[休載]POCU、異世界に転移する 作:最高司祭アドミニストレータ
その日は、雲一つ無い空が広がっていた。その空を、とある生物が飛行している。
大きな羽と2つの足、尾を持った飛行生物。それは―――ワイバーン。
そのワイバーンには、鎧を纏った一人の男が乗っていた。その男は竜騎士で、名はマールパティマ。
彼は飛竜と呼ばれるこのワイバーンを操り、いつも通りの哨戒任務に就いていた。
「…ん?」
その時だった。自分以外にいるはずの無い空に、”何か”が見えたのは。キッ、と目を細める。
「あれは、いったい…?」
自分以外にいるはずの無い空に、何かが見える。通常は、味方のワイバーン以外に考えられない。
――ギャァァァァオ!
突如として、愛騎が威嚇の声を上げた。威嚇の声を上げる行為は、脅威となる何かが近づいて来ている時だけ。粒のように見えた飛行物体は、次第に大きくその全容が見えてきた。
それと同時に、聞いたことの無い音が自分の耳に届く。飛行物体はドンドンと、こちらに進んで来ている。味方のワイバーンではない、そう確信していた時だった。
「!?」
マールパティマは驚愕した。見た事のない漆黒の物体であったからだ。
それだけではない。その物体は、”羽ばたいていなかった”。彼は未確認飛行物体と高度を合わせる為ら愛騎を上昇させた。
少しずつ下方から近付いていく。近付くごとに、凄まじい音が耳に届いてくる。
鞍に取り付けていた、《魔法通信機》を取り出す。それと同時に、司令部へ報告する。
ワイバーンらしき、未確認飛行物体を睨みつけながら。
「こちら第6飛竜隊基地所属、マールパティマ。ワイバーンらしき、騎影を発見した。これより接近し、確認を行う」
高度差はほとんど無い。彼は一度すれ違ってから、距離を詰めるつもりだった。
しかし未確認騎とすれ違う。
その物体は、彼の認識によれば、とてつもなく大きかった。羽ばたいておらず、翼の下部には4つの円筒形物体が均等に配置されている。
機体は黒色で、胴体と翼には見慣れないエンブレムと文字が印字されていた。
「行くぞ、相棒!」
マールパティマは反転し、愛騎を羽ばたかせようとした時だった。風圧が重くのしかかり、吹き飛ばされそうになってしまいそうだ。何とか耐えると、彼は一気に距離を詰めんとする。
しかし、全く追いつけなかった。ワイバーンの最高速度は、235km。
生物の中では最強の速度を誇る、空の覇者。その覇者が、追いつくことが出来ないでいる。
距離は、ますます離れる一方だ。その事実に、彼は絶句せずにはいられなかった。
相手―――漆黒の未確認物体は、生物なのかすら不明だった。
「な、なんなんだ、…アイツはなんなんだ!!」
●●●
―――司令官室。
「この本部が、異世界に転移するとは。二次創作の小説世界だけにして欲しいものだ」
創始者にして司令官である女性―――ハジメは報告書を手に取り、今も上から下までじっくりと読んでいた。電子での報告書が主流となりつつある現代社会であるが、《POCU》はハッキング対策のため、今も紙媒体での報告書が主となっていた。
・本部は東西南北が海に囲まれている場所に転移。
・転移するその前は何も異常がなかったものの、突如として地震が発生。震度は比較的小さく、地震大国出身の日本人であれば、特に気にする程でもない揺れ。
・地震が起こった直後、本部は爆弾低気圧が訪れ、暴風雨を巻き起こしたが直ぐに収まる。
・観測衛星、通信衛星、全てシグナルロスト。ならびに、《POCU》支部と各国との通信も同様に通信途絶。
・数時間後、調査のため哨戒機を派遣。
・etc…。
報告書の一部には、写真があった。そこには、翼の生えた爬虫類―――ファンタジーでお馴染みの竜が写っていた。しかも、その背には鎧を纏った人間が跨っている。竜騎士、というやつだろう。
更に《POCU》所属の哨戒機―――《P−1》によると、街があったそうだ。
竜騎士とは別の写真を見る。現代文明の街ではなく、ファンタジーでお馴染みの街。
街路は石畳で舗装されており、建物も石かレンガ造りで窓にはガラスあった。屋根は、瓦葺きのようだ。教会と思われる尖塔もあり、しっかり鐘が釣り下がっている。
「領空侵犯をしてしまっているな」
敵対は、望ましくない。ファンタジー世界は未知数だ。科学で通じない事だって、大いにあり得る。敵対の前提は、絶対にしてはいけない。友好的に、かつ紳士的に接しなければならない。
既に謝罪のため特使を派遣しているが、ただ謝罪に行く訳ではない 。転移した存在である事、それを認知させる事も含まれている。最も転移は、馬鹿げた事だと一蹴されるだけだろう。話の場すら、設けさせることはない。
しかし、これを見て、話の場を設けない馬鹿はいないだろう。特使を乗せた艦は、全長200m級の空母。木造ではなく、現代技術の粋で造られた艦。
空母としては小さいが、ファンタジー世界からすれば城に等しい外見だろう。
彼らは使節団を派遣し、その目で確かめる筈だ。真実であるのかを。報告書をデスクに置いたハジメは、ゲ◯ドウポーズをする。
「食料と資源確保は、最優先事項だな」
《POCU》本部でも一応の食糧の自給自足は可能だが、全て賄える程の量はなかった。それは、資源も同様だった。故に、食料と資源確保は最優先として取り組まねばならない。
「はぁ…」
気持ちを落ち着かせるため、ハジメは内ポケットから黒色のパッケージを取り出す。
その中から煙草を1本、手に取った。タバコを口に咥えると、その先端に漆黒のライターで灯す
肺一杯に吸い込んで、空を仰ぎ見るように吐き出した。
「全く、どうしてこんな事になった…」