「完全体になりさえすれば……!」から始まる人外転生者の追憶   作:GT(EW版)

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完全体完成!!

 無数のイビルセクトが私にへばり付き、寄り集まってドロドロに溶けていったことで作り出された巨大な繭──その見た目は、まるで呪いと言う呪いを掻き集めて熟成させたようなおぞましさだったと、目撃者たる皇女は後に語る。

 そしてその繭は形成から程なくして真ん中からピシリと亀裂が走ると、内側から一体の怪物が這いずるように姿を現していった。

 

 しかしそれは、イビルセクトに取り込まれた私が繭の中から抜け出したのではない。

 

 

 現れた怪物は、私ではあって私ではないもの。

 無数のイビルセクトを糧とすることで強制的に進化した──私本来の完全体「デビルセクト」の姿だった。

 

 

 ……そう、私の第三形態には、まだその先があったのだ。

 

 魔界に居るアルファから流し込まれた情報により初めて知った事実であるが、本来の私はサナギから羽化した後も数ヶ月と掛からず次の形態に成長、変態していく筈だったのである。

 そういう意味ではあの時ナナシに張った私の虚勢も、あながちハッタリばかりではなかったのだろう。

 にも拘らず、私が何年経っても第三形態から姿が変わらなかったのは実に単純な理由だった。

 

 ナナシに出会ってからの私が、アルファが想定していたよりも遥かに少食だったからである。

 

 

「生き物としては、当たり前の話ですね……」

 

 

 それはそうだ。カブトムシだって蝶々だって、必要な栄養を摂取できなければまともな成虫にはなれない。

 いや、私だってちゃんと食事はしていたのだぞ? 持ち前の超再生力により数日間飲まず食わずでも問題無いとはいえ、娯楽として嗜む程度には定期的に樹液を啜ったり果実を齧っていたりもしていた。

 ああ、金ピカ皇女が錬金術で作ってくれたチーズケーキなんかも好きだったな。振り返ってみるとアイツの錬金術、食べ物の錬成までできるから万年食糧不足の世界では神扱いされるのも妥当だな……そればかりにリソースを割けないからと切り詰める必要はあったようだが、それでも帝国民が餓死しなかったのは間違いなく彼女のおかげだろう。

 と、そのように私の食生活は常識の範囲に収まる程度には破綻していなかったのだが、それでもアルファの想定からすると圧倒的に栄養不足だったようだ。

 

 一食あたりの栄養効率が悪すぎたのだ。

 

 

「樹液ですからね」

 

 

 樹液を無礼(なめ)るな。私は舐めるけど無礼(なめ)るな。

 

 だが、要はそういうことだったのだ。特に、この世界に生まれてから一度も人間を食べていないのがアルファ的には良くなかったらしい。

 私自身は「主食は樹液や甘い果実だろカブトムシ的に考えて」と先入観を持っていたし、転生してから肉を食う気分にもならなかった。

 

 しかし本来の私は生きた人間の身体を喰らうことでその魔力を取り込み、自身のエネルギーに変えていく生態をしていたのである。

 

 この世界の人間は魔法使いでなくても皆体内に魔力を内包しており、10人も喰らえば必要なエネルギーを取り込むことができ、第四形態、第五形態への変態が可能だった。まさしく猟奇的殺人生物である。

 

 

 ──そりゃあ……どんなに鍛えても完全体になれないわけだ。

 

 

 その事実を知った時、私は思わず苦笑を浮かべた。

 私の気持ちを抜きにしても、人間を襲うことはナナシと交わした最初の条件で真っ先に禁じられている。

 私を見逃す条件として彼と交わした一つ目の条件は、「如何なる理由があっても人間を襲わないこと」。

 そして二つ目の条件が、「完全体になったら自分を殺すこと」となっている。

 故に、この二つは相容れない。私たちの与り知らぬところで、契約が最初から破綻していたことに気づいてしまったのだ。

 

 ……尤も、この契約内容についてはキミも既に、別の部分での破綻を見抜いているだろう。

 

 

 そもそも私が人を襲えなかったら、勇者を襲うこともできないのでは? と。

 

 

 

「ええ、それはまあ。ですが所詮は口約束ですし、そこはナナシの裁量で例外扱いにするのかなと」

 

 

 いや、アイツ……そもそも自分のことを人間と思ってなかったんだよ。

 

 

「えっ」

 

 

 あれは旅を始めて数日後のことだ。

 ふと冷静になった私が「よくよく考えるとこの契約内容、ガバではないかナッナーシーよォ……?」と煽るように疑問を投げかけた時、あの男は何て言ったと思う?

 

 

『……私は勇者だ……人間ではない』

 

 

 こともなげにそう言って、奴は自分の存在を当たり前のように人外側に含めていたのである。

 これには私も思わず素に立ち返り、「お前、この姿に生まれた私の前でよくそんなこと言えるな」とドスの効いた低い声で言い返したものだ。

 

 いやな……まだジェノサイドツアーを始めて間もなかったあの頃の私は、割と短い期間ではあったが今よりも人間だった頃の記憶がこの身体に馴染んでいなかった為か、時々ナーバスになることがあったのだ。難しい年頃と言う奴だ。

 少し足を運べば予想以上にイビルセクトだらけだった地上の環境に辟易していたストレスもあってか、勇者も人外でアレらと同じような存在だと語る彼に対して「ふざけるなお前」とガチめにキレたのである。

 あの時の私は大人げなく妙なスイッチが入ってしまったものだが、実際生まれたてみたいなものなので許してほしい。

 

 奴は確かに人間とは思えない能力を持っていたSAMURAIであったが、カブトムシ怪人ではないし、誉れ高き勇者──勇気ある者だ。

 もちろん勇者は勇者でも勇者ロボットとかでもないし、生物学的には間違いなくれっきとした人間であることを、私はその身から発せられる静かなシグナルから読み取っていた。こんなでも私と違って、コイツは人間なのだと。

 

 

「……ええ、あの子は人間ですよ。半神半人でもないことは私が念入りに調べたので、それは保証します」

 

 

 だろう? 良かった本当は神の子でしたとかいうオチじゃなくて。

 そういう感じにカブトムシ怪人である私から彼が人間であることを徹底的に肯定してやると、その甲斐もあってか彼は私の前では自分を人外の側に置くことはしなくなった。

 

 確かに勇者として100年以上も世界を救う機械みたいなことを続けていたら、自分のことを血の通った人間だと思えなくなるのも理解できるがね……本物の人外からしてみれば、そういう自嘲は不愉快極まりなかったわけである。例えるならばそう、「ワインについて知ったかぶりの本を書き、読者に対して間違った知識を広めたグルメエッセイストに対するソムリエ」みたいな苛つきか。

 

 

「名作ですね」

 

 

 だから、そう……私がキレた理由は、それだけだ。

 

 

「ふふっ……そういうことにしておきましょう」

 

 

 む……何がおかしい?

 

 

 

 ……まあ、それはそうと話を戻すぞ。

 

 ともかく私は「二度と人間を襲うな」と交わしたナナシとの契約によって、図らずも第三形態より上の姿に至ることができなかったわけだが──そんな私の状態を知ったイビルセクト・アルファはご丁寧なことに、「別の方法」を使うことで本来必要なエネルギーを用意し、完全体に進化するように仕立て上げてくれたのである。

 

 ──それこそが、この時行われた「無数のイビルセクトを生け贄とした大規模な魔力供給」である。

 

 

「強制的な、共食いですか」

 

 

 ああ。

 これはイメージしやすいと思うが、魔界には魔族が住んでいて、魔族はその名の通り通常の人間よりも多めの魔力を持っている。

 故にその魔族を徹底的に食い散らかしていった魔界のイビルセクトもまた、その体内には人類と同質の魔力を獲得しており──それを私に植え付けることで、一気にワープ進化させようとしたわけだ。

 イビルセクト側としてはもう、数を揃えるのは十分だったからな。だからその程度の消費は今更惜しくも何ともなかったのだ。

 

 かくして、イビルセクト・アルファの望みは果たされる。

 寄り集まった蟲共が形成した特大の繭から姿を現したのは、アルファが待ち望んだ真のデビルセクトそのものだったのである。

 

 ……私にはこの時の記憶がほとんど無いのでこれも又聞きした話になるが、その姿は全長50mに及ぶ白銀の巨大ヘラクレスオオカブトのような姿をしていたらしい。

 

 先祖返りという奴だろう。その姿はイビルセクト・アルファのオリジナルであるカブトムシ型宇宙怪獣の姿に酷似していたことが窺える。大きさはM型の半分程度とは言え、地上を支配する新しい魔王の名に相応しい圧倒的な威容だったとのことだ。

 

 マザーたるアルファからすればそれこそが私の「完全体」であったが、私と人類からしてみれば最悪の暴走形態である。

 もちろん、その姿に成り果てた私にそれまで持っていた人としての理性や意識など残っている筈も無く──デビルセクトの本能が赴くままに、私は地上と人類に対し蹂躙の限りを尽くそうとした。

 

 

「なんてこと……」

 

 

 アルファが描いた悪辣なシナリオだが、幸いだったのはこの時の群れが皇女たちではなく私を取り込むことを優先してくれたことだろう。

 おかげで怪物の凶刃が彼女らを引き裂くよりも早く、勇者の到着が間に合ったのだから。

 

 

「ナナシキター!」 

「キシャー!」

 

 

 これで勝つる、という反応だが実際はもっと悲壮だったと思うぞ。

 

 ともかく皇女の危機を察知したナナシは異変に気づくと直ちに周囲の群れを蹴散らし、デビルセクトと化した私と対峙したわけだ。

 新たに現れた巨大な新種を前に聖剣を抜いた彼だが、しかしその怪物の正体が私であることに、彼は一目で気づいていたらしい。

 

 そんな彼は皇女たちを逃した後……たった一人で挑み、私を介錯する為に容赦の無い猛攻を仕掛けたそうだ。

 

 

「……そうなりますよね……」

 

 

 的確な判断だったと思う。イビルセクトに取り込まれた時点で、私のことは既に死んだものとして諦めるしかない。そして目の前に居るのは倒すべき害虫──是非も無かった筈だ。

 実際、手心を加えたら殺されるのは勇者の方だったと語るぐらいには、デビルセクトと化した私は恐ろしい強さだったらしい。ただ、その場に居合わせた皇女の話によれば、その時ナナシは額から血を垂れ流しながらボソリと呟いたそうだ。

 

 

『……そんなものが、お前の完全体であるものか。私は……今のお前にだけは、殺されたくない……』

 

 

 完全体になったら、その力で私を殺してくれ──勇者として戦い続けてきた100年以上もの人生に対して、彼はその光を失った死んだ目の奥で深く絶望していた。その理由はきっと、この世界での出来事だけがきっかけではないのだろう。

 万人が望む正しい勇者の在り方を体現し続けてきた彼は、その聖剣で多くの悪を討ち、数々の世界を救ってきた。そんな人生の中では、私が想像もつかないような悲しい出来事だってあった筈だ。

 

 ああ、何年も一緒に戦っていれば虫にだってわかる。自ら死を望みながらも……数多の世界に一人でも勇者を望む者が居る限り、彼は自ら死を選ぶことができない。

 そんな矛盾を100年以上抱えながら戦い続けてきた彼の胸中は、常人には理解できない混沌としたものだったのだろう。

 

 そんな彼だったが、それでも──

 

 

『……すまない……すまない……っ』

 

 

 全身全霊を込めてデビルセクトの半身を抉り斬り、頭脳の部分に露出した直径1mぐらいの「核」に聖剣の切っ先を突き刺した時、苦悶の叫びを上げた私に彼は堪らず謝罪したのだそうだ。

 それはいかに冷徹な勇者として振る舞い続けた世界の救済者であろうと、その心は私が思っていた通り「人間」であったという証だった。

 今まで彼を勇者たらしめていた「勇気」の仮面が剥がれていくように、人間らしい心の弱さが吐露されていく。

 

 そしてそんな彼の心を表すように──デビルセクトの核に突き刺した聖剣が、ポッキリと折れてしまった。

 

 

「……あの無銘の聖剣は、彼が振るっても折れることはないと、頑丈さを見込んで選定したものだったのですけどね……」

「キシャー……」

「ああ、貴方を責めているわけではないですよ?」

 

 

 そんな聖剣が真っ二つに折れてしまうほどにまでデビルセクトの核が硬すぎたか、或いは彼の心が本当に限界を迎えてしまったのか……いずれにせよ、状況は最悪だった。

 勇者ナナシとデビルセクトと化した私の戦いは拮抗していて、どちらもお互いの存在を滅ぼし得る力を持っていた。それでも戦いが始まった当初は、技量の差でナナシの方がやや優勢だったようだ。うん、やっぱアイツおかしいわ。

 

 しかしデビルセクトの肉体には、私の特異体質である超再生力とラーニング能力が、それぞれ遥かにパワーアップした状態で備わっていた。

 

 やっとの思いでその巨体を覆う頑強な外殻を突破し、ツノや手脚を斬り裂いたところで……頭の核を潰さない限り即座にパーフェクトな状態へと再生してしまう。

 そしてデビルセクトとして覚醒したラーニング能力は破損した肉体の再生だけに留まらず、より強靭になるよう補強していく自己進化能力まで備えていたと言う。

 つまり、戦いが長引けば長引くほど、デビルセクトは無限に強くなり続けていくということだ。

 誕生の際に無数のイビルセクトを生け贄に捧げてもなおお釣りが来るほどに、既存の種とは異次元の性能を持っていた。或いは彼らにとって最大の脅威である勇者への対策として用意していたのが、私という存在だったのかもしれない。

 

 ……さて、そんな勇者の聖剣は志半ばでへし折れ、ナナシは剥き出しになった核を直接破壊できる千載一遇の機会を失うこととなった。

 

 そうこうしている内にデビルセクトの肉体は再生を進めていき、抉り斬った半身も数秒で完治してしまう。

 

 

 ──その時である。

 

 

 茫然自失といった様子で折れた愛剣を見つめていた勇者の背に、女の声が響く。

 

 

『何をしておるか! ナナシッ!!』

 

 

 それはこの世界の人類最後の王であり、私が親愛を込めて「皇女」と呼んでいた女性。この頃には二十歳を過ぎているのだが、その顔には未だに少女のようなあどけなさを残している。

 しかし帝王の座に相応しい気迫を放つ彼女の言葉は落雷のような鋭さを以て彼の意識を呼び覚まし、聖剣の柄を強く握り直させた。

 そうだ……たとえ刀が折れようとも、自分がやらなければこの悪魔の蟲には誰にも敵わないのだ。

 この世界がとっくに詰んでいたとしても、まだそこに未来を諦めていない者が居るのなら、勇者としてやることはただ一つ。

 

 怪物になってしまった友を、この手で殺──

 

 

 

『我を言い訳にするなよ、勇者』

 

 

 

 大きな声ではなかったが、その言葉は確かに響いた。

 今にも泣きそうな顔で折れた刀を構えているナナシにも──そして、私にも。

 

 

『……姫……しかし、私は……』

『貴様は、それほどの才能を持った選ばれし人間(・・)なのだ。だから……殺すことや死ぬことばかりではなく、たまにはそれ以上の欲を出してみろ』

 

 

 勇者のもとに駆けつけた、偉そうで実際に偉い彼女はどこに逃げても無駄だということを悟っていたのか、それともナナシと私の死闘から目を逸らしたくないと思ったのか……本心は定かではない。

 しかし彼女は、彼女の紺碧の瞳は雄弁に語っていた。

 

 例えこれが、今際の際になっても構わないと……故に、彼女はナナシに言ったのだ。

 こんな時ばかりしおらしく、年相応に微笑んで。

 

 

『貴様らは、今までよくやってくれたよ。だから、失敗しても我は恨まん。仮にその選択が間違いだったとしても……その時は、コイツに喰われて一緒に死のう』

『…………』

 

 

 彼がその切っ先で核を傷つけてくれたからだろうか?

 この時、そこに封じ込められていた私の意識が夢の世界からぼんやりと浮かび上がっていた。

 

 

 故に、私は……この時二人が交わしていた会話と、その後ナナシが言い放った言葉を憶えていた。

 彼が私を殺すのではなく──救う為に呼びかけ続けてくれたことを。

 

 

 それは、ただ心を無にして戦い続けるよりもよほど困難な選択だった筈だ。

 失敗すれば世界を滅ぼすことになるその選択の裏で、彼は人より表情を作るのが下手くそなその顔に、どれほどの恐怖を抱えていたことか。

 

 ……だからこそ、聖剣は応えてくれたのだろう。

 それまで自らの死すら願っていた相棒が、大切な者を失う恐怖と大切な者によって他の大切な者たちが奪われる恐怖──それらの人間らしい感情と向き合うことを選んだ、主の「勇気」に。

 

 彼の握りしめた折れた聖剣と、デビルセクトの核に突き刺さったその破片──彼の「勇気」に応えた無銘の聖剣がまばゆい光を放ち、奇跡を起こしたのである。

 

 

『来い! クーレスッ!!』

 

 

 私に与えてくれたその名前は、それまで無銘のまま振るわれていた彼の聖剣に対して正式な真名として刻まれていき──デビルセクトの核に突き刺さった聖剣クーレスの破片は、そこに漂っていた私の意識と一つに溶け合い、爆誕する。

 

 

 光が収まった時、そこには全長50mに及ぶ巨大な悪魔の蟲デビルセクトの姿は無かった。

 

 しかしそんな怪物と入れ替わるようにして──丘の上には、西洋の騎士にも東洋の鎧武者にも似た姿を持つ、異形の魔神が現れたと言う。

 

 カブトムシ怪人とも巨大カブトムシとも似つかない、細身に引き締まった2mばかりの人型。

 しかしその身を覆う白銀色の鎧には、それらが全て同一人物であることが窺える甲虫の意匠が各部位に刻まれており──その魔神はそよ風に鬣を靡かせながら勇者と姫の姿を見下ろし、雄々しき二本のツノが聳える兜の奥でフッと笑った。

 

 

 気取ったようなその笑い方を、二人は知っている。

 だからか……私と目が合った二人もまた、安心したような顔で笑い返してくれた。

 

 

 この日──アルファからの呪縛から逃れた私は勇者の聖剣と融合したことで、真の完全体を手に入れたのだ。

 

 

「……なるほど……それが、進化の真相でしたか」

 

 

 ああ、その姿は正直、自分でも名前負けしていない超カッコいい姿だったと思うぞ! ヘラクレスの意匠をあしらった白銀の東洋風騎士とかカッコいいに決まっているだろう!? 第三形態のよく見れば愛嬌のある甘いマスクに見慣れていた生き残りの皆には、大層驚かれたものだがね!

 

 

「でしょうね。ですが、その姿はまだ今の貴方とは違いますよね?」

 

 

 ああ、その姿が私の戦闘形態(ファイターモード)クーレス。

 そして今の私が非戦闘形態(トランジェントモード)リラだ。リラの名前を貰うのはもう少し後の話になる。

 

 どうだ? イイだろう! カッコいいクーレスと美しいリラで二倍お得だ。

 

 

「ふふっ、そうですね」

「キシャーン!」

 

 

 しかしあの後……戦闘形態を解除したら、よもや一匹のヘラクレスオオカブトもどきと全裸の美少女に分離することになるとは思わなかったものだ……

 

 まあ多少の混乱はあれど、絶望的な状況から奇跡の生還を遂げた上に名前と新しい姿までプレゼントしてもらったのだ。いかに人ならざる者とはいえ、それに対して私から悪く思うことは無かった。

 そういうわけで私は随分柔らかくなってしまった自らの新しい肉体をぺたぺた触って確認した後、「まあいいか……今後ともよりパーフェクトになった私をヨロシクゥ!」とナナシと皇女に対してサムズアップを贈ったものだ。

 その直後には無言で顔を背ける勇者と無言で頭を叩いてくる皇女、この姿だと防御力は落ちるのか意外な痛みに悶える私という世にも珍しいほのぼのとした光景が広がっていた。

 皇女からは「今は錬金術を使う力が残っていないから……これを着ていろ」と彼女の着ていた金ピカなマントを着せられ、ついでのように胸を揉まれる一幕があったがそれはまあどうでもいい記憶だろう。ああ、ナナシも紳士的に上着を差し出してきたがそれは断ったぞ? 最大戦力の彼から防具を受け取るわけにはいかなかったからな。

 

 

「詳しく話してください。殺伐としたエピソードの中の貴重なサービスショットは癒やしです」

 

 

 断る。

 

 それと……そうだ。

 前々から湖の女神に会ったら訊きたいと思っていたのだが、聖剣と融合した私が、何故このようなパーフェクトな美少女の姿になったのか理由に心当たりは無いか? 元々そういう能力がナナシの剣にあったのか?

 

 

「知らん……何それ……怖っ」

 

 

 あんた聖剣を選定した女神だろう大丈夫かそれで……

 

 

「無銘の聖剣は真名が刻まれることで性能が上がることはありますが、今まで影も形も無かった能力が突然生えてくることはありません。特にナナシに与えた剣は、純粋な戦闘用でしたから……虫を美少女に変える力なんてあるわけないでしょう」

 

 

 それもそうだ。じゃあキミにも、私がこうなった理由は解明できないと言うことだな?

 

 

「……断定はできません。ただ……」

 

 

 ただ……なんだ?

 そんなまるで女神様みたいな慈愛の眼差しで我が半身を見つめて、どうした?

 

 

「メカニズムはわかりませんが、聖剣が……ずっと貴女たちを見てきたこの子が、そう望んだからというのは間違いないと思います」

 

 

 そうか……教えてくれてありがとう、お母さん。

 

 

「!?」

 

 

 ……じゃなかった。ああ、今のはコイツの感情だ。急に母親呼ばわりしてすまなかったが、もちろん私の感情ではないからな?

 この聖剣が、キミがナナシの為に夜なべして造った物だということは知っている。だからコイツも、自分のルーツであるキミと会いたがっていたぞ。

 

 

「キシシッ」

「そういうことでしたか……びっくりしました。ほーらお母さんですよー?」

 

 

 

 まともな奴とは言わないが……私のマザーと違って、甘くて美味い物をくれる母親で良かったな、クーレス。

 

 ……だから私の背後に隠れるな。なんでそこでヘタレるんだお前は誇り高きヘラクレスオオカブトだろう?

 

 

「キシャーン……」

 

 

 ああ、ナナシの影響なのか。

 アイツも結構、そういうところがあったからな……

 

 

 

 ──さて、そういうことで私が遂に完全体となったことで、物語は一気に最終局面へと進んでいく。

 

 それから迎えた激動の一年間により、人類とイビルセクトと私による全ての戦いが決するのだ!

 

 

「わくわく」

「キシシシ」

 

 

 えっと……

 

 それは……最果てにて約束された、輝ける勝利の物語──。

 

 

「そろそろキャッチコピーのアイディアが尽きてきましたね」

 

 

 うるひゃい。





 やっとTSタグに辿り着いた……
 戦闘形態の見た目は和風要素の入ったテッカマンブレードみたいな感じです。サムジャナイデス
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