「完全体になりさえすれば……!」から始まる人外転生者の追憶   作:GT(EW版)

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 キシャーン!がキャシャーン!に見えると聞いたので


たたかえ! キシャーン

 私が完全体になったことで人々を照らし出した光明は、今までよりも遥かにパワーアップしたその強さだけではない。

 

 それまではナナシと私がどれだけ敵を倒そうとイビルセクトに与える影響は微々たるものに過ぎなかった。魔界を支配した時点で既に手遅れな規模にまで繁殖していた彼らは、我々がいくつ群れを消し飛ばそうと翌日には同じ場所を別の群れが跋扈している。

 確かに完全体になった私と勇者ナナシの力が合わされば、時間を掛ければ正攻法で奴らを全滅させることも不可能ではないだろうが、それまでの間に人類が先に滅亡するだろうという見通しは何も変わっていないのだ。

 

 ──だが、今は違う。

 

 完全体になった私の優位性は強さだけではない。この身体は、戦略的なマクロの視点においてもジョーカーとなり得る能力を備えていたのだ。

 私自身の気持ちとしては良い気分ではなかったが──イビルセクト・アルファから強制的に目覚めさせられたことで、私の身体にはイビルセクトに対するある権限が残っていた。

 

 ──その権限とは、「魔王個体デビルセクトとしての絶対命令権」である。

 

 そう、デビルセクトよりも下級な全てのイビルセクトに対し命令のシグナルを飛ばすことで、私には連中を意のままに操ることができる力があったのだ。

 イビルセクトには基本的に自我が無いからな。リーダーの命令に対して忠実に動くようデザインされている彼らは、たとえそれが「自害せよ」という命令でも躊躇い無く実行するだろう。

 

 

「もう勝ちじゃないですかそれ」

 

 

 そうだな。その能力を素直に発動させてくれれば、この時点で私が彼らに一斉自害を命じて勝ちである。

 

 しかしアルファもそのことは理解していたのかいくつか保険を掛けており、命令権を持っている個体──デビルセクトと呼ばれる魔王個体は私だけではなかった。

 マザーたるアルファ自身はもちろん、各地に姿を見せるようになったM型もそれである。まさにマスター型の面目躍如というところか。

 そして私とM型以外にもデビルセクトは複数体存在していた。どうにもアルファは、三年に二体ぐらいの頻度で──魔界と人間界にそれぞれ一体ずつ、デビルセクトとなり得るタマゴを産み落としていたらしいのだ。

 

 

「ということは……貴女のタマゴが産み落とされてから12年ぐらい経っているこの時には、デビルセクトは人間界と魔界に四体ずつ──貴女とM型含めて八体居るということですか」

 

 

 そういうことになる。

 だが幸いにして、実は人間界に産み落とされたデビルセクトの内二体は既に死んでいたようでな。

 

 一体は私が地中に三年眠っている間に終わっていた皇国の防衛戦に出てきたようだが、その時ナナシに倒されていたらしい。

 どうにも後発のデビルセクトたちは次男のM型含め晩成型の私よりも羽化が早いようだったが、皇国に送り込まれたそいつはアルファがM型を産んでからまだあまり時間が経っていなかった頃に生まれた個体だったためか性能が低かったらしい。

 それでもアルファは勇者に対する威力偵察には丁度良いとばかりに差し向けたようだが、ものの見事に返り討ちにされたようだ。ざまあないぜ!

 

 

「さすナナ。私も母親代わりとして鼻が高いです」

 

 

 そしてもう一体の個体とは旅を始めて四年半ぐらいの頃──ナナシと二人で地上を荒らし回ったジェノサイドツアーも佳境と言ったあたりの頃に、砂漠地帯で戦ったことがある。

 ……だが、私個人の感覚としては「そう言えばあの時戦ったイビルセクト、変な奴だったなぁ」と思い返す程度の存在だった。何ならアルファと交信したことでイビルセクトのネットワークに触れるまですっかり忘れていたぐらいである。

 おそらくは、そのデビルセクトもまだ完全体になっていなかった個体だったのだろう。大きさも5mぐらいで、S型とL型の中間程度の強さしかなかったものだから戦闘では特に苦戦も無く、こちらもナナシが駆除している。周辺のS型を壁にしながらしぶとく逃げ回っていたが、私が電撃で痺れさせたところを後ろからザシュッ!って感じに。

 今思うと連中の中でも突出した生存本能は、イビルセクトを統べる魔王個体特有の特徴だったのかもしれない。

 

 

「だとしても、あんな命乞いの仕方をするデビルセクトは貴女だけでしょうね」

 

 

 そんなに褒めるな……あのような高度な頭脳プレイを、他より少し知能が高いからと言って蟲共に真似できるわけないだろう。

 

 

「あらポジティブ」

 

 

 まあ、なんだ……確かにあの時の私はブザマを晒したが、そのおかげで私は生き延びて充実した十年を過ごすことができたのだ。

 そのことに感謝の思いがあるからこそ、私にはあの時の生存欲求が種族の特性だからとは安易に思いたくなかった。

 

 私は、私の意思で命乞いして生き残ったのだ。

 「完全体になりさえすれば……!」とな。

 

 

「とても良い話なのですが、セリフがセリフなだけにどこか釈然としないです……」

 

 

 ほっとけ。

 

 ──さて、そのように世に産み落とされた八体の魔王個体デビルセクトの内、二体が既に亡き者になっていたわけだ。その場しのぎにしか見えなかったこれまでの戦いも、決して無駄ではなかったということだな。

 そして残り六体の内の一体である私ことクーレスは、ナナシから貰った自らの名前と皇女たちと結んだ絆にかけて全面的に人類の味方をすることに決めていた。

 

 そうなると、倒すべきデビルセクトは残り五体に絞り込まれたわけだ。

 

 

「ようやく現れましたね……四天王ポジション」

 

 

 四天王は五人いるのがセオリーだからな。

 目標がわかりやすくなっただろう? ここに来てようやく、異世界転生ファンタジーらしくなったとも言える。

 残り五体の魔王個体……気分を盛り上げる為、私は「デビルセクト四天王」と呼称していたが、そいつらを潰しマザーたるイビルセクト・アルファも葬れば他の知性無きイビルセクト共は最後に残った魔王個体であるクーレスに従うというわけだ。

 それを皆に伝えた時は、一同揃って目の色を変えたものだ。

 

 

「怪我の功名という奴ですね。アルファは大きなミスをしました」

 

 

 そういうことである。

 あの時、奴が私を真のデビルセクトに仕立て上げる為に私の意識を奴らのネットワークに取り込んでくれたおかげで、奴らにとって致命的な秘密を握ることができた。

 つまり、私はより完璧になってナナシたちのもとへ帰ってくることができた……イビルセクト・アルファは私を取り込むどころか、私に色々プレゼントしてしまったというわけだ。

 

 

「では、そこからはデビルセクト四天王との戦いに? ……この呼び方、そこまでおかしくない筈なのになんかシュールですね」

 

 

 寧ろカッコ良すぎないかと思ったぐらいだよ。奴らには過ぎた肩書きである。

 

 ああ、察しの通り私が完全体を手に入れてからは、私がイビルセクトの王座を奪取する方針に話はまとまっていた。

 正攻法では、ナナシ以外の人類が残っている内にイビルセクトを全滅することなどまず不可能だからな。勝利条件を絞り込むことができたのは、イビルセクトの発生以来初の快挙だった。

 これに一番乗り気だったのがやはり皇女である。「イビルセクトの王になるだと!? お前という奴は、どこまで我の琴線に触れてくれるのだー!」と大層興奮した様子で抱きついてきたものだ。

 こと「王」という位には誰よりも拘りがあった彼女だ。人類に残された最後の王である自分の前で蟲の王になると宣言した私に何か、感じ入るものでもあったのだろう。

 尤も私は蟲の王になった瞬間、「クーレスが刻むゥ……貴様らは全員死ぬがいいっ!」と全ての民に集団自害を強制する虫類史上最悪の暴君になるのが既定路線であったが……そう語ると皇女は「いいなそれ! 我も童の頃はそういうことをやってみたいと思ってたなぁ!」と笑い、さらに嬉しそうな顔をしていたものだ。流石に冗談だと思いたいが……

 

 

 ──しかしそうなると困ったのが、デビルセクト四天王とイビルセクト・アルファの居場所である。

 

 

 情報によると一体は人間界のどこかに居る筈だが、M型含む残りの四体は全て魔界を拠点にしているとのことだ。

 共に逃避行を行っていた海底帝国の難民たちの中には魔族の者も少なくはなかったが、魔界への入り口を知っている者は居ない。

 人間界と魔界を往き来する方法だが、実は生前の魔王が開いたゲート以外にも自然に発生した開きっぱなしの固定ゲートが世界各地にあり、彼らが言うには人間界に住んでいた魔族は大多数がそこから忍び込んできたのだと言う。

 しかしそういった固定ゲートの存在は人間界側で管理されており、イビルセクトの人間界進出が始まって間も無く厳重な封印措置が施されたのだそうだ。当然の対応である。

 

 

「では、今はもう人間界から魔界へ行く方法は無いと?」

 

 

 あるにはある。この頃には大量の魔界産イビルセクトを人間界に放流する為に、アルファやM型が空にゲートを開いていた。そのゲートを使えば、魔界に行くことができるだろう。

 だが狡猾で残忍なアルファのことだ。そのゲートに何らかのトラップが仕掛けられているのは間違いなく、迂闊に飛び込むのは明らかに危険だった。いやまあこのご時世、どこに飛び込んでも危険なことには違いないだろうと割り切っていた私とナナシは、他に方法が無かったのなら迷うことなく飛び込むつもりではあったが。

 

 しかし、それから程なくして見つかったのだ。

 敵のゲートを使わずとも、もっと安全に、確実に、そして最短ルートでデビルセクト四天王のもとへたどり着く方法が。

 

 ──その鍵を握っていた人物こそが前回語った魔王の息子であり、消息不明から私たちのもとに帰還した元悪魔的吟遊詩人であった。

 

 「元」と頭につけたのは、再会してからの彼が悪魔的なロックンロールをしていなかったからである。

 白塗りのメイクも外した素顔を曝しフォーマルな装いで私たちのもとへ降り立った彼の姿は、まじまじと見なければ吟遊詩人と気づかなかったほどだ。……そもそも白塗りのメイクをしている吟遊詩人って何だよとは言ってはならない。

 流石に皇女は一目で気づいていたが、それほどまでに再会した彼は清潔感溢れる貴公子然とした姿に様変わりしていた。

 

 

「ファンタジー世界からロックが死んでしまいました……」

 

 

 記憶喪失が治ったことで、正気に戻っただけとも言えるがね。確かに海底帝国のイカレた三賢者だった頃の彼は、死んだようなものなのかもしれない。何より彼自身がそう自嘲していたものである。

 しかしそんな彼は、自らの本当の身分が魔界の王子であることを一同に伝えると続けて言った。

 

 

『陛下は海底都市の時と同じように、民を守る陣地を作りたいのでしょう? 私に付いてきてください。もちろん、全員ご一緒に』

 

 

 この混沌とした地上にはもはや安住の地など無く、それまで私たちは適当な場所に皇女の錬金術でキャンプを張りながら、近づいてくるイビルセクトを私とナナシで追い払い続けていく力技で避難民たちを守っていた。

 しかし、そのような生活がいつまでも持つ筈はない。

 特に今後はデビルセクト四天王にこちらから攻撃を仕掛けに行かなければならないのだから、私たちが離れている間も民が安全とは言わないまでも遠征中持ち堪えられるように守りを固めておく必要があった。

 

 長年終わりの見えなかった戦いに勝利条件がようやく見つかったことで「自分たちのことは気にしないで二人はそいつのところへ行ってください!」と民が覚悟を決め、ナナシの表情が曇るのを読み取った皇女が彼らのことを諫めた矢先の、魔王子からの申し出だった。

 

 予想外な再会と「お前誰だよ」という彼の変貌ぶりに対する二つの困惑に染まった一同の様子に苦笑を浮かべながら、突然現れた元吟遊詩人は私たちが探していた新天地へと案内していく。

 

 そこには強力な結界が敷かれており、自分を含め生き残った数少ない人々が避難所として扱っていると言う。

 

 自分たち以外にも生き残っていた人類が居たことに喜ぶ一同だが、「イビルセクトの索敵から逃れられる結界とはどういうことだ……?」と皇女は訝しんでいた。この期に及んで嘘を吐く理由も無いとは思ったが、この時の彼の姿は根拠は無いがなんか裏切りそうな胡散臭い雰囲気を纏っていたからな。悪いが私もちょっとだけ怪しんでいた。

 

 ──そんな気持ち少し不穏だった空気が和み始めたのは、彼がその不可思議な避難所へ案内する道中、勇者と皇女が彼との間で近況報告を交わしていた時のことである。

 

 

『先ほどから気になっていることなのですが……あのお嬢さんはどちら様でしょうか? 陛下以外に、帝国にあのような美しい少女は居なかったと記憶していますが……』

『……今はクーレスと呼んでいる。彼女は……』

『いつも勇者と一緒に戦っていたであろう? 貴様、少し見ぬ内に我が盟友の顔も見忘れたのか』

『……は?』

 

 

 勇者と皇女の傍に居る見慣れない美少女の姿を見て、彼も彼で不審に感じていたのだろう。その質問に対する二人の返答に思わずといった様子で立ち止まった後ろ姿を眺めていると、私にもほんの少しばかりイタズラ心が湧き上がってきた。

 

 そんな私は後ろからつんつくつんと彼の肩を小突くと、振り向いた彼の目に見せつけるように頭の上で「きしゃーんっ!」と二本指を立ててやった。

 指をツノに見立てた、荒ぶるカブトムシのポーズである。

 

 

「かわいい」

 

 

 カブトムシ怪人特有の挨拶という奴だ。

 尚も固まっている彼に対し、私がそのポーズのまま「ふふん、貴様が変わったように私も変わったということだ。これが完全体になった私だよ」と得意げに鼻を鳴らしながら懇切丁寧に説明してやると、何故かナナシがそっぽを向き皇女がそんな彼をニヤニヤした顔で見つめていた。

 そして説明対象である元吟遊詩人の魔王子はというと……

 

 

『!!??!???!?!?? ビャオッ!!』

 

 

 再会して早々貴公子然としたメッキが剥がれるように、彼はバグった奇声を上げながらどこからともなく取り出したどう見てもギターにしか見えないハープを掻き鳴らしていった。

 

 どうにも記憶を取り戻してからのアイツは普段こそ魔王子の名に恥じない胡散臭い美青年といった様相なのだが、動揺したりブチギレたりした時には以前のロックンロールを取り戻す変な二面性を手に入れてしまっていたらしい。

 この世界に二つと無い重厚なストロークと熱いビートを聴いた私たちは「あっコイツ本当にあの吟遊詩人だ」と確信を得たことで、晴れて戦友との再会をコール&レスポンス形式で喜び合うのだった。

 

 

「いい話ですねー……異世界のロックはまだ死んでいなかった」

 

 

 ああ、お互いの変わりようには驚いたが、私も死んだと思っていた仲間と再会できたのは嬉しかったよ。元から割と仲良い方だったし。

 

 

 ──だがその喜びも束の間、彼に案内された先でたどり着いたその地で出会った新たな存在に、私たちは驚愕することになる。

 

 

「それは……?」

 

 

 そう、それは──

 

 

 

 白くて、もふもふな……まるでカイコガの成虫のような姿をした──この世界の「神」が居たのだ。

 

 

「ブフォッ!」

 

 

 ……どうした急にそんなに咽せて。私の前で口に含んだ酒を噴き出さなかったのは偉いが。

 もしかして、あちらの神とキミは知り合いだったのか?

 向こうもキミのことはそれとなく知ってそうな様子ではあったが。

 

 

「ごほっ……い、いえ、私に構わず続けてください」

 

 

 そうか。

 では、そうさせてもらうぞ。

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