「完全体になりさえすれば……!」から始まる人外転生者の追憶   作:GT(EW版)

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フリージア

 陽の世界の守護神であるお蚕様が張り巡らせた結界の中には、地上に生き残った数少ない人類が集落を構えていた。

 その集落には何人か懐かしい顔ぶれも居て、かつて皇女に追放された者たちも居たのだからそれには驚いた。

 生きていたのなら皇女のことを大層憎んでいるだろうと、彼らとの間では何か一悶着あるかもしれないと私もそれとなく気にしていたのだが……彼らの顔には何故か皆、帝国に居た頃とは違って揃いも揃って「みなぎるやる気」と「あふれる忠誠心」を宿していたのである。

 

 性格が終わっている皇女としては、自分が追放した者たちとの再会には寧ろ「これは……これは久しぶりに、我の手で復讐者を返り討ちにできるやもしれぬ……!」とウキウキ反撃の準備を整えていたところである。うん、やっぱコイツ全然優しくないぞお蚕様。

 

 

『我らの命は既に陛下の物!』『全ては新たなる秩序の為!』『我らの絆! 心の光と共に!』

 

 

 しかしいざ対面に臨んだところ、思いきり冷や水を浴びせられた形になったのが彼らの変貌ぶりである。到着と同時に彼女の前にズラリと並び、一斉に聖騎士のように片膝を突いたその姿は壮観ではあったが何か、言い表せない恐怖を感じたものだ。

 決して自らを省みない彼女を相手取るには、真っ当な手段で復讐するよりも、そのようないっそ気持ち悪いぐらいの変貌ぶりを見せつけてやったのはある意味効果的だったのだろう。

 彼ら自身にそのつもりは無かったのだろうが、追放者たちが何故か自分のことをキラキラした目で見つめている状況に困惑した彼女は、その夜私の寝床に忍び込みながら怯えた顔で「我、アイツら怖い……なにイエスユアマジェスティーって……我そんな作法教えてない……」と泣きついてきたぐらいである。

 

 

「尊いですね……」

 

 

 皇女はそういう固有スキルでも持っているのかと疑うぐらい、人が吐く「嘘」については人一倍鋭い人間だったからな。故に、彼らが追放した張本人である自分に対して本心から忠誠を誓っていることを理解し、その意味がまるでわからなすぎて怖かったらしい。

 うん、私もあの変わりようにはビビったからわかる。失礼ながら、お蚕様に洗脳でもされているのではないかと疑ったぐらいだ。

 

 

「あの方はそんなことしませんよ」

 

 

 ああ、わかってる。洗脳は全くされていなかったよ。ひとえに怠惰だった彼らがそれほどまで変わり果ててしまうほどに、追放後の生活では色々な波乱があったということだ。

 

 

「色々な波乱ってなんかアバウトですね……」

 

 

 まあ私としては、彼らとはそこまで接点があったわけでもないからな。海底帝国に居た頃のアイツら大体自室に引きこもってたし。

 なので皇女が彼らに深い事情を聞いている間、私はナナシと一緒に束の間の休息がてら集落を巡らせてもらったものが……一周して帰ってきた頃には皇女と彼らの間で無事和解が果たされていた。

 よくわからんがヨシ!という奴だ。

 

 

「発端はどちらが悪かったのかは知りませんが、ともかく揉め事にならなくて良かったですね」

 

 

 まったくだ。集落で重要なポストに就いていたらしい彼らとの過去の確執から、彼女だけは結界内への受け入れを拒否される展開も覚悟していただけにここだけの話、私はナナシと一緒に色々と対策を用意していたのだが……それらの対策は無駄になったわけである。

 

 

「良かったですね」

 

 

 ああ良かったよ。

 何事もトラブルが発生しないに越したことは無いからな。彼らと何を話していたのかは当人同士の問題なので私は深く聞いていないが、生き残った人類の僅かな仲間同士、仲良くできるのは悪いことではない。

 

 ──ああ、それと集落には、私が羽化して間もない頃に出会い、何度か戦っては返り討ちにしてやった高慢ちきなドラゴンも居たな。

 

 

「最初期の敵ですね。懐かしい顔です」

 

 

 どうやらこの場所は最初に私が居た森からご近所のところにあったらしい。思えばあの辺りの自然だけ妙に豊かだったのは、あの頃から守護神の威光による影響があったからなのかもしれない。

 ドラゴンはこの集落のサイズに収まるよう少女の姿に人化していたが、私にはその身体から発せられるシグナルからすぐに擬態を看破することができた。人化と言っても、尻尾や羽はそのままだったしな。

 

 

「ほう、高慢ちきな竜娘ですか……大したものですね」

 

 

 何がだよ……

 

 で、そんな彼女に気づいた私は「久しいなドラゴン! あの頃は人の守護竜と知らず殴ってすまなかったな!」とかつての非礼を詫びながらも、顔見知りとの再会に喜び挨拶を交わしたわけだ。

 

 ……だが奴ときたら、私の姿を見ても「? だ、誰よアンタ……!」と警戒しながら怪訝な眼差しを返すばかりだった。

 

 

「いやそれは気づかないでしょうよ」

 

 

 だから面白いのではないか! 姿が大きく変わったからこそ、あえて正体を隠しながら馴れ馴れしく声を掛けてやろうというほのかなイタズラ心である。

 

 ……それでも魔王子の時のように「きしゃーんっ!」と荒ぶるカブトムシのポーズを取っても「?」って顔をされたのは予想外だったがな。彼ほど長い付き合いではなかったから、それも仕方ないか。

 見かねたナナシが私の正体を教えると「えっ、この子があのムキムキイキリカスオオカブト……!? はああああああ!??!?」と驚き、慌てふためいていたな。

 

 

「その挨拶定着したんですね。私にもやってください」

 

 

 断る。

 この挨拶は私が親睦を深めたいと思った相手にのみ、気まぐれにやっているものだからな。

 

 あれは第三形態の頃……私が海底帝国をぶらついていた時、私の甘いマスクが「怖い」と泣き出す子供たちがいてな。小学生男子ぐらいの年齢には「カブトの兄ちゃんカッケー!」と評判だったのだが、それ未満の赤ん坊や幼児、女児からはしばらくの間酷く怯えられていたものである。

 

 

「イビルセクトに似ていることは抜きにしても、大きな虫は好みが分かれますからね」

 

 

 まあ、それに関しては仕方ないことだと受け止めていた。何なら大人ですら初対面ならビビって当たり前の存在だからな私。人類抹殺用生体兵器の見た目は強面なのである。

 

 ……尤も今の姿になってからは幼児や女児受けが良くなり、寧ろあちら側からキャッキャと握手を求められるようになったものだが。

 逆に、今度は元々気安かった少年たちの方がよそよそしい反応を返すようになったぐらいである。

 

 

「生き残った子供たちの性癖が心配です」

 

 

 ああ、この荒ぶるカブトムシのポーズも元々は、そのように何故かよそよそしくなった少年たちとの距離を取り戻す為に考えていたものだったな。

 第三形態の頃は町の大人たちよりも早く打ち解けた彼らのことは、私もなんだかんだ気にかけていたと言うか……振り返ってみると日常のささやかな癒しになっていたのである。

 そんな彼らと打ち解けることができた最初のきっかけが「雄々しきツノ」だったことを思い出し、私は「姿は変わっても心は一緒だぞ!」というアピールも兼ねて思いついたのだ。

 そういう経緯を思えば、このポーズによる自己表現は我ながらパーフェクトなアイデアだと感心している。

 

 

「生き残った子供たちの性癖が心配です……」

 

 

 何だ壊れた機械みたいにリピートして? 変な女神だ。

 

 因みにこのポーズを子供たちに対して実際にやってみたら、幼児受けや女児受けはさらに良くなったが男児諸君らは顔を真っ赤にして固まってしまったものである。

 

 

「壊れましたね……」

 

 

 ……彼らが目を背けるほど恥ずかしいものかねこのポーズは? ナナシに訊いてもわからなかった。使えん奴である。

 

 

「恥ずかしいと言うか、なんでしょうね……自分たちを守ってくれる頼れる聖獣様がある日突然綺麗なお姉さんになったら、子供たちだって戸惑いますよ。……色んな意味で」

 

 

 それはそうだろうが、数日経っても慣れてくれなかったのは流石にどうかと思うがね。まあ彼らも私のことを嫌いになったわけではないと、それだけはわかったから良いが。

 

 ただ私がこの姿になってから、子供たちも子供たちなりにできる範囲で率先して働いてくれるようになったと皇女は語っていたな。この絶望的な状況下でも希望を捨てずに生きていた彼らを見て、女帝たる彼女もご満悦である。

 アイツもあれで自国の子供たちには割と優しいからな。元気な彼らの姿を眺めている間だけは、少しだけ穏やかな顔をしている気がした。

 

 

「……守らなくちゃいけませんよ。そういう子供たちは」

 

 

 ふん……当然だ。

 

 

 ──さて、そのように新天地では嬉しい再会があったわけだが、お蚕様も言っていた通り、もちろんその楽園はいつまでも維持できるものではない。

 

 

 故にそこは永住の地ではなく、あくまでも私とナナシが留守の間、戦えない者たちを預けておくベースキャンプとして扱うことになった。

 しかし伝説の守護神が保証人となっているその集落は、キャンプ地としてはこれ以上無く信頼できるものだった。おかげで私たちも、憂いなく敵と戦えるようになったわけだからな。

 

 

「もう人間の味方であることに言い訳もしなくなりましたね貴女」

 

 

 ……あーあー聞こえなーい。

 

 ともかく! 私とナナシが自由に動けるようになれば、再びイビルセクトジェノサイドツアーの始まりである。

 しかし今回のそれは、私たち二人で目についたイビルセクトを無計画に片っ端から蹴散らしていくものではない。かつてとは違い、私たちが少しでも動きやすいようにと皇女をはじめ多くの人々からサポートを受けた上で、討伐目標を「デビルセクト四天王」に絞り込みながら戦略的に活動することとなった。

 持つべきものは、優秀なブレインと頼れるサポーターである。ここまで生き抜いてきた彼らのバックアップは予想以上の助けになり、これにはナナシも「これほどに、良いものだったんだな……後ろを誰かに任せて、目の前の敵と戦えるのは……」としみじみ呟いていたな。

 しかしその後、戦闘の最中に改まって私の方へ向き「ありがとう、クーレス」と礼を言ってきたのには、なんだか死亡フラグみたいだからやめろと慌てて返したものである。

 

 

「もう何も怖くない……」

 

 

 やめろ。

 そもそもお前は最初から一人じゃなかっただろうが!と、私はその時奴の聖剣を指差しながら言ってやったがな。

 

 

「キシャーンッ」

 

 

 そうとも、気づかなかっただけで、奴には最初から無二の親友が居たのである。

 そのことを指摘したら自分の剣に対して申し訳なさそうに詫びていたが……その後何を思ったか戦闘終了後、彼は戦闘形態(ファイターモード)を解除した私を見てこんなことを言ってきたものである。

 

 

『……クーレス……の他に、もう一つ名を与えても良いか? その名だけだとお前自身を呼ぶ時、少しややこしい』

 

 

 クーレス(私の名前)。

 クーレス(戦闘形態の名前)。

 クーレス(聖剣の名前)と、この時点では三パターンあったからな。

 

 「言われてみれば確かにややこしいな……」と苦笑しながら、私は彼の申し出を快く許可した。

 まだこの時点では良い名前を思いつかないからと即日の命名とはいかなかったが、私としては戦闘形態のカッコ良さを意識した「クーレス」に対して、次に貰う名前はこの姿(トランジェントモード)を意識した美しい響きが良いなとリクエストを出してやったものである。

 

 

「なるほど……そうして決まったのが、「リラ」というファーストネームですか」

 

 

 その名を付けられたのはもうしばらく後になるがな。

 キミも知っていると思うが奴は無駄に生真面目だから、安易な名前は付けられないと真剣に悩み続けた結果命名まで随分と遅くなってしまったものだ。

 

 

「ふふっ、あの子らしいですね。……それはそうと変身を解除した時って、やはり全裸になるのですか?」

 

 

 やはりとは何だやはりとは! 人をヘンタイみたいに……着ているに決まっているだろう。裸だったのは、元から服を着ていなかった最初だけだ。

 

 

「それは安心しました。毎回裸になるのでは、流石の私もあの子の親代わりとして物申さなくてはならないところでした」

 

 

 ……急に真面目な大人みたいなこと言うじゃないか。

 

 確かに私の感性はまともな人間の女性とは違うが、その辺りの常識は弁えている。

 これでも前世は人間だったのでな。初めこそ着慣れない和装を着崩してはだけさせてしまうこともあったりしたが、数日も経てば女神に謁見を許される程度の嗜みは身についた。……一番身近な女性の作法として皇女を参考に学習していたから、今も時々高貴な仕草が滲み出ているかもしれんがね。

 

 

「ああ、だから座った姿勢が偉そうなんですね。……いや、偉そうなのは元々の素養でしたか」

 

 

 それはともかく。

 

 本格的にデビルセクト四天王の討伐に動いた私たちだが、五体の四天王の内四体は魔界に居る現状、私たちには魔界への移動手段の確保が急務だった。

 そこで我こそはと身を乗り出したのが、魔王の血を引く元デスメタルバンドマンこと魔王子である。魔王代々に渡って伝わる「ゲート開放の秘術」を、王子である彼もまた習得していたのだ。

 

 しかしそれを発動するには今のままではMPもとい魔力が足りない為、王子から魔王にランクアップする為の「洗礼」を受けなければならないとのことだった。

 そしてその「洗礼」というのがまた厄介な手順が必要らしく……お蚕様が語るには、彼女の対となる「陰の世界の破壊神」から膨大な魔力を受け取る必要があるのだそうだ。

 

 

「……聞いてくれますかね破壊神様? 私だったらお断りしますけど」

 

 

 辛辣だな……だが確かに、事が魔族の科学者のやらかしから始まっているだけに、魔界の神様が快く承諾してくれるかどうかは分の悪い賭けだったと思う。

 

 ああ、因みに破壊神の居場所はお蚕様が教えてくれたよ。

 普段は陰の世界──魔界の深層に眠っているのだが、宇宙怪獣スペース・カブトムシの侵攻を防いだ後は陽の世界──人間界の荒野に不時着し、そのまますやすやモードに入っているらしい。

 

 

「すやすやモードってかわいいですね破壊神様……」

 

 

 そんな破壊神に協力を頼むのは、キミの言う通りお断りされるどころか厚かましいとブチギレられても仕方ない話ではあったが……そこはお蚕様の仲介とあの魔王子の誠意、そして今も世界を救おうと足掻いている人々と勇者ナナシ、私の働きに免じて最終的にはどうにか「洗礼」の許可を得ることができた。

 

 

「二柱とも寛大な神様で良かったですね」

 

 

 それは本当にそう。

 私とナナシはその時邪魔が入ったので破壊神と直接会うことはできなかったが、陰の世界の破壊神も物騒な肩書きの割には案外優しい神様だったのではないかと思っている。

 後で聞いた話だが、魔王子に洗礼を与える際には『俺が目を覚ました時には、人間諸共地上を焼き払うつもりだ。それまでに精々鬱陶しい羽虫共を片付けておくことだ』と最終通告とばかりに呼びかけていたそうだ。

 

 

「意訳すると「俺が起きるよりも先にイビルセクトの問題を解決してくれるなら許してやる」と……そんなところでしょうね。ツンデレさんです」

 

 

 お蚕様もそう解釈して『あのコもかわらないなぁ……』と呟いていたな。

 しかし新しい魔王の誕生はイビルセクト・アルファにとっては面白くなかったのだろう。洗礼の際には「洗礼の途中だがイビルセクトだ!」と大量のイビルセクトが妨害に現れ、その群れの中には人間界に現存する私以外の最後のデビルセクトの姿まであった。

 

 奇遇にもデビルセクト四天王との最初の決戦は、あちら側から仕掛けてきたというわけだ。

 

 

「来ましたね。最初の四天王はやはり氷属性ですか?」

 

 

 いや、氷属性のデビルセクトも居たがコイツではない。

 

 

「居るんだ……」

 

 

 ああ、「四天王」という呼称のイメージ通り、奴らはそれぞれ得意の元素を使役する能力を持っていたぞ。私だって雷撃てるし、他のデビルセクトがその手の力を扱えても何らおかしくはないだろう。

 

 そしてこの時私たちの前に現れたデビルセクトは……わかりやすく言うと「地属性」だった。

 

 全長50mに及ぶカブトムシに似た姿はあの時暴走していた私やM型の姿を彷彿させるが、他の個体よりも多い五本のツノを携えたその頭部は前世の世界で言うところの「ゴホンヅノカブト」に似ていた。

 尤もそのツノはドリルのように回転したり毒を持っていたりビームを出したりと、一本ごとに迷惑極まりないユニークな固有能力を備えていたものだ。

 あと、口からは地底から吸収したマグマの弾丸を吐き出してくる。全身の外殻はマグマで体表に溶接した頑強な岩に覆われており、もはやシルエット以外に虫要素が見当たらなかったほどだ。

 

 

「ハンティングゲームに出てきそうなモンスターですね……」

 

 

 今まで地底深くに潜んでいたから見つからなかったのであろうそのゴホンヅノデビルセクトは、数年間に渡って力を蓄えていただけあって今までの敵とは別格の強さを持っていた。

 ピンチになると地面に潜りながら引き撃ちしてくるし、図体に似合わず高度で狡猾な知能も持っていたな……私が第三形態の頃にエンカウントしていたならば、一人では負けていたかもしれない。

 

 ──しかし完全体になった今の私の前では、もはや恐るるに足らない相手だった。

 

 奴が引き連れてきた大量のイビルセクトの相手をナナシに任せると、私は一対一でデビルセクトとのタイマンに当たった。後ろは任せたという奴だ。

 

 死闘は三十分ぐらい続いたが、最終的には岩に覆われた外殻も五種の能力を持つツノも、さらに進化した私の稲妻の如き剣技の餌食となった。

 

 全てのツノを斬り飛ばした後で頭部を抉り斬り、剥き出しになった核に向かって至近距離から浴びせた我が必殺技「クーレスビーム」でトドメを刺してやったのである。

 

 

「クーレスビーム……」

 

 

 ツノから放つ人類抹殺ビームの発展技である。

 いや……一応私もデビルセクトの枠組みである以上は、技名だけだろうとあまり「人類抹殺」を吹聴するのもいかがなものかと思ってな。最初は「人類救済ビーム」にでも改めようかと思ったのだが、それだと私のイメージが天使とかそっち系の神々しさを纏うことになるのに抵抗感があったので、呼びやすさも加味して無難な技名に落ち着いたというわけだ。

 

 それに伴い他の技名も「クーレスパンチ」、「クーレススラッシュ」、「クーレスサンダー」と改めることになったが……私としては字数的に呼びやすくなったのでアリである。因みにサイドスカートから放つ触手には「クーレスアンカー」と名付けておいた。

 

 

「前のネーミングの方がかわいくて好きだったのですが……カブトムシパンチとか」

 

 

 かわいくしてどうするんだよ……敵を殺す為の技なのだから、無骨な感じで十分だろう。

 ナナシの技なんて技名すら無いんだぞ。

 

 

「……あの子にとって、「名前」というのはそれだけ重い祝福なのでしょう。それこそ自分なんかの技には、付ける価値が無いと思っているほどに」

 

 

 ……理解度が高くてムカつく……何年も会ってないくせに。

 

 

「共に過ごした時間の長さというのはもちろん大事ですが、それだけでは語れないこともあるということです」

 

 

 ……そうか……そうだな。

 今のは私の失言だ。ごめんなさい……

 

 

「ふふっ、構いませんよ。今更出てきて母親面されるのもイラっと来るでしょうし……その程度の嫉妬はかわいいものです」

 

 

 かわいい言うな。

 どう見ても美しいタイプだろう私の容姿は。

 

 

「そう言うところがかわいいんですよ」

 

 

 意味がわからん。

 

 ……まあ良い。それはそれとして話の続きだが……私がデビルセクト四天王の一体であるゴホンヅノデビルセクトを倒したのとほぼ同時に、地上から高々と何者かが飛翔していったのはその時だった。

 

 それは胡散臭い美青年の姿をした魔族の貴公子──魔王子である。

 

 しかしその身は今までの彼には無かった威圧的なオーラを纏っており、背中にはこちらも今までの彼には無かった特徴的な模様の羽が広がっていた。

 前翅と後翅の四枚構造となっているその羽は、彼ら魔族の特徴である悪魔的な翼の形ではなく──蝶あるいは蛾の羽のような形をしていた。

 

 禍々しさすら感じる新たな羽を得た魔族の王子は、敵残存戦力の掃討を終えたナナシとデビルセクトを倒し戦闘形態(ファイターモード)を解除した私の姿をそれぞれ見下ろしながら、告げる──。

 

 

『諸君、作戦は成功した……我々の勝利だ』

 

 

 その得意気な顔を見た瞬間、「あっコイツ今最高に調子に乗っているな」と……私は自らの経験者としての勘から、その時の彼が圧倒的な力を得た全能感に心が満たされていることを速やかに察したものだ。

 

 ──すなわち、イキリカスダイマオウである。

 

 破壊神の洗礼を受けたことで新たな魔王として覚醒した彼は、世が世ならこのまま世界征服にでも出立していたのだろうなという風体で高らかに宣言した。

 

 

『聞け! 生き残った全ての人類よ! 今、3000年の眠りから、破壊神のもとに大魔王は蘇った! 魔族を名乗る身であれば、この言葉がどのような意味を持つか理解できるだろう! 魔界において大魔王こそが唯一絶対の力を持ち、その頂点に立つ! 席次や思想に関係無く、従わねばならないのだ! 陰の世界の破壊神に誓って!』

 

 

 このおっさん、ノリノリである。

 

 一体破壊神のところでどのような対話をしてきたのか気になるところであったが、ともかくおめでとう! 魔王子は大魔王に進化した!




 イビルセクトが居なかったら多分この大魔王と皇帝になった皇女の間で仁義なき戦いをしていたところに奇跡の覚醒を遂げた追放者たちが混ざってそれはそれでカオスな世界になっていました。神は二柱とも仲良く不貞寝します(´・ω・`)
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