フラグメント・リベンジャーズ   作:有本

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第7話 迫る時

「やぁ、風咲レン君。久しぶりだね」

「こちらこそ。お変わりないようで安心しました」

 

 にこやかに手を差し出してきた壮年の男性に対して、レンは手を取り丁寧に挨拶を返す。

 

 倉庫地帯でチアキたちと共に戦った後、レンはメイビスの機関本部までやってきていた。

 今、レンと握手を交わしている男性は神柴(かみしば)リョウゴ……メイビスの機関長である。

 

 壮年ながらもスラッとした佇まいでスーツを着こなし、洒落た丸い眼鏡をかけるリョウゴを見ると、レンはいつもどこか和やかな気持ちを覚えていた。

 現在レンやリョウゴがいる機関長室には、ミユも同席していた。

 ソファに座っているものの、その顔はやや緊張している。

 どうやら立場ある人物であるリョウゴに対し、委縮してしまっているらしい。

 

 握手を交わした後、レンはミユと同じようにソファへと座る。

 リョウゴも向かい側に座ると、早速本題を口にした。

 

「さて、先刻君が倉庫地帯で戦った組織だが……残念ながら、本拠地は未だにわかっていない。しかし、恐らくその本拠地にミユ君のお兄さんが監禁されているだろう」

 

 ミユは黙って聞いていたが、その顔は曇っている。

 やはり、兄の居場所が未だわからないのが相当精神的に応えているのだろう。

 

「メイビスは総力を挙げて本拠地の特定にかかっている。君やチアキ君が倒してくれた男たちから情報も入ることだろう。そういったものも活用して、遅くとも数週間以内には本拠地への救出作戦を開始したい。実は、お兄さん以外にも数か月前から行方不明になっているデジモン関係の学者が数名いてね。その人たちも恐らく組織に囚われている」

「俺も……その救出隊に入れてもらえないですか。ミユちゃんの依頼は、最後まで全うしたい」

 

 レンはリョウゴの目を見据えつつ打診する。

 リョウゴは数秒考えていたが、やがて頷いた。

 

「君のような実力者がいてくれると、我々としてもありがたい。それに先ほど、ミユ君からも救出隊に加えて欲しいとお願いされてしまってね」

「ミユちゃんが!?」

 

 驚いてミユを見るレン。

 覚悟を決めたように、ミユは背筋を正した。

 

「はい。確かに、今の私は足手まといです……でも、どうしても私も兄を救ける手伝いをしたいんです! メイビスの訓練場で、ケラモンと一緒に稽古をつけてもらうようお願いしました。作戦が始まるまでに何としてでも、少しは動けるようにするので」

「いや、だが……」

 

 レンは言い淀む。

 今までデジモンと共に戦ったことがない高校生やそこらの子供が、いきなり犯罪者と戦うのは危険が大きすぎる。

 それに『『アイツ』のように死んでしまっては、兄をもし助けられても元も子もない』と言いかけたものの、しかしレンは『アイツ』の話を口から出すことを躊躇してしまった。

 そんなレンの内面を推し量る様に、リョウゴは見つめていたが。

 

「研究者の拉致以外にも、国が保有していた複数体のデジモンデータも盗まれている。恐らくは組織の犯行だろうが……その中にはケルビモン、究極体のデータもあった」

「究極体……!? って、あの完全体を超える形態のことですよね?」

 

 驚いたようにミユが言うのに対し、リョウゴは首肯する。

 

「よく知っているね。そのようなことからも、我々は組織を危険視している。数年前に起こった『デジタル・ディザスター』のようなことが人為的に起こされてはたまらないからね」

 

 デジタル・ディザスターという言葉を聞いたレンの顔は、少し暗くなる。

 

「しかし、現在のメイビスは人手不足が深刻だ。我々としても待遇は出来る限り良くしているのだが、何分命をかける仕事なのでね。志願者が少ないのだよ。今は少しでも人手が欲しい、ミユ君の嘆願も無下には出来ないんだ」

「そうは言っても、今まで戦闘した経験もないような子を戦わせるのは、俺は反対ですよ。命をかけて戦う重みも理解出来ていないでしょう」

 

 それを聞くとミユは立ち上がり、レンに向かって語気を強めた。

 

「理解してます! それでも……それでも兄を助けたいんです。私が参加することで、少しでもお兄ちゃんが助かる確率が増えるのなら」

「だけど確か、パートナーのケラモンはデジタマ状態なんだろ? それじゃあ」

「いえ、先ほどクラモンに戻りました」

 

 『なんて間が悪い』というようにレンは顔をしかめるが、ミユは興奮したまま説得を続ける。

 

「自分の命は自分で守ります、だからお願いです……私も救出隊に入らせてください!」

「……」

 

 ミユの熱意に、レンは押し負けそうになる。

 確かに、猫の手も借りたい状況のメイビスなら断る理由はないし、そもそもレンはメイビスとは関係がない。

 救出隊にミユが入ることを止める権利がないと言えばそうなのだ。

 しかし、ミユはまだ子供である。

 同じ子供でも、幼少期から訓練を受けていたチアキとは訳が違う。

 そんなミユを、前線に持っていくのはレンの価値観ではもってのほかだった。

 だが。

 

「ミユちゃん、君は子供だ。自分の責任ぐらい取れると思っていても、必ずどこかでミスを侵す」

「っでも!!」

「だから、俺が傍について徹底的にサポートする。勿論、訓練もだ。俺が参加に値しないと思ったら、機関長には俺から断りを入れる。君は救出隊に入る前に、まず俺に対しての依頼人なんだ」

「レンさん……」

「お兄さんと君は、お互いにとってたった一人の兄妹だ。お兄さんだって、君が危険な目に遭うのは望んでいないだろう。だけど、君の気持ちもわかる。だからこれが、俺に出せるギリギリの折衷案だ」

 

 レンの言葉に不満はなかったのか、ミユはゆっくりとソファに座り直す。

 それを見て、リョウゴは改めて言い直す。

 

「メイビスは必ず、数週間内に組織へ作戦を仕掛ける。君たちもそれに参加して欲しい。いいかね?」

「「はい!」」

 

 異論はないレンとミユの返事に、リョウゴは鷹揚に頷く。

 組織との全面対決は少しずつだが、確実に迫っていた。

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