「完全体になりさえすれば……!」から始まる人外転生者の追憶   作:GT(EW版)

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 完結に近づくほど更新が滞る現象に名前を付けたい


TSカブトムシ怪人は完璧な女王になってしまったようです

 私の聖剣が光って唸り、天を貫く刃となる。

 遂に解放された我が最強の絶技「夜明けを告げる無銘の剣(リライズ・オブ・ネームレス・ロード)」──皆が切り拓いてくれた千載一遇の好機を逃さず、私は溜めに溜めた力の全てを奴の全身に叩き込んでやった。

 

 

「やったー」

 

 

 しかしそれでも空気が読めないことに、M型ことコーカサスデビルセクトはしぶとく足掻いてきた。

 バリアを失った今、この一撃をまともに受けたら塵も残らないことを理解していたのだろう。大魔王の一撃によって暴風の衣どころか片ツノも失った彼は、もはやなりふり構わぬと言った様相で周囲から手当たり次第の雑兵を掻き集め、自らの盾となるよう前方に密集させてきた。蟲の肉壁という奴だ。

 

 侮られたものである。我々が作り上げたこの力、今更数を揃えたところで何だと言う?

 

 

『馬鹿め! 私は究極の超完全体を手に入れたんだぞ? その程度のパゥワーに負けるかぁぁーっ!!』

 

 

 当然、私の振り下ろした稲妻の刃はそんなものでは止まらない。

 ぶるあああっとさらに出力を上げると、私は昂ぶりながら「うるさいハエ共が……そんなに死に急ぎたいか貴様ら! ならば望み通りにしてやる!」と更に聖剣から解放する光のエネルギーを引き出していった。

 

 

『羽虫ごと消えて無くなれ……さらばだ!』

『──ッ!』

 

 

 全長100mの怪物も、それを守ろうと立ち塞がるグロテスクな蟲の壁も物ともせず、私の振り下ろした光の龍の如き斬撃が長年この空を覆ってきた辛気臭い瘴気の暗闇ごと奴らを叩き斬っていく。

 

 そうして刺し貫いた壮絶な光の彼方に、十年もの間この世界を恐怖に陥れてきた偽りの王の姿は、断末魔と共に消え去っていった──。

 

 

「神話のような決着ですね……お見事です。なのになんで最後の最後で逆転される悪役みたいなこと言うんですか貴女は」

 

 

 知るか。この期に及んで一丁前に生き足掻こうとする奴の姿が癪に障り、気づいたらそう口走っていたのだ。

 ……一応は奴も、私が至るかもしれなかったもう一つの可能性でもあった相手だ。消滅の間際、奴から向けられたその眼差しが心無しか寂しそうに見えたのは私の感傷である。

 

 その際には柄にも無く、「……今度はもう少しまともな存在に生まれ変われるといいな」と呟いたものだ。

 

 私は奴に兄弟姉妹の情など持ち合わせていなかったのだがね。

 

 

「私は良いと思いますよ。貴女のそういう優しさは」

 

 

 ふん……言うに事欠いて私を「優しい」とはな。選定の神ともあろう者が、何とも人を見る目が無い。

 

 

「ふふっ、そうですか」

 

 

 なにわろてんねん。

 

 

 ──さて、そうして私たちは長い戦いの末、最古参にして最後のデビルセクト「コーカサス」を討ち果たしたわけだ。

 

 私の全力全開がこれほどの威力を発揮するとは、他でもない私自身が誰よりも驚いていた。パワーに関しては既に、ナナシを超えたのではないかという実感がある。

 しかし、この時の私には自らの絶技の威力に浮かれている暇も無かった。

 

 何故ならば今回の戦いで最大の貢献を為してくれた大魔王の命が、今まさに風前の灯火に見えたからだ。

 

 

「大魔王様……」

 

 

 突撃の際、コーカサスから受けた反撃で左半身をごっそり抉り取られていたのだ。

 私ほどではないが高い再生力を持つ大魔王ではあるが、バリアを破る際に自らの限界を超えた反動も合わさってか、今度ばかりはその再生力が十分に働いていなかった。

 下半身こそどうにか二足歩行ができる程度には治ったが、左肩から先は失ったままであり、その細胞から発せられるシグナルは極端に弱々しくなっていた。

 

 聞くに、破壊神から授かった力の大半を消失してしまったらしい。そんな自らの弱体化を誰よりも申し訳なさそうに悔やみながら、彼は「……すまない……お前たちと肩を並べて戦うのは、できなくなった……」と傷だらけの姿で項垂れていた。

 

 

「それでは、もう魔界にゲートを開くことも?」

 

 

 そういうことになる。

 魔界に残していったナナシを迎えに行けなくなったと深刻に語る彼には、皇女の奴は「命が残っているだけ儲け物だ」とフォローしていたものだ。

 私もそれには同感である。「生きている限り、再び破壊神の力を取り戻すチャンスなど幾らでもある」と言ってやった。

 それに、ナナシのことだ。ネプチューンなどとっくに倒している頃だろうし、もうしばらくの間魔界に一人取り残されたところでどうと言うことは無いと確信していた。

 

 その程度でどうにかなる存在なら、あの時私に殺されていた筈さ。

 

 そんなことを語ると、私を見て大魔王はフッとどこか寂しそうな微笑みを浮かべて言った。

 

 

『信じ合っているのだな……お前たち二人は』

 

 

 そう言われると私も心がざわつくようなむず痒さを覚えたものだが、お互いの実力をよく知っているという意味では確かに信じ合ってはいるのだろう。伊達に十年も旅をしていないということだ。

 

 何はともあれ、これで全てのデビルセクトの討伐が完了した。

 

 そしてそれによって訪れた「変化」は劇的だった。

 デビルセクト四天王が消え、この世界に残る魔王個体が私だけになったことで、その他大多数のイビルセクトの活性化が目に見えて弱まったのである。

 

 

「それは本当に大きいですね」

 

 

 ああ、やはりイビルセクトの司令塔としてデビルセクトの存在は大きかったらしい。

 今ならば行けるかと思った私は、この機を逃さずものは試しとばかりに「我に従え!」と地上全土の蟲共に命令のシグナルを送信してみた。

 

 その結果──地上を跋扈するイビルセクトの約半数が、私の命令に応じてくれたのである。

 

 

「やりましたね!」

 

 

 これで、魔王個体を排除することでイビルセクトの命令権を奪えると思った私の仮説が実証されたわけだ。

 正直見込み違いだったらどうしようかと、内心ヒヤヒヤしていたがね。可能性は高いとは踏んでいたが100%合っている確証は無かったから、作戦中ずっと不安を抱えていたのはここだけの話である。

 そんな弱気な心情を、アイツらに見せるわけにはいかなかったし。

 

 

「ぽっと出の私には見せてくれるんですね」

 

 

 ぽっと出のキミにだから見せられるのさ。

 ……まあ、ともかくこれで戦争終結に向けて再び大きな一歩を踏み出したということだ。

 

 

「イビルセクトを半分も制御下に置けたのは大きいですね。……あれ? これって……」

 

 

 ああ、我々の勝ちだ。

 

 いやそこで浮かれるのも嫌な予感がするので流石に自重したが、まだ親玉のイビルセクト・アルファを残している状態で地上半数の蟲共を制御下に置けたのは実際最高に近い成果だった。

 流石に魔界にいるイビルセクトまでコントロールすることはできなかったが、それでも敵戦力の四分の一を一度に削ぎ落とせたのだからな。

 制御下に置いた蟲共は、私としては一秒でも早く「自害せよ」と命令したかったのだが、それは少し待てと皇女から止められた。『ただ殺すよりも、せっかく洗脳したのだから今は連中同士で潰し合わせておけ。我らが身体を休めている間の時間稼ぎぐらいには役立つであろう』とな。

 

 

「合理的ですね」

 

 

 アレはそうやって支配者を気取っている間、後で洗脳を解除されて痛い目を見るタイプの女だけどな。

 だがこの時の判断は実に正しかったと思う。さっさと自害させれば敵戦力の四分の一を確実に削ることができるが、手駒として引き込めばさらにもう半分削れるかもしれないのだからな。

 

 

「まるで将棋ですね」

 

 

 絶対言うと思った。

 

 しかしそこは皇女の流石の狡猾さであろう。長年奴らと殺し合ってきた人間として、蟲共を味方として扱うことに心理的抵抗もあったろうにあの女はそんな感情をおくびも見せなかった。

 それを指摘してやれば奴は、苦笑して「貴様を引き入れたあの時から既に、我はそんな感情などとうに切り捨てておるわ」と返したものである。

 まあ、後々洗脳が解除されるリスクを冒しても、今は我々が休む時間稼ぎ要員が必要と思ったのは同意見である。

 消耗度合で言えば大魔王が一番だが、皇女も皇女で態度こそいつも通りだがお蚕様の背に立つ内股の両脚はプルプルと震えていた。

 本人は仁王立ちのつもりだったのだろうがその下半身は生まれたての子鹿の有様である。その虚勢たるや、お蚕様が『ゆらさないようにとぶから、わたしのセナカでねころんでて』と呼び掛けていたほどだ。

 

 

「やさC」

 

 

 しかしそんなお蚕様の好意に対して、あの女ときたら「我が臣下の前でそのような姿を見せられるか!」とつまらん意地を張っていたものだ。

 見かねた私はやれやれとお蚕様の背中に乗り込むと、「いいから休め」とその貧相な身体を強引に抱き抱え、横たわらせてやった。

 ふっふっふ……私の腕の中で懐いていない子猫のようにじたばたする奴の姿は傑作だったぞ。

 

 

「かわいい」

 

 

 そもそも私は皇女の友であって臣下ではないし、大魔王も大魔王故に今はもう奴の臣下ではないしな。そう言ったら「それはそうだが……恥ずかしい……」いつになくしおらしい反応を返してきた。なんだお前乙女みたいに。

 

 しかしお蚕様の大きな背中の上は、人間が十人寝そべっても十分な広さだった。私も今回は疲れたので一緒に横になることにしたが、見た目によらず弾力があって中々寝心地が良かったぞ。

 あっ、もちろんお蚕様の背中のことだぞ? 今の私は同性のようなものだが、年頃の女を抱き枕にして寝るほどノンデリカシーではない。いかに金ピカ皇女が相手だろうとだ。

 

 

「してあげたら喜んだと思いますが」

 

 

 どうだろうな。

 だが、奴もよほど疲れていたのだろう。私が真横から見張っていると彼女は観念したように抵抗をやめ、黙って目を閉じるなり数秒後には気持ち良さそうな寝息を立てていた。

 

 ……この姿になってから勝手に私の寝床に入り込んでくることはあったが、ここまで疲弊した姿は初めて見たぐらいだ。王故に他の誰かに弱いところを見せることができなかった彼女のことを、私は少しだけ哀れに思った。

 

 

「添い寝に浮かれる余裕も無いところが、激戦の程が窺えますね……」

 

 

 神や大魔王と違って生身の人間だからな。戦闘が終わるまで意識を保っていたのが奇跡なのである。守護神の加護があっても、あのコーカサスデビルセクトとの対峙はさぞ神経を削ったことだろう。その寝顔には大魔王も心から安堵した穏やかな表情で、「今はお休みください、陛下……」と呼びかけていたものだ。

 尤も、一番休むべきなのはこの男なのだがね。片腕を失ったことに痛みこそ無さそうだったが、その姿をいたたまれなく感じた私は片膝を立てて座っていた彼に対し、「お前も横にならないか?」と私の横をポンポン叩いて誘った次第である。

 

 

「どうなったのです!?」

 

 

 いやに食いつきが良いな……どうもならんさ。

「俺はこの姿勢の方が身体が休まるし、勇者に殺されたくもない」と断られてしまった。

 

 ああ、確かに敬愛する皇女の横で川の字になって寝るのは確かにナナシに悪いか。その言葉には一理あったので私もそれ以上追及しなかった。

 その際、彼から向けられた「お前マジか……」とでも言いたげな眼差しが、妙に引っ掛かったものだが。

 

 

「お前マジか……」

 

 

 キミが言うのか。もしかして何か私、変なことをやってしまったか?

 

 

「……罪な女ですね……」

 

 

 ?

 

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 ご存知の通り私の超再生力を以てすればネプチューン、コーカサスと続いた連戦のダメージも数分で完治していたが、流石に「夜明けを告げる無銘の剣(リライズ・オブ・ネームレス・ロード)」による消耗は即時回復とはいかなかった。

 故に私はお蚕様がタクシー役を買って空を移動している間、皇女の横でゴロゴロと転がりながら疲れを癒していた。気力や活力の回復は、肉体の再生とは別の話なのである。

 もちろん、そんな無防備な私たちを狙ってイビルセクトの群れが何度も襲い掛かってきたものだが、それらの攻撃は別のイビルセクトの群れが割り込んで阻み、私たちをそっちのけにしながら蟲同士で血みどろな殺し合いを始めていった。いやーなぜだろうなー不思議なことが起こったものである。

 

 

「貴女も大概暴君ですねー」

 

 

 もちろん、私が発したシグナルによる行動である。私と違って個々の思考を持たない彼らは、魔王個体である私が発した「我々を守れ」という命令を忠実に遵守し、言うことを聞かない同族たちと同士討ちを繰り広げていったのである。

 生き物の行動を死さえ都合良く扱うその光景には、まともな相手なら冒涜的な薄ら寒さを感じていたところだろうがイビルセクトに払う慈悲など無い。私の為に死ね。それが彼らに告げた唯一にして絶対の王命である。

 

 

「まさに、蟲の女王ですねぇ……」

 

 

 その肩書きはなんか嫌だ。女王とか言われると、なんかこうムズムズする……確かに今の私の肉体は美少女なのだが、何かこう……ね?

 

 

「あらあら」

 

 

 あらあらじゃないが。

 

 

「女王呼びに照れてるリラちゃんかわいー」

「キシャシャ」

 

 

 やめい。急に抱きついてくるな酔っ払い。

 

 

「まあ貴女は女王様と言うよりお姫様って感じの見た目ですが」

 

 

 その肩書きはもっと嫌だ。

 アルファを王とするならば確かに私は蟲の姫と言えなくもなかろうが、私としては「姫」という呼び名はナナシが皇女のことを呼ぶ時のイメージが強いのである。アイツらが初めて会った時のあの女は海底帝国の王ではなく皇国の姫だったようだからな。その名残なのだそうだ。

 帝王であることにこだわりを持つ皇女は基本的に姫呼ばわりされるのを嫌っていたが、ナナシにだけは寧ろそう呼ばれることを喜んでいたように思う。私にはこの姿になってもわからん女心という奴である。

 

 

「ふふっ」

 

 

 ……だが、地上半数のイビルセクトが私のことをじょ……女王として認めてくれたことで、空旅の間周囲を警戒する必要が無くなったのは助かったよ。

 おかげで皇女と共に、お蚕様の背中で呑気に身体を休めることができたからな。ふん……

 

 イビルセクトという今まで散々悩まされてきた蟲共を我が手駒として扱うのは筆舌に尽くしがたい気持ち悪さだったが、未だ圧倒的な物量差を補うにはこれ以上無い手だったからな。精々便利にこき使ってやることにした。

 

 ……何度も思ったが、こんな数を相手によく生き残れたものである。人類。

 

 

「本当ですよ。村の人たちも、M型からよく避難できましたよね……お蚕様が復活したとは言え、地上にはもう逃げ場なんて無さそうなものですが……」

 

 

 それな。私と大魔王もそう思っていたが、確かに地上にはもうあの集落の他に逃げ場など無かった。最終防衛ラインであるあそこの結界がコーカサスに破られてしまった時点で、蟲共に包囲されていた人々は一巻の終わりの筈だったのだ。

 

 それが何故、無事に逃げ延びることができたかと言うと……

 

 

『さいごまであきらめなかった、このコとみんなのちからだよ』

 

 

 そう、お蚕様が嬉しそうに語っていたものだ。

 何度追い詰められても諦めずに未来を求めた、偉そうで実際偉い金ピカ皇女とたくましき生き残りたち……そんな彼女らは私たちが遠征に行っている間に、一つの奇跡を起こしていた。

 

 彼女らは魔界から帰還した私たちの凱旋を迎える為に、とんだサプライズを用意してくれたのである。

 

 

『これは……!?』

 

 

 それを目にした瞬間、大魔王は驚愕に言葉を失い、私もまたこの時ばかりは「おおー……」と間の抜けた声を漏らしてしまった。

 

 私たちを乗せて高々く飛び上がったお蚕様の向かった先。

 幾層もの雲海を抜けて、飛べども飛べども最果ての見えない遙かな空の先には──小さな島ほどの大きさの一本の「大樹」が浮かんで(・・・・)いたのである。

 

 

 その光景はあまりにも幻想的で……この世のものとは思えない、まるで「天使の世界」のような神秘性を感じた。

 

 

『せかいじゅサフィラ……このホシがうまれたときからある、さいしょでさいごのせいいきだよ』

 

 

 神様直々の案内のもと辿り着いたその場所は、私がこの蟲だらけの世界で異世界ファンタジーを感じた最後の景色だったと思う。

 

 そう、世界樹が空の陸地として浮かんでいるその聖域「世界樹サフィラ」こそが皆の避難先であり──人類に残された正真正銘最後の生存圏であった。

 

 

 

 そして、私たちがその場所で束の間の休息を取ってほどなくして……最後の敵が動き出す──。

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