フラグメント・リベンジャーズ   作:有本

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第14話 かくして、黒き翼は地に降り立つ

 屋上へと続く扉を開けたレンは、辺りを素早く見回す。

 モールの屋上は児童が遊べる遊具スペースと、カフェテリアのスペースが半々で構成されていた。

 そしてそのさらに奥、屋上のフェンスにセイジはもたれかかっていた。

 傍らには、ミユが不安げな顔で立っている。

 

「ミユッ!」

 

 レンたちはミユに近づこうとするが、セイジは手を上げてそれを止めた。

 

「おっと、そこまでにしてもらおうか。それ以上近づくなよ? こっちには人質がいるんでな」

 

 ニヤニヤしながらミユを見るセイジに対し、レンは歯ぎしりする。

 

「それに、人質はコイツだけじゃない。コイツをここまで連れてくるためにも餌が必要だったんでな……後ろを見てみな」

 

 言われてレンが振り返ると、そこには。

 

「なんだ、アレ……」

 

 レンが出てきた扉、その上部に一人の男が鎖に巻かれて磔にされていた。

 どうやら生きてはいるようだったが、意識を失いぐったりとしている。

 

「それがコイツの兄ちゃんだよ。おっと、動くなよ? 手製の爆弾を取り付けてあるから、いつでも爆破出来る」

「なっ……!?」

 

 驚くレンとエンジェウーモンを見て、セイジはクックッと笑う。

 ミユは兄……ソウスケへ駆け寄りたいような表情をしていたが、セイジが近くで差し止めている。

 そんなミユをレンは今すぐにでも助けたかったが、やはりセイジが邪魔をしている。

 何か近づくための策を練らなければならなかった。

 

「さて、それで……何でお前たちをここへ呼んだのか、だが」

 

 セイジはデジヴァイスを懐から取り出すと、ボタンを何度かカチカチと押す。

 すると、デジヴァイスはその形をガムのように歪に変化させ、透明な注射器の形となった。

 そのような変形機構がデジヴァイスにあると知らなかったレンは目を剥くが、それに対しセイジは事も無げに話す。

 

「あぁ。デジヴァイスの研究者も攫ってたんでな。ソイツに色々と改造してもらったってわけさ」

 

 セイジはそれを持ったまま、ミユが手に持っていたデジヴァイスをひったくる。

 ミユは取り戻そうと手を伸ばすが、セイジは人差し指をミユの顔に押し付けた。

 

「俺の行動を止めたら兄さんがどうなるか……わかってるよな?」

「……っ」

 

 大人しくなったミユを満足そうに一瞥すると、セイジは注射器をデジヴァイスに刺した。

 いや、実際には当てただけだったが次の瞬間、注射器に紫色の液体がゆっくりと吸い込まれていく。

 レンは傍らでエンジェウーモンを制しつつ、いつでも飛び掛かれる態勢でセイジに聞く。

 

「一体何をやっているんだ? ここまで来たんだ、それくらいは説明してもらおうか」

「そうだな……前に俺は『暴れ馬なパートナーを制御する方法を探している』みたいなことを言ったよな?」

「……そうだったな」

「俺はパートナーの制御方法を研究するため、多くの研究者たちを攫った。そして、そこにいる嬢ちゃんの兄、倉石ソウスケだったか? ソイツが編み出した制御法を試してみることにしたんだ」

「……それで、その方法ってなんなんだ」

 

 注射器にエネルギーを入れ終わったのか、ミユのデジヴァイスを離すセイジ。

 それを軽く放ると、ミユは慌ててキャッチした。

 

「俺たちは、ケルビモンという究極体デジモンのデータを手に入れている。ケルビモンと俺のパートナーを合体させるのさ。そうすることで、俺に従順な新しいパートナーを作れるらしい。だが、ケルビモンには合体させるための“慣らし”が必要だった。その“慣らし”に使うのが、嬢ちゃんのデジヴァイスから抽出したデータさ。嬢ちゃんのパートナーには、先天的に悪意のデータが組み込まれているらしいからな」

 

 注射器から元のデジヴァイスの形に戻すが、セイジのデジヴァイスは毒々しい紫色に変色している。

 

「ちょうどいい、今から実演した方が早いな」

「……何?」

「リアライズ、ケルビモン!」

 

 デジヴァイスから光の粒を大量に放出し、セイジはケルビモンを顕現させる。

 本来、デジヴァイスはパートナーデジモン以外をリアライズすることは不可能だが、先ほど言っていた改造の結果だろう。

 どうやらセイジのデジヴァイスは、かなり応用が効くらしい。

 

 ケルビモンが空中に形成されるが、その姿はソウスケと同じく鎖に覆われ、十字架に磔にされていた。

 ピンク色の柔らかそうな肌がきつく締めあげられ、苦悶の声を上げている。

 

「ククッ、いくぞケルビモン! 悪意のデータを喰らえ!!」

 

 そう言うと、セイジはケルビモンに向けてデジヴァイスをかざした。

 そこから紫色の光線が、ケルビモンへと発射される。

 ケルビモンはそれにより、うめき声から絶叫へと変わる。

 しかし、セイジは光の照射をやめない。

 そして十数秒間光を当て続けると、ケルビモンの体は次第に紫に変色し、鋭く禍々しい目つきへと変貌していった。

 

「ケルビモンには善状態と悪状態があるらしい。悪状態にすることが、“慣らし”において重要だった」

 

 鎖を引きちぎらんばかりに暴れる紫色……悪状態のケルビモンの方を見つつ、セイジはデジヴァイスを空中へと向ける。

 

「そしてここからが重要だ。見とけよ、便利屋。新たなデジモンの誕生を!」

「……クソッ!」

 

 レンは異様な気配を感じていたが、ソウスケに取り付けられている爆弾のリモコンは恐らくセイジが持っている。

 そのことから、レンは軽々しく動くことが出来ない。

 悲痛な面持ちをしているミユのためにも、ソウスケの安全を差し置いて動くことは出来なかった。

 

 しかし、次に放ったセイジの言葉を聞いて、レンの顔色は大きく変わる。

 

「リアライズ、インペリアルドラモン!!」

「何……!?」

 

 ケルビモンと同じようにデジヴァイスから大量のデータの光の粒が飛び出し、インペリアルドラモンの姿が形成されていく。

 その赤い目、とげとげしいドラゴンの体、全体的に黒いシルエット。

 間違いなかった。

 そのインペリアルドラモンは、九年前にデジタル・ディザスターを起こした……風咲ルリを殺した、まごうことなき諸悪の根源だった。

 

 それを見たレンは、愕然としながらも段々とその顔に怒りを滲ませ、叫ぶ。

 

「お前が、お前がデジタル・ディザスターを……ルリを!!」

「おっと、勘違いしてもらっちゃ困る。俺とコイツが出会ったのは、あの事件が起こった後だよ」

 

 モールの屋上で今にも暴れ出しそうなインペリアルドラモンを宥めつつ、セイジは言う。

 

「まぁ、俺がやるのはあの事件の再演……以上のことなんだけどな。さて、準備は整った。始めようか!」

 

 セイジのデジヴァイスは、黒い煙を放出していく。

 その煙は、インペリアルドラモンとケルビモンを取り囲み、まるで巨大な手のようにがっしりとその体を掴んだ。

 

「インペリアルドラモン、ケルビモン……混ざれ」

 

 煙に掴まれたインペリアルドラモンとケルビモンは、強制的に体を合体させられる。

 今まさに、二体は溶け合わさるようにして、一体のデジモンへと生まれ変わろうとしていた。

 黒色と紫色の肢体は混合すると、化学反応が起きたようにゆっくりと白くなっていく。

 その白色の体はやがて人間のような四肢となり、そこから一対の黒い翼が体を覆うように生えていった。

 

 人間の数倍の巨躯を持つそのデジモンは、やがて体を形成し終えるとセイジの横にゆっくりと降り立つと、跪いた。

 セイジの顔に、段々と狂気的な笑みが浮かんでくる。

 

「アナライズ。……そうか、お前の名前は」

 

 デジヴァイスをそのデジモンに当てたセイジは、ゆっくりと反芻するようにその名前を呟いた。

 

「オルディネモン」

 

 白い肢体を持つデジモン……オルディネモンのただならぬ気迫により、レンたちは先程とは別の意味で、一歩も動くことが出来なかった。

 動けば確実に殺されてしまう。

 辺りにそんな緊張感が漂う。

 

 しかし、その気迫を抑えるように、セイジはオルディネモンの体に手を当てた。

 

「あぁ……素晴らしいな。期待以上だ。この力を使えば、俺の前に敵はいなくなる」

 

 その言葉を聞いて、レンは察する。

 セイジの本当の目的は、インペリアルドラモン以上の力を手に入れ、それを使ってこの世界を思うがままにすることだと。

 セイジは懐からリモコンを取り出すと、レンに投げて渡す。

 

「それは爆弾の発動装置だ。どうせその男を人質に取っている意味は、もうなくなった。この力を使って、これからは好き勝手にやらせてもらうぜ」

 

 セイジは低い声で笑い出すと、レンに向かって手をサッと振る。

 

「手始めに、オルディネモン。あのパートナーを潰せ」

 

 オルディネモンは無言で頷くと、レンとエンジェウーモンに向かって禍々しい気迫を放つ。

 それにより空気が震え、レンは僅かだが後ずさった。

 

「レン! ヤバいよ……あんなのと戦ったら一瞬で殺されちゃうよ!」

「……だが、ここまで来てるのは俺たちしかいない。俺たちで、止めるしかないっ……!」

 

 レンはガントレットを構えると駆け出す。

 それを見て、エンジェウーモンも半ば覚悟を決めたようにオルディネモンへと飛び掛かった。

 しかし二人が攻撃を仕掛ける寸前に、オルディネモンはゆっくりと腕を振るう。

 すると、軽く振っただけでその場に暴風が吹き荒れ、レンとエンジェウーモンはその場から吹き飛んでしまった。

 セイジの傍にいたミユですら、そのあまりの威力にフェンスに捕まったままへたり込んでいる。

 

「ぐはっ!!」

 壁に叩きつけられたレンとエンジェウーモンは痛みに苦しむ。

 エンジェウーモンはその衝撃だけで、ダルクモンまで退化してしまった。

 

 苦しむ二人の姿を見て、セイジは嘲笑する、がしかし。

 

「……ガアアアア!!」

 

 突如、オルディネモンが獣のような咆哮を上げた。

 割れんばかりの悲鳴のような咆哮に、レンたちは立ち上がることも出来なくなる。

 だが、傍らに立っているセイジも困惑していた。

 

「どうした、オルディネモン!」

「ガアアア、アアア」

 

 オルディネモンは膝をつき苦しみだす。

 テレビにノイズが走るように、オルディネモンの体がブレていった。

 どうやらレンが見るに、オルディネモンは自身の強すぎる力をまだ完全に扱うことができないらしい。

 セイジもオルディネモンを見て、それに気づいたようだった。

 

「チッ、まだ使いこなすまでには至らないか……オイ、便利屋」

 

 セイジはレンを指差す。

 

「この勝負は一旦お預けだ。それと、お前をメイビスへのメッセンジャーにしてやる。いいか、『近いうちに必ず、俺とオルディネモンはメイビスを潰し、東京を壊滅させる』、そう伝えろ」

「何だと……!」

「俺とオルディネモンはしばらく身を潜める。あばよ」

 

 セイジはオルディネモンをデジヴァイスへしまう。

 そして倉庫地帯で逃げた時と同じように、大量のコウモリを体の周囲に纏い、その場から消えてしまった。

 

「クソッ……」

 

 モールの屋上には、レンとダルクモン、吹き飛ばされて気絶しているミユ、磔にされているソウスケが残るのみだった。

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