フラグメント・リベンジャーズ   作:渾沌炎

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第1話 竜を屠るは古代の戦士

 一九九〇年代後半、世界各国にある電子機器の画面から突如、正体不明のモンスターが多数出現した。

 これまでの生物メカニズムに全く合致しないそれらのモンスターは、電子機器から出現したことにちなんで『デジタルモンスター』と呼ばれるようになる。

 そして、人類がデジタルモンスターとの共存を模索し続けてはや三十年。

 デジタルモンスターは『デジモン』と略して呼ばれるほど、世間に広く浸透した生物となっていた。

 

 ― ― ― ― ― ―

 

「ふわぁ……昨日は夜更かししすぎたな」

 

 東京都内にある、とある商店街。

 昼過ぎということもあり、のどかな雰囲気漂う通りの中を、一人の男が歩いていた。

 周囲の人々よりかいくらか長身で、長い髪を後ろで纏めている姿が特徴的である。

 古びた黒のジャケットを着こなしている、その男の名前は風咲(かぜさき)レン。

 都内で便利屋を営むしがない青年だ。

 

 レンは近所のスーパーへ買い物に行こうとしている最中だった。

 商店街で買い物をしてもよかったが、便利屋は職業上、個人店では買い物のついでに無償でアレコレ頼まれてしまうことが多い。

 そういうことを避けるために、自然とスーパーを利用する癖がついていた。

 

 昨日、夜遅くまでやり込んでいたデジタルカードゲームの試合内容を反芻しながら、レンが商店街を抜けようとすると……商店街のさらに向こうから、轟音と共に炎が噴き上がった。

 何事かと驚く商店街の住民を横に、レンは察する。

 職業柄、便利屋の仕事が絡みそうな事件・事故には鼻が利くようになっていた。

 無言で炎が上がった方へと走り始める。

 

 意外と件の地点は近かったのか、ものの数分もしないうちにレンは炎が上がっていた地点へと到達する。

 そしてそこで見た光景から、『やはり自分の勘は頼りになる』と再認識した。

 

「ガアアアアアアッ!!」

 

 道路の真ん中をオレンジ色の巨大な恐竜が、多方面を威嚇しつつゆっくりと歩いていた。

 二〇二〇年代の都市に恐竜がいる、というアンバランスな光景だが、しかし「恐竜なんてとうに絶滅したはずでは!?」と驚く人は最早この世に存在しない。

 何故ならば。

 

「グレイモン……野良デジモンか!」

 

 その恐竜は既存の生物ではなく、デジモンだったからである。

 野良デジモンとは、電子機器から出現したてのデジモンのことを表す。

 野良デジモンは気性が荒いものも多く、そういったデジモンたちが街を破壊してまわることもしばしばだった。

 

 野良デジモンを止めるために、レンはズボンのポケットから薄水色の小型電子機器を取り出す。

 正八角形に近いその電子機器を、体の正面に構えた。

 しかし、その体勢で叫ぼうとした瞬間、レンはグレイモンの左手に握られているモノを見る。

 

「女の子!? クソッ!」

 

 グレイモンは左手に、一人の少女を握っていた。

 体の所々に傷があり、グレイモンの手中でぐったりとしている。

 恐らく気絶しているのだろう。

 早く助けなければ、少女の命が危なかった。

 

「リアライズ、ダルクモン!!」

 

 少女を助けるため、レンは叫ぶ。

 するとレンが握っている電子機器から、大量の光の粒が放出され、やがてそれらは一人の女性……いや、女性型のデジモンを形成し始めた。

 四枚の羽と赤いターバン、金色の仮面を被っているのが特徴的なデジモンで、片手に杖を持ち、腰に二本の剣を携えている。

 正に『古代の戦士』といった風貌だった。

 完全に形成し終えると、ダルクモンはレンを振り返る。

 

「……は私の勝ちだから」

「は?」

「昨日の試合、勝率的には私の勝ちだからね!」

 

 ダルクモンがしかめ面で言う内容が、昨日のゲームについてだということを理解するのに、レンは数秒を費やしてしまった。

 

「馬鹿! そんなこと言ってる場合か、人命掛かってるんだ! 早く行くぞ!!」

 

 そう言われて、初めてダルクモンはグレイモンの方を見る。

 そしてそのまま、みるみる青ざめていった。

 

「うわあ! 早く助けないと、何でこんなとこで突っ立ってるのよ!」

「そりゃこっちのセリフだ! 行くぞ!!」

 

 勢いよくレンは走り出し、ダルクモンは飛び立ってグレイモンに急接近する。

 グレイモンが気付く前に、ダルクモンは腰から剣を引き抜いて斬りつけた。

 斬られた痛みから、グレイモンは二、三歩よろめいて少女を取り落とす。

 

 すると少女の落下地点にレンが滑り込み、ギリギリでその体をキャッチした。

 そしてそのまま上体を起こすと、出来るだけ距離を取るため再び走り出す。

 レンが離れていくのを見たダルクモンは、目の前で唸り声を上げるグレイモンに対し、剣を構え直した。

 

「さてと、久しぶりの戦闘ですか。腕が鳴るねぇ!」

 

 言っている間に、グレイモンはダルクモンを捕まえるため、腕を振り回す。

 しかし、その隙間を華麗に縫いながら、ダルクモンは次々と剣によってダメージを与えていった。

 

 やがてグレイモンは、ダメージを受けているのが自分ばかりだと察すると、青筋を浮かべて大きく頭をのけぞらせる。

 『奇妙な行動だが隙が出来た』と考えたダルクモンは、そのままグレイモンに刺突攻撃を行おうとしたが。

 

「グワアアアアアアッ!!」

 

 その寸前に、グレイモンはダルクモンへ向かって巨大な火球を発射した。

 グレイモンの必殺技・メガフレイムである。

 しかし、間一髪のところでダルクモンはそれを躱す。

 後ろのビルに火球が激突し、瞬く間にビルが炎上するのを見ながらダルクモンは冷や汗をかいた。

 

「あっぶな……! あんなの喰らったら終わりじゃん」

 

 若干怯えられているのを察したのか、グレイモンは低く唸るともう一度体をのけぞらせた。

 またメガフレイムを撃ちだすつもりなのだろう。

 だが、グレイモンがメガフレイムを撃つ機会は、もう二度と訪れなかった。

 

「バテーム・デ・アムール!!」

 

 ダルクモンはメガフレイムが撃たれる前に、そのがら空きになった胴体目掛けて剣を鬼人の如く乱舞させた。

 それは側から見ると、一種の舞踏のように映ったかもしれない。

 無数の傷を与えられたグレイモンは、メガフレイムを口から吐き出す前にその場へ倒れてしまう。

 そして、不発となったメガフレイムが口の中で爆散し、歯の隙間から煙を出して気絶してしまった。

 

 戦闘は、ダルクモンの勝利で終わった。

 地面に降り立つと、ダルクモンは離れたところで様子を見守っていたレンに向けて手招きする。

 

「終わったよー! ストックするんでしょー?」

 

 レンは電子機器を握ってグレイモンの近くへ駆け寄ると、グレイモンの前にそれをかざした。

 

「ストック、グレイモン」

 

 すると、グレイモンの体は光の粒となり、一気に電子機器へと吸い込まれた。

 

「やっぱ便利だよね、デジヴァイス。私を出したり野良デジモンを収容出来たり。中身ってどんな構造になってるんだろう」

「さぁな、そんなに興味ない。大事なのはどんな仕組みで動いてるかよりも、使えるかどうかだ。内部構造の研究は学者様にでも任せたらいいだろ」

 

 ぶっきらぼうな物言いをしつつ、レンは手に持っていた電子機器……デジヴァイスを見つめる。

 

 基本的にデジヴァイスは、野良デジモンと人間が絆を育んだ時に出現する、と言われている。

 レンとダルクモンも例外にもれず、絆を育んだ関係である。

 絆、という曖昧かつ不明瞭なものに左右されているのはある種危うい部分もあったが、それによってレンやダルクモンは様々な恩恵を受けていた。

 

 デジヴァイスを持つ人間は『テイマー』、そして片割れのデジモンは『パートナー』と一般的に呼ばれている。

 その関係になった人間とデジモンは共同生活を送ることが多いが、中にはその過程で犯罪などに手を染めてしまう者たちも少なからず存在していた。

 

「さて……結構被害が出てるな。メイビスに電話しとくか。死傷者出てないと良いんだが……」

 

 レンはポケットからスマホを取り出し、耳に当てる。

 デジヴァイスの出現、パートナー関係を結んだ者たちが起こす犯罪や、野良デジモンの被害から街を守るため、日本政府が設立したのが『デジモン対策専門機関・メイビス』だった。

 デジモンによる何らかの被害が出た時には、まずは第一にメイビスに通報するよう言われている。

 もっとも、それを無視してデジモンを倒しているのがレンたちではあったが。

 

「……はい、はい。今お伝えした場所にお願いします」

 

 一通りの連絡を済ませると、レンは電話を切った。

 

「通報も済ませたし、もう帰るー?」

「うーん、そうだな。これ以上俺らがいてもどうしようも……あ」

 

 そこで、レンは助けた少女の方を見た。

 少女は依然として気絶したままである。

 少女もメイビスが来るのを待って介抱してもらうか、と一瞬考えた。

 が、すぐ近所にレンの便利屋があることから、これくらいの傷なら抱えて店まで運んだ方が早いだろう、と判断する。

 

「あの子、運んで帰るか」

「えぇ!? そんなことしたら事案じゃないの……?」

「馬鹿、介抱するだけだ。傷の手当だけしたらとっとと帰ってもらうさ」

 

 ダルクモンが後ろから付いて来るのを確認した後、少女を抱きかかえたレンは自分の店まで歩き始めた。

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