ミユは書店の中へ入ると、その広大なスペースを突っ切って一目散に奥へと走っていく。
本棚が所せましと並ぶそのスペースを、ケラモンはプカプカと浮かびながらミユを追走した。
「ミユ、野良デジモンとは俺が戦うから、会敵したら下がってな!」
「そんな訳にはいかないよ。ケラモンだけを大変な目になんて遭わせられない、私も一緒に戦う!」
「ったく、うちのお嬢は言うことを聞かないんだからなぁ」
やがて書店のバックヤード、その入り口にまでミユたちは到着する。そこには。
「グキュルキュル……」
緑色の肌と頭部に角を持つデジモン、オーガモンが門番をするように立っていた。
その周りにはそのオーガモンを二回りほど小さくしたような見た目のデジモン、ゴブリモンが四体うろついている。
どうやら、バックヤード内に誰かが監禁されているようだった。
本棚の影に隠れつつ、ミユとケラモンはオーガモンたちの様子を探る。
「ミユ、どうする? 別の道からバックヤードに入る方法を探すか?」
「ううん、正面突破で突っ込もう」
「なんか、レンに稽古をつけてもらってから考え方がアグレッシブになったな……」
ミユはオーガモンたちの前に飛び出し、オーガモンが反応する前にデジヴァイスを構えた。
「インストール、ガオガモン!!」
ミユの周囲を渦巻くように風が起こり、その両手に鉄製の爪のような武器が形成される。
一番近くにいたゴブリモンへ距離を詰めると、勢いよく爪を振るった。
「ギャッ!?」
ゴブリモンは一声鳴くと、よろめきつつオーガモンの方へと後ずさる。
それによりオーガモンと残りのゴブリモンは、ミユとケラモンを敵と認識したようで、唸り声を上げつつ持っていた棍棒を構えた。
それを見ると、ミユはさらにデジヴァイスを輝かせた。
「ケラモン、行くよ! 進化!」
「こうなりゃやってやるぜ! うおおおおッ!!」
ケラモンの体から暴風が吹き荒れ、それによってオーガモンたちは壁際まで後退する。
ケラモンの体は、クラゲのようなシルエットから大きな紫色の蛹になり、そこからさらに数本の触手が伸びた、異様な体型へと進化していく。
ケラモン時よりも鋭く、そして少しだけ禍々しい雰囲気を持ったそのデジモンは、暴風が収まるとミユの傍に寄りそった。
「クリサリモン……!」
オーガモンはそれを見ると、唸り声を上げる。
「オレタチ、ココ守ル。ボスカラノ、命令!!」
オーガモンが棍棒を振りかざすと、ゴブリモンたちは一斉にミユとクリサリモンに向かって突撃してくる。
棍棒攻撃をミユは避けつつ、爪でゴブリモンたちにダメージを与えていく。
「ギャッ!?」
「まだまだっ!」
爪による連撃でゴブリモンの一体は致命傷を喰らい、光の粒となって爆散した。
その隣で、クリサリモンも触手をもう一体に突き刺し、ゴブリモンのデータを強制的に分解していった。
悲痛な叫び声と共に、二体のゴブリモンはあっという間に消滅した。
「グッ、ウガアアアアッ!!」
それを見たオーガモンは、ミユたちに直接手を下さんと棍棒を持って走り出す。
ミユを守る様に、クリサリモンはオーガモンと対峙する。
オーガモンが振り下ろした棍棒を、クリサリモンは全ての触手を使って受け止めた。
だが、しかし。
「覇王拳ッ!!」
棍棒を持っていないもう片方の拳で、オーガモンは必殺技を放つ。
その拳をモロに喰らったクリサリモンは吹き飛び、空になっていた錆びたラックに激突した。
「クリサリモン!」
ミユはクリサリモンの下へと駆け付けようとするが、それを二体のゴブリモンが阻む。
そして、後ろにはオーガモンが次の攻撃を繰り出すために腰を低く落としていた。
囲まれたミユは、それでもこのピンチを打破するため、走りだす。
「ダッシュダブル、クロー!!」
ゴブリモンたちとの間、僅か数メートル。
その僅かな距離を使って、ミユは超人的に加速し、ゴブリモンたちに大きな爪痕を付けた。
「ギャアアアアッ!!」
断末魔を上げると共に、残り二体のゴブリモンも爆散する。
これで、ミユとクリサリモンの敵はオーガモンのみとなった。
ミユはダッシュダブルクローの加速を維持して、クリサリモンのところまで走り寄る。
「大丈夫、クリサリモン!?」
「アイツ、めちゃくちゃな馬鹿力だぜ。こりゃ骨が折れるな」
ミユに助け起こされつつ、クリサリモンは浮遊する。
それを見たオーガモンは、もう一度唸ると今度は棍棒をブーメランのようにミユに向かって投げた。
「うわっ!?」
オーガモンの一瞬の行動に対し、何とかミユはガードするが、その隙にオーガモンはミユたちに距離を詰める。
「データクラッシャー!!」
「覇王拳ッ!!」
クリサリモンの束になった触手と、オーガモンの拳が激突する。
クリサリモンの攻撃によってオーガモンの拳は分解され、光の粒となっていくがそれでもオーガモンはクリサリモンへ拳を振りぬいた。
「うがっ!」
クリサリモンは地面に叩きつけられる。
地力はどうやらオーガモンの方が一段階上らしい。
しかし、オーガモンの武器である棍棒はミユの傍にあり、そしてデータクラッシャーによってオーガモンは隻腕となっていた。
「スパイラルブロー!!」
突如吹き荒れた暴風に、オーガモンはクリサリモンと離れることを余儀なくされる。
その暴風はミユの爪から放たれたものだった。
インストール元である、ガオガモンの必殺技の一種である。
クリサリモンに駆け寄ったミユは、低い声で耳打ちする。
「息を合わせて連続で必殺技を撃つ。オーガモンの強さから言って、これしかないと思うの」
「……だな。俺が先にオーガモンと距離を詰める。お前は後ろから攻撃を喰らわせてやれ」
今まで、ミユとクリサリモンはソウスケを助けるために、短い期間でありながら何度も訓練を繰り返してきた。
その成果を見せる時が、ついに来る。
オーガモンは雄叫びを上げると、最早策は必要ない、とでも言うように拳を前に構えて駆け出す。
それと同時に、クリサリモンも触手を再び束にして距離を詰めた。
「覇王……拳ッ!!」
「データクラッシャー!!」
再び、オーガモンの拳とクリサリモンの触手が激突した。
オーガモンの拳が光の粒と化していくが、オーガモンは先程と同じようにクリサリモンに拳を振りぬこうとした。
しかし、今度はミユが後ろに潜んでいる。
ミユの爪攻撃が、オーガモンに炸裂した。
「ダッシュダブルクロー!!」
オーガモンの体を、ミユは一瞬の隙も与えぬまま十字に切り裂いた。
両腕を失い、全身に渡る大きな傷をつけられたオーガモンは、ついに倒れ伏す。
「ハァ、ハァ。やったね」
「実戦は初めてだったけど……何とか成功したみたいだな」
荒い息を吐きながら、ミユはクリサリモンの触手とハイタッチする。
オーガモンの体が完全に光の粒となって消えてから、ミユはバックヤードの扉を勢いよく開けた。