ミユと別れてから、僅か数分も経たない頃。
「ダルクモン、進化だ!」
レンの指示と共に、デジヴァイスが眩く輝く。
ダルクモン自身の体からも光がとめどなく溢れ……やがてそれが収まると、ダルクモンはエンジェウーモンへの進化を遂げた。
「悪いが、さっさと決着をつけさせてもらう!」
レンは駆け出すとテツオに向けて拳を固め、一撃を放った。
それをテツオは大砲でガードする。
その間に、エンジェウーモンはウッドモンに向けて矢をつがえ、聖なる光の矢を次々と放っていった。
ウッドモンはそれにより四肢を拘束され、身動きできなくなってしまう。
そこに巨大な矢を放とうとしたエンジェウーモンだったがその直前、テツオはレンを跳ねのけると、レーザーカノンを発射して巨大な矢を消し飛ばす。
「……一筋縄ではいかないようだな」
テツオは距離を取ると、矢に磔にされているウッドモンを一旦デジヴァイスに収納し、レンたちから離れたところで再びリアライズさせる。
レンとテツオの実力はほぼ互角なものの、エンジェウーモンとウッドモンは完全体と成熟期。
レベルの違い、明確な実力の差がある。
レンたちが優勢なのは明らかだった。
「だのに何で、アンタはそんな余裕そうなんだ」
リラックスとまではいかないまでも、焦らず動じないテツオへ向けて、レンは疑問を投げかける。
テツオはしばらくウッドモンを眺めていたが、やがてその視線をレンたちに戻すと、薄く笑った。
「そんなの、理由は一つしかないだろう?」
「……そうか」
レンが勘づいたと同時、テツオのデジヴァイスは輝き始める。
それはつまり……ウッドモンも、さらなる進化が可能だということだった。
「ウッドモン、進化!」
ウッドモンはその分厚い腕や胴体を、より細身である蔦の束へと変化させていく。
ウッドモン時の鈍重な見た目とは違い、しなやかな印象を受けるその蔦の体は、完全に形成し終えると手に持っている鎌を構えた。
「アヤタラモン!」
テツオのウッドモンは、植物型の完全体、アヤタラモンへと進化する。
それを見たレンとエンジェウーモンは、顔を引き締める。
「行け、まずはエンジェウーモンを倒せ」
「了解」
短く言葉を交わすと、アヤタラモンは体をねじって跳躍する。
それに対してエンジェウーモンは光の矢を次々と放つが、しかし。
「アサルトハチェット!」
アヤタラモンは手に持っていた鉈で、次々と光の矢を切り裂いていった。
アヤタラモンは飛行能力を持たないデジモン、そのことから飛行するエンジェウーモンに対して跳躍しつつ攻撃を行うが、高さがあまり開いていないこのモールでは、それでも十分に届きうる強力な攻撃だった。
「くっ!」
エンジェウーモンは高速で空中を旋回して避けていく。が。
「ショットガンモス!」
頭部に生えている毒草を、アヤタラモンは素早く針のように飛ばしてエンジェウーモンへ突き刺した。
その針の効果で体が麻痺したのか、エンジェウーモンは顔を歪めた瞬間、地上へ落下した。
「エンジェウーモン!」
駆け寄ろうとするレンだったが、その前にテツオが立ちふさがり、大砲を振るって打撃を加える。
「がはッ!」
よろめいて膝をつくレン。
レンがダウンしている間に、アヤタラモンはエンジェウーモンへ馬乗りになり、鎌で何度も斬りつけていく。
「や……めろ!!」
テツオをガントレットによる一撃で弾き飛ばし、アヤタラモンを羽交い絞めにするレンだったが、アヤタラモンの独特な軟体には羽交い絞めなど効かないらしい。
うねる蔦によって、逆に体を縛られてしまう。
骨が軋む音と共に、レンは悲痛な叫び声を上げた。
「レン! このっ!!」
レンに絡みついているアヤタラモンを起き上がったエンジェウーモンが精いっぱいの力で殴る。
しかし、それでもアヤタラモンはレンの体を離れない。
「作戦変更。便利屋、お前から片づけてやる」
アヤタラモンは低い声で淡々と言う。
だが、より締め付けが強くなった瞬間、レンは覚悟を決めると、ガントレットを銃口の形へと変化させる。
「メガフレイム!!」
まとわりつくアヤタラモンの体に向けて、レンはメガフレイムを着火した。
「ぐっ!?」
植物型なので火に対する耐性が弱いアヤタラモンは、それによってレンの体から離れ、悶える。
「アヤタラモン!」
テツオが火をかき消すためにアヤタラモンに近づこうとするが、その寸前にエンジェウーモンのキックがテツオに炸裂した。
数メートルほど吹き飛ばされたテツオは、白目を剥くと気絶してしまった。
「よくやったエンジェウーモン! 後は……」
レンが視線をアヤタラモンへ移すと、その意図を理解したようでエンジェウーモンは頷く。
空中へ再び飛び上がると、あらん限りの力を振り絞って、巨大な光の矢を形成した。
「これで終わりっ!! ホーリーアロー!!」
巨大な力の塊である光の矢は射出され、ようやく火が収まって来たアヤタラモンの体を凄まじい威力で貫いた。
「ぐああああっ!」
ホーリーアローによって腹部に大穴が開いたアヤタラモンは、その場へ倒れ込んでしまう。
そこから急速に光の粒として分解されていき、三十秒もかからない内に姿をデジタマへと変化させた。
書店前の戦いは、レンとエンジェウーモンの勝利で終わった。
「ナイス、エンジェウーモン」
「レンこそ。さ、早いところミユちゃんの加勢に行かなきゃ」
その時、レンのズボンのポケットから着信音が鳴る。
スマホを取り出したレンは、それを耳に当てた。
「ミユちゃんか! そっちは大丈夫だったか?」
「えぇ、バックヤード前に野良デジモンが数匹いたんですけど、何とか倒せました。ヤード内には数人の研究者の方が捕えられてました」
「そうか、そいつはよかった。お兄さんはいたか?」
「いえ、いませんでした……ただ」
「ただ?」
「今、目の前に……きゃっ!?」
突然上がったミユの叫び声に、レンは眉を顰める。
「どうした、ミユちゃん?」
「……おーい、便利屋か?」
「その声、黒巌セイジか!」
画面越しからセイジの声が聞こえてきたことで、レンの顔は数段険しくなる。
「はは、覚えていてくれたんだな。まぁそれはどうでもいいが……今から俺が言う場所に来てもらう。そうすれば、この子に危害は加えないと約束しよう」
「ぐっ……!」
ミユがセイジと同じ場所にいる以上、レンは下手に動くことが出来ない。
セイジの言う通りの場所に向かうしかなかった。
二、三言話した後、レンは静かな怒りと共に電話を切った。
エンジェウーモンが心配そうにレンを覗き込む。
「エンジェウーモン、今からモールの屋上に行くぞ。ミユちゃんがセイジに捕まったらしい」
「へっ!? い、急がないと!!」
「あぁ、何を企んでるのかわからん。行くぞ」
怒り半分、不安半分の顔でレンは駆け出す。
その後にエンジェウーモンもついていった。