アプロディアから自分が所属する765プロの仲間が洗脳されていると聞いた高槻やよい。
彼女は、優しくて大好きだった自身のプロダクションが豹変してしまった事実と、水瀬伊織に促される形で逃げ出してきた事を語る。
そして、アプロディアから、自分とバルバトスがある機械で管理していた世界で作られたシステムである事。
思考を放棄した人類その物を罪と見なし、バルバトスが全てデータとして削除をしてしまった事。
更には、彼が全世界を統率する為に天海春香をハルシュタイン閣下として利用している事を知る。
全ての次元・空間・時間を圧縮しようとしているバルバトスを止めなければ世界が無茶苦茶になる。
それ以前に、765プロの仲間達が洗脳から元に戻す事が出来なくなる。
危機感を抱いたやよいが解決策を求めた所、アプロディアが提示したのは、青黒い不死鳥のようなモビルスーツ………ハルファスガンダムの存在であった。
このモビルスーツは一体………?
「ハルファスガンダムというのは、バルバトスの器として作られたファイアウォールの役割を果たすモビルスーツです。彼は私達の世界をデリートした際、このガンダムに乗って旅立ちました。」
アプロディアが言うには、バルバトスは天海春香に乗り移ってはいるものの、そのシステムの大半は、今もハルファスガンダムに搭載されているらしい。
その言葉を聞いて、やよいは僅かながら笑顔を浮かべる。
「じゃあ、もしかして………。」
「そうです。次元圧縮も、このモビルスーツが行っているのです。ですから、このモビルスーツを破壊、もしくは鹵獲出来れば、次元圧縮を止めて世界を元通りにする事が出来ます。」
アプロディアが横に回転するのに合わせて、ハルファスガンダムも横に回転し、その全貌をやよい達に見せていく。
彼女はそのまま言葉を紡いでいった。
「更に、システムの大半を奪われたバルバトスは丸裸も同然。愚民兵や765プロの人達の洗脳も解けるでしょうし、彼が力を振るう事も出来なくなります。後は、天海春香を確保すれば、この戦いに終止符が打たれるのですよ。」
「ど、何処にいるんですか!?そのハルファスガンダムは!?」
事態を打開できる光明を見出した事で、やよいは食いつく。
アプロディアは回転を止めると、手を伸ばしてモニターを出し、今度は地球を表示した。
そこに、様々なデータが示されていく。
「ハルファスガンダムは、「ポイント・ゼロ」と呼ばれる異空間を作り、そこに身を隠しています。その入り口は巧妙に隠されていて、普通は入る事が出来ません。ですが………。」
ここで、アプロディアが初めて自分の胸を叩くような仕草をした。
「バルバトスと姉弟的な存在である私ならば別です。ハルファスガンダムの居場所を感知する事は出来ますし、ポイント・ゼロに侵入する事も可能です。」
「じゃあ皆さんは、ハルファスガンダムを倒す為に、そのポイント・ゼロに向けて旅をしているんですね!」
パンと手を叩いたやよいは笑みを見せるが、艦長である高垣楓が悩むような顔をしながら再び前に出る。
やよいは何か間違えたのか?………と心配になったが、彼女は苦笑しながら告げた。
「私達の目的は、やよいさんの言う通りです。でも………それに際し、別の問題があるんですよ。」
別の問題?………と首を傾げるやよい。
楓は顔に片手を当てて、心配そうに呟く。
「実は、私達の艦にあるモビルスーツでは、「ガンダム」と互角に戦う事は出来ないんです。今回出撃した機体以外では、修理中の物と陸戦用の物、更に鹵獲した機体がちょっとある位。現状では、支援ポッドのボールも使い回さなければならに程、こちらの戦力は乏しいのです。」
パイロットの内、緒方智絵里が危険な戦場に、ボールで出撃していたのがその理由になる。
副長の千川ちひろが言うには、総合性能で言えば、やよいの乗って来た戦闘機であるGディフェンサーがかなりの高レベルで纏まっているらしい。
それだけ、このキャリー・ベースの戦力は厳しかった。
「そういうわけですので、今、私達は、ハルファスガンダムに対抗できる為の戦力の確保を急いでいるのです。」
「な、何か当てはあるんですか?」
やよいの問いに、しばし考え込んだ楓は言葉を選びながら告げていく。
「あります。………が、そんな機体の扱いには、それ相応の専門的な技術が必要で、長期間の訓練が必要になります。私達の仲間が1人、ずっと訓練を行っていまして、ようやく卒業を迎えられるところまで来ました。まずは彼女と合流して………それからですね、本格的に動くのは。」
艦長として気丈には振る舞っているが、楓が不安を抱いているのはやよいにも分かった。
圧倒的に不利な状態で挑む事になる、ハルファスガンダムとの戦い。
また、あの試作2号機のような残虐な敵と対峙するのだろうか?………と思ったやよいは、また身震いをする。
「……………倒せる、のでしょうか?」
「できなくてもやるしかない。それが、私達の今の立場です。」
思わず聞いてしまった弱音に対しても、楓はしっかりと答える。
そして、優しく笑みを見せると、やよいにささやいた。
「………大丈夫ですよ。仲間と合流したら、ユーグ隊長に掛け合って、貴女を保護して貰えないか聞いてみます。何処かの彗星みたいにロリコンな方では無いですし、貴女の安全は保障してくれるでしょう。もう怖がる必要はありません。」
やよいの頭を再度撫でながら、彼女は告げる。
確かに保護して貰えば、怖い想いをする必要は無い。
だが、このままでいいのだろうか?………と、やよいは思った。
自分の仲間を………765プロの仲間達を助ける旅を、出会ったばかりの者達に丸投げしまって。
(そんなの………イヤだ。)
そう思った瞬間、やよいは決意をする。
「………私も………私も、戦い………!」
「ダメです。」
「!?」
しかし、その決意の言葉は、先んじて悟った楓によって封じられる。
何故かと思ったやよいは、思わず叫んでしまう。
「どうしてですか!?私にも関係した問題ならば、私も………!」
「勢いで言って、解決できる事では無いからです。ハッキリ言いますけれど、この艦に居続けるのならば、貴女の命は保障しかねます。」
「それは、戦力が足りてないって事ですよね!?だったら、戦える人は1人でも多い方が………!」
やよいはアイドルの下積み時代に、モビルアーマーやモビルスーツの操縦経験があった。
だからこそGディフェンサーに乗って来る事が出来たわけで、その力を活かせば、役に立てる可能性はある。
しかし、楓は溜息を付くと冷淡に告げる。
「確かに貴女は、機体の操縦経験はあるでしょう。でも………「人を殺す」経験をした事が無い。」
「!?………そ、それは………!?」
やよいは思わず、青ざめてしまう。
これは、戦場で神谷奈緒に言われた事だ。
彼女は、モビルスーツを撃破した事は無く、勿論人を殺した経験も無い。
何より………。
「人は極限状態に陥ると、何をしでかすか分かりません。………覚えていますか?貴女は、戦場で敵に威圧されて奈緒の命の危機を招いただけでなく、半狂乱に陥って、彼女を流れ弾で殺そうとしたのです。」
「おい、艦長!?」
言い過ぎだと当事者である奈緒は抗議するが、楓は言葉を撤回しなかった。
やよいは唇を噛み締めると、俯き拳を握りしめる。
確かに今の自分は、パイロットとしては役に立てないだろう。
でも、だからと言って、伊織を始めとした仲間達の奪還に参加出来ないのは、本当に嫌であった。
「お願い………です………!お願いです!!」
『!?』
故に、やよいは自分を抱きしめてくれている栗原ネネから強引に離れると、何と土下座をする。
這いつくばって頭を地面にこすりつけると、流石に驚愕している楓に対して告げた。
「私!伊織ちゃんを、春香さんを、765プロのみんなを、取り戻したいんです!バルバトスの手から!!」
滅茶苦茶にされてしまった事務所を、このままバルバトスの自由にさせたくない。
どんな形であれ、愛する居場所を取り戻す手伝いをしたい。
「トイレ掃除でも何でもします!料理だって、それなりに出来ますから!!だから………お願いです………!」
必死に訴えるやよいに対し、ちひろが皆を代表して目で訴えかける。
このままでは、楓が悪人に映ってしまうと。
その楓は深く溜息を付き、地面に膝をついて屈むと、やよいに改めて聞く。
「………本気、なのですね。」
「本気です!楓さん………いえ、楓艦長!私を仲間に入れて下さい!!」
土下座した状態であったが、額を上げ楓の目を真剣な面持ちで見つめるやよい。
楓はしばし視線を交わし合ったが、少しだけ笑みを浮かべた。
「………これも、1つの運命のめぐり合わせなのかもしれませんね。」
「艦長………。」
「立って下さい、やよい。………貴女を歓迎します。但し、まだ仮の搭乗員扱いですけれどね。」
「あ、ありがとうございます!宜しくお願いします!!」
心変わりをするかもしれないだろうという事で仮登録扱いだが、それでもやよいは楓に感謝をする。
しかし、ここで1つの疑問が起こったので、徐に問う。
「………ところでこの部隊って、何て言うんですか?」
「え………!?」
この素朴な問いかけに楓は思わず意表を突かれたような顔をする。
何故ならば、この部隊………実は、まだ名前が無かったのだ。
「そういえば………すっかり忘れてた。」
「ずっと気にしてなかったけれど、本格的に動くんなら、名前無いといけないヨネ。」
「艦長、何て名乗ります?」
奈緒や喜多見柚が困った顔をする中、島村卯月が楓に命名を依頼する。
しかし、その楓にしたって困ってしまう。
「参りましたね………。すみませんが、誰か、いい名称を思い浮かびませんか?」
いきなりざわつくブリッジ。
誰も思いつかない様子を見て、やよいが早速だが、おずおずと手を上げる。
「えっと、あの………だったら………!」
「やよい?」
皆の視線が集中する中であったが、やよいは息を飲むと、そっと深呼吸をする。
このキャリー・ベースは、どういうわけか女の人だらけの部隊だ。
アイドルの人だっている。
皆がキラキラしてお姫様みたいに輝いている。
だから、おとぎ話になぞらえて彼女はこう告げる。
「シンデレラ!「シンデレラガールズ」というのは、どうですか!」
『シンデレラ!?』
驚きの声が集まり、再びざわつくブリッジ。
そんな中、楓は茫然と呟いていた。
「シンデレラ………ガールズですか。」
「あはは!それいいね!何かあたし達に似合ってそう!」
真っ先に賛同したのは、酔っ払っていた姫川友紀。
彼女は嬉しそうに笑みを携えながら出て来て、やよいの肩をバンバンと叩く。
「な、何かくすぐったいっすね。アタシ、そういう柄じゃ無いし………。」
一方で、思わず正直な事を述べてしまうのは吉岡沙紀。
整備士で油まみれになる彼女は、似合っていないと思っているらしい。
「でも、趣があっていいかもしれませんね。これ位、名前も意匠を凝らした方が、相手に与える印象も大きそうですし。」
ふむふむと考え込むのは、藤原肇。
彼女は、心象を大事にしているのか、割と悪く無い名称だと思っているようだ。
「ふふっ………年甲斐もない名ですが、それもまたいいでしょう。」
楓は少しだけ感慨深げに呟く。
そして、ニヤリと笑みを浮かべると、息を吸って集まっている皆に号令を発した。
「これより、我が部隊は「シンデレラガールズ」と命名!目標はヘリオポリス!全隊員用意にかかれ!!」
『了解!!』
命令を受け、それぞれのクルーやパイロットが、やよいに軽く挨拶を交わしながら、持ち場へと付いて行く。
一通り対応を終えたやよいは、自分がまだ765プロの仲間を奪還できる立場にいる事を実感すると、気が抜けそうになった。
「えっと、私は………。」
「まだ、体力が回復しきってはいないでしょう?部屋を用意するので、まずはそこで休んで英気を養って下さい。ネネ………頼みましたよ。」
「分かりました。行きましょう、やよいちゃん。」
「あ………ありがとうございます。」
そこら辺のやよいの気疲れも、見抜いていたのだろう。
気を使って貰った事に感謝して、楓に対し頭を下げた彼女は、ネネに連れられてブリッジを出る。
(これから始まるんだ………。みんなを取り戻す旅が………。待っててね………伊織ちゃん、みんな………。絶対に助けるから………!)
どれだけ困難な旅路になるかは、分からない。
765プロの面々と離れ離れになって、不安も多い。
でも、やよいはまだこの戦いから退きたくは無かった。
これより、シンデレラガールズの戦いが本格的に始まる。
しかし、高槻やよいは知る由も無かっただろう。
この名称その物が、後にとてつもない皮肉になる事に………。
ここで、命名される事になる、組織名である「シンデレラガールズ」。
このシーン………動画版では、高槻やよいさんはかなり前向きでいました。
しかし、小説版では、まだ人を殺せない事で、やよいさんの心は後ろ向きになっている部分が大きいです。
とにかくドロップアウトをしたくないという一心で、土下座までしましたが、極限状態の心情で、見知らぬ人達に囲まれているのはストレスが溜まると思いますね。
リアル社会でも、大変だと思う方はきっといるはず。
………最後の言葉の意味合いは、追々語られていく事になります。