フラグメント・リベンジャーズ   作:有本

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第15話 全てを賭けた戦い

 ショッピングモールにて、レンたちが救出作戦を行ってからおよそ一ヶ月の時が経つ。

 

『機関長! 渋谷区にて、突如強大なデジタルモンスター反応を確認! 恐らくアンノウンのボス・黒巌セイジのパートナーデジモンだと思われます! 早急に隊員の派遣をお願いします!』

 

 オペレーター室からかかってきた電話に対し、リョウゴは顔を引き締める。

 

「そうか……わかった。すぐに手配する」

 

 電話を切ると、リョウゴはちょうど目の前にいた三人を見た。

 

「黒巌セイジがオルディネモンを引き連れ、再び現れたそうだ。場所は渋谷。人口が密集している土地だ、早く手を打たねば被害は甚大なものとなる。レン君、それにミユ君。隊員たちと共に今すぐ現場へ行ってくれ。私も後から向かう」

 

 リョウゴの目前にいたのは、レンとミユ、それにソウスケだった。

 レンとミユは軽くうなずくと、足早に機関長室を出て行った。

 それを見たソウスケは、不安そうにリョウゴを見る。

 

「本当に、作戦は成功するんでしょうか?」

「作戦発案者であるあなたが弱気になられては、こちらとしてもいささか困りますな。大丈夫、あなたたち研究者の成果は無駄にはならない」

 

 ソウスケはリョウゴから目線を外し、窓の外、ビルが立ち並ぶ街々に視線を移す。

 険しい目つきでそれらを眺めていたソウスケは、やがてポツリと呟いた。

 

「……そうだといいのですが」

 

 ここ一ヶ月間、必死の研究を行っていたソウスケは、その苦闘の日々を思い出す。

 レンとミユにモールから救出された後、一週間ほどの療養を経てソウスケはすぐに他の研究者たちと共に、『対オルディネモン用兵器』の製作にあたった。

 三週間ほどの突貫工事で、その製作は一応の実を結んだのだ。

 しかしそれでもソウスケは、究極体を超える未知のデジモンへの対処としてこれが最善なのか、未だにわからなかった。

 

 しかしオルディネモンを生み出してしまったのは、セイジに知識を与えてしまったソウスケの責任でもある。

 だからこそ何としてでも、オルディネモンをこの世から消し去る方法を開発しなければならない。

 ソウスケはそれだけを考えて製作を行っていた。

 

 そして今日、奇しくもその成果が出る日が訪れた。

 結果が吉と出るか凶と出るかはわからない。

 だが、ソウスケはレンたちに己の研究成果を託すしかなかった。

 

「お願いだ、無事に帰ってきてくれよ……ミユ……!」

 

 ソウスケは手を握り、静かに祈った。

 

 ― ― ― ― ―

 

「なんだありゃあ!?」

 

 機関の車両から顔を出したチアキは、気味の悪いものでも見たかのように高い声を上げる。

 それにつられ、レンも車両から顔を出す。

 するとかなり離れたところではあるが、前方にオルディネモンの姿が見えた。

 しかし、それだけではない。

 オルディネモンの周囲には輪を作るように小さな無数のオルディネモンが浮かんでいた。

 オルディネモン本体は白いのに対し、小さなオルディネモンたちは体色が黒い。恐らく分身体だろう。

 

 オルディネモンはメイビスの車両が複数向かってくるのを視認すると、人差し指ををゆっくりと車両たちの方へ向ける。

 すると、それまでオルディネモンの周りに渦巻いていた分身体は、大挙して車両たちに押し寄せ始めた。

 

「うおお、止まれ、止まれ!!」

 

 チアキは慌てて運転手に声をかけ、停車させる。

 他の車両も分身体に気付いていたようで、次々と停車していく中、レンたちは車両から降りる。

 そして迫りくる分身体たちを倒すため、デジヴァイスを構えた。

 逃げ惑う人々を誘導するため、機関員が駆け出していく横で、レンはデジモンをリアライズさせた。

 

「とりあえず、チアキたちはここで分身体を食い止めておいてくれ。俺は本丸を叩く」

 

 レンとダルクモンに、チアキは若干不安な様子で話しかける。

 

「分身体がいるのは想定外だ。お前たちだけでオルディネモンを止められるのか?」

「絶対に大丈夫、と言い切れるわけじゃないが……この一ヶ月、俺たちも本気で訓練してきたんだ。それに、ソウスケさんから託された兵器もある。ここで倒してみせるさ」

「そうか。わかった、行ってこい!」

 

 レンはダルクモンをエンジェウーモンへと進化させる。

 エンジェウーモンはしゃがむと、レンに肩を差し出した。

 

「肩に乗ってもらうのはいつぶりかな……それじゃ、行くよっ!」

 

 レンを乗せたエンジェウーモンは、オルディネモンへと向けて飛び立った。

 

「レンさん! 必ず勝ってきてくださいね!」

「あぁ!」

 

 後方から応援を送るミユに片手を振ると、レンとエンジェウーモンは飛び去っていった。

 

「さて、と。こっちはこっちで気張らねぇとな」

「そうですね」

 

 チアキとミユは、それぞれドラコモンとケラモンをリアライズさせる。

 

「なんじゃこりゃあ!? これ全部倒さないといけないのか!?」

「ケラモン、出来る?」

「やるしかねぇよなぁ。ついてないぜ」

 

 愚痴をこぼしながらも戦闘態勢に入るケラモンの横で、ドラコモンは微かに震えつつもチアキを見上げる。

 

「チ、チアキ。僕たちならきっとできる……よね?」

「馬鹿、ここぞという時に弱気になるな。心配しなくても、お前は強いって信じてるよ」

「……うん!」

 

 チアキとミユのデジヴァイスは輝く。

 それによって、ドラコモンとケラモンの姿は力強く、そして逞しく変化していった。

 周囲の機関員も同じように、一斉にデジモンを進化させる。

 

「ドラコモン!」

「ケラモン!」

「「進化!!」」

 

 デジヴァイスの輝きは収束し、ヴォルクドラモンとクリサリモンは並び立った。

 

「恐らくあれらはオルディネモンの分身体、パワーも本体には及ばないはずだ! 俺たちで何としてでも被害を食い止めるぞ!!」

「「「「応!!」」」」

 

 チアキが機関員たちの全体的な指揮を執り、それによってデジモンと機関員たちが一斉にオルディネモンへと激突していく。

 

「サークルオブデス!」

 

 生物を昏倒させる領域を周囲に繰り出したヴォルクドラモン、その周囲にバタバタと複数の分身体が倒れていく。

 それを見たクリサリモンも、負けてられないとばかりに分身体の一体に触手を突き刺した。

 

「データクラッシャー!!」

「ギィィィィ!!」

 

 歪な叫び声を上げつつ、分身体の体は分解されていく。

 その近くでは、ガオガモンをインストールした鉄の爪により分身体を切り裂いていくミユの姿があった。

 しかし、しばらくそのようにして戦っていたものの、チアキはメイビス側が押されているのに気づく。

 

「クソッ、流石に数が多すぎやしねぇか!?」

 

 オルディネモンの分身体はざっと見ただけで、千を超えるようだった。

 いくら成熟期程度の攻撃で倒せる敵だとは言え、ここまでとなると数の力で押されてしまう。

 少しずつ機関員たちが劣勢になっていくのを見て、チアキ自身も仲間を助けるために分身体たちに立ち向かっていく……が。

 

「ぐあっ!!」

「!? オイ、しっかりしろ!!」

 

 近くに倒れ込んできた隊員たちを助け起こすために、チアキは思わぬ時間を食ってしまう。

 その間にも、分身体たちは大挙して押し寄せてくる。

 ヴォルクドラモンがある程度庇いながら戦ってくれているおかげで、ミユたちが倒されるようなことはなかったが、それにしても敵の数が多く苦戦は必至だった。

 

「このままじゃ総崩れだ……どうする……!?」

 

 次々と倒れていく機関員たちを見て、チアキの焦りは募っていく。

 一気に形成を逆転できるような手段が必要だったが、今戦っている仲間たちにそんなものはない。

 だが、その時。

 

「っ!?」

 

 強烈な殺気を背後から感じ、チアキとミユは思わず振り向く。

 しかし、その殺気はチアキたちに向けられたものではなかった。

 そこに立っていたのは。

 

「遅くなって済まない。助太刀に来たよ」

 

 機関長・神柴リョウゴが穏やかな顔でデジヴァイスを構えていた。

 肩の力は抜いているものの、その目は笑っていない。

 リョウゴがデジヴァイスを輝かせると、そこから尋常ではない気迫が溢れ出る。

 それと共に、一体のデジモンが形成された。

 

「リアライズ、カオスドラモン」

 

 赤いメタリックボディの、ドラゴンのようなシルエットをしたデジモン……カオスドラモンは、分身体たちを見ると怒りを滲ませるように咆哮した。

 

「あ、あれがカオスドラモン……!」

 

 チアキは空気がビリビリと震えるような咆哮に、ただ気圧されていた。

 メイビスには『機関長のパートナーは究極体にまで進化できる』という噂があったが、その真相をこの目で見ることになるとは。

 冷や汗を流すものの、チアキの顔には幾らか生気が戻っていた。

 

「さて、一泡吹かせてやろうか。カオスドラモン」

「グルルルル……」

 

 カオスドラモンは歯を食いしばり、四足歩行の態勢になって構えると、背中に背負っていた一対の大砲を分身体たちに向けて構えた。

 

「ハイパームゲンキャノンッ!!」

 

 瞬間、大砲から噴出したエネルギー砲は僅かな抵抗も許さず分身体たちを焼き尽くしていった。

 メイビスの機関員が総出で戦い続けて半分も減らせなかった分身体たちを、リョウゴはカオスドラモンの一撃を以て、一瞬で終わらせてしまったのだ。

 

「な、なんつー威力だよ」

 

 『これなら最初から機関長が出張ってくれればよかったのに』と、あまりの攻撃力の高さに半ば放心しかけるチアキたちだったが、そんな隊員たちを見たリョウゴは気合を入れる。

 

「まだまだ分身体は残っている! 市民の安全を守るためにも、ここで必ず全て倒すぞ!」

 

 その声に背中を押された機関員たちは、雄叫びを上げながら残りの分身体に飛び掛かっていった。

 それは勿論、チアキやミユも一緒だった。

 

「ミユ! 一気に畳みかけるぞ!」

「はい!!」

 

 ヴォルクドラモンとクリサリモンを指揮しつつ、二人は再び戦火の中へと飛び込んだ。

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