モバジェネワールド・リメイク   作:擬態人形P

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第1話 PHASE1-1『孤独な逃亡者』

宇宙に浮かぶ幾重ものスペース・コロニーの内、「765」と呼称される、とあるアイドルプロダクションがある小型コロニー。

その外部の宇宙に繋がる港にけたたましいサイレンが響いたと同時に、2人のパイロットスーツを着込んだ少女が、入口へと駆け込んできていた。

先頭をしかめっ面で走るのは、前髪を左側でワンレングスにまとめる髪型の長髪の少女。

その少女に手を引っ張られる形で後ろを不安そうな顔で走るのは、茶髪のツインテールが印象的な少女。

更に後方からは、銃器を携帯しているのか、鉄が折り重なるような物騒な響きと大きな大人達の足音が複数聞こえて来る。

 

「く………不味いわね。追手が迫って来ているわ!どうやら今の春香は、私達を逃がす気は無いみたいね………。」

 

宇宙港の中を走りながら歯ぎしりをするのは、水瀬伊織(みなせいおり)。

彼女は様々な場所を見渡し、1つの戦闘機を模したモビルアーマーを発見する。

 

「ど、どうしよう伊織ちゃん………。」

 

その手に引っ張られるまま困惑しているのは、高槻やよい(たかつきやよい)。

掛け替えの無い親友である2人は逃げて来たのだ。

かつての仲間だったはずの「アイドル」から。

 

「どうするもこうするも、このまま素直に捕まるわけにはいかないわ!今の765プロがおかしいのは、アンタだって分かるでしょ!?」

「う、うん………。」

 

息を切らしながらもモビルアーマーの傍まで来た伊織は、その正体を見て、内心で神はまだ見放していなかったと悟り、心の奥底で、らしくはないと思いながらも感謝する。

「Gディフェンサー」と呼ばれるそのモビルアーマーは、コントロールこそ難しいものの最低限の戦闘能力を持つうえに、何より機動力に優れる足の速い機体であった。

 

「やよい!アンタはそこに置いてあるモビルアーマーで、先にこのコロニーから脱出しなさい!」

 

その言葉を受けたやよいは、思わず目を丸くし、慌てて伊織に叫ぶ。

 

「な、何言っているの、伊織ちゃん!?伊織ちゃんも一緒に脱出しないとダメだよ!?」

 

港を見回した所、置いてある足の速そうな戦闘機はGディフェンサーしかない。

もしもやよいが先に脱出したら、伊織は捕まってしまう。

まだ事態に付いていけず困惑しているやよいであったが、1人で脱出するのがいけない事だけは分かっていた。

しかし、伊織はそんなやよいに対し、呆れた目で見る。

 

「何を勘違いしているのよ………。私がここに残るだなんて、一言も言って無いでしょう?」

 

え?………と口を開けるやよいに背を向けながら、伊織は片手をヒラヒラと上げて告げる。

 

「只、このまま一緒に脱出しても、すぐ追いつかれて捕まるだけだわ。追手が追いかけられないように、ちょっと細工して来るから、先に逃げろって言っているのよ。分散した方が、敵の追撃もかわし易いしね。」

 

伊織は更に強気で髪をかき上げながら周囲を見渡し、にんまりと笑みを浮かべる。

あくまで自信たっぷりに………「弱さと怖さ」を絶対にこの友に見せないように。

 

「伊織ちゃん………。」

「そんなわけだから、アンタは先に飛び出して監視の注意を引き付けなさい。私はその間に、この港で細工をしてから脱出するわ。」

 

やよいは不安そうな顔で伊織を見つめる。

嘘を告げているのでは無いか?………と疑いながら。

故に聞いた。

 

「本当………だよね?」

「この私が、約束すら守れない女だと思っているわけ?」

 

間髪入れずに伊織は答えた。

不敵な笑みをやよいに見せて、彼女を安心させるように。

だから、やよいは信じた。

伊織のその言葉を。

 

「………絶対だよ、絶対だからね!伊織ちゃん!!」

 

やよいは最後にもう一度大声で告げると、持ち前の運動神経でGディフェンサーのコックピットに素早く飛び乗り、機体を起動させる。

実は、モビルアーマーなどの操縦経験は、アイドルの下積み時代に身に着けていた。

だから、初めての機体でも彼女は動かす事が出来たのだ。

何より、逃げて生きなければならないという生存本能が、彼女に秘められた力………いわゆる火事場の馬鹿力を引き出していたとも言える。

 

「ドジやって、隕石にぶつかるんじゃないわよ!さあ………後で追いかけてくるから全速力で行きなさい!!」

 

港に残った伊織の外部操作によって、Gディフェンサーはカタパルトデッキへと移動させられていき、真空の宇宙に繋がるハッチが開く。

 

「伊織ちゃん!………待ってるからね!!」

 

やよいはGディフェンサーのペダルを踏み、勢いよくカタパルトを飛び出して行った。

 

「……………。」

 

Gディフェンサーが飛び出すのを確認した伊織は、真剣な顔でその姿を見送っていた。

 

「………ゴメンなさい、やよい。2人一緒に逃げられる程、甘い状況じゃ無いのよ。」

 

伊織は、銃を持った兵士達に囲まれていた。

武器を持たない少女に対し、過剰なやり方ではあるが非難する者はそこにはいない。

何故ならば、そういう者達の心は、全員「変えられて」しまったから。

自分がこの先どうなるか悟りながらも、伊織は目を伏せ心の中で思う。

 

(私が囮になるから、貴女だけでも無事に逃げて。そして………。)

 

遠くに飛んでいくGディフェンサーを、もう一度だけ見て更に少女は願った。

 

(誰かお願い………。彼女を守ってあげて………。)

 

これ以降、水瀬伊織は消息を絶つ。

そして、1人脱出した高槻やよいは………。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

スペース・コロニー「765」から遠く離れた「サイド7」の近くで、船体に赤みがかったオレンジ色と黄色のツートンカラーの、クラップ級に酷似した戦艦が航行をしていた。

ブリッジでは、缶ビール片手に堂々と、操縦席で飲酒運転と洒落込む地球連邦軍の制服を着た女性が、もう片手の手でタブレットを握り何かに釘付けになっている。

 

「友紀さん………また、お酒を飲みながら野球の試合に夢中になってるの?」

「待って!待って、美穂ちゃん!今2アウト満塁でいい所………!よっしゃー!!満塁ホームラン!!信じてたーーーッ!!」

 

突如ガッツポーズを浮かべる女性に対し、砲撃席に座る、アホ毛が特徴のボブヘアーの同じ連邦軍の制服の少女は、ため息を付く。

どうやら操縦席の操縦士の女性………姫川友紀(ひめかわゆき)は、ビール片手に好きな球団の野球の試合を見ていたらしく、痺れる展開に興奮冷めやらぬ様子。

それに対し、砲撃席の砲撃士の少女………小日向美穂(こひなたみほ)は、苦笑いを浮かべていた。

 

「楽しそうですね、友紀。航行は順調ですか?」

 

そこに、地球連邦軍の艦長服を着たオッドアイの長身のボブカットの女性が、三つ編みの水色の特殊なシステムエンジニアの制服の女性を引き連れてブリッジの扉を開き、中に入って来る。

オッドアイの女性はこの母艦………「キャリー・ベース」の艦長である高垣楓(たかがきかえで)。

三つ編みの女性は、副長の千川ちひろ(せんかわちひろ)。

友紀と美穂を含め、この4人はキャリー・ベースの中核を担うクルーであった。

そんな楓の姿を見たのか、友紀は頬を紅潮させながら笑顔で叫ぶ。

 

「あ、楓艦長!順調、順調、大順調!エンジンにも異常は無いですし、今のところはバッチリですよ!」

「もう………別に、艦長と呼ばなくてもいいですよ。専門の知識を兼ね備えているわけでは無いのですから。」

 

艦長と呼ばれた事で照れくさくなったのか、思わず赤面しながら恥ずかしそうに呟く楓。

彼女はまだ、艦長としての基礎しか叩き込まれておらず、「艦長としての」実戦経験は乏しかった。

それでも納得がいかなかったのか、友紀は口を真一文字にして仏頂面になる。

 

「えー………でも、一応体裁っていうものがあるからなぁ………。艦長、長身だしよく似合っていると思うんですけれど………。」

「はいはい………。でも、これで問題無く「ヘリオポリス」まで向かう事ができそうですね。」

 

両手を前に出して友紀の進言を拒んだ楓は、隣にいるちひろを見て告げる。

彼女は笑みを浮かべたまま、友紀や美穂に告げる。

 

「「へリオポリス」では、別行動中の凛さんと落ち合う予定になっていますからね。彼女の持って来てくれる「切り札」があれば、いよいよ本格的に動く事が出来ます。ですので、まずは合流を第一に考えて………。」

 

ここで、ちひろが場を纏めようとした時であった。

突如ブリッジに警報が鳴り響き、扉が開かれてゴーグル付きのヘッドギアを付けたセミロングの髪の少女とお団子ヘアーの小柄な少女が飛び込んでくる。

 

「大変です、艦長!前方の「サイド7」内部にて、戦闘が発生!更に、現宙域に多数のモビルスーツ反応有り!そして、次元圧縮プログラムが感知されました。」

「こ、このままだとキャリー・ベースも巻き込まれるよ!?」

 

セミロングの髪の少女………綾瀬穂乃香(あやせほのか)は落ち着いて状況を説明するが、お団子ヘアーの少女………桃井あずき(ももいあずき)はパニックに陥っていた。

楓は艦長用の帽子を被りながら、彼女をなだめる。

 

「落ち着きなさい、あずき。………穂乃香、敵の索敵と照合はもう始めていますね?」

「はい。でも、あずきちゃんの言う通り、このままだとキャリー・ベースも巻き込まれます。」

 

穂乃香はオペレーター席に座りながら、情報処理や解析を行っていく。

ヘッドギアはどうやら、その為のサポート用の器具らしく、素早くコンソールにブラインドタッチで情報を打ち込んでいく。

一方で穂乃香の話を聞いた友紀はビールとタブレットを置き、操舵に集中。

美穂も砲撃に備えてスコープ等の調子を確かめていく。

その2人の間の副長席にちひろは座り、楓も後部にある艦長席に腰掛け、過呼吸気味に陥るあずきを自分の後ろに待機させる。

 

「次元圧縮プログラム………「ジェネレーション・ブレイク」。だとすれば、厄介ですね。バルバトスは私達も攻撃対象にしています。戦闘は不可避だと考えた方がいいでしょう。」

 

ちひろが冷静に状況を告げる。

その言葉を聞く度にあずきは震えるが、その手を楓が握って落ち着かせながら、コンソールを弄り、モニターを表示する。

 

「格納庫、聞こえますか?」

「こちら沙紀!ちょっと待って欲しいっす!」

 

画面に出てきたのは、地球連邦軍の整備服に身を包んだ、ボサボサのショートヘアの少女………吉岡沙紀(よしおかさき)。

彼女は、2人の見習い服を着た幼い少女と共に、モビルスーツの発艦準備を進めていた。

 

「由愛ちゃん、小春ちゃん、ハンガーの状況どうっすか!?」

「えっと………パイロットの皆さんは、全員乗機に乗り込みました………。」

「艦長の指示で、いつでも出撃できますよ~。」

 

ふわふわの灰色の髪のボブカットの小声の少女と、茶色にもピンクにも見えるボブヘアーの間延びした少女………成宮由愛(なるみやゆめ)と古賀小春(こがこはる)が、機体の最終チェックを終えて、沙紀に丸ポーズを作ってOKの合図を送っていた。

 

「機体の方は大丈夫っす!」

「分かりました。小隊長、隊員の様子は?」

 

楓がコンソールを弄ると、今度はヘルメットを付けた3人の隊員の顔がモニターに映し出される。

その表情の詳細は分からなかったが、1人は派手な海賊風の紫のパイロットスーツ、1人は黒を基調としたパイロットスーツ、最後の1人は白を基調とした連邦軍のパイロットスーツを着込んでいた。

 

「こちら、藤原肇(ふじわらはじめ)です。藤原隊、島村卯月(しまむらうづき)さん、喜多見柚(きたみゆず)さん共に、異常ありません。いつでもいけますよ。」

 

肇と呼ばれた海賊風のパイスーを着込んだ少女は、落ち着いた声で答える。

それに対し、次の黒のパイスーの少女は、少々不安そうな声であった。

 

「高森藍子(たかもりあいこ)です。高森隊は、神谷奈緒(かみやなお)ちゃんは大丈夫ですが………緒方智絵里(おがたちえり)ちゃんが少し、怯えてて………。」

「あ、私は大丈夫です………!気にしないで下さい………。」

 

すかさず気弱な声が聞こえてくるが、無理はしないで欲しい………と楓が告げると、最後に白いパイスーの少女が自分の隊の状況を告げて来た。

 

「キャリー・ベース直営隊の隊長の工藤忍(くどうしのぶ)です。本田未央(ほんだみお)ちゃんと栗原ネネ(くりはらねね)ちゃんは、一応平静を保っています。」

「分かりました。どの隊もいつでも出撃できる準備を、お願いしますね。………友紀!」

 

楓はパイロットである9人の様子を念入りに確認すると、友紀の方を見る。

それが進撃のサインだと分かった友紀は、エンジンを全開にする。

 

「了解!突っ込むよーーー!!」

 

少女達を乗せたキャリー・ベースは、謎の現象により渦巻くサイド7の宙域へと突入していった。




知らない方は、初めまして。
知っている方は、お久しぶりです。
ニコニコ動画で「モバジェネワールド」というシリーズ動画を投稿していた擬態人形Pです。

この度、1月1日の地震によって機材が破損してしまったので、動画作品を小説作品にして作り直す事にしました。
………といっても、実質的には「リメイク」と言うよりは「リファイン」という内容。
結構作り直している所がありますので、既存の方でも楽しめる………と思いたいです。

それでは皆様、恐らく長い作品になりますが、暇な時にでもお付き合いして貰えると嬉しいです。
宜しくお願いしますね。
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