セイジとオルディネモンが、渋谷に出現する約三週間前。
「……というわけで、オルディネモンを倒すための秘策が必要です。ここにお集まりの皆さんの中から、何かいいアイデアが頂ければと思い、招集しました」
リョウゴは機関長室に集まった、セイジに捕えられていたデジモン関係の研究者たちを見回す。
「そうは言っても、究極体と究極体が合体するなど、聞いたこともない話です。それに、合体した片方のデジモンはあの『デジタル・ディザスター』を起こしたインペリアルドラモンだというじゃないですか。そんな凶悪な力を持つデジモンに、対処する方法など……」
研究者の一人が、不安気にリョウゴへ申し出る。
が、それをさえぎってミユの兄であるソウスケは、「提案がある」と手を上げた。
「倉石さん、提案とは?」
「元々、黒巌セイジのインペリアルドラモンがあのような姿に変わってしまったのは、僕の責任です。つまりあの合体は、僕が考案した手法だ……合体させることを考えたのなら、それを抑え込む方法も同時に考えています」
「ほう! それは」
「ここにお集まりの人たち、その技術力が結集すれば作成可能かと思いますが……要は、合体したデジモン……オルディネモンを閉じ込めるための異空間を作り上げるのです」
集まっている研究者たちは口々に「異空間だと!?」「そんなもの、未だに試作ですら作ることが出来た研究者はいないのだぞ!」と非難の言葉を述べるものの、それを押しのけてソウスケは言った。
「しかし自分が考えた方法では、恐らくこれでしかオルディネモンの侵攻を止めることは出来ない。一か八か、やるしかないんです」
そう言うと、他の研究者たちは皆一様に押し黙った。
ソウスケの言う通り、やらねば世界の崩壊に繋がるのは明らかであるからだった。
そんな中、リョウゴは口を開く。
「して、その空間の名前は何と言うんです?」
「え?」
「いや、何かしら名前がなければ、開発時に不便だろうと思いましてね」
「……『電脳異空型結界・デジタルワールド』。自分が考えていた時は、仮名としてこう呼称していました」
「デジタルワールド、か」
リョウゴはしばらく顎に手を当てて考えていたものの、やがて顔を上げると研究者たちを見回した。
「今の倉石さんの案以外に、何か発案がある人は?」
黙ったままの研究者たちを見て、リョウゴはニコッと笑った。
「なら、この案しかないでしょう。『デジタルワールド』の作成に各自、取りかかって頂きたい」
その一言により、渋々ではあるが他の研究者たちもソウスケに賛同を示し始めた。
「や、やりましょう……! やってやります!」
ソウスケが勢いよく立ち上がったのを見て、リョウゴは鷹揚に頷いた。
― ― ― ― ―
レンを乗せたエンジェウーモンは、迫りくる分身体を避けつつ、オルディネモンへと飛んでいく。
どうやら、オルディネモンを従えたセイジはその余裕からか、レンたちが来るまで分身体以外の攻撃を中断しているようだった。
「舐めやがって……!」
エンジェウーモンはさらにスピードを上げ、セイジたちの前へとたどり着く。
オルディネモンは空中に浮遊しているが、セイジは薄いガラスのような足場を空中に作り、そこに立っていた。
「やっと来たか、便利屋」
「こんなところで悠長に構えやがって、どういうつもりだ」
「いや何、この東京どころか、日本全体をいつでも思いのままに弄べる力を手にしたんだ。そこから出来た余裕ってやつさ」
セイジは顎髭をいじりつつ、ニヤニヤとレンたちを見据える。
それに対し、レンはエンジェウーモンの肩でデジヴァイスを構えた。
それを見たセイジは指を鳴らす。
すると、セイジの足元までしかなかった薄いガラスの足場は存在を広げ、円形の巨大な足場を作り出した。
足場はレンたちの近くまで迫っている。
「乗れよ。デジモンの肩の上じゃ、動くのにも窮屈だろ」
「……」
「そう心配するなって。俺がストックしたデジモンの能力だが、足場はこの大きさで固定した。お前が乗った瞬間足場を縮めて、お前を落とそうなんて野暮な真似はしないさ」
「チッ」
「ちょ、ちょっとレン!?」
信用できなかったが、レンはエンジェウーモンの肩から足場へと飛び移った。
勿論足場へ移ったのは『自分を肩の上に乗せたままだと、エンジェウーモンが全力で戦えないから』という合理的判断の下ではあったが。
「ちょうどいい、お前のデジモンがオルディネモンと戦ってる間、俺もお前と決着をつけたいんだが、どうかな?」
「……やってやるよ。だが、その前に」
レンはデジヴァイスを構えた。
すると、元から淡く輝いていたデジヴァイスの光はさらに輝きを増す。
それを見てセイジは、喜ぶように手を叩いた。
「へぇ、そこまでやるようになったか!」
「エンジェウーモン、進化!!」
エンジェウーモンの体は、緑色の鎧を纏った女性騎士の姿へと、進化を遂げる。
複数枚の金色の羽が特徴的なそのデジモンの名前は。
「オファニモン!!」
ついにダルクモンは、究極体へと姿を変える。
一ヶ月弱で血のにじむような努力を続けたレンとダルクモンは、究極体への進化を短時間だが成功させていた。
「これで俺がお前にしてやれることは、もうなくなった。オルディネモンをブッ倒してきてくれ、オファニモン!」
「ミユちゃんのためにも……ルリのためにも、ね。行ってくる!」
オファニモンがオルディネモンへと向けて飛び立つのを見てから、レンは拳を構えた。
「サシでやろうじゃないか、黒巌セイジ」
「上等ッ!!」
二体の究極デジモンと、アンノウンのリーダー・黒巌セイジ、便利屋・風咲レンは激突する。
最終決戦が始まった。