「完全体になりさえすれば……!」から始まる人外転生者の追憶   作:GT(EW版)

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 割とどうでもいい話。


今明かされるイビルセクトの真実……!

 デビルセクト四天王アトラスの危機に舞い降りた、同じくデビルセクト四天王のネプチューン。

 その特徴は人の言葉を喋る、見るからに炎属性のカブトムシ怪人であったが……その性格は悪辣かつ陰湿なものだった。

 

 そもそも彼がこのタイミングで姿を現したのは、同胞を助けに来たからではない。

 既に死に体だったアトラスデビルセクトの上に降り立った奴は──その手に携えた大太刀で、アトラスの核を突き刺したのである。

 

 

「仲間割れですか?」

 

 

 元々デビルセクト同士の間で仲間意識があったのかは、怪しいものだがね。

 しかし悲鳴のような叫びを上げるアトラスに対して、自らネプチューンと名乗ったデビルセクトは「この時を待っていた……同胞よ、我が糧となるが良い」と呟き、突き刺したその大太刀から禍々しい光を解き放った。

 

 その光景に何か嫌な胸騒ぎを感じた私は二体まとめて葬り去るべく、先手を打ってツノからクーレスビームを放ったものである。

 

 しかし着弾と同時に巻き起こった爆煙から出てきたのは、「氷の鎧」と「炎の陣羽織」を身に纏い、歪ながらもさらに人型の姿に近づいた二足歩行のエセブシドーデビルセクトの姿だった。

 

 そんな彼が現れた途端、アトラスデビルセクトの生体反応は完全に消え去り、傍にあった筈の核の姿も無くなっていた。

 その状況を一目見れば、今しがた起こった出来事にも概ね察しがつく。

 

 

「……アトラスを、食べたのですか?」

 

 

 捕食と言うよりは、「吸収」という感じだったがねアレは。

 

 察しの通り何が起こったかと言うとそれは、彼は漁夫の利を得るようにアトラスデビルセクトの核を自らの肉体に取り込むと、その力を自らの物として取り込んだのである。

 

 それによって奴は元々備えていた炎の力に氷の力を加え、相反する力を併せ持つ混沌のカブトムシ怪人へと進化したというわけだ。

 

 

「炎と氷を操る海神ネプチューンですか……とっ散らかりすぎてまるで意味がわかりませんね」

 

 

 それな。

 

 尤もネプチューンの由来は世界でヘラクレスの次に大きなカブトムシである「ネプチューンオオカブト」から取ってきたのだろう。ツノの形とか胸に二つの突起があるところとか、実際面影が無いわけではなかった。

 それにしたって炎と氷を扱うカブトムシ型の怪人とか、男の子が好きそうなものを闇雲に混ぜ合わせたような存在であったがね。

 性格もそのイメージに添ったお子様ランチ的な奴だったら良かったのだが──残念ながら、そうはいかなかった。

 

 

『我が姿は摂理……我が姿は戒律……畏れよ! 崇めよ!! この禍々しくも美しい、新世界を統べる混沌の邪神──ネプチューンを!』

 

 

 ……とかなんとか、進化した際にはそんな感じのことをほざいていたものだ。

 

 アトラスを吸収したことで多少人格に影響を受けていたのかもしれないが、最初に現れた時の渋そうな武士然とした印象はどこへ行ったのかと思うほどに、イキリ立った尊大な態度だった。

 

 ? どうした湖の女神? そんな「アイテテ……アイツツマンネ」とでも言いたげな、痛々しいものを見るような目は。

 

 

「……いえ、予想外なタイプの性格だったので呆気に取られただけです」

 

 

 そうか。まあ実際痛々しい勘違い野郎だったのは違いないので、キミの反応は正しい。

 人間の言葉を話している筈なのに、私には奴の言っている言葉の半分も理解できなかったからな。何なら本能で動いている他のイビルセクトの方がよっぽど何を考えているのかわかりやすいぐらいだった。

 

 

「言葉はわかっても話がわからないという奴ですね。私たちにもよく居ますよそういう方」

 

 

 だが、そんな不気味な奴だが強さは本物だった。

 アトラスの核を吸収したことで、単純に考えてもデビルセクト二体分のパワーを手に入れたわけだからな……右手の大太刀からは獄炎を放ち、左手には進化したことで新たに得たらしい氷の剣を携えていた。

 二刀の剣士となった彼は圧倒的な出力のもとで相反する属性を自在に操り、他のデビルセクトより小型故に動きも俊敏だった。

 私はまだ小手調べのつもりだったしナナシもそうだったと思うが、私たち三人を相手に一体で対等に渡り合ってみせた際には大魔王が「我々三人を止めるだと……!?」と驚愕の声を上げたほどである。

 

 

「くくく、奴は四天王の中で最強……」

 

 

 性格の方は面汚しだったが、戦闘力に関しては実際最強だったかもしれない。厄介なのはほとんどアトラスの能力だったがね。高機動力からの絶対零度ソードは正味な話やり辛かった。

 スピード以外でアトラスと違うのは、ビームはそこまで撃たず、見た目通り近接戦に秀でたステータスをしていたところか。怪物のスペックで人間のような小賢しい戦い方をするのはかつての私と一緒だが、それ故にわかりやすい死角や隙が見当たらないのは厄介だった。

 

 ──だが一番厄介だったのは、炎属性らしからぬねちっこい話術だったのかもしれない。

 

 今までの敵は初めから意思疎通不可能だとわかりきっていたから淡々と潰すことができたが、互いに言葉を理解しているからこそ過剰に浮かび上がってくる感情がある。

 それは、怒りだ。

 奴の口から放たれる言葉の一つ一つが、私たちの精神を的確に煽ってきた。安い挑発ではあったが今までにイビルセクトが引き起こした被害が大きすぎたからこそ、その言葉は特に現地民である大魔王に効いた。

 

『魔界の人間共……貴様らの言葉では「魔族」と言うのだったな。奴らの肉は美味だったぞ? 女子供の肉も良かったが、中でも魔将と呼ばれる者たちの味は格別であった。特に私を完全体に至らしめた魔龍の味は、二度と味わえぬのが惜しいぐらいだったぞ』

『貴様……!』

 

 奴は言葉を覚えてから何年も経っていないだろうに、言葉一つ一つのイントネーションにも気を遣った堂の入った煽りスキルを持っていたものだ。

 魔界に対して特に思い入れの無い私ですらイラッと来たぐらいなのだから、直接の被害者である大魔王こと元魔王子は大層神経を逆撫でされたことだろう。

 そうもしきりに彼のことを挑発していたのは、私たちの作戦の要が彼であることを理解していたからであろう。彼さえ逃さずここで仕留めておけば、私たちは魔界への移動手段を失うのだから。

 そんな彼が前に出すぎるのは危険と理解しているからこそ、ナナシは今にもうおおっと突撃しそうだった彼に「乗るな大魔王」と宥めていた。

 大魔王もあれで根は冷静な男だから、その場では感情を抑えてくれたが……そうなると、今度はナナシが口撃のターゲットとなる番だった。

 

 

『我らが憎いか魔王の子よ。だがその我らを呼び出したのは誰だ? お前だ異界の勇者よ!』

『……!?』

 

 

 ネプチューンによる、勇者の糾弾が始まる。

 

 

 

 

「ちょっと待ってください。それはおかしいです」

 

 

 ? どうしたメガみい。

 

 

「ヒゲじいみたいに言わないでください」

 

 

 ふっふっふっ……そいつは失礼した。自分で言っておいてなんだが私も苦しいと思っていたよ。いしか合ってないし。

 

 何だね? 言わんとしていることに想像はつくが、言ってみたまえ。

 

 

「貴女最初、ナナシがこの世界に召喚された頃にはもう、イビルセクトの被害が取り返しのつかないところまで来ていたと言ってましたよね? なのにイビルセクトを呼び出したのはナナシというのはムジュンしてます! 因果関係ガバガバちゃんです!」

 

 

 ふっ……イイ反応だ。

 酔っ払っていても流石にそのぐらいの矛盾には気づいたか。最初の方の話もちゃんと聞いてくれたようで嬉しいぞ。30リラポイント進呈しよう。

 

 

「やったー」

 

 

 仰る通り、ナナシがあの世界に召喚されたのはイビルセクトが魔界を制覇し、既に人間界へ進出していた頃の話である。

 しかし私がその矛盾を指摘し「とんだデマカセ野郎だ」と罵ってやると、奴はそんな私の言葉に鼻で笑い返した。

 

 

『小さいな裏切り者よ。私が言っているのはもっと広い、神の視点での話だ』

 

 

 そう言って、奴は語り出す。

 人の言葉が通じる相手と会えて奴も嬉しかったのかもしれないが、蟲のクセに随分と口が回るお喋り野郎だった。

 

 しかし終始上から目線な芝居がかったその語り方が、心底癪に触る。

 

 

「それは貴女も一緒な気が……」

 

 

 私は違うし。

 

 私は、あとついでに皇女の奴もだが、私たちは実際偉ぶるだけのことはしてきたので偉そうにしていても良いのだ。

 しかしあの蟲は世の為に何一つ偉いことなんてしていないし、迷惑しか掛けていない。そんな奴が突然出てきて訳知り顔で踏ん反り返っても腹が立つだけなのである。

 

 

「……一女神としては、耳が痛い話ですね……」

 

 

 ? キミは世の為人の為に役立ってる偉い神だから関係ないだろう。

 

 

「……貴女も大概、人たらしですよね」

 

 

 何故に?

 

 

 ……話を戻すぞ。

 そう言って奴が語り出したのは、イビルセクトのもう一つのルーツの話だった。

 

『我々の祖が遥か遠い星の海から来訪してきた存在だということは、そこの裏切り者から聞いたであろう? しかしさらに遡れば、祖は元々この次元の存在ではないのだ』

『……どういう、ことだ?』

『わからぬか? 貴様とて異界から招かれた勇者であるならば、理解は容易いと思ったがな』

『まさか……』

『そうだ! 我々の祖もまた、元は異界に生まれた存在だったのだよ』

 

 彼の語る「我々の祖」というのは、イビルセクト・アルファのことではなくアルファの原型となった宇宙怪獣のことだろう。お蚕様がたが撃退した連中の姿はどう見ても世界観を間違えており、およそこの世のものとは思えなかったが……宇宙生物であればさもありなんと受け入れていた。

 

 しかし、その認識は正確ではなかったのだ。

 

 彼は語る──あの宇宙怪獣スペース・カブトムシはこの星の存在どころか、そもそもこの世界の存在ですらなかったのだと。

 

『ならば何だ? 勇者のように、お前たちのオリジナルも元は異界から召喚された者だと言うのか』

 

 そう訊ねた大魔王の言葉に、彼は踊るように応える。

 

『いいや、違う。我々の祖は被召喚者ではなく、次元漂流者だ。祖は貴様らのせいで脆弱になっていた次元の壁を突き破り、この世界の星の海に迷い込んだ哀れな迷い人に過ぎなかったのだ』

『次元漂流者だと……?』

 

 元々異世界召喚という概念が広まっていたこの世界にとって、そのフレーズは聞き馴染みこそ無いもののわかる話ではあったようだ。私も前世の創作か何かで聞いたことがあり──要するにあのスペース・カブトムシは不幸な事故によって不本意にこの世界へ迷い込んできた異世界生物であることがわかった。

 

 しかしそれを聞いても全く可哀想に思えないのは、星々を蹂躙しながら宇宙中を勝手気ままに旅回る、奴らの害悪ぶりをお蚕様が見せてくれたからであろう。

 私たちにどんな反応を期待していたのかはわからないが、ネプチューンは「嗚呼祖よ……」と愛しむように物思いに浸る。正直とてもキモかった。

 

『しかし、何故我々の祖は次元の壁を越えてしまったのか? その原因はこの星の人類史においても乱発されていた「ある儀式」にあった』

 

 そう語った彼は、左手に携えた氷の剣の切っ先をナナシに突き出す。

 

 全てはお前のせいだと──奉行の如く、責任を追及するように。

 

 

『それこそが貴様ら勇者を召喚する儀式──異世界召喚だ、咎人よ』

『何っ……』

 

 

 つまり、彼が言いたいのはこういうことだ。

 この世界の人類史において度々乱発されてきた儀式「異世界召喚」によって本来関わり合いになる筈の無かった異世界との境界が薄れ、互いの世界を隔てていた壁が酷く脆くなってしまった。

 

 それがスペース・カブトムシという異界の宇宙怪獣を招き寄せ、この世界をカオスに陥れたのだと。

 

 身振り手振り無駄にオーバーなアクションで語った彼は、最後の締めとばかりに結論に入る。

 

 

『つまり貴様のせいだ、異界の勇者! 勇者を求めた人々が貴様のような存在を何度も呼び寄せたから、こんなことになったのだ。我々の祖がこの星に漂着し、それが主の生誕を呼び、我々を解き放ったのも、全てお前たちのせいだ! 我々を許せぬというその感情は、己の罪も理解していない愚か者の証と知れ!』

『……異世界召喚が、全ての始まりだと……?』

『そうだ! この世界の破滅を引き起こしたのは貴様ら人間の愚行の積み重ねによる──必然だ』

 

 

 世界を滅ぼしたのはイビルセクトだが、その土壌を長年に渡って作ってきたのはこの世界の人類であると……キミ風の言い方をするならば、「やはり人類は愚か」というのが彼の言い分である。

 

 その言葉に思わず耳を傾けてしまったのは、彼の迫真の語りぶりと無駄に威厳のあるイイ声に呑まれていたのもあるだろうが、人の言葉を話すデビルセクトという奇妙な存在に対し無意識な好奇心が働いてしまっていたのかもしれない。

 

 しかし度重なる異世界召喚の儀式が次元の壁を脆弱化させていたという事実は、100年以上勇者として数多の異世界を渡ってきたナナシにはかなりの衝撃だったのだろう。

 何の裏付けも無い真偽不明なその話に彼は聞き入ってしまい、その眼差しをらしくなく動揺に震わせていた。

 

 

「……どんな扉も、メンテナンスもせず何度も開け閉めしていればいつかは壊れるものです。何事にも限度はありますからね。そういう意味ではその蟲の言うことも、あながち間違いではないのかもしれません」

 

 

 まあ異世界から人智を超えた超人を呼び出す儀式なんて、世界に対して何かしら良くない影響は与えそうなものではある。

 もしかしたらこの私自身も、そうやって何度も歴史の中で繰り返されてきた異世界召喚により次元の壁が脆くなっていたことで発生した、魂の次元漂流者的な存在だったのかもしれない。

 

 

「ですが……」

 

 

 だが……

 

 

「別にナナシのせいじゃないですよねそれ」

 

 

 そんなこと、ナナシや今頑張ってるあの世界の連中には何の関係も無い話だろう。

 

 

「ふふっ、同意見でしたね」

 

 

 ……ああ、安心した。

 

 あの蟲野郎、「私は神の視点で語っている」とかほざいていたが、本物の神もそんなこと考えていなかったようで何よりだよ。

 この話は是非ともあの世界の神であるお蚕様の意見を聞きたかったのだが、あの後それどころじゃない状況が続きタイミングを逃してしまったから、今に至るまで私はそこそこモヤモヤした気持ちを抱えていたのである。

 

 

「あの方も同意見だと思いますよ? 異世界召喚の影響で次元の壁が脆くなっていたというのが事実なら確かに問題ではありますが……祖が他所から迷い込んできた漂流者だろうと、今その世界で暴れているのは蟲さんたち自身の悪意なのですからそれとこれとは話が別です。神の視点以前に、常識的に考えて」

 

 

 だろ? そもそも漂流者なのは奴らのオリジナルである宇宙怪獣であって、奴ら自身でも何でもないからな。

 仮に本当に異世界召喚の乱発が巡り巡ってこの事態を引き起こしたのだとしても、ナナシは呼ばれたから来ただけだし、あの世界の人々がナナシを召喚したのもイビルセクトの脅威に襲われていたからである。

 

 なんで人助けに遥々来てやったのに責任を問われなければならないのだ? お前は馬鹿か、と──私は奴の言葉を真に受けて固まっていたナナシに変わって辛辣に反論したものである。

 その際には「あほくさ……やめたらカブトムシ怪人? 期待していたよりもしょうもない話で聞いて損したわ」と、これ見よがしに深いため息を添えてやったものだ。

 

 

「ヒューッ!」

 

 

 ついでに一発ぶん殴って昏倒したところを思い切り踏ん付けてやったよ。

 「貴様……邪神たる私を足蹴に……!?」と尚も偉そうにほざく姿がなんか無性にムカついたので、馬乗りになってボコボコに殴りつけてやった。

 

 

「挑発された二人より怒ってるじゃないですか貴女……そのセリフと攻撃を、美少女の姿でやらなかったのが実に惜しまれます。ああでも、それじゃご褒美になってしまうからこの場合はナシですね」

 

 

 なんでだよ……

 

 

「……ですが、よく言いました。それでこそ私の義娘です」

 

 

 ふん、変に自罰的なナナシの奴は、そういう責任の押し付けにはとことん弱いからな。名前を付けてもらった借りもあるし、そのぐらいのフォローはやぶさかではな……ん……んんん!?

 

 い、今義娘って言わなかった私のこと!?

 

 

「ええ、言いましたよ。貴女の中には私が作ったナナシの聖剣が入っているのでしょう? ならクーレスちゃんと一緒で、私にとっては義理の子みたいなものですから。ねー?」

「キシャーッ!」

 

 

 あ、ああ、そういう意味の義娘か……びっくりした。

 

 

「そういう意味って、他にどういう意味が?」

「キシャー?」

 

 

 ……知らん。

 

 だがまあ、私は生まれた頃から一匹だったからな。産みの親はあんなだし、前世の記憶が朧げなせいで人間だった頃の親の顔も覚えていない。

 

 だから……なんだ。キミが私のことを認知すると言うのなら、私の方はそこまで含むところは無かった。

 

 

「だからそう言ってるじゃないですか」

 

 

 …………神の考えることはわからん。

 

 

 だがまあ、暫定的には認識の隅に置いておいてやろう。…………お母さん。




 リラは精神年齢10歳ぐらいなので実は結構喜んでいます。
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