインハルトの袖を引っ張って、続きを話す様に言ったが、ラインハルト頑なにこれ以上の話をしなかった。
何はともあれ、好感度が上がったかどうかは分からないが、有希とラインハルトは、自分の妹と兄の話で盛り上がる事ができた。
厨房のヘーニル作戦…一定の成果をあげられ終了
因みに、この日ラインハルトが作った料理は、グラーシュと呼ばれる、ドイツのビーフシチューであった。
その後
「あー美味しかった〜」
政近のマンションを後にしたラインハルトとヒルデは、徒歩で自分の自宅への帰路についていた。
正直、迎えを寄越してもらおうとも考えたが、気分的に歩きたかったと言う理由からの、徒歩での帰りであった。
「さっきの事だが…」
「えっ?」
「さりげなく俺がFräulein有希と料理ができる様、絶妙なタイミングでアシストをしてくれた事だ。感謝するよ」
するとラインハルトは、少し笑いながら、ヒルデにそうお礼を言った。
「お礼に、今度何か奢ってね」
「勿論だ」
するとヒルデは、兄に褒められたことにご満悦な様で、満面な顔でそう言った。
「にしても、相変わらず兄様はハイスペックなのに、恋愛になると、途端に周りくどいと言うか、ポンコツと言うか…さっさと告っちゃえば良いのに」
「不調法者め、それは無理だと、お前だって知ってるだろ」
「勿論」
ラインハルトには一つの夢があった。
その夢が始まったのは幼い頃…
ラインハルトは、恵まれた環境に生まれ、幼い頃からヴァイオリン、フェンシング、乗馬と、ありとあらゆる事で賞を総なめにするなど、何でもできるまさに天才であった。
しかし、天才であるが故に孤独もあった。
同年代の子供達からは、あまりにも圧倒的すぎるラインハルトと言う存在に対して、何か悪魔や異物を見る様な目線を向けられたことも少なく無く、その際、何で自分は普通じゃ無いんだと、落ち込んだ事もあった。
しかしある日、自分の一族のルーツ、そしてドイツと言う国のルーツを知った時、ラインハルトの燃え尽きようとしていた心の炎に、目標と夢と言う燃料が投入された。
本人曰くその日、まさに自分は神の啓示を受け、自らの運命と使命を知ったと語った。
そしてその夢とは
「俺は、祖国ドイツに帝政を復活させ、自らが新ドイツ帝国の初代皇帝君臨する。そして、復活させたドイツ帝国を中核とした、オーストリアやポーランドなどの東ヨーロッパ諸国を糾合した、巨大な連合国家…ライヒスブルク朝オスタニア帝国を建国する。それこそが、俺の夢であり野望、そして神から与えられた使命であり、歴史的責任なんだぞ」
ドイツ中心の東ヨーロッパ諸国の巨大連合帝国…オスタニア帝国を建国し、自らがその皇帝として君臨し、世界の秩序を動かして行く
つまり、ラインハルトには、本物のカイザーになると言う、壮大な夢と構想が存在していた。
「だからこそ、自分から告白するわけにはいかない。告白とは…すなわち降伏宣言のようなもの、相手に屈する様なものだ。そんな屈辱を、未来の皇帝たる俺が味わっては、未来のオスタニア帝国の全臣民達に示しがつかないからな。だからこそ、あちらから…周防有希から告白させてやる。恋愛とは戦争…先に告白した方が負けなのだ」
「あぁ…そうなんだ」
それに対して、ヒルデは少し呆れていた。
オスタニア帝国…そんなものが実現できるわけがない…とは微塵も思ってはいない。
むしろ、自分の兄ならそれを実現できる、いやむしろオスタニア帝国どころか、全世界の国々は、今すぐにでも兄の元に膝付き、国としての主権を兄に差し出し、我が国を統治してくださいと、ラインハルトにお願いするべきだと…全世界は、兄であるラインハルトが支配し、管理する事で、初めて幸せや平和がやってくると、ヒルデは考えていた。
故に、ヒルデが少し呆れていたのは、恋愛に関しては、なんだかんだ言って先延ばしにする、兄の恋愛に関するヘタレ具合にであった。
まぁもっとも、ヒルデにとって、そこも兄の魅力であるが。
「それにしても恋愛か…私も、誰かと付き合ってみようかな〜」
すると、徐にヒルデがそうラインハルトに言った。
だがその言葉に、今度はラインハルトは少し呆れた様子でこう言った。
「まぁな、政近はお前に好意を寄せていないのは、アイツの態度を見て分かる。何よりヒルデお前は…」
「男に興味が無いじゃ無いか」
「あっ、そうだった」
ラインハルトのその言葉に、ヒルデはふと笑った。
実はヒルデは、異性に対して全くと良いほど興味が無い。
その理由としては、兄ラインハルトの存在が大きかった。
彼女は、生まれた時から天才で頭が良く、カリスマ性がある…まさに神が作り出した完璧な人間の様な異性が目の前におり、そして一緒に育ってきた。
その為…
「だってしょうがないじゃん。どんなイケメンでも、どんな金持ちでも、私にとっては兄様と家族以外の異性は、良くて猿か、虫ケラにしか思えないんだもーん。そんな虫ケラ共に興味を持つより、可愛い女の子の方が、私的には興味があるんだよねー」
ヒルデは異性を軒並み人間扱いして居ない事から興味は無く、むしろ可愛い同性の方に興味が向くタイプであった。
因みに、唯一政近の事は虫ケラだとか猿だとかは思っては居ないが、アーリャと言う面白い存在がいる事から、彼の事は恋愛対象では無くモルモットか実験用のマウス見たいに、ヒルデは思っていた。
「今は有希ちゃんの従者の綾乃ちゃんが気になるんだよね〜」
「そうか…」
正直ラインハルトは、ヒルデの事を妹として好きだが、一方で彼女の性癖に関しては、たまにドン引きしてしまう。
別にラインハルトは、同性愛が神の道に反しているなどの思想は持っておらず、愛があるなら別に同棲だろうが異性だろうが、付き合う事に問題は無いだろうと考える、懐の深さを持って居たが、問題はそこではなかった。
「綾乃ちゃん。気配を消しているつもりらしいけど、いつも学校で有希ちゃんにくっついて、健気に彼女を守ったり、支えようとしているんだよね〜ああ言うのを見ると何と言うか…」
「心も体も徹底的に痛ぶって、調教したいと言うか、奴隷にしたい…と言うか、ペットにしたいな〜と思って。私が心を込めて選んだ首輪をはめて、私の犬として徹底的に可愛がってあげたいな〜て、思っちゃうんだよね」
ペルソナ…
心理学者のカール・グスタフ・ユングが提唱した、個人が社会的な環境に適応するために用いる"他人に見せる自分"を指す心理学用語であり、言わば人間が社会で生きてゆく為、常につける心の仮面である。
そして、明るく元気でコミュ力が高い、学校の皇帝…ラインハルトの妹…そんな仮面で隠す、ブリュンヒルデ・テレジア・フォン・ライヒスブルクの正体は…
「フフフフ…いつか機会があったら…4年間温め続けて居た拷問を、あの子に試してみたいな〜」
高い知能と人を心身ともに追い詰める事が好きなサディストとしての一面、そして兄に逆らう奴は排除されるべきだと言う思想を持つ、狡猾で変態的で危険な思想をもつ危険人物…
言わば、秘密警察系女子…それがブリュンヒルデ・テレジア・フォン・ライヒスブルクと言う人間の正体であった…