「完全体になりさえすれば……!」から始まる人外転生者の追憶 作:GT(EW版)
何はともあれ魔王子が魔王を飛び越え大魔王に超進化したことで、私たちは最大の懸念事項だった魔界への移動手段を手に入れたわけだ。
そうなればいよいよ私たちの戦いは佳境となり、魔界に潜むデビルセクト四天王との大決戦の幕開けである。
「一体倒したから、四天王は残り四体ですね。……あれ?」
何もおかしくないな!
さて、魔界の広さは人間界と同じぐらいあるという話であり、今やイビルセクトの総本山となったその世界を律儀に歩き回り、デビルセクトを地道に探し回るのは現実的ではない。
闇雲に出掛けるのではまた何年も掛かってしまう可能性があったところを、彼が大魔王になったのは僥倖だった。
と言うのも、大魔王となった彼は人間界に居ながら魔界の状況をある程度観測し、把握することができるようになったのだ。それは元々破壊神が備えていた権能の一部を扱えるように、洗礼の際に受け継いだのだと言う。
「あのお方も大概、面倒見が良いですよね……」
ああ、お蚕様も甘かったが、対となる破壊神もサービスが良かった。星の神からしてもイビルセクトは生かしておけない存在だったのだろうが、それにしてもダダ甘である。
そんな破壊神に対してだが、魔王子は幼い頃から憧れを抱いていたらしい。
洗礼を受けた直後のテンションの高さは、長年の憧れだった破壊神から認められたことで喜びが限界突破したからだと思うと少しだけ微笑ましく思う気持ちが無くもなかったが……想像以上の力を手に入れた魔王子改め大魔王は、人類にとって頼もしい存在となった。
人類にとって頼もしい大魔王というのも変な話だが。
「最近は結構居ますよ光堕ちする魔王様」
居るのか……世界は広いな。
ともかく破壊神から受け継いだ権能で魔界の状況を把握した彼は、魔界の中で一際大きな力が蠢いている場所を四カ所に絞り込んでみせた。
それこそがデビルセクト四天王の居場所だと判断し、直通のゲートを開くことで大幅な時間短縮が可能になったというわけだ。
「ダンジョンの探索時間を大幅にカットした感じですね」
味気が無いが、人類側にはもはや時間が残されていないのだから仕方あるまい。
そうしてデビルセクト四天王に対して、ピンポイントな強襲作戦が始まったわけである。
イカレた突入メンバーを紹介するぜ! 私とナナシと大魔王! 以上だ。
「うーん……少ない」
仕方あるまい。戦える者は他にも居たが、はっきり言ってこの戦いにはついていけそうになかったのだ。
それでも「魔族の王が行くならば我々も!」と、皇女の忠臣となった元追放者たちも人間界代表として行きたがっていたが、魔界へ乗り込む戦力としては少々心許なかった。皆防衛の為の戦力としては、それなりに優秀だったのだがね。
そして、それは皇女も同じである。
彼女も準備万端であれば現存するナナシ以外の人類の中では間違いなく最強クラスの戦力なのだが、いかんせん彼女の能力は拠点防衛に向きすぎている。
長年の研鑽からこの頃には金を錬成する本来の意味での錬金術も自在に扱えるように成長していたので、彼女は自身が錬成した金を使って強力な武器を次々と錬成していく一人永久機関としての行動も可能になっていた。世が世なら、彼女を巡って世界が滅びかねない逸材である。
「戦後の復興には居てもらわないと困る人材ですね……」
戦後の世界を治める王としては、危なすぎる思想を持っているがね。
だが確かに、彼女の場合は王だから危険な魔界に飛び込ませたくないというよりも、今後の世界の為に絶対に必要だからこそ人間界に居てもらわないと困るということで、ナナシにも説得を頼んだ結果渋々ながら引き下がってもらった。
……ああその際、二人が交わしたこんなやり取りを印象深く記憶している。
『我に戦後の世界を平和に治めさせたいのなら、我が国からも誰か派遣せねば後々、次世代の民の心象に響くと思うぞ? 魔族……魔界人は王自ら出陣したのに、とな』
『……? 何故、そんなことを気にする?』
『何故って、そういうものだからだ。平和になった退屈な世界のことなど考えたくはなかったが……この戦いが後世に語られる時、当時を知らぬ民は書物に陳列された記録から事実を読み取る。その英雄譚に途中から王の名が消え去るのでは、示しがつかんと思ってな……基本的に、己の命よりも後世に語られる名誉の方が重いのが我が一族という生き物なのだ』
『……だが、姫は違う。貴女は何よりも自分の命を大切にできる人だ』
『……そうだな。後世に刻む名誉など、我が生き延びさえすればどうとでもなる。つまらんことを言った。忘れてくれ』
『私では不足か?』
『……む?』
『魔族の王が行くのに人間の王が行かないのが不満なら……私を王族に加えれば良い』
『…………………ぇ?』
報告書を淡々と読み上げるように、なんてことの無い態度で奴は言ったものだ。
それは木陰に潜むカブトムシのような姿勢でそーっとそのやり取りを見守っていた私が思わず歓声を上げたくなった一言であったが、正面から受けたあの女の衝撃たるやどれほどのものだっただろうか。
頭の回転が早い皇女は彼の回りくどい言い回しの意図を速やかに理解したのか、その瞬間ボッと頭がショートしたように顔を真っ赤にして硬直していた。
そんな生娘のような彼女に、彼がトドメを刺す。
『……夫なのだろう? 私は貴女の』
「ホアアアあああーっっ!?」
……うるさいな突然爆発する司令官みたいな奇声を上げてどうした? ここからの皇女の態度がこの話一番の見どころだというのに。
「だってだってだって! それってもうプロポーズじゃないですかッ! 夫呼びを遂に認めたんですよ!? 最初に言ってた出会い、そして結ばれる二人ってそういう……読めませんでした! この湖の女神の目を以てしてもッ! てっきり私はナナシは貴女とくっつくものとばかり──!」
くっつく言うな。
……あと、別にこれプロポーズとかそういうのじゃないぞ?
どうにも私たちの出立が決まってから少しアンニュイな雰囲気になっていた皇女のことを元気付ける為に捻り出した、ナナシなりの励ましの言葉だったらしい。
もちろんその言葉は決して冗談だったわけではなく、真剣に考えた上で、彼は「それが後世の為になるのなら、自分の名前は書類上の親類としても好きに扱ってくれて構わない」と──何か深いところで間違った機転を働かせたのである。
「クソボケが!!」
女神が汚い言葉を遣いながらテーブルを叩くな。クーレスが怯えてるだろうが。
「あっすみません」
「キシャー……」
……まあ、私も木陰から聞いていて流石にそれはどうかと思ったので、その場に颯爽と飛び出すなり抗議の意味を込めてクソボケ野郎の背中にコツンコツンと頭突きを喰らわせてやったものだ。
「カブトムシ要素があざとい……」
うるさい。
あのクソボケなりに一生懸命気を働かせて捻り出した言葉なのだから、殴ったり蹴ったりするのもどうかと思っただけだ。だから間を取って頭突きで勘弁してやった。してやったのだが、こっちの方が痛かった。アイツの背中硬すぎるんだよ……
「かわいい」
……まあ皇女の奴も意識が戻った後はすぐに言葉の裏を読み取ったようで、苦笑をたたえながらも「……我は書類の関係に収める気は無いぞ?」といつもの元気を取り戻し、ナナシの肩を叩きながら去り際に囁いていたものだ。
あと、何故かその際流れるような動作で私の頭を撫でてきおった。
その時のアイツが何を思っていたのかはわからないが……奴も大人になったということか、昔よりも少しだけ撫で方が優しくなったような気がした。
「もうリラ×皇女ルートで良くないですか?」
何の話だ。
まあ、それはそれとして──私たち三人はゲートへ突入し、いざ魔界へと出陣したわけである。
そしてその先に待ち構えていたのは大魔王が事前にリサーチしていた通り、他とは一線を画した強大な力を持つ特異個体、デビルセクトの巨体だった。
「今度こそ氷属性ですね!」
いや、コイツは違うぞ。
RPG風に言うならば「草属性」ってところかな。外殻が蔦や木に覆われていて、爆発する木の実を落としてきたり毒性の高い花粉を飛ばしてきたりと図体のみならず搦め手が豊富な厄介な敵だったよ。
「草」
なにわろてんねん。
しかし草属性と聞くと火力よりも支援能力に秀でたイメージがあるが、このデビルセクト「エレファスデビルセクト」は本体のパワーも桁違いだ。
何せ全長が100m近くあるからな。M型と同等のサイズでツノは短めだがその体重量はぶっちぎりであり、ツノを除いた身体の大きさなら間違いなくコイツがデビルセクト四天王最大の巨体の持ち主だった。
故に私は世界最重量のカブトムシから名を拝借して、標的名を「エレファス」としたわけだ。
「エレファスゾウカブトでしたっけ? ああ、あんな感じのイメージなら確かに草っぽいですね」
体色も木の色だしな。コイツの場合は木に隠れる為の保護色ではなく、イビルセクトにとっての大樹そのものと言える存在だったが。
自分自身の肉体からイビルセクトの好む樹液を放出し、それを飲ませることで群れをドーピング強化するという、集団戦では実に厄介なバフ効果を撒き散らしていた。
そんなボスだからか随伴するイビルセクトの数も四天王の中で最も多く、大魔王のゲートを使ったピンポイント強襲の筈が結局膨大な数と対峙することになった。
その為相性の関係から、エレファスデビルセクトの相手をナナシと大魔王が、他多数の雑魚の相手は私がそれぞれ引き受ける形になった。
「草属性は貴女と相性悪いのですか? かみなりの通りがいまひとつとか」
そういうわけではない。私の攻撃は問題無く通るし、相性と言っても他のメンバーと比較した相対的な話だ。
奴の撒き散らす花粉には非常に強力な毒があると言ったが、ナナシはキミの加護で、大魔王は大魔王的な耐性でそれぞれ無効化できる。私にも超再生力があるので毒を喰らってもすぐに解除できるのだが……毒に対して解除手段があるのと、そもそも効かないのでは後者の方が乱戦時には有効だろう?
私の場合は一瞬とは言え、効くことには効いてしまっていたからな……一度その毒で私の変身を強制的に解除させられた時は大いに慌てたものだ。
ナナシが。
「ナナシが」
私? 私はそこまで慌てなかったよ。そんな毒も使うのかと驚きはしたが、別にこの姿でも戦えないわけではないからな。
確かに戦闘形態クーレスと比べれば能力は落ちるが、この姿でも刀を振るうことも雷を放つこともできる。痛みに弱くなるのは致命的な弱点だが、超再生力で毒を解除するまでの僅かな時間をノーダメージで乗り切るぐらいならわけも無かった。
……それを知っている筈だろうに、ナナシの奴は飛行中の私がこの姿になった途端、落下していく私を受け止めては過保護なまでに私に対する敵の攻撃を切り払っていたものである。
「お姫様抱っこされたんですか!? されたんですね!」
……屈辱は、黙秘する。
と、ともかく、私が後衛としてサポートに回ったのはナナシの精神衛生面に配慮したが故でもあった。
彼にとってこの姿の私は、毎回稽古で転ばされては慣れない痛みに悶絶しているイメージが強かったのだろう。それでも心配そうな顔をするナナシの様子にイラッと来た私は「何を躊躇している勇者!」と彼の背中を足で小突くと、「安心しろ! お前を殺すまで、私は死なないから!」と言い渡すなり惜しみなく雑魚散らしに全力を尽くしてやった。
その頃には既に身体に回った毒は解除済みで再び戦闘形態に変身することもできたのだが、奴には今一度私が強いことを知らしめてやる為、あえてこの姿のまま大立ち回りを演じてやったものだ。
……そうでもしないとこの姿の私を、一生足手纏いだと思い込んでそうだったからな。重ねて言うが、私は別に非戦闘形態でも第三形態の頃より強いのである。
「その姿の貴女が、よほどあの子の庇護欲をそそったのか……或いは昔守れなかった誰かにでも重ねていたのかもしれませんね」
……そんなところだろうな。
奴は口にしなかったし、私もあえて踏み込もうとはしなかったが。
しかし理由が何であろうと、過剰に守られるのは今日まで共に戦ってきた私にとって屈辱以外の何物でもない。若い女性とかならそういう扱いにときめいたりもするのだろうが、生憎元がカブトムシ怪人である私にお姫様願望は無いのでな。
私の剣技を以て今の私の力を知らしめてやると、奴も腹を括ったのか雑魚の相手を私に任せ、大魔王と共にエレファスデビルセクトのもとへ突貫していった。
なお、大魔王はそんな私の言葉の何に感銘を受けたのやら、ロックンロールを解放しどこからともなく取り出したどう見てもギターにしか見えないハープをギュインギュイーンッ!と掻き鳴らしていた。
大魔王になった恩恵か、その演奏はもはや音波兵器と化しており、物理的な殺生力を以てイビルセクトを次々とサツガイしていったものである。
あとなんか弦からビームも出してた。こう、ファイヤー!って感じに。
「ソリタリーウェーブですね」
最高だっぜ!
大魔王に対しては魔界へのフリーパスとしての役割が大きく、実を言うとデビルセクト四天王に対抗する戦力としてそこまで期待していたわけではない。
寧ろ皇女同様替えの利かない人材なので、なるべく前に出ないでほしいとまで思っていたぐらいだが……彼はそんな私の失礼な見立てを大きく上回る活躍を見せてくれたものである。
流石に私とナナシほどの戦闘力ではなかったが、魔王故に素であらゆるデバフへの耐性を持っているのが頼もしく、さらには海底帝国の三賢者時代に培ってきた超一流吟遊詩人としてのサポート能力、破壊神から受け継いだ超パワーも併せてオールマイティーに隙の無い、ソシャゲで言うならば「どのステージでもとりあえずコイツをパーティに突っ込んでおけ枠」として大いに役立ってくれた。
「大魔王様なのに、気配り上手なサポーターなんですね」
ソシャゲではよくあることだと、私に残っている偏った前世の知識が言っている。実際どうかは知らん。
何にせよ、完全体になった私とナナシの戦いに着いていけている時点で大概の化け物だったと思う。洗礼を受けた直後に高らかに舞い上がってしまったのも納得なその性能は、世が世なら恐怖の大魔王として数百年に渡って君臨し続けていたかもしれない。
そんな彼とナナシのコンビネーションは圧倒的なスケール差も何のそのとばかりにエレファスデビルセクトを果敢に攻め立て、ナナシに至っては私の掛けた叱咤が効いたのか一段とキレの良くなった剣捌きで敵の身体を削り落としていった。
私は私で二人を邪魔しようとする無数のイビルセクトをバッタバッタと薙ぎ倒しながら、強くなった自分自身の進化にうむうむと頷いていたものだ。
──それからエレファスデビルセクトの核が斬り裂かれ、その巨体が完全に沈黙したのが一時間後ぐらいのことである。
これには本気のナナシと大魔王を同時に相手取り、そこまで持ち堪えてみせた敵の頑丈さにこそ賞賛を贈りたいところだった。
「同じデビルセクトでも、やはり魔界産の方が強かったですか?」
まあ、そうだな。
私は別枠としても、エレファスデビルセクトは私がタイマン三十分ぐらいで倒せたゴホンヅノよりは明確に強かっただろう。
ナナシが言うには今は亡き皇国の攻防戦で戦ったというデビルセクトも、エレファスほど大きくも強くもなかったらしい。他二体は完全体になる前に討伐したので参考にし辛いが、基本的に魔界の方が強い個体に成長するようだ。基本種であるS型やL型も人間界のより一回り大きかったし。
「環境と天敵の差でしょうかね」
元々魔界の環境はイビルセクトの生育に丁度良い上に、魔界にはナナシという天敵が居ないからな。求道者は厳しい環境ほど強くなると言うが、奴らの場合は生ぬるい環境の方がすくすくのびのび成長できるということなのだろう。
──とは言え、これで倒すべきデビルセクト四天王は残り三体となったわけだ。イビルセクトの総本山である魔界に生息するイビルセクトの数は人間界の比ではなく、その地帯のボスたるエレファスデビルセクトが死した後もとめどなく、蟲共は私たちのもとへ雪崩れ込むように襲い掛かってきた。
もちろん、そんな大群の相手を律儀にしてやる気は無かった私たちは、当初の予定通り大魔王の開いたゲートからトンズラを決め込み、人間界へと脱出していったわけである。
その際には何を考えていたのやら、一人だけ群れと戦う気を見せていたナナシの手を私が無理矢理引っ張りゲートへと押し込んでやる一幕があったものだが……まあそれはどうでもいいことだろう。
彼が発作のように自ら進んで死地へ飛び込んでいく癖があるのは、私にとってはもはや慣れた光景だった。
そしてそれを見た私が、こう呼び掛けるのも。
『この私がお前を殺すまで、勝手に死ぬのは許さないからな』
……その言葉に対して安心したように息を吐くのも、見慣れた姿だった。
本作を書くにあたって小学生以来ぶりに世界のカブトムシについて調べてみたら、どうしてそんな姿になっちゃったんですかって姿のがたくさんいて現実の昆虫のファンタジーぶりに驚いています。
そろそろ本作も終盤です。