数と波状攻撃で優位に立っていたアメリアス勢力。
しかし、その内の1人であるNT試験用ジム・ジャグラーを駆る大槻唯は、ジンハイマニューバに乗って敵対しているのが相川千夏である事に激しく動揺してしまう。
滅んだ世界で自分を庇ってデリートされた千夏の「別世界での存在」に、自分を真っ向から否定された事で錯乱。
この結果、オールレンジ攻撃を制御出来なくなり、彼女を助けようとした仲間である大原みちるのビグロマイヤーを、誤って撃墜してしまう。
幾ら別の肉体で蘇生できるからとはいえ、味方を殺した事で千夏の非難は更に強まり、負の連鎖に陥った唯は、千夏の上司であるイザーク・ジュールに強い殺意を向ける。
怒りに任せて彼の破損したスラッシュザクファントムを撃ち落とそうとしたが、そこに乙倉悠貴を乗せた赤城みりあのシグーディープアームズが、無断で加勢しに来た。
唯が冷静さを失っている事など、みりあは様々な運も味方に付け、勢いに任せて拾い物のトメノスケ・ヒート・ホークでジム・ジャグラーを戦闘不能に追い込む。
これで、完全に不利になった古澤頼子、西島櫂、水野翠は敗北を悟り、撤退していくのであった。
母艦ボルテールに戻ったディアッカ・エルスマンやシホ・ハーネンフースは、捕虜にした唯を独房に連れていく。
またここでみりあが、戦闘の恐怖から泣き出してしまった為、イザークは命令違反を犯した彼女と悠貴、そして自身の頭を冷やす為に、3人で自主的に独房に入るのであった。
残された日下部若葉は、相川千夏の言葉で、ミリアリア・ハウや三船美優と共に、一度コーヒータイムを取って落ち着く道を選ぶが………。
独房の1つでは、腕組みをしたイザークが仏頂面でベッドに座っていた。
彼に寄りかかる形でみりあは寝息を立てており、瞼は涙に濡れていたが、比較的落ち着きを取り戻せている。
そんな2人の姿を見ながら、椅子に座っていた悠貴が興味深げに観察をしていた。
「……………。」
「………何を思っている?」
「あ、いえ………。その………みりあちゃんと暮らしているって、本当なのかなって………。」
声を抑えながらも、悠貴はイザークにみりあから聞いた事を話していく。
コーディネイターである彼が、気休め程度の罪滅ぼしで、彼女達ナチュラルの一家を養っていると。
「フン、お喋りなヤツだ。………確かにコーディネイターの俺が、ナチュラルであるコイツと過ごすのは、理解しないヤツも多いな。」
イザークの母も含め、彼の行動は異質な目で見られた。
それだけコーディネイターとナチュラルの確執はまだまだ強い。
種族の存亡を賭けた戦争をしていたのだから、当たり前といえば当たり前だ。
「正直に言えば、俺自身もそうだ。何故、こんな無責任な真似をしているのか、自分でも理解出来ん。」
「………彼女と、何処で出会ったのですか?」
「停戦後………俺やディアッカは、復興活動の一環として、連合の領土に降りる事が多々あった。」
ぎこちない交流………という言葉が、相応しいだろう。
ザフトのイザーク達は、戦いの影響で食糧不足に悩む地域に、復興物資を運ぶ任務を担う事もあった。
彼としては、まだまだナチュラルに対する理解が深まってはいなかったが、戦時中にしてしまった自身の罪………誤射による民間人の虐殺があった為、任務を拒否しなかった。
「無論、ナチュラル達からは侮蔑や憎悪の目で見られはした。だが、それも罪の1つだと思えば、別に苦しくも無かった。」
それだけ大きな戦いだったのだ。
それだけ自分達の「元隊長」は、世界を破滅に導こうとしたのだ。
それだけ近くにいながらも、「彼」の愚行を見逃せなかったのだ。
「………そんなある時だった。とある島国で食事を取ろうとした時、小娘に盗まれた。」
栄養だけを考えたレーションだった。
それでも、空腹に飢えていた少女はイザークの食事を盗もうとし、ザフトの面々に捕らえられた。
「そいつもまた、憎悪の瞳で俺を睨んでいたな。お前のせいで、ママが苦しんでるんだ………って、叫んでいた。」
少しだけ、声のトーンを落とすイザーク。
薄暗くて表情は良く見えなかったが、悠貴は彼が自身の罪に悩んでいると推測出来た。
その闇の中で、イザークの言葉は続く。
「叫びを聞いている内に、そいつの一家が戦いで住む所を失ったと知った。母親は子供を身ごもっていて、食料が必要な状態。レーションを盗んだのは、その為なのだと。」
ザフトの面々の中には、牢に放り込もうと言う者もいた。
中にはしっかり罰を与えてやるべきだと言う、不届き者もいた。
「前に俺の愚行を教えてくれたヤツの言葉だと………俺が撃ち落としたシャトルには、こんなナチュラルの小娘もいたらしい。」
別に、目の前の娘を救えば、その殺した娘の魂が救われるわけでは無い。
自分の犯した罪は、一生消える事が無いのは百も承知だ。
しかし………結局まだまだナチュラルの憎しみに囚われている周りの声を聞いていると、苛立ちを覚えた。
こんなコーディネイター達にこの娘の処罰を任せてしまえば、どうなるのかも分からない。
また………犠牲になる娘を増やすべきなのか?………と脳裏に浮かんでしまった。
「気付けば、俺はこう言っていた。だったら………一緒に暮らさないかと。その娘………みりあに。」
侮蔑とか軽蔑とかいう前に、コーディネイターらしからぬ発言に、周りの仲間は只々唖然としていたのを覚えている。
勿論、目の前で捕まった娘………みりあも、目を丸くしていた。
この男は何を言っているんだ?………と、全員が思っただろう。
「全く………本当に、なぜこんな無責任な発言が出来たのだろうな。こんな事をしても………許されるはずも無いのに。」
暗がりの中で、イザークが自身に呆れて笑っているのが分かった。
だが、今懐いて安心して眠っているみりあの姿を見て、悠貴は悟ってしまう。
ここまでの信頼関係を築くまでに、イザークは死に物狂いで努力をしたのだと。
「母には考え直せと何度も言われたが、デュランダル議長は賛同してくれた。ディアッカも呆れていたが、受け入れてくれたな。シホには年頃の娘に付いて、色々と質問をしてしまった。」
特に、みりあの母が出産を行う時は、彼女が不安になっているから立ち会って来いと、無理やり仕事を取っ払われてしまった。
イザークが出来たのは、俯いているみりあの手を握っているだけだったが、その時に初めて「お兄ちゃん」と呼ばれたのを覚えている。
「最近は、自分の妹を見ながら、俺みたいなお姉ちゃんになる………とまで抜かしてやがる。本当に………俺は無責任な男だ。」
「……………本気で感謝してますよ………みりあちゃんは。」
「その根拠は何処にある?」
「命懸けで、大好きなお兄ちゃんを助けに行った所です。」
11歳の少女が、戦場で危機に陥った「兄」を救いに向かったのだ。
イザークは言葉に出していなかったが、彼女が加勢してくれなければ死んでいただろう。
そこに確かな絆があると、悠貴は自信を持って言えた。
「フン………絆か。あの世があるなら、色んなヤツに笑われていそうだが………まあ、それも1つの償いか。」
イザークは少しだけ自嘲気味に笑うと、みりあを丁寧にベッドに寝かせる。
そして、立ち上がると牢の外を見た。
「悠貴。しばらく、コイツを任せる。」
「イザークさんは………?」
「盗み聞きをしている馬鹿共に、付き合わねばならん。」
彼が鋭い視線を向けた先………牢の外で、何かが動くのが悠貴にも分かった。
よく見ると、そこには乾いた笑みを浮かべて覗き込んでいた4人の女性。
それは、コーヒータイムを終えた相川千夏、三船美優、ミリアリア・ハウ、そして日下部若葉。
「あら………もう少し楽しんでくれてもいいのよ?」
「貴様らに楽しまれる為に、償っているわけではない。………そろそろ、行くぞ。」
イザークは千夏に対し苛立ちを隠しはしなかったが、一瞬だけ寝息を立てているみりあを見ると、何事も無かったかのように牢の外に出ていく。
ロックは掛けられなかったが、悠貴は中で少女を見守る選択肢を選んだ。
これからイザーク達が向かう先も、何となく分かったからだ。
――――――――――――――――――――
イザーク達が向かったのは、当然ながら今はディアッカとシホが見張っているであろう、唯のいる独房だ。
しかし、そこに近づく前にイザークは小声で千夏を制した。
「お前はここで待っていろ。」
「彼女は一番、私を望んでいるんじゃないのかしら?」
「そいつには今、守るべき優先順位がある。………それに、似すぎた赤の他人は、毒でしか無いだろう。」
下手に刺激を与えるべきではないという事で、イザークは戦場カメラマンのミリアリアにも待って貰う事にした。
ネオ・ジオンの若葉も本来ならば待つべき立場だとも考えたが、あまり他勢力に秘匿するのも宜しいとは思えなかった為、彼女だけは案内をする。
美優は千夏とミリアリアの付き添いとして、留守番を任せた。
「どうなっているでしょうね………?」
「知らん。まずは、顔を合わせる所からだ。」
イザーク達は牢の奥へと進み、独房の前に無言で待機しているディアッカとシホの所に着く。
ディアッカは無言で、牢の中を顎で指した。
イザークに連れられる形で、若葉も独房を覗き込む。
そこには、部屋の隅で体育座りをしている少女がいた。
「分かってはいましたが………女の子ですね。」
金髪碧眼の娘であった。
髪は若葉に負けず劣らずのくせっ毛であり、湿気対策が大変そうなイメージを抱く。
笑えば太陽のように明るそうな印象があったが、今は暗く沈んでいた。
戦闘中の煽りなどを聞いている限りだと、コミュニケーション能力は高い気もしてしまう。
イザークは独房を無造作に開けると、中に入って行った。
「だ、大胆ですねぇ………。手錠とか付けていないのに。」
体術は鍛えているだろうが、ここまで大胆な行動を取るのは、戦闘中に殺されかけた影響からだろうか。
実際、まどろっこしい気遣いをするのもバカバカしいと感じていたイザークは、唯の前に立つと仁王立ちをして腕を組んだ。
「………何、ゆいにヒドイ事するの?」
「そんな趣味は無い。」
「その声………隊長さんだよね。」
「貴様に殺されかけたイザーク・ジュールだ。」
イザークが名乗った事で、ゆいは少しだけ無言になった。
戦闘中の煽りは勿論、激しい殺気も失せてしまっており、何処か投げやりな印象がある。
只、やはり尋問は恐れているのか、イザークとは目を合わせられないし、僅かながら震えているのを若葉は見逃さなかった。
イザークはそんな唯の様子を見て溜息を付くと、屈みこむ。
「尋問が怖いなら………破壊者など名乗るな。」
「隊長さんは、尋問されるのは大好きなの?」
「好きなヤツなどいない。覚悟なんてあるようで………失ってから痛感するものだ。」
何処か含みのあるイザークの言葉を聞きながら、若葉も一応何かあった時に対処できるようにはしていた。
爆弾とかを呑み込んでいるわけでは無いのは、もう調べてあるだろうが、やはり何をされるか分からないのは不安要素ではある。
しかし、イザークは唯に対して色々と思う所があるらしく、彼女に静かに告げる。
「ザフトから逃げた俺の大馬鹿な仲間の話だが………、そいつには親友がいる。だが、何の因果か、前大戦ではその親友同士で殺意を向け合って殺し合いをした。」
意外な言葉に、若葉の目が開かれる。
勿論、そういった内容の話は初めて聞くし、こんな残酷な運命があるなら、互いにやっていられないだろう。
「だから、貴様が「相川千夏」に殺意を向けられて不貞腐れるのは、少しは理解してやれる。同情はしないがな。」
「理解するなら………ちなったんに会わせてよ………!」
「会ってどうする。相川千夏ではあるが、その「ちなったん」では無いんだぞ?貴様の心が余計に壊れるだけだ。それに………。」
ここで、イザークは目を逸らす唯の頬を掴み、強引に自分に目を向けさせた。
少女は震えるが、力強い目を向けられ更に言葉が告げられる。
「貴様はまず、千夏に会う前にやるべき事があるだろう。守るべき優先順位すら守れないヤツの願いを叶えてやる程、俺は甘い男じゃない。」
「………みちるちゃん。」
唯は潤んだ瞳でありながら、戦闘中で錯乱した影響で誤って撃ち落としてしまった仲間の顔を思い浮かべる。
彼女は恐らくアメリアス勢力の母艦で、新たな肉体で復活をしているだろう。
ユウ・カジマから、彼女達が自由に精神を飛ばす事が出来るという話を聞いているからこそ、イザークはまず、母艦に戻って、その誤射を謝罪してこいと暗に告げているのだ。
しかし………。
「どんな顔をすればいいのか………分からないよ………。」
「そこまでは俺の管轄じゃない。だが、自分の罪すら認められないヤツが、千夏に会う資格があるわけがないだろう。」
「……………。」
厳しくも正しいイザークの言葉に、唯は無言で鼻をすすり上げる。
様々な不安が、彼女には有った。
しかし………このまま、みちるを放っておいて良いわけが無かったのだ。
祝・第100話到達です!
動画版のモバジェネワールドの長さを考えれば4分の1にも到達していませんが、ここまで投稿出来たのは嬉しいですね。
これからも、地道に頑張っていきたいので、応援よろしくお願いします。
今回の動画のテーマは罪と贖罪。
イザーク・ジュールと大槻唯さんの2人に関係した話です。
背負ってしまった咎を、どうやって償って行くか。
…難しい話ですね。
結局のところは進み続けるしか無いですが…色々と考えてしまいます。
怖がる唯さんに対し、イザークは何を語るか?
余談ですが、サブタイトルを「サクラブロッサム」にするか少し悩みました。