フラグメント・リベンジャーズ   作:有本

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第9話 両者の間で進む時

 薄暗い部屋の中で、一人の男がデスクトップPCと向き合っていた。

 モニターを見ながら忙しなくキーボードを打つ男の顔は、明らかに疲弊している。

 目にはクマが出来、無精ひげを蓄えていた。

 

 部屋の中には、デジモンを利用した実験のために使う、様々な器具が備え付けられていた。

 手術台のようなものから、フラスコやビーカーなど細々としたものまで。

 デジモンの研究に携わってない人間から見れば、その置かれている実験器具のチグハグさに混乱するような組み合わせだった。

 

 そんな中、ドアが開いて一人の男が入ってくる。

 焦げ茶のコートを羽織ったその男は……黒巌セイジだった。

 セイジはキーボードを打つ男の近くまでやってくると、男の肩に軽く手を置く。

 

「おぅ、お疲れさん。研究の進捗はどうだい?」

 

 ビクッと体を震わせつつ、男はセイジを見た。

 

「あ、あぁ。アンタのデジモンを手なずける方法は、理論上ではあるが一つ出来た」

「ほう、どんな?」

「……別のデジモンと混ぜてしまうんだ。デジモン同士を混ぜると、一つ一つの自我が曖昧になる。それを利用するんだ。デジモンを混ぜてもパートナー関係は変わらないから、自我が曖昧な間に上下関係を築いてしまえばいい」

 

 セイジは納得したように手を二、三度叩く。

 

「先生、アンタは中々役に立ってくれてるようだ。アンタの妹がメイビスにチクった時に殺さなくてよかったぜ」

「……本当に、これが終わったら解放してもらえるんだろうな? 勿論、ミユからも監視の目を外してもらうぞ!」

 

 男……いや、倉石ミユの兄である倉石ソウスケは、セイジを若干恐れた目で見つつも、勇気を奮って食って掛かる。

 それを面倒そうな顔で無視したセイジは、ソウスケを片手で再び椅子に座らせた。

 

「心配せずとも、これだけの働きをしてくれたんだ。礼として生かして帰してもいいさ……勿論、最後までキッチリと働いてもらうがな」

「そう、か」

 

 ソウスケは脱力するように椅子の背にもたれかかる。

 その間にセイジは勝手にPCをスクロールして、ソウスケの研究を見ていった。

 

「それで、俺のデジモンと混ぜるのはどいつが適役なんだ?」

「同じレベルで混ぜなければ意味がない。だから、アンタらがこの前捕まえてきたケルビモンのデータを使うんだ」

「アイツを!? 勿体ない気がするがなぁ」

「それぐらいしないと、アンタのデジモンは制御できないはずだ。それともやめるか? 世のためにやめてくれた方が、俺としても安心だが」

「いいや、やってやるさ。ここまで来たんだ、計画の完遂は絶対だ」

 

 邪悪な笑みを浮かべるセイジに、ソウスケの顔は引きつる。

 が、セイジの監視下からは現時点でどうやっても逃げられないことから、ソウスケはここで研究を続けるほかなかった。

 

「ただ、ケルビモンは今のままだと混ぜられない。お前のパートナーと、性格の方向性が一緒じゃないとダメなんだ」

「なんか、やけに色々と段階を踏まないといけないんだな。めんどくせぇ」

「今のケルビモンは、種別で言うところの『善』状態だ。これを『悪』の状態まで持っていくために、悪意のデータが必要だ」

「ふむ。で、悪意のデータってのはどこにあるんだ?」

「……それは今調べてる。そういうデータを持つデジモンが、現実にも数種類はいるはずだ。それを見つける」

「そうか。ま、頑張ってくれや。そろそろメイビスがここを突き止めそうだからな、迎え撃つ準備をしなきゃならん。また後で来る」

 

 セイジは片手をヒラヒラと振りつつ部屋から出て行った。

 再び、薄暗い部屋の中でPCと向き合うソウスケだったが、その顔は苦渋に満ちていた。

 

「すまん、ミユ。お前を守るためとはいえ、こんな、こんなッ……!」

 

 祈るように、PCの前で手を組むソウスケ。

 『願わくば、誰かが自分とミユを助け出してくれれば』、そんな甘い妄想に浸ってしまうことがままあった。

 しかし、そんなことは例えメイビスを以てしても有り得ないだろう。

 それほど、セイジのパートナーデジモンは強力だった。

 だが、それでもソウスケは願っていた。

 二人を助けてくれる人物が現れることを。

 

 ― ― ― ― ―

 

「さて。ここに集まってくれている者たちの耳には入っていると思うが、昨日深夜、ついに組織『アンノウン』の本拠地が見つかった」

 

 円卓を前にして、機関長・神柴リョウゴは神妙な面持ちで語る。

 円卓には、それぞれ今回の作戦の主要メンバーが集められていた。

 その中には、チアキ・レン・ミユもいた。

 

 レンが倉庫地帯で戦闘を行ってから、既に三週間が経つ。

 ミユに対する訓練にレンが手ごたえを感じた辺りで、本拠地は見つかった。

 

「いつまでも組織、と言い続けるのもわかりにくいだろう。今述べたように、これから組織についてはアンノウンと呼称する」

 

 円卓に備え付けられたプロジェクターをリョウゴがいじると、壁際に降ろされているスクリーンに画像が投影される。

 画像には東京都全体の大まかな地図が映っており、そこからリョウゴはPCを使って二十三区外を拡大していく。

 

「ここだ、この地方。かつて、この辺りでは都市開発が行われていたそうでね。その一環で大規模なショッピングモールが建設されていたのだよ。ただ数年で潰れてしまって、以降は土地の権利関係がゴタついてモールを取り壊せないでいるらしい。その結果、今も建物が残っている」

「そこが奴らの本拠地ってことですか?」

 

 チアキがスクリーンを睨みながら聞くと、リョウゴは頷いた。

 

「そうだ。現時刻より三時間後、このモールへ機関員を一斉に派遣し、倉石ソウスケ氏を始めとする研究者たちの救出作戦を行う。ここに集っている者たちは勿論、機関内で戦闘可能な約二百の人員を割いて行う作戦だ。大規模なものになる」

 

 リョウゴは今一度、円卓に集う全ての者たちを見回す。

 

「倉石氏たちは、我々メイビスが絶対に助け出す。これは急務だ。皆、全身全霊で取りかかってくれ」

 

 その一言から、リョウゴは詳細な作戦説明に移っていく。

 レンたちとアンノウンの全面対決は、目前にまで迫っていた。

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