「完全体になりさえすれば……!」から始まる人外転生者の追憶 作:GT(EW版)
フッ……流石は完全体になった私だ。初めて知ったが、今の私は持ち前の超再生力を思いのままコントロールできるようになっていたらしい。
私の意思一つで体内に回った酔いを閉じ込めることも、解放することも、自由自在でございますじゃ。閉じ込め⭐︎解放⭐︎自由自在⭐︎
「変なラップを歌うのはやめなさい」
うわへへ!
──さて、いい感じに酔いが回ってきたので話を再開しようか。
「……一口飲んだだけで早すぎません? 大丈夫ですか? おトイレ出します?」
大丈夫だ。問題無い。
あれは、旅を始めて五年が過ぎた頃のことだ。
世界各地へ赴きイビルセクトを手当たり次第殲滅していくジェノサイドツアーは同じことを延々と繰り返す毎日であったが……この時、私とナナシを取り巻く状況は大きな転機を迎えた。
先ほどもチラリと情報を小出しにしたが、この時期は不休で戦い続けた私たちの活躍によりイビルセクトの総数が減少傾向に入ったのだ。
それまでは一つの群れを殲滅したところで他の場所では際限なく繁殖していた為、マクロな視点では大きな影響は無かった。
しかしそれでも、焼け石だろうとキンキンに冷えた水を五年間絶え間無く浴びせ続けていれば話は変わってくると言うものだ。
尤もナナシはそれを嵐の前の静けさとして不気味に受け止めていたようだが、地上からイビルセクトの数が目に見えて減ったことは良いことである。終わりの見えない戦いが、ようやく一歩前進したと言える。
このまま飲まず食わずであと100年ぐらい戦い続けていけば、人間界に居るイビルセクトだけは滅ぼせるかもしれない。尤もその頃には、地上にはナナシ以外の人間は残っていないだろうが。
……そう、この間も世界人口は減少の一途を辿っていた。
そのペースは私とナナシが出会う前までと比べれば幾分スローペースにはなっていたが、依然負け戦であることに違いは無いのだ。
生き残っていた者たちも当然その事実には気づいており、だからこそ未来を憂う彼らのスタンスはざっくり言って三つに分かれていた。
どうせ滅びるならせめてこの一代だけは穏やかな最期を迎えたいと願う者。
それでもと抗い、人類の未来の為に力を尽くそうとする者。
関係ねぇ……一匹でも多くイビルセクトを殺してぇ……!と我が道を走り続ける者の三種類だ。
意外なことに、こういったディストピアにありがちなヒャッハー的な市民や自棄を起こして味方の足を引っ張るタイプの人間はあまり居なかった。
或いは私たちの前に現れなかっただけで本当はたくさん居たのかもしれないが……その手の人種はとっくにイビルセクトの餌になっているか自害でもしていたのだろう。
そういうわけで生き残った残り少ない人間たちは、少ない者同士協力して案外仲良くやっていた。
──その治安を維持していた最大の功労者と言うと……私は嫌いだったがあの「皇女」様になるのだろう。
かつて私が地中に三年眠っていた間に滅ぼされた地上最大の大国「皇国」。その元第一皇女であった彼女は滅びゆく当時の祖国から子飼いの者たちを連れて脱出すると、イビルセクトの影響が比較的少なく今や人間界の中で一番環境の整った美しい海底に移住し、そこを本拠地として帝↑国を建設したのである。
「独特なイントネーションですね」
人間のみならず亜人、魔族までも結集させたその帝国こそが人類最後の防波堤だった。
海底都市なのに防波堤と言うのも妙な表現だが……そこに関しては魔法の発達した文明ならではの生存戦略だろう。他の場所ではマグマの中に拠点を作って凌いでいる集落もあったしな。
その頃になっても人類種が辛うじて存続することができたのは九割九分ナナシの奮闘によるおかげだが、残りの一分は彼女のような優れた指導者の存在が大きかった。
そんな皇女によって建国されたアトランティス的な帝国に私たちが招待されたのは、地上のイビルセクトが僅かに減り始めたその時のことである。
突如として私たちの前に現れた国の使者から「女帝陛下がどうしても会いたがっている」と招かれ、私たちは海中深くに構えられた無駄に立派な宮殿の中で彼女と出会った。
『長らくの害虫駆除、ご苦労である。そして七年ぶりだな……我が夫勇者ナナシよ!』
そう言って、自身の身長の何倍の大きさもある玉座に座りながら、彼女は招集に応じた私たちを偉そうな姿勢で出迎えたものである。
私がその国の女帝──ここでは「皇女」と呼ばせてもらおう。彼女に会ったのはその時が初めてだったが、一目見て好きになれそうにないなと第一印象から嫌悪感を抱いたものだ。
こう、何と言うか……訳もなく偉そうなオーラを纏っていたから。
「貴女も似たようなものですが……今だって私の前で偉そうに脚組んでますし」
そんな偉そうな姿勢でふんぞり返っていた皇女様であるが、実際偉い奴ではあるのでコイツのことも語らねばなるまい。
彼女の見た目は金髪碧眼の、いかにも正統派な美少女である。
謁見の前は「亡国の元第一皇女」と聞いていた為、私は大体二十代後半から三十代ぐらいの威厳ある女性の姿を想像していたのだが……その玉座に君臨していたのは「女帝」の名には似つかない、うら若き少女の姿だった。
ナナシとは皇国が滅ぶ直前に会ったことがあり、当時はまだ十歳の小娘だったと語る。そんな彼女はこの時点で弱冠十七歳と、想像以上の若さに驚いたものだ。ナナシは「……生きていたのですね……」と別の理由で驚いていたが、勇者として過去に色々とあったのだろう。どうでもいいことだ。
さて、その若さにして事実上の人類の支配者を務めている彼女だが、その地位に上り詰めたのは自派閥の者たちに神輿として担ぎ上げられたからではない。
全ては彼女自身の意志と才覚によるもの……あの女は共に逃げ延びた元皇太子含む皇国の兄弟たちを次々と蹴落とし、誰もが納得せざるを得ない実績を叩き出した上で新興帝国の玉座を掴み取ったのだ。
私も彼女の人格こそ好かなかったが、終末の世界を統べるには相応しい女傑だったとは思っている。
当時第三形態であり見るからに危険因子であった私のことも恐れず、勇者と同待遇で自国に招き入れるイカレた胆力にも正直感心したものだ。
──しかし、この女はアレなのだ。偉そうな態度もそうだが、振る舞いの一つ一つが何かと私の癪に障ったのである。
まず服装が嫌い! 普段着のドレスにしても戦装束にしても、常に金ピカの衣装を身に纏っているから眩しくて仕方が無かった。イビルセクトの複眼を混乱させる為とそれっぽい理由を語っていたが、アレは絶対に彼女自身が度を超えた成金主義だっただけであろう。
次に、玉座がデカすぎる! 初めて私たちを出迎えた時は第三形態の私が座ってもなおスペースが有り余るぐらい巨大な椅子に腰を下ろしていた。まさに「馬鹿みたいな椅子」と呼ぶに相応しい玉座に趣味の悪い金ピカの少女が座っていた光景には、シュールさを通り越して頭が痛くなったものだ。ナナシすら「……規格が合っていないのでは?」とツッコまざるを得なかったほどである。
尤もそれには「この玉座を見つけた後世の者共に、我の偉大さを知らしめる為だ。当然であろう? お前もこっちに来て一緒に座らないかナナシ? ベッドにも変形するぞこの玉座」とそれらしい理由を語りつつ、自分が後世を残す気満々の、未だ人類の未来を諦めていない側の存在であることをアピールしていた姿にはほんの少しだけカリスマが滲み出ていたものだ。ナナシに対しての発言が一々気持ち悪かったが、王たる器ではあったのだ。本当に気持ち悪かったが。
「気持ち悪いは言い過ぎでしょう乙女に対して酷くないですか?」
アイツ、いつも勇者を見る目が怪しくて気持ち悪いのだ!
民の前では常に王道を示すカリスマ溢れる女傑なのに、ナナシの相手をする時だけ露骨に色目を使うのがもう、生理的に受け付けなかった。いかに見目麗しかろうとそれはそれである。
私が初めて彼女に会ったその時もナチュラルに彼のことを夫呼ばわりしていたものだが、もちろん二人は入籍もしていなければ婚約もしていない。私が最初真に受けて「えっ貴様結婚してたの?」と驚きの目を向けると、彼は常と同じ無表情ながらはっきりと「私は夫ではない」と否定の言葉を返してきたのが印象に残っていた。
「ハニートラップ対策については、私も彼に最低限の教育はしておきましたが……」
でかした。
まあ人間同士の色恋など好きにすれば良いと思うが、相手によって露骨な二面性を発揮する女を私は好かない。そういうわけで私は皇女のことが嫌いだった。
「嫌悪の理由が幼稚ですね。子供の嫉妬みたいです」
そのようなことがあろう筈がございません。私よりもスタイルの劣るあの女に、嫉妬などと。
あと、当時の私は生後八年で三年間のサナギ期間を除けば実質五歳なので、そこは留意されたし。
「都合良く年齢を使い分けますね」
ふっふっふっ……私は精神年齢ではマウントを取らない主義なのだよ。前世の年齢を覚えていないだけとも言えるが。
それに、皇女はあの世界では絶滅危惧種とされる希少な美少女だったが、完全体になった今の私と比べるとその体型は少々貧相寄りだ。
常に身に纏っている金ピカなパッドでかさ増ししていたが、その慎ましやかな胸部装甲には彼女の側近(タコ型の魚人、身長200cm 体重110kgの筋肉モリモリマッチョマン)からも、「私の方がおっぱい大きいわ! 私の方が……おっぱい大きいわ!」と宴会の席でイジられていたのが鮮烈に記憶に焼き付いている。
尤もそれに関してはイビルセクトによって引き起こされた飢餓が成長期と重なってしまったが故の笑えない背景があるので、私はその魚人に対し「皇女の側近よ……センシティブなイジリは無しで行こう」と苦言を呈したがね。その後結構反省してた。私は何故か皇女に懐かれた。
「意外と紳士なんですね貴女」
フッ……記憶はほとんど残っていないが、これでも私の前世はジェントルマンだったからな。……だったよな? その辺りの記憶は曖昧なので自信無いが、糞セクハラに対してはそこそこ厳しい時代に生きていた憶えはある。
尤も私自身はこの姿になってから初めて皇女と再会した時、あの女から「なんて姿に進化しておるのだ貴様は!」と真っ先にこの胸を揉まれる糞セクハラを受けたものだがな。あの女、恩を仇で返しおって……だから嫌いなのだ。側近のタコ魚人は「嫌いじゃないわ! 嫌いじゃないわ!(野太い声)」と生涯忠義を貫いていたが、私には奴らの気が知れん。
本当に……気が知れん。あそこの国に居たのはどいつもこいつも大馬鹿野郎共だった。
「……貴女もナナシ以外に、良い友人を得たのですね」
……ふん。
まあ、そんな皇女を始め、この頃は「私とナナシと頻繁にイビルセクト」の日常だったジェノサイドツアー編とは異なり、多種多様な現地民と知り合うことが増えた時期である。
それまでの旅でも成り行きから集落を防衛した際に住民と顔を合わせることはあったが……私たちが少し目を離した隙に、後日にはその集落が地図から消え去っていたりとそんなことばかりだったからな。その気があろうと無かろうと、民との出会いは一期一会にしかならなかったのだ。
「悲しいです……」
だから皇女の興した海底帝国のように、いつ足を踏み入れても見知った顔が待っている場所は本当に希少だった。
だからこそ私とナナシも、今までに無く無辜な逸反人との人間らしい腐れ縁を少しずつ築き上げていくことができたのだろう。それはイビルセクトと戦うことしかしていなかったそれまでの私たちの心に、何かと影響を与えてきた奇妙な体験だった。
「逸反人?」
ああ、一般人ではなく逸反人である。ここ大事だぞ湖の女神よ。
海の上では無数のイビルセクトが跋扈している世界で、七年間も海底で生きてきた者たちだ。海底帝国の民は、地上の者たちとは面構えが違った。
リーダーの金ピカ皇女はこの時代において必要な素養を持つ賢帝であったが、平和な時代だとしたら暴君と評されるタイプの女帝だった。
その悪行の例を挙げると、本当はSランクだけど面倒だからCランクをキープしているやる気の無い実力者に対して「我の国に怠惰な者は要らぬ」と容赦無く追放するし、強力な付与魔法を扱えるのに自己の都合でそれを秘匿していた者には「帝たる我に報連相を怠る奴も要らぬ」とこちらも国外追放。
他には使えない奴と判断した部下は例えそれがかつて父親に長年仕えていた元重鎮だろうと、「耄碌したが貴様は長い間よくやってくれた。精々残り少ない寿命を楽しむがいい」と老齢を理由に宮殿の外のセーフハウスに放逐する冷酷な追放癖を持っていたものだ。
「前二つは少々過激ですが、最後のは引き際と促し自ら退職を労ってくれる良い上司なのでは?」
そのように自分は躊躇無く部下を追放するが、自分以外の者が他の誰かを追放することは決して許さない理不尽な女帝である。
身内同士の諍いに対しては特に厳しく、独断で沙汰を下していく彼女は唯我独尊が金ピカの服を着ているような女だった。
「……やはりその時代においては、まともなリーダーなのでは?」
まあ常に自分の判断に迷うこと無く即断即決で物事を決め、国を守る為に残すべきものと捨てるべきものの切り分けを的確にこなしていくのは荒れ果てた世界において頼もしいリーダーだったと言えるだろう。
人の心が無いタイプの王と言うよりは、単純に性格が悪いタイプの王だったので私は奴の国民になるなど真っ平御免だが、あの世界では賢帝と讃えるべき存在だった。
ナナシは彼女のことをいつ暴走するか気が気でなかったようだがね。
──そしてそんなイカレた女帝だからこそ、彼女の掲げた旗の下にはこんな世界でも生きる気力を失わない連中が集まってきた。
イカレたメンバーを紹介するぜ!
側近のオカマタコ魚人! 見た目は筋肉モリモリマッチョマンだが心は乙女の魚人界最優の僧侶だ。
見た目や口調こそやや癖があるが、誰に対しても物怖じせず必要な意見を具申し、私に対しても分け隔て無く接してくれたナイスガイである。そんな彼……彼女の主に対する忠誠心は本物で、事あるごとに「アタシは陛下に感謝しているワ。あの方に拾っていただかなければ、猟奇的殺人モンスターになっていたから……」と言っていたものだ。
次に、遊び人の殺人ピエロ! 分厚いメイクに素顔が隠されているせいで何の種族かわからない正体不明のサイコパスだ。
皇女への忠誠心は皆無な癖に、七年前は「この子についていった方が面白そうだから♡」と滅びゆく皇国から防衛任務を放り出して皇女についてきたらしい。
常に殺人衝動を抱えている奴は隙あらば勇者を殺そうとしてきて、私には何で味方サイドにいるのかわからないイカレ野郎だったが……「ボクはイビルセクトに感謝しているよ♡ こんな世界にならなければ猟奇的殺人ピエロになっていたから……」と一応は最期まで皇女の為に戦ってくれた男だ。
最後に、悪魔的な吟遊詩人! 種族は魔族だが「俺こそが魔王だ!」と自称し、この荒廃した世界でデスメタルみたいな歌を広める為だけにイビルセクトだらけの地上を二年以上旅回っていたイカレ野郎だ! 悲嘆主義者共に対する特効薬として割と活躍していたぞ! 「俺もイビルセクトに感謝している。イビルセクトが居なければ猟奇的殺人者になっていたから……」とこちらもこんな世界でなければ大層息苦しかったであろう異常者だ。
この三人こそが「海底帝国の三賢者」と民から絶大な信頼を置かれている帝国最大の戦力だったのだからまさに世も末である。
「僧侶に遊び人に吟遊詩人ですか……幹部なのに戦闘職が居ないんですね」
戦士や武道家も居るよくある世界観ではあるが、イビルセクト相手じゃ分が悪すぎるからな……有名どころの前衛職や魔法使いなどは、皇国が崩壊した時にほとんど死んだらしいし。
しかしそんな彼らを統べる皇女こそ、海底帝国の建国者であり初代女帝! ほとんどワンオペで多種族の民が一堂に会する海底帝国を執り仕切っている、この世界の現地民で一番イカレた女だ!
彼女は王としての才覚もイカレていたが、彼女自身が世界最高峰の「錬金術師」で数々の発明を世に生み出した稀代の発明家でもある。
亜人のような特異体質でもないただの人間が何故海底深くに帝国を築き上げることができたのかと言うと、彼女が行使するその特殊な「錬金術」が理由である。
通常、錬金術とはその名の通り異なる素材から金を錬成する技術であり、この世界でもそれが一般的な認識である。
しかし彼女の扱う錬金術はその逆──金を素材として扱うことで、物理法則をも無視したあらゆるオーパーツを錬成することができるのだ。
その能力によって地上と同じ空間をドーム状の物体として海底に錬成し張り巡らせ、魚人以外の者でも暮らせるようになったというわけだ。
そしてそんな彼女もまた、「我はナナシに感謝しているぞ? あの時勇者と出会っていなければ、父上も兄上も我の手で殺していたからな……」と一国の元皇女が言ってはならないことを笑顔で語っていたものだ。
「流行ってるんですかその言い回し……しかし元皇女様? の才能は確かに凄まじいですね。皇国が負けてしまったのは、その姫が成長しきる前にイビルセクトに襲われたからでしょうか」
ああ。それはあの世界の誰もが思っていたことだろう。他ならぬ奴自身がそれを悔やんでいたしな。
奴がナナシに対してだけ気持ち悪かったのも、間に合わなかった者同士奇妙なシンパシーを抱えていたのもあったかもしれない。
だとしても奴の言動は本当に気持ち悪かったが。
「貴女の話を聞く限りでは、そのぐらいは恋する乙女として至極真っ当に感じますが……」
それは私がなるべく淑女的なオブラートに包んでいるからだ。
奴の気持ち悪い言動の具体例を挙げるのは、ここでは勘弁してほしい。その……私の口からはあんないかがわしい言葉言いたくないから。
「そんなにですか」
そんなに酷かったのだ湖の女神よ……
それはもう、貞操観念逆転物のネット小説に出てくる、何故か貞操観念だけでなく性欲までパワーアップした女共みたいに自重を投げ捨てていたのである。スルースキルが高すぎるナナシとはある意味相性が良かったのかもしれんが……まあそんなことはどうでもいい。
ともかく彼女の海底帝国には彼女自身も含めて人類最後の逸材たちが集まっており、そんな彼らは私とナナシが地上で暴れている間、イビルセクト掃討に向けて文字通り水面下で活動を続けていたのだ。
──そしてその成果が、この時になって遂に完成しようとしていた。
これまでイビルセクトを相手に為す術も無かった現地民たちにとっては初めての希望……現状を打破する最終最後の切り札が、遂に表舞台に姿を現したのだ。
「そ、それは……」
そう、その切り札とは────対イビルセクト用殺虫剤の完成である。
人類の反撃が、今始まる──。
「……なんだか、急にB級映画みたいになってきました」
おだまり!
仕方なかろう。このような軽い調子の語り口でもなければ、私自身のメンタルに支障を来たすのだ。
だからもう一杯寄越せ湖の女神よ! 私は最後までこのテンションで語り抜いてやるぞー!
「貴女、泣いて……たくさん飲みなさい。おつまみもまだまだありますよ」
うむ、苦しゅうない。……確かにこれは私でも飲める良い甘さだな。
流石は女神秘蔵の美酒……神と言えば酒好きなイメージがあるが、キミも良い趣味をしているようだ。程良いこの酔いが私の心を高揚させ、血液を沸騰させる。
「……この酒がほんの少しでも、貴女の悲しみを紛らわせてくれることを願います」
女神らしいことを言うじゃあないか。
誰も救ってくれなかったくせに。
「……そうですね」
……すまない。ボロッと暴言を吐いてしまった。そんなつもりは無かった。ごめんなさい……
ああ、キミが悪いんじゃない。
強いて言うならば、私の心を掻き乱すこの酒が悪いのだ。
「ちくしょう……」
……ああ、こうして思い出そうとすると目頭が熱くなる程度には、いい奴らだったのだ。
勇者ナナシを取り巻く、あの世界の人間たちは。
だから……ここに来れなかった彼の代わりに、奴らのことも語りたいと思ったのだ。
見苦しい姿を見せたな……話が冗長になってしまった理由は、それだけだ。
「たくさん飲んで、たくさん吐き出しなさい。貴女のその悲しみも……後悔も」
言われるまでもない。