「完全体になりさえすれば……!」から始まる人外転生者の追憶   作:GT(EW版)

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夜明けを告げる無銘の剣

 コーカサスデビルセクト。長らく人々の間で「M(マスター)型」と呼ばれていたその個体は世に現れた最初の魔王個体であり、魔界の人々からはイビルセクトの侵攻最初期から恐れられている存在だった。

 その威容を初めて見た時は私も、アルファの存在を知るまではコイツがイビルセクトのボスなのではないかと疑っていたほどである。

 そんなM型改めコーカサスだが、マザーたるイビルセクト・アルファが産み落とした中では私に続く二番目の古参だ。しかしこの個体だけは、タマゴから段階を重ねて進化していく他のデビルセクトとは性質が違っていた。

 

 コーカサスオオカブトを彷彿させる特徴的な三本の長いツノを携えたその姿は、他のどの個体よりも生みの親の姿に酷似している。

 それもその筈、奴だけは他の蟲共とは違い、アルファの「分体」とも言える特別な存在だからであった。

 かつて自己進化により力を獲得したイビルセクト・アルファは、創造主である科学者を殺した後──人間界には私のタマゴを送り込み、そして魔界には自らの能力をコピーした分体を解き放ったのである。

 

 自分自身は「イビルセクトの量産」というマザーの役割に徹したかったのだろう。そんなアルファから直々に魔王抹殺の使命を受けたコーカサスは、タマゴから時間をかけて成長する私と違って生まれた時から最大の即戦力となり、僅か数日で魔界最強の存在である魔王を討滅してみせた。

 その実績が示す通り、奴は蟲共の中で最もイビルセクト・アルファに近い存在だった。

 

 

「やはり、長男は別格ですね……」

 

 

 イビルセクトも兵器と同じで、基本的に改良を行った新種の方が基本性能は上になる。しかし、コーカサスは例外中の例外だ。イレギュラーな私を除けば最古参のデビルセクトになる彼には、旧種ならではの風格を感じたほどである。

 私たちからしてみれば人類を何度も絶望に陥れた憎たらしい存在なのだが、奴に関してはまさしく「魔王個体」の肩書きに相応しい象徴的存在だったように思う。

 

 

「長女からの評価が高い」

 

 

 長女じゃないし! 私には弟も妹も居ません。

 

 しかし私の評価が高いのは肯定しよう。単純な膂力や外殻の防御力こそエレファスやアトラスとそこまで差は無かったのだが、奴には妙にテクニカルな能力を備えていたのだ。

 100m級の図体でありながら大空を延々と飛び続ける飛行能力も脅威だったが、一番の特徴は「暴風」を自在に操る特殊能力である。

 奴の周囲には常に翅の超振動から発生した凄まじい暴風が気流を乱し、スーパーセルのような現象を常時発生させていた。

 

 

「同期の貴女が雷属性だからもしやとは思っていましたが、やはりM型は風属性でしたか」

 

 

 風神雷神ってか。実際、アルファは私たちを対になるようデザインしていたのだろうな。私は奴なんかとコンビを組む気は無いし、あちらもそうだろう。他のデビルセクト同様、私に対して敵意剥き出しだった。

 

 しかし、能力の熟練度は他の比ではない。特に奴の纏う「暴風の衣」が厄介で、こちらが繰り出すあらゆる攻撃の威力を大幅に軽減する絶対的なバリアとなって奴の全身をくまなくガードしていた。

 他には何重にも重ねた空気の層で光の屈折率を変え、嵐の中で自身の姿を霞のように曇らせる高度な幻術技も使ってきたりしたな。

 

 

「それ、100mの怪獣が使っていい技じゃないですよ……」

 

 

 その通りである。

 それらの多彩な能力でこちらからのアクションを徹底的に拒絶し、自分は高高度からの人類抹殺ビームで一方的に下界の敵を焼き尽くす。それがコーカサスの戦闘スタイルだった。

 因みにそのビームは第三形態の頃に私が使っていたものと同質の技である。しかも奴はビームを束ねて巨大なビームソードとして振り回す応用技まで編み出しており、ビーム自体もツノだけではなく全身の穴という穴から無数に放つことができた。

 故に、弾幕を抜けて懐に飛び込むことができても他のデビルセクトのような死角が見当たらなかったのが剣士として実にキツかった。

 

 ……アルファに取り込まれていた時の私も、似たような感じだったらしいがね。

 

 

「何というクソボス」

 

 

 奴の欠点と言えば奴自身が放っている大嵐のせいでS型をはじめとする周囲の雑兵も近づくことができないことか。ボス戦時に無限に湧いてくる雑魚ほど鬱陶しいものは無いからな……その点で言えば奴一体に集中しやすかったのはまあ良かったよ。

 後は他の蟲共と比べて燃費が悪いところか。コーカサスは数日間暴れ回った後はしばらくの間休眠する必要がある為、年間あたりの稼働率は他のデビルセクトよりも低かった。そうでもなければアルファだって他の蟲を産み落とす必要も無かったろうし、コイツ一体で二つの世界は更地になっていただろう。

 尤も年間の稼働率が低いとは言え、稼働中にすぐどうこうなるわけではない。休眠に入るにはまだまだ時間的余裕があるこの時の戦いでは、そのような弱点が露呈することもなかった。

 

 ……こうして並べてみると、確かにとことんクソボスだな。それも、戦っていてつまらないタイプのクソボスである。

 

 もちろん小細工抜きにしても恐ろしい敵ではあったのだが、それ以上に多種多様なギミックが面倒臭い相手だった。ネプチューンの相手をナナシが引き受けたのも、足場が必要な自分と違い単体での飛行能力を持つ私たちならばコーカサスと戦いやすいだろうという思惑があったのだろう。

 

 皇女の錬金術によって翅を取り戻したお蚕様の助力も得て、私たちがラスボス級の敵に挑んだその光景はまさに「おおぞらに戦う」と言ったところだった。

 

 

「神曲ですね」

 

 

 そんな私たちとコーカサスデビルセクトの戦いは、数時間に渡る長期戦となった。

 こちらの攻撃を遮断する暴風の衣によるバフも、こちらの動きを阻害する大嵐のデバフもとんだクソギミックであり、私たちは攻めあぐねた。

 何よりふざけるなと思ったのは私と同レベルの超再生力も持っていたことだ。図体が大きすぎるので私ほどの再生速度ではなかったが、ようやく「暴風の衣」を剥がして一太刀入れることができたと思ったら、すぐにその傷が修復され衣も張り直された時にはもういい加減にしてくれとウンザリしたものだ。

 

 

「これは嫌われるタイプのクソボス」

 

 

 女神があんまりクソクソ言うんじゃない。

 

 

「はーい」

 

 

 だが逆に言えば、暴風の衣さえ剥がすことができれば他のデビルセクト同様、ダメージを与えられるということがわかった。

 そこに活路を見出し、次の手を打ち出したのが皇女である。

 ヒラヒラと踊るような動きで剣山のような敵のビームをかわしていくお蚕様の背中から、彼女は私に問いかける。

 

『クーレス! お前の全力の一撃なら、奴を殺し切れるか!?』

 

 私はその質問の意図をすぐに読み取った。この時、私も同じことを考えていたからだ。

 あらゆる攻撃を遮断する「暴風の衣」だが、集中的にこちらの攻撃を浴びせれば解除は可能。しかし超再生力により数秒後には与えたダメージ諸共復活してしまう為、奴を殺すには「衣を剥がした直後に」「速攻で」致命傷を与えなければならない。

 

 奴の頑強な外殻を貫きつつ、中の核を的確に滅ぼすような大技はあるのかという彼女の問いに──私は肯定を返す。

 

 

「あるんですか」

 

 

 ふっ、当然だ。完全体となった私は無敵なのである。

 

 ただ、それほどの一撃を放つにはノーリスクノータイムというわけにはいかない。チャージにはどうしても時間が掛かるし、その間の私は無防備な隙を敵に晒すことになる。それ故に乱戦が基本となるイビルセクトとの戦いでは今まで使うことが無かった技があったのだ。

 

 そう、この完全体が持てる全てのエネルギーを聖剣に集束し、一振りのもとに解放する絶技──【夜明けを告げる無銘の剣(リライズ・オブ・ネームレス・ロード)】こそが、コーカサスデビルセクトを殺し切る唯一の切り札だったのだ。

 

 

「なんて?」

 

 

 ? 私の絶技、【夜明けを告げる無銘の剣(リライズ・オブ・ネームレス・ロード)】がどうかしたのか?

 それはいわゆる私の超必殺技になるが、初出はこの時なので安心していい。

 

 

「その技だけ随分オシャレなネーミングですね……貴女敵を殺す技なんて無骨な名前で十分とか言ってませんでした?」

 

 

 ああ……私としては「ハイパークーレスソード」とかそういうので良いだろうと思ったのだが、横から出てきた皇女の奴が勝手にそう名付けたのである。命名法則が私のそれと違うのはその為だ。

 奴がどうしてもと言うからその技名を採用してやったが、当初の私は「ロード」のところは「ソード」の方が意味が通るのではないかと思っていたものだ。直訳で「再び上る名前の無い道」と意味が通るような、通らないような何とも言えない横文字には首を傾げたものだ。

 

 

「えっ」

 

 

 ……なんだよ?

 

 

「貴女もしかして……気づいていらっしゃらない?」

 

 

 何のことだ?

 何だその、私が何か頓珍漢で無粋なことをほざいたような目は。

 

 

「だって、貴女たちのことを指したエモい技名じゃないですか。リライズ(リラ)ネームレス(ナナシ)ロード()って」

 

 

 …………

 

 

 ……?

 

 

 ……!

 

 

 ホンマやん……この名前、私とナナシと皇女じゃないか。ロードってそっちのロードか。

 確かにネームレスとか露骨にナナシのことを暗喩しているとは思っていたが、この時はまだ「リラ」というファーストネームを貰っていなかったからな。

 ナナシは私の名前について皇女にも相談していたらしいから、思えばこの時点で二人の間では既に決まっていたのだろう。いや、全然気づかなかったわ。って言うか、こんな技名にも自分の要素を捩じ込んでくるとかあの女本当ブレないな……まったく。

 

 

「ふふっ」

 

 

 尤も、ネーミングセンスに関してはやはりお蚕様が最強か。

 額から放つビームには「クロスヒート・レーザー」、腹から放つビームには「スパークリング・パイルロード」、そして垂直降下しつつ回転しながら翅からビームを連射する技には「アローバスター」と、綺麗な横文字をスラスラと唱えながら魔法少女のような光線技を次々と繰り出していたものである。

 

 

「あの方が味方してくれてると安心感が凄いですね」

 

 

 伊達に守護神をやってないということだろう。私も守護を専門とする彼女の戦闘力にはそこまで期待していなかったのだが、とんでもない。蓋を開けてみればバリバリの肉体派だった。

 確かにそんな彼女が人々を見限らず味方してくれたからこそ、私たちは目の前の敵に集中できたのだと思う。

 

 

 話を戻そう。

 私の超必殺技が炸裂すれば、その一撃を以て奴を殺し切ることができる──迷いなく私が答えると、皇女は満足気に頷き方針を固めた。

 

『なら、チャージまでの時間稼ぎと衣の解除は我々が引き受ける。行けるな? 守護神、大魔王』

『わかった』

『……ああ、君に賭けよう』

 

 命懸けの判断を何の躊躇いも無く即決するのは、皇女が皇女たる所以であろう。……それに何の不満も無く従う私たちも、我ながら毒されたものだが。

 

 厄介な「暴風の衣」を引き剥がす役目は皇女と守護神、大魔王が引き受け、その間私はエネルギーのチャージに集中する。

 解除に成功したら奴が再生するまでの数秒間に私が全力の超必殺技を叩き込み、一撃で仕留める──それが勝利の方程式だ。

 

 だが、そうなると負担が大きくなるのは私以外の二人と一柱である。

 

 エネルギーのチャージを最大限効率的に行う為、私はお蚕様の背中──皇女の後ろに降り立ち、戦闘形態を解除する。鎧をパージしたこの非戦闘形態の姿を、戦場のど真ん中で無防備に晒したわけである。

 そんな私は聖剣クーレスを胸の前で縦に構えると、目を閉じて神経を集中させた。

 イメージするのは一振りの下に全てを滅ぼす刃。太陽系全てを吹き飛ばせるパワー……とまでは行かないが、そのぐらいの心意気で私は完全体の肉体に宿る能力の全てをこの剣に集束させていった。

 エネルギーを溜め込むに連れて、黄金色に輝く刀身にバチバチッと激しい稲妻が奔っていく。そうしていると、皇女から息を呑む様子が伝わってきたものだ。

 

 

「お蚕様の背に乗った銀髪美少女が高らかに剣を掲げて光を集めているその光景は、さぞ神々しい光景だったでしょう。私も見たかったです」

 

 

 女神からそう言われるのは光栄だが、その言い方は些か説明口調が過ぎないか。

 

 

「私は巨大生物に乗った美少女が勇ましく剣を掲げる姿が大好きなのです!」

 

 

 クワッ!と目を見開いて熱く語らなくても……

 それはまた、何とも限定的なシチュエーションなようでそうでもないような……言わんとしていることはわからないでもない。

 お蚕様の上から錬金術で錬成した剣や槍や毒ガス爆弾やら次々と武器を射出していく皇女の姿も、アレで中々サマになっていたからな。

 

 

「えっ、お蚕様に乗りながら例の殺虫剤ばら撒いてたんですか皇女様? とんでもない度胸してますね……」

 

 

 まったくだ。お蚕様の寛大さには頭も上がらないが、それだけあの女の「救済の霧(レリーフ・ミスト)」は有用な兵器だったからな。

 海底帝国崩壊前後の時期から出てきた新種は耐性を持っていたが、それでも全てのイビルセクトに殺虫剤が効かなくなったわけではない。

 特に最古参の個体であるM型ことコーカサスには、決定打にこそ至らないものの鬱陶しがる程度には効果があった。

 

 

「それがわかっていたから皇女様も参戦したのでしょうか」

 

 

 さあな。元々出たがりな奴だから、デビルセクトの相手を私たちだけに任せている自分に我慢ならなくなったのだろう。私も心配かけていたしな……

 

 ああ、因みにお蚕様に殺虫剤は効かなかったぞ? 何かこう、守護神的な神秘バリアによって無効化できるのだそうだ。

 そのおこぼれに預かって、上に乗っている皇女と私にも毒の影響は及ばずに済んでいた。大魔王は元々高い毒耐性を持っているのでこちらも問題無い。

 味方を巻き込む恐れが無いことがわかったところで惜しみ無く全ての手札を切っていく彼女の後ろで、私はただ超必殺技の解放を行うべく全神経をチャージに集中させていた。

 

 

「貴女も貴女でよく集中力を切らさなかったですね。戦闘形態を解除してしまったのに、不安は無かったのですか?」

 

 

 ああ、無防備な状態の私は守護神と皇女が守ってくれたし、他にコーカサスを倒す良い手も浮かばなかったからな。そこはもう、信じて任せるしかなかった。

 

 それに──どうも後で聞いた話によると、この時の私は集中力を極限まで高めたことで身の回りで何が起こっても動じないトランス状態に入っていたらしい。

 コーカサスのビームが真横を通過しても、大嵐の刃に頬、腿を切り付けられても微動だにせずチャージを続けていく私を見て、皇女たちも負けてられるかとより奮起したのだそうだ。

 

 

「ナナシとの特訓の成果ですね!」

 

 

 ふっ、どうだろうな。

 アドレナリンの影響もあるだろうが、痛みに弱いこの身体もナナシとの訓練を通して痩せ我慢程度はできるようになったのだと思いたい。

 まあ、なんだ……私も私でこの時は、一人でネプチューンと戦っているナナシに負けてられるかと気合いが入っていたのだ。そんな勇者への対抗心である。

 

 

「味方同士のライバル意識ですか……それもいいものですね」

 

 

 尤も、モチベーションや気合いの充実度で言えば、一番高かったのは大魔王だろう。

 トランス状態に入っていた私はその時の状況を詳しく認識していなかったが、コーカサスから「暴風の衣」を引き剥がす際には特に彼の活躍が目覚ましかったと聞く。

 何せ、コーカサスは彼の父である先代魔王直接の仇であり、魔界の同胞たちを最前線で殺し回っていた因縁の敵だからな……私にとってもコーカサスには「逆だったかもしれない」という感慨が湧かないでもない特別な相手ではあったが、これまでに背負ってきたものを思うとこの場の主役は彼にほかならなかった。

 

 

「ネプチューンとの扱いの差が凄い」

 

 

 ポッと出の自称最強とは違うのだよポッと出の自称最強とは。

 

 「今こそ過去の因縁を清算する刻!」と挑み掛かっていく大魔王の気合いときたら、それはもう鬼気迫るものがあった。彼には後でナナシを迎えに行ってもらわなければならないのだから今ここで死なれるわけにはいかなかったのだが、宿敵との決戦に彼は「もうこれで終わってもいい……!」と言わんばかりの覚悟をキメていたものだ。

 

 そんな彼が破壊神から授かった力の全てを解放すると、その手に携えていたどう見てもギターにしか見えないハープが生命を刈り取る形へと変えていった。

 変形したのだ。彼のハープが死神のような大鎌の姿に。

 

『M型……コーカサス。貴様のせいで記憶喪失に陥ったことには、今では感謝している。そうでなければ、私は愛すべき麗しきバカ共と出会えなかったからな』

 

 それが、彼の研鑽がたどり着いた最強の一撃。

 大鎌を振りかぶりながら大魔王は「暴風の衣」を破る為、絶え間無く繰り出される皇女の援護と蚕様のビームの弾幕と共に、敵の巨体へノーガードで突っ込んでいく。

 

 その背中に生き残った全ての人々と、イビルセクトによって失われた者たちの想いを背負って……邪悪なる蟲の魔王に対して、真の魔王が叫んだ。

 

 

『この世界に必要なのは、お前たちの食物連鎖じゃない! 俺たちの熱いロックだ! その意味もわからず全てを喰らい尽くそうと言うのなら、血の海に沈むべきはイビルセクト! お前の方だあああーっっ!!』

 

 

 魂を震わせる熱い咆哮を上げ、大魔王はどれほど痛めつけられても……迎撃のビームに被弾し片腕が消し炭になろうとも、怯まず直進し続けていく。

 

 ──その果てに大魔王の大鎌が、コーカサスの頭部を捉えた。

 

 巨体が大きく揺れ、嵐が弱まる。

 彼の一撃は奴の纏う「暴風の衣」を破壊するだけに留まらず、三本ヅノの内の一本を斬り落としてみせたのだ。それは、狙い以上の成果だった。

 

 

 ──そしてその瞬間、絶妙なタイミングで私のチャージが完了した。

 

 

『今だ! クーレスッ!!』

 

 

 喉を張り上げた皇女の声を背に、私は足場となってくれたお蚕様の背中から稲妻と共に飛び出していく。

 

 二人の「王」と、一柱の「神」が切り拓いた「道」を駆け抜ける──ああ、確かにこの技に名付けるにあたり、「ロード」の名は外せないわけだ。今にして思えば、lordとroadをかけた粋なダブルミーニングという奴か。

 

 準備を終えた私は、我が手元で雷光の唸りを上げる愛しき聖剣を振り上げた。

 暴風をも呑み込む雷の波動が、天に光の柱を突き立てていく。ここまでお膳立てしてもらえばもう、やることは一つだった。

 

 

夜明けを告げる(リライズ・オブ)──』

 

 

 いざ唱えようとなると、思いのほかしっくり来る。

 皇女のネーミングセンスも捨てたものではないなと、そんな感傷を心の隅に置き、私は視界に飛び込んできたコーカサスデビルセクト……自分自身の「あり得たかもしれない姿」を見下ろし──

 

 

無銘の剣(ネームレス・ロード)ッッ!!』

 

 

 ──友が付けてくれた技名を高らかに叫び、心の赴くまま聖剣(クーレス)を解放したのだった。




 拙者、最強の技を変身前の姿で放つの好き好き侍。
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