フラグメント・リベンジャーズ   作:有本

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第4話 多勢に無勢、助太刀一人

「……ここがアイツが言ってた倉庫地帯、か」

 

 ミユと別れた後。すっかり暗くなった辺りを見回しながら、レンは倉庫が並ぶ湾岸部を歩いていた。

 歩きながら観察してみたが、ここに建てられている倉庫たちはどうやら長年使用されていないらしく、錆びて風化しているものが多い。

 こういう現在は使われていないような場所こそ、犯罪者が潜む地として格好の餌食になるのだろう。

 スマホのライトで辺りを照らしながら、レンはそんなことを考えていた。

 

『ねぇレン、私も一緒に見て回るから出してよ』

「そうだな。いざという時のためにも、すぐに戦えるようにしておいた方がいいか。リアライズ!」

 

 ダルクモンの声に応じて、レンはリアライズさせる。

 姿を形成し終えると、ダルクモンは伸びをして軽くその場でジャンプする。

 

「いつも思ってたが、デジヴァイスの中ってのは窮屈なのか?」

「ん、なんで?」

「いや、リアライズさせた後はいつも体をプラプラ動かしてるだろ」

「うーん、窮屈って訳じゃないんだけど……ずっとベッドで横になってるような状態だから。リラックスは出来るけど、その時間があんま長いとね」

「そういうモンなのか」

 

 そんなことを話しつつ、二人は倉庫を見て回るため歩き始めた。

 ダルクモンに「隠れて行動するなら消しておいた方がいいんじゃない?」と言われ、レンは渋々ライトを消す。

 小さい頃から暗闇が苦手だったので、明かりが手元にあった方が安心するのだが、ダルクモンの言い分は正しい。

 二人で暗闇の中を歩きながら、そういえば昔ここと似たような場所を『アイツ』との遊び場にしていたな、とレンは頭の片隅で思い出す。

 

 しかし、今はそんな思い出に浸っている状況ではない。

 一つずつ倉庫を慎重に開け、その中を丁寧に探っていく。

 だが、半分以上倉庫を探し終えた時点でも、組織のメンバーどころか手掛かりになるようなものさえ見つけられなかった。

 

「もしかしてアイツ、あそこまで言ったのに俺たちに嘘の情報を教えたってのか?」

 

 先ほどの男を疑うレンに対し、ダルクモンは静かに首を振る。

 

「いや、あの人は嘘をついてるような感じじゃなかった、と思う。やっぱりここに組織の手掛かりが……」

「どうした、ダルクモン」

「今、後ろに気配を感じたんだけど」

 

 言われてレンも振り向くが、背後には何も見当たらない。

 

「気のせいじゃないか?」

「うーん。いや、一応確かめておきたい。近くの倉庫に入って待ち伏せしてみない?」

 

 ダルクモンの提案に頷いたレンは、近くにあった比較的大きな倉庫に入る。

 中の広さは学校の体育館をほんの少し小さくしたほどで、そこの入り口に二人は身を潜めた。

 そのまま数分待ってみるが、やはり誰も来る気配はない。

 

「やっぱりお前の気のせいじゃないか?」

「そんなことはないと思うんだけどな……」

「探索ごっこは楽しいか、お二人さん」

 

 突然、倉庫の奥から聞こえてきた声に対し、二人は振り向く。

 そこには一人の男が角材に座っていた。

 唐突に呼びかけられたことで噴き出した冷や汗を抑えつつ、レンは男に向き合うと尋ねる。

 

「……誰だい、アンタは」

「なんだ、アイツから聞いてないのか? 俺は黒巌(くろいわ)セイジ、アンタがボコボコにしたチンピラの上司、ってとこかな」

 

 無精ひげに灰色がかった長髪、そして焦げ茶のコートを羽織っているその男……セイジは、ニヤニヤと笑いながら立ち上がる。

 そして、右手を高々と掲げると指を鳴らした。

 瞬間、倉庫内の照明が一斉に点灯する。

 

「……参ったな、これは」

 

 倉庫は体育館と同じように、外縁に沿った細い通路状の二階部分があり、そこには三人の男が立っていた。

 レンたちを、まるで網にかかった魚を見るような目で見つめている。

 

「どうする、レン。これだけの数を相手にするとなると、正直一筋縄じゃ」

「わかってる、ここは一旦退くぞ……っ!?」

 

 倉庫の入り口から逃げようとしたレンたちは、外からやってきた大柄な男に道を阻まれる。

 筋骨隆々なタンクトップ姿のその男は、仏頂面で手を広げた。

 

「悪いが、ここは通せん」

「よくやった、テツオ。そのまま入り口を守っとけ」

 

 焦りつつもレンは素早く周囲を確認する。

 先ほど二階部分にいた三人の男たちは、セイジの近くまで降りてきている。

 各々デジヴァイスを持っていることから、それぞれパートナーがいることはほぼ確定だろう。

 

 三人の男と『テツオ』と呼ばれた入り口を塞ぐ大柄な男、そしてセイジ。

 レンたちは五人のテイマーと戦わなければならない状況に陥っていた。

 

「流石にキツいな」

 

 レンがボソッと呟いたのをセイジは耳ざとく聞いたのか、可笑しそうに両手を腰に当てる。

 

「便利屋・風咲でも、流石にこの人数は無理か? だが……アンタらかなりの手練れだろ。ストックしたデジモンの能力で、あのチンピラやアルゴモンとの戦闘を見てたが、中々のモンだったぜ」

「い、いやぁそんなことは」

「馬鹿、照れるなダルクモン。まぁ、多少腕に自信はあるが。それよりもアンタの目的は何だ」

「いきなり核心に迫るなぁ。そうさな、簡単に言えば『ワガママなパートナーを躾ける方法を探してる』ってとこか」

「は?」

 

 想定していたものとはかけ離れた言葉がセイジの口から出たことで、レンは困惑する。

 

「まぁ、アンタらにどうこう言うような話じゃない。ちなみに、あのチンピラにはまだ伝えていなかったが……ここは既に俺らのアジトじゃない。アンタらをここで待ってたのは、せっかくだし潰しておこうって考えさ」

「つまり、まんまと嵌められたって訳か」

「だな。アンタらと一緒にいたお嬢さん……倉石の妹だったか。口止めしたのにとうとうメイビスに行きやがって。倉石共々殺してやりたいところだが、まだアイツには利用価値があるんでな。だが、アンタらは目障りなだけで役に立ちそうもない。ということで、さっさと死んでもらう」

 

 セイジが周囲を見回すと、テツオと三人の男は一斉にパートナーをリアライズさせる。

 ウッドモン・イビルモン・ゲソモン・スナイモン。ダルクモンと同じ成熟期である四体が、レンたちの周りに立ちはだかった。

 囲まれたまま、ジリジリと詰められていくレンにダルクモンは指示を仰ぐ。

 

「レン! このままじゃマズいよ!」

「成熟期四体、かくなる上は……ダルクモン、進」

 

 しかしその時、入り口を守っていたテツオが何者かに蹴り飛ばされる。

 巨体なので吹き飛ばされるようなことはなかったものの、数歩よろめいたテツオは背後を振り返った。そこには。

 

「よォ、便利屋! 生きてるかァ!?」

 

 その言葉につられてレンも振り返ると、入り口にはメイビスの制服に身を包んだ高校生ほどの少年と、竜型のデジモン……ドラコモンが立っていた。

 負けん気の強そうな少年の顔を見て、レンは目を丸くする。

 

「チアキ!? どうしてここに」

「倉石ミユ、だったっけか。あの子、メイビスに来てから色々喋ってくれたんでな。ここの場所を聞いてすぐ駆け付けたわけよ」

 

 ドラコモンはやや緊張しているのか、肩ひじを張った状態で構えている。

 チアキと呼ばれた少年とドラコモンを見たセイジは、顔色を少し変えた。

 

「そうか。思ったより早く来たな、メイビス。テツオ、ここの指揮はお前に任せる。俺は先に逃げるとするよ、後は頼んだぜ」

 

 あらかじめ何かデジモンの力をインストールしていたのか、セイジの周囲に沢山のコウモリが出現し、途端にその姿を覆い隠していく。

 それを見て、レンは叫ぶ。

 

「待て!! お前には聞きたいことがまだ……!!」

「じゃあな、便利屋。もしここを生き延びられたら、追って来いよ。その時は相手をしてやろう」

 

 時既に遅く、セイジは完全にコウモリに包まれるとその場から姿を消してしまった。

 歯ぎしりするレンだったが、セイジを取り逃がしたことよりもこの窮地をどう脱するかが今は重要だった。

 チアキは飄々とした顔で、テツオをはじめとするセイジの手下たちに話しかける。

 

「もう少ししたらメイビスの増援が来るぜ、アンタらは逃げなくてもいいのかい?」

「関係ない。お前らを手早く倒してからずらかれば済むことだ。インストール、

ゴリモン」

 

 テツオは腕に大砲のような武器を形成する。

 それを見て、レンとチアキもそれぞれデジヴァイスからインストールを行う。

 レンはグレイモンのガントレットを装備し、チアキは一振りの刀を手に持った。

 

「……やれ!」

 

 テツオの短い一言で、戦闘は始まった。

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