ジュール隊の捕虜になったアメリアス勢力の大槻唯は、誤射してしまった大原みちるに何て謝ればいいか分からなかった。
しかし、イザーク・ジュールが自分と違って「まだ間に合う」と不器用に気遣った事で、唯は感涙して自分のやるべき事を見定める。
そして、「イザークちゃん」というとんでもない爆弾?………を告げながら、捕虜になった身体から、その精神を自身の母艦の別の身体に戻すのだった。
嵐のような唯の姿にゲンナリしたイザークであったが、日下部若葉達を格納庫に招くと、一年戦争でジオン公国が勝った世界線から来た乙倉悠貴について考える。
その話の中で、隅に置いてあったトルネードガンダムを若葉に見せ、バルバトスに滅ぼされた世界は、次元の歪み以外の忘れ形見も、もたらしているという推論を語った。
同時刻、地球上の一角では、ザコット・ダットネルの炎の時計部隊によって、危機に瀕している娘達がいた。
しかし、ガンタンクR-44を操る面々の内、有浦柑奈はアコースティックギターを炎の森の中で奏でており、どうせ死ぬなら楽しく最期を迎えたいという思想の持主だ。
その様子に散々皮肉を言いながらも、覚悟を感じ取った二宮飛鳥は、自身の作曲した曲を奏でて貰い、燃え盛る炎に負けないくらいの大声で歌い出す。
一見すれば、絶望の死に対するささやかな抵抗でしか無いのだが………。
堂々と歌を響き渡らせる柑奈と飛鳥の姿を、ガンタンクの中から見つめる3つの影があった。
中央で幼い少女達を抱きしめているのは、髪の長い大人しそうな娘。
こう見えて、柑奈と同じ19歳である瀬名詩織(せなしおり)だ。
「2人共、楽しそうね………。」
「この状況で、そんな事言っている場合じゃ無いでしょ!?」
「熱で頭のネジが吹っ飛んだとしか思えないよなぁ………。」
詩織にしがみつきながらも、怒りの言葉と呆れた言葉を発するのは、12歳の少女達。
片方は長いツインテールが印象的な勝気な少女で、名前は的場梨沙(まとばりさ)。
もう片方はボブヘアーの上にキャップを被った男っぽい少女で、名前は結城晴(ゆうきはる)。
この5人がザコット率いる炎の時計部隊の火炎放射からの生き残りであり、死を迎えようとしている者達だ。
何だかんだ言いながらも、彼女達は最期まで人生を楽しむ精神を持っている図太い仲間達が羨ましかった。
「アタシ………死にたくない。パパやママにもう一度会いたいのに………。」
「梨沙………いつもの強気はどうしたんだよ?でも………オレももっと生きたいなぁ………サッカーしたい………。」
「生き残りたいのは、私達だけじゃないみたいよ………。」
詩織の言葉に、俯いていた梨沙と晴が前を向くと、いつの間にか演奏を奏でる2人の前に、ウサギやリスなどの小動物が集まっていた。
運悪く炎に燃え盛る森から逃げられず、5人と同じく炎の壁に囲い込まれてしまったのだ。
「あの動物達は、やってられないわよね………。住んでいた場所が、いきなり燃やされるんだから。」
「柑奈や飛鳥の姿を見て、2人についていけば、まだ生きられると感じているのかもな。」
ガンタンクも炎で熱くなってきたので、腹を括って3人も動物たちの傍に集まり、柑奈と飛鳥の演奏を聞く。
「反逆的同一性 -Rebellion Identity-」を高らかに奏でて歌う2人に、いつの間にか様々な観客が集まる。
歌の力は、生き残りたいと願う仲間達の心を震わせ、魂を燃え上がらせた。
何の変哲もないささやかな抵抗は、燃え盛る森の生き物すら巻き込み………。
その願いは運命のいたずらを引き起こす。
「奇跡」が、1つ起こる。
「何か来る………!?」
最初に気付いたのは、詩織であった。
演奏が中断され、皆が上を指した彼女の指を追っていくと、確かに何か2つの物体が飛来してくる。
そして、それは無人のガンタンクR-44の両隣に落下し、派手な音を立てた。
「ゴホゴホッ!?………何なのアレ!?」
舞い上がった粉塵でむせた梨沙が、思わず叫んでしまう。
しかし、煙が収まると、その2つの物体は人型の姿を現した。
「モビルスーツ………いや、アレは………ガンダム!?」
晴の目が見開かれる。
機体は、ツインアイにアンテナが付いており、誰がどう見てもガンダムであった。
「どうして………いきなりガンダムが………?」
「案外、私達の歌に聞きほれてやってきたのかもしれませんね!渡りに船ですし、乗っちゃいましょう!」
「柑奈さん、アナタは本当にお気楽すぎだよ。でも、流石にこれは、ボクも「また」運命という言葉を信じたくなるね。」
柑奈が白と青を基調としたガンダムに。
飛鳥が王道のトリコロールを基調としたガンダムに。
何の警戒もせずに、堂々と歩いていく。
するとどうだろう。
まるで、主を受け入れるかのように、コックピットハッチが開いたのだ。
「初めてですね~、ガンダムが受け入れてくれるなんて。」
「案外、ボク達を生体ユニットにする気なのかもね。………あの時のように。」
「だ、だったら………2人共、もうちょっと警戒した方が………。」
詩織が唖然としながらも忠告をするのだが、柑奈も飛鳥もさっさと2体のガンダムに乗り込んでしまう。
そして、シートに腰掛けるとベルトを締めて、武装を確認する。
「えっと、「ビームサーベル」と「ビームライフル」と………おおっ!この機体、シールドがギターになっていますよ!正に私向け!」
「洒落た機体だね。こっちも同じく「ビームサーベル」と「ビームライフル」、牽制用の「ビームバルカン」、それにシールドが基本装備であるらしい。」
「ビームがあれば、炎を吹き飛ばせますね。爆発で真空状態にすれば、炎を消す事も出来ますし。」
「生き残る為の策が本当に出来るとは………。詩織さん、梨沙、晴。悪いけれど、動物達をガンタンクR-44に詰めて、中を酸素で満たしてくれ。道が開けそうだ。」
柑奈と飛鳥の行動力に茫然としていた詩織達であったが、生き残れるかもしれないという事で、慌てて集まったウサギやリスをガンタンクR-44に入れていく。
その間にも、柑奈と飛鳥によって機体のチェックが進められていく。
「柑奈さん、その奇妙な救世主の名前は、何ていうんだい?」
「「エクストリームガンダム」っていうらしいですね。飛鳥ちゃんの機体は?」
「「ビギニングガンダム」というらしい。製作者は、ボクらに負けず劣らずの中二病の持ち主だね。」
「とりあえず百聞は一見に如かず!………起動させてみますか!」
エクストリームガンダムとビギニングガンダム。
5人の運命を変えてしまった救世主とも呼べるモビルスーツが、今、動かされる。
――――――――――――――――――――
「何が起こっている………?」
火炎放射器を担いだ「ドートレスHM ファイヤーワラビー」………通称ファイヤーワラビーの部隊を率いる、青を基調とした機体がいた。
高機動型の指揮官機となっている「ドートレスHMC ワイズワラビー」………通称ワイズワラビー。
この機体に、赤身を帯びたボブヘアーの娘が乗っている。
彼女はエニル・エル。
ザコット一味に身を寄せるバルチャーであり、今回の作戦にも参加していたのだが………奇妙な事が起こっていた。
炎に包まれた森の中心部が、どんどん爆発を起こしているのだ。
爆発が起こるという事は、その地点は真空状態になり、しばらく炎が燃えなくなる。
消火の為にこの効果を利用していると推測出来たが、何者がどのような機体で行っているのかが、分からなかった。
それに加え、さっき燃え盛る森の中心部に落下した物体の正体も気になる。
「何で………何でこんなに心がざわつく………?」
エニルの悪寒は、遂に炎の壁が払われた事で、理解をする。
タンク状の戦車を後ろに従えながら、所属不明のガンダムが2機、歩んできたのだから。
そして、白と青を基調としたガンダムからマイクが響く。
「えー、撤退しませんか?ラブ&ピースの精神で、争いはもうやめましょうよ?」
「………ふざけるな!!」
突如投げかけられる、和解の言葉。
カチンと来たエニルを始め、ザコット一味の反発心は、一気に強まる事になった。
――――――――――――――――――――
「う~ん………これで退却してくれないものですかね?」
「そんな言葉じゃ、傲慢なバルチャー達の自尊心を刺激する事しか出来ないよ。」
「いっそ不殺をチャレンジしてみます?」
「この燃える森で機体を中途半端に破壊されても、熱さに苦しんで死ぬだけだよ。だったら、一思いにやってあげた方が親切じゃないかい?」
理想論を語る柑奈に対し、現実的な言葉を返す飛鳥。
真空空間を作り出して道を開いたとはいえ、未だに燃え盛る森の中で、問答が出来る2人は、やはり肝が据わっていた。
故に、動き出したファイヤーワラビー達を見ても、狼狽える事は無い。
「仕方ないですね。本当は殺したく無いですが………。」
「それで、撃つのを人に任せる人間になったらいけないよ。さて………このガンダム達は何が出来るのか。折角生きられる機会を得られたんだ………もうちょっと足掻いてみないかい?」
「そうですね。詩織ちゃん達は後ろで待機していて下さい。さあ、いきますよ!」
柑奈が機体を動かすと、奇妙な事が起こった。
まるで、その意志に応えるかのように、機体の身体全体が青く輝きだしたのだ。
これには、飛鳥も目を見開いてしまう。
「アレ………画面の下に1本、棒状のゲージがありますね。これを消費すると、何があるのでしょうか?」
ザコット一味のファイヤーワラビーが3機、火炎放射器から炎を発する。
ゲージに着目していた事も有り、ガンダムに慣れていない柑奈の反応は、少し遅れた。
故に、回避は間に合わず、機体は炎に包まれる予定であったが………。
「ん?」
『!?』
炎に包まれる直前、エクストリームガンダムが虹色の光に包まれ、前にステップが踏まれる。
放たれた火炎放射をすり抜けた機体は、横に並んだファイヤーワラビーもすり抜け、後ろに姿を現す。
「これは驚きですね………というわけで、来世ではラブ&ピースで!」
そのまま振り向きざまにビームサーベルを抜き放ち、3機のファイヤーワラビーを纏めて薙ぎ払う。
サーベルの出力は高く、一気に全ての機体の胴体のコックピットを破壊してしまった。
「成程………只の機体じゃないみたいだね。こっちはこれで「引き裂け」と?」
シールドで火炎放射を防御しながら、ビギニングガンダムのビームサーベルを起動させた飛鳥は、一気に3本のサーベルを取り出し、3つの刃を爪のようにかざした事に驚く。
しかし、それでも機体を前進させた彼女は、ファイヤーワラビーの頭頂部から斬り裂くように爪のようなサーベルを振り下ろし、細切れにしてしまう。
「光の爪………悪魔の爪というよりは、神獣の爪に近い。しかし………この過剰すぎる力はまるで………。」
何かを思い至りながらも、飛鳥は爪を振るのを止めない。
ファイヤーワラビーも必死に抵抗しようとするが、機体性能が違い過ぎた。
何より、柑奈機の幻惑と飛鳥機の残忍さを前に、それまで相手にした面々とは明らかに乗っている機体の力が違う事を悟ってしまう。
「撤退するよ!!このままじゃ、全滅する!?」
故に、エニルの決断も早かった。
彼女の指示で、ワイズワラビーと残っていたファイヤーワラビーは牽制しながらも後退していく。
「あ、退いてくれましたね!ラブ&ピースの心が通じました!」
「どうだろうね………この機体の制作者は、その「ラブ&ピース」を少しでも考えていたのかが気になるよ。」
意味深な事を呟く飛鳥は、ガンタンクが安全地帯まで到着しているのを確認する。
コクピットから、梨沙と晴によって動物達が逃がされていくのが分かった。
「柑奈さん。その機体には、他に何か特殊な装置は無いのかい?」
「見当たらないですね~。あ………でも、何か画面にラブ&ピースに背いた言葉が出てきましたよ?」
「読んでくれないかい?」
飛鳥の指示を受け、柑奈は読み上げていく。
エクストリームガンダムの画面に出た言葉は………。
「「極限の絶望をくれてやる!」………それなら、極限の愛をくれてやる!………の方が、私らしいですよね?」
「極限の絶望………か。柑奈さんの精神はともかく、この2機のガンダムの精神としては、間違っていないかもね。」
首を傾げる柑奈に対し、飛鳥が説明をする。
エクストリームガンダムは、虹を纏ったステップで、相手を一方的に斬り捨てた。
ビギニングガンダムは、神獣を模した爪のようなサーベルで、相手に過剰な力を見せた。
どちらも言ってしまえば、正義の力で悪を滅ぼすような、独善的な価値観が感じられる。
対峙した相手を畏怖させるような、歪んだ神々しささえ感じられたのだ。
「それも踏まえて「極限の絶望」と評するのならば、中々にユーモアあふれる皮肉だ。………余程、「黒い思惑」で作られたとボクは感じるよ。」
「でも、相手の心理に訴えかける兵器は、他にも沢山あるんじゃないのですか?」
柑奈は、ザコット一味が撤退していった方角を指差す。
確かに火炎放射による攻撃は、一種の心理攻撃としては有効だろう。
別にこの2機だけが特別とは、彼女は思えなかった。
無論、飛鳥も柑奈の意見には賛同する。
「柑奈さんの言葉は、正しいよ。思惑を疑い始めたら、キリが無いという点に関してもね。だけど………只でさえ圧力を放つガンダムという存在に、更に心理的恐怖を上乗せするものかな?」
「巨大ビーム砲とかをガンダムに搭載すれば、同じじゃないですか?」
「その言葉も間違いないんだけれど………。」
「2機のガンダムの力は、戦闘中に不意打ちとして発揮されるから………あからさまな大量破壊兵器とは、また意味合いが違う………と?」
「ナイスだよ、詩織さん。上手く表現してくれた。」
会話に参加してきた詩織に、飛鳥は感謝する。
見た目や装備で怖がらせるガンダムと違い、この2機のガンダムの力は戦闘中にいきなり発揮される初見詐欺のような力だ。
まるで、対峙した相手を手玉に取り、確実に殺す為に培われた力と言える。
そこに飛鳥は、制作者の悪意が見えたような気がしたのだ。
「後は、ガンダムにしては装備が単調過ぎよね。」
「何かしらの拡張性があるんじゃないのか?」
ここで、動物達を放し終えた梨沙と晴も、会話に参加してくる。
訳があって、詩織達と出会うまでに培っていた整備士としての知識が、飛鳥の危惧を別の形で表現してくれる。
基礎でこれだけの力を発揮するのに、発展性が期待できるのならば、ガンダムとしては恐ろしい部類に入るだろう。
何かしらの怪しい匂いが、この2機から感じ取られた。
「案外、この2機は自分達の存在意義に悩んで、ボク達に助けを求めに来たのかもしれない。」
「じゃあ、救ってあげましょうよ!モビルスーツはあくまで、使う人次第ですからね!」
しかし、この危惧があっても、柑奈は楽観的であった。
むしろ、機体を助けられるかもしれないと言われ、俄然やる気が湧いている。
飛鳥は呆れるあまり頭に手を当てた。
只、これが有浦柑奈という存在であったので、もう野暮なツッコミは止める。
「まあ………繰り返すけれど、柑奈さんの言う事は間違ってないからね。ボクの予感の方が、本来ならば外れている可能性が高い。ひとまず、これから何処に向かおうか。」
所属していたバルチャーは全滅してしまっていた為、途方に暮れてしまう。
しかし、すぐにまた柑奈が手を当て言う。
「じゃあ、海を目指しません?詩織ちゃん、海好きじゃ無いですか!」
「え!?………あ、はい………。」
「港町か………働く当てが見つかれば、食べる物には困らないかもね。」
飛鳥は色々と苦労している詩織の意見を尊重してあげようと、気遣う。
一応自身と柑奈の噛み合わなさに困っているのは理解していた為、こういう時くらいは音頭を取らせてあげたかった。
「全く………柑奈と飛鳥がもめていたら、詩織の心臓が幾つ有っても持たないわ!ちゃんとアタシ達含め、守りなさいよね!」
「り、梨沙ちゃん………その言い方は流石に………。」
「本当の事だから仕方ないって。とにかくさっさと、動こうぜ!連中が戻って来たら嫌だし!」
詩織や梨沙、晴がガンタンクR-44に乗り込み、発進準備を整える。
柑奈も少し自覚はあった為、申し訳なさそうにポリポリと頭をかいていたが、やがて山とは反対側に機体を向けた。
「じゃ………ひとまず進んでみますか!私達家族の新しい門出に乾杯!………未成年ですけれどね!」
「もう一度拾った命だ、噛み締めて行くとしよう。それがボク達「thinE/Dasein(ダインザーダイン)」の貰った運命なのだろうからね。」
何処か決まらないガンダムの搭乗者を筆頭に、3機の機体に乗った5人は進みだす。
世界各地で起こるジェネレーション・ブレイクとは一見関係無さそうな面々であったが………アプロディア、バルバトス、アメリアスなどの戦いは、彼女達すら巻き込んでいく。
何故なら、その2機のガンダムは………。
そして、「彼女」は………。
ようやく、サブタイトルにユニット名を入れる事が出来たので、密かにご満悦。
「thinE/Dasein」というのは、有浦柑奈さん、二宮飛鳥さんん、瀬名詩織さんのトリオなんですよね。
波長が独特な3人の組み合わせですが、だからこそ物語の中で描く魅力があります。
ここで初登場の機体は、何とエクストリームガンダムとビギニングガンダム。
本来ならば、何処のガンダム作品にも属さないゲームやビルド関係の機体ですが…?
的場梨沙さんや結城晴さんも合わせ、この5人にも謎がありそうです。
どう関係してくるのかは、後述の話を楽しみにして下さいね。