非合法自治組織   作:たんく

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第1話

 大都会。そう呼んで差し支えない、高層ビル群が立ち並ぶ摩天楼。

 スーツ姿の男が、電話を片手に忙しなく歩き、スパンコールが散りばめられたドレスをまとった派手な女が、そんな男に声を掛ける。そんな男や女の隙を伺い、糸は解れ穴が空いたボロボロの服の老人や、数日どころか数週間は風呂に入っていないであろう薄汚れた少年少女が、目を光らせる。

 急速に発展した都会でありがちな、混沌が広がる魔境。それがここ、ヴォイドシティである。

 

 急速発展のきっかけは十数年前。

 ある日、何の前触れもなく空をよぎった推定、彗星。それが最も大きくなったとき、多くの人々がそれを認識した、その瞬間。全ての人々は、意識を失った。時間にして、およそ4秒。

 全ての人類が意識がなかったことを自覚できており、それでいながら、小さな事故一つ起こらなかった、後に『4秒の施し(ゴッドブレス・フォー)』と呼ばれるようになるその現象は、人類一人ひとりに、一つ、ささやかな祝福を授けた。

 異能。個々人の特性に合わせてか、それとも完全にランダムか、人類に突如としてもたらされたそれは、世界を急速に発展させた。

 それは別に、創作物のように素手で鉄筋を砕いたり、一瞬でコンクリを溶かす火球を生み出せたりしたわけではない。

 しかし、風を読み百発百中の遠距離からの狙撃を可能にしたり、なんとなくで背後からの脅威を避け、なんとなくで必ず水源を当てたりと、今まで一般人と呼ばれていた者たちを、須らく超人へと釣り上げたのだ。

 

 話は戻って、ヴォイドシティ。

 ここはそんな一般人が一般人ではなくなった者たちの尽力によってわずか数年で出来上がった街。出来上がった当初から、表向きは法律が機能し、平和で富んだ一面を見せているが、一歩裏に入れば、銃などの武装は当たり前。犯罪組織は吐いて捨てるほど。汚職まみれで為政者、警察、犯罪組織はどいつもこいつも肩を組んで笑みを浮かべる。

 

 急速発展の歪みは間違いなく、人々を蝕んでいた。そして、十数年という年月は、本来裏側のみだったダーティな部分が表出するには十分な時間でもあった。

 

 華美な外見は、無知な人々を誘引し、その中の真実に気が付けない者たちは食い物にされる。その最低なサイクルに嘆く者がいた。

 

 現状を嘆く者たち、打破しようと行動する少女たちにより結成された非合法自治組織、ヴォイドシティプロテクションオーダー。

 

 通称「VSPO」である。

 

 

***********************

 

 夜となっても、煌々と輝き通りを照らすビル郡。

 しかし、たった一本通りを変えるだけで途端にまちは様相を変え、後ろめたい闇をさらけ出す。

 

 そんな薄暗い路地を、その暗さと狭さに見合わぬ速さで走り抜ける一台のバイク。

 どうやら何かを追いかけているらしいそれの視線の先には、イギリスの伝承にあるバネ足ジャック宛らの、バネのような靴を履いた、不気味な男が音もなく跳ねていた。

 ヴォイドシティで誘拐、人身売買騒動を引き起こした男だ。対して、バイクを巧みに操り男を追いかけるのは、非合法自治組織「VSPO」に所属している、左右半分で髪色の違う少女、橘ひなの。

 ヘルメットから僅かにはみ出たピンクとチョコレートブラウンの髪を靡かせ、路地の狭さを感じさせない軽やかさでエンジンを吹かし、バネ足ジャックモドキを追いかける。

 

 追跡を開始してから、およそ5分。

 相手が小回りの利く移動手段であるため、時間は掛かっているが、路地に入ってから、モドキとの距離は大分縮まっている。

 

「もうそろ、撃ったら当たりそうだけど、どうする?」

 

 徐ろに独り言のように、ひなのは言葉を発する。

 今の彼女がつけているヘルメットには、通信機能のようなものは見当たらない。

 

『あー、もうちょっと進も。そうすれば挟める』

 

 しかし、平然と返事が帰って来る。

 これは、ひなののバディの異能だった。

 

 このVSPOでは大抵の場合、個人ではなく、2〜3人での行動を基本としている。

 現場とオペレーター、或いは共に現場。

 組むメンバーや配置は自由だが一人での行動というのは、ほぼ無い。

 

 そして、バネ足ジャックモドキを追う彼女にも、この任務において組んている者がいた。

 

 英リサ。

 

 この街の豪族のお嬢様であったらしい彼女は、ある時この街の裏側の、ひっそり犠牲になっていた少年少女の存在を知る。それと同時に、ひっそりと活動する、この組織を知った。

 もともと、両親が潔白であった為か、同様に真っ直ぐ育った彼女は、それらの事実に、ただ、悲しくなった。

 

 それらの事実を知ってから両親の事を調べてみると、どうやら色々と手を尽くしていることを知った。しかし、彼女は決して聡明とは行かないまでも、よく回る頭で考え表から動く両親の活動に限界があることに気がついた。

 

 彼女は、実に真っ直ぐ育っていたのだ。それこそ、清濁を飲み込む事に抵抗など持たない程に。

 

 直ぐ様、非合法ながらそれ故の行動力を持つ『VSPO』に連絡を取り、あっという間に、所属までこぎ着けたお嬢様であることを疑いたくなるほどの傑物である。

 

 また、橘ひなのの耳に、先程のようにリサの声が届く。

 

『ちょっと奥に十字路見えない? そこで仕留める感じで。合図したら撃って』

 

 暗闇の中目を凝らすと、確かにかなり前方に十字路が見える。

 確か、リサは徒歩だったはず。リサの異能を考えれば、車か何かで先に回り込む程度は可能だろう。

 ひなのは、一瞬でそう考え即座に返事をする。

 

「ん、了解」

 

 誰が最初に始めたか、人々は己の力に名前をつけた。

 このような世界だ。もはや『厨二病』などという言葉は過去のものとなっていた。

 

 英リサの持つ力は、情報系能力『英字八方(えいじはっぽう)』。

 

 英リサ本人が、味方と判断したモノと距離を無視した会話を可能とする異能。この会話は、言葉だけでなく、文字や図すらも他者に直接伝える、高い汎用性を誇る。

 

 現在、リサはひなの以外にも、本部にいるメンバーとも情報のやり取りを行っていた。

 この異能ゆえに、ひなのは疑わなかった。情報量は、偉大な武器である。

 

 遠かった十字路が、近づいてくる。

 残り500m程度か。

 これと言って連絡はない――。

 300m。

 カウントすらない――。

 200m。

 静かなまま――。

 100m,

 まだ――『今!』

 

 反射的に、両手にハンドガンを構え、跳ねた瞬間だった男に対して連射した。

 

 反応出来たのはたまたまだった。

 当然身構えていたのもある。いつ来るのか焦れていたのもある。

 

 あっという間に両手の銃を撃ち尽くすと、持っていた銃を投げ捨てバイク制御に戻る。当然真っ当に操作しては事故確定の状況。

 未だに撃たれた衝撃で空中にあるバネ足モドキの下をくぐるようにバイクを倒し、滑り抜ける。

 

 これが終わったら、文句を言ってやろう。そう、心に誓うひなのをよそに、エンジン音とともにとんでもない雄叫びが横から響く。

 

「だぁらっしゃぁああぁぁい!!」

 

 ちょうどクロスするようにすれ違う。

 

 ひなのは確かに見た。

 

 何故か、追いかけ始めには乗っていなかったバイクに乗り。

 

 何故か、目をカッぴらいて宙を舞い。

 

 若干冷や汗を流しつつ、渾身の雄叫びとともにバネ足モドキにバイクごとタックルする。

 

 ――相棒の姿を。

 

「お前、銃は……?」

 

 ひなのの脳内に、宇宙が広がった。

 

 ひなののバイクは、正常に停止した。

 

 

 

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