柳瀬美由紀、持田亜里沙、桐野アヤ、遊佐こずえ、大和亜季と共にアメリアスの母艦の医務室を訪れた精神体の本田未央は、そこで柳清良と出会う。
清良から、アメリアスに従わなければスペアの肉体を用意して貰えないと言われた事で、彼女の説得を行おうと考える。
だが、清良は………今のアメリアスは会っても失望するだけといって、釘をさすのであった。
この他、大原みちるに大槻唯、西島櫂に真鍋いつき、そして道明寺歌鈴と出会った事で、未央は彼女達に世界を憎む理由を聞く。
だが、この話題で世界を憎まない方がおかしいと言う櫂と、口論になってしまった事で、居心地の悪さとやるせなさを覚えるのだった。
清良の気遣いで歌鈴を筆頭に、「お墓参り」へと向かう事になるのだが………。
医務室で唯とみちる、そして清良と分かれた未央達は、通路を歩いていた。
9人の大所帯になったが、部屋での未央と櫂の口論があったので、皆黙っている。
急患で運ばれた歌鈴が花束を持ちながらもまだ少しふらついていたので、歩くスピードがゆっくりであるのがもどかしかった。
「……………あんたはさ、あたし達の事………どう思ってるの?」
ふと、前を歩く櫂がぼそりと呟く。
自分に対しての発言だと思った未央は、正直に答える。
「友達になりたいです。」
「突拍子もない発言だね。醜いとか情けないとか、思ってるんじゃないの?」
「破壊行動は止めて欲しいです。………だけれど、私が櫂っちのような立場だったら、アメリアスに逆らうのは怖いし、でも死にたくないって思うだろうはずだから。」
清良の言葉が確かなら、スペアの肉体はアメリアスの許可を得なければ準備して貰えない。
普通の人間であるのならば、死にたくないと思う方が普通なのだ。
だから、櫂達の立場ならば、生きたいから協力するという考えを持ってもおかしくない。
「だから、友達になりたいんです。仲良くなって一緒に考える事が出来れば、何か解決策が見つかるかもしれないですし。………信じて貰えなければ、それまでだけれど。」
「あんたは……………。」
「逆に聞くけれど………櫂っちは自分の事、醜いとか情けないとか思ってるんですよね?心の底では、ダメだって分かっている。」
「……………。」
櫂は無言になる。
彼女にしてみたら、未央が嘘を付いているようには思えなかったし、言っている事も間違っているとは思えなかった。
しかし………彼女の言葉を認めてしまったら、自分が成り立たない。
全てを失って、嫉妬や復讐心に狂う事しか出来ない自分が………。
「みんな消えたんだ。友達も………家族も………好きな景色も………全部………まるで、最初から、全部ウソだったかのように………。」
俯きながら消え入るように呟く櫂は、葛藤していた。
世界を消された事への絶望からの幸せに生きる人々への憎悪と、破壊衝動に任せて無関係の世界の人々を殺していく事への罪悪感と。
未央は、そっと美由紀と握っている反対側の手で、櫂の手に触れる。
「私やアプロディア達に出来る事は………バルバトスを………ハルファスガンダムを止める事くらいだけれど、ちゃんと成し遂げて櫂っち達を安心させますから。」
「……………未央ちゃん。」
一瞬だが、櫂は泣きそうな顔になってしまい、目をゴシゴシと拭う。
未央は、今までの質問は聞き方が悪かったと反省し、表現を変える。
「改めて聞かせて下さい。櫂っち達が、もう一度元の世界で見てみたい光景って………何ですか?」
憎む理由というネガティブな聞き方では無く、望む理由というポジティブな聞き方。
勿論、だから根本的に何かが変わるわけでもなかったが、少なくとも相手にとっては言いやすくなるだろう。
その未央の気遣いに感謝したのか、櫂が最初に話していく。
「プール………かな。友達と一緒に泳いで、家族に見守られて、気持ちよく泳ぎたい。」
「元スイマーですっけ?」
「うん………あの感覚が偽物じゃないって実感………もう一度思い出したいんだ。」
櫂の懐かしむ言葉に続いて、歌鈴を心配していたいつきが次に答える。
「私は………とりあえず、ケバブ売りのおっちゃんに再会したいかな。よく私を応援してくれていたし。」
「いつきんは、ケバブが好きなんですね。」
「色々な味が楽しめたよ。………まあ、おっちゃんは歯に衣着せぬのがたまに傷だったけれど。」
苦笑いを浮かべるいつきだが、思い出に浸っているのが分かる。
最後に歌鈴が、足を止めて言葉を紡いだ。
「私は………実家の神社です。家族も好きですが、蹴鞠をしている子供達や、お参りをしに来た幸せそうな参拝客の笑顔………忘れられなくて。」
何でも歌鈴の話だと、出産を間近に控える夫婦での参拝客もいたらしい。
バルバトスは、そういう命の可能性すら奪って行ったのだ。
未央は女性としてやるせない想いを抱いたが、少しだけ目を伏せ切り替えると、ホログラムとなっている亜季を見る。
「うーむ………申し訳ないのですが、私はパスで宜しいですか?」
「いいですけれど………何か思い出したくない事に触れたのならば………。」
「未央殿が謝る事ではないですよ。只………少し、言いにくい事があるだけです。………と、着きました。」
不可解な事を呟く亜季は、半ば強引に話を打ち切る。
彼女はとある扉の前に立つと、ホログラムであるにも関わらず、開けてしまった。
中は、暗い広い部屋であった。
しかし、その中心に天井から光が差しており、仄かに明るくなっている。
そこには、2つの墓が鎮座していた。
「これは………?」
近づいて行った未央は名前を読もうとするが、残念ながら何も書かれていない。
歌鈴がそっと花束を置くと、膝をついて祈り始めた。
皆が同じように祈りを捧げる中、亜季が未央に説明を始めてくれる。
「この船は、元々は廃船で、アメリアスを中心に私達が修理を行って運用しているのですよ。」
「あ………だから、通路を挟んだ部屋の入口の反対側に、ガラス越しに宇宙が広がっているんだ。」
未央は、自分が抱いていた違和感の正体を理解した。
ガラス………本当は余程耐久性のある素材で作られているが………それでも1枚だけで宇宙と区切られている通路は、穴が開くなど何か起こった際に非常に危険な空間となる。
しかも、自室の入り口がその通路に隣接しているとなれば、下手すれば閉じ込められてしまうだろう。
スペアの肉体を用意できるアメリアス勢力でなければ、運用できる設計では無かった。
「この2人は、廃船の傍で抱き合うようにして浮かんでいたのです。尤も、宇宙服はボロボロで原型を留めておらず、男なのか女なのかも分からなかったのですが………。」
それでも放っておけないという事で、アメリアスを説得してこうして墓を作ったのだ。
彼女の母艦になっている元の船が、廃船になった経緯は分からなかったが、色々あったのだろうと推測出来た。
とりあえず未央も、皆に習って2人に対して祈る。
共に祈る事で、世界の滅亡を望む者達でも、人の死を労わる心はあるのだと実感でき………心が温かくなった。
――――――――――――――――――――
墓の入り口で、櫂といつき、歌鈴とは別れる事にした。
別れ際に櫂は何か言いたげだったが、未央は敢えて気にしないようにする。
彼女には、感情を整理する時間が必要だと思ったからだ。
こうして、また6人で行動する事になった未央は、今度は亜季の案内で修練場へと向かう。
「ここは………?」
その修練場は、変わった場所だった。
的が並んでいる所は、射撃訓練を行う所だ。
だが、一番奥に、何故か体育館のような和式の作りの空間が出来ていた。
その和式の部分に、3人の娘が正座で座っている。
両脇に座るのは、長い黒髪の娘と眼鏡をかけた長い茶髪の娘。
どういうことか、両者とも本を読んでいる。
その間に挟まるように座っていたのは、青みがかった黒髪をポニーテールで纏めた娘。
弓道着に身を包んでおり、近くには自前の弓と矢筒を置いていた。
亜季が話すには、黒髪の娘が鷺沢文香、眼鏡の茶髪の娘が古澤頼子、そして弓道着の娘が水野翠であるらしい。
「やっほー!翠ちゃん、文香ちゃん、頼子ちゃん。未央ちゃんを連れて来たよー。」
「えっと………じゃあ、みどりんと、ふーみんと、よりよりで。」
手を振る美由紀に続き、いつものペースで渾名を付ける未央。
しばし無言であったが、中央の翠が落ち着いた口調で話し始める。
「ようこそ、修練場へ。貴女が実体を持っていたら、弓の手ほどきをしたかったですね。」
「みどりんは、弓道部だったの?」
「はい。趣味であり特技です。」
「もしかして、ふーみんとよりよりも?」
未央は、相変わらず正座をしている文香と頼子に問う。
しかし、文香が首を振りながら、若干小声で呟き始めた。
「私と頼子さんは………、落ち着くからここを利用しているだけですね。見ての通り………私は本をよく読んでいます。」
「読書が趣味なんだ。」
「そうですね………他にも栞作りも趣味です………。」
「よりよりも?」
最後に頼子に尋ねる未央。
彼女は、静かに本の表紙を未央に見せる。
そこに映っていたのは、絵画などのイラスト集であった。
「私は美術展や博物展の観覧を趣味にしているんです。だから………文香さんにお願いして、絵画にまつわる本を見せて貰っているんですよ………。」
「そうなんだ………。あのさ、言えたらでいいんですけれど………3人はもう一度元の世界で見られるなら、どんな景色を見てみたいですか?」
未央は先程、櫂達にした質問を行う。
ここで出てくる話題が、恐らく憎悪や破滅願望に関係するだろう。
密かに未央が緊張する中、頼子が静かに話し出す。
「実は私………元の世界での記憶が無いんです。」
「え?」
「正確に言えば………ジェネレーション・システムに記憶を消されました。」
未央は茫然とした。
記憶を消された?
ジェネレーション・システムに?
勿論、アプロディアからは、そのような話を何も聞いていない。
そんな未央の様子を察したのか、頼子は亜季を見る。
「亜季さんは、まだ何も言っていないのですね。」
「ボスの説明待ちにしておこうと思ったのですが、仕方ありませんね。実は私も頼子殿と同じく、記憶を消されているのです。」
亜季が説明するには、ジェネレーション・システムに人生に悪影響を及ぼす記憶があるからと告げられ、人為的に封印されたというのだ。
何故記憶を封印されたのかは、消された側は普通分からないだろう。
だが………ここで、頼子が更に話す。
「全ての記憶を失ったはずなのに………私達の脳裏に、ある使命とそれに関連した能力が植え付けられていました。」
「使命と能力………?」
「「次元戦争」に参加せよ………と。能力の詳細は言えませんが、それにまつわる物です。」
次元戦争。
嫌な言葉の響きだった。
そもそも、機械………ジェネレーション・システムに統括させる事で、争いを終結させた世界であるのに、何故戦争を行うのか?
まず、戦う相手は何処なのか?
次元………という言葉が指す通りならば………。
「発達した文明で………私達の世界に戦いを挑もうとしていた………?」
「正解です。ここにいる皆がジェネレーション・システムを憎悪する理由は、そこに集約されていると言えるでしょう。………ちなみにその事についてアプロディアは?」
無論、知っているわけがない。
巧妙に隠している素振りも無い。
ジェネレーション・システムを管轄していたアプロディアは、負荷を軽くするために、バルバトスを含めた様々な弟妹のシステムに統治を分割している。
だからこそ、ここに来る前に彼女は未央に、自分の知らない真実を確かめて欲しいとお願いしたのだ。
ここから導かれる答えは………。
「成程、ならばアプロディアも「騙された者」の1人となるのでしょうな。………認めたくはないですが、バルバトスも。」
「アメリアスは………?アプロディアは幸福を司るシステムだって………。」
「それはアプロディア達を騙す為の偽情報なのでしょう。………本当は、アメリアスは次元戦争を統括管理するシステムになる予定であったのですよ。」
淡々と告げる亜季の言葉に、未央は青ざめそうになる。
実体があったら、恐らく真っ青になっていただろう。
もしかしたら、バルバトスはその情報を知ってしまい、世界のデリートを判断したのかもしれなかった。
そう考えた途端、足下から崩れそうになる。
「大丈夫か、未央………。」
何時の間にか、荒い息を吐いていたのだろう。
アヤが心配してくれていた。
未央は何とか首を振って気を立て直すと、亜季たちに問う。
「その………次元戦争に関係した人って、どれくらいいるのか分かりますか?」
「割と多かったと思います………。男女関係無く、沢山集まっていましたし………。」
「記憶を消され、使命を植え付けられた者もそれなりにいたのでは無いでしょうか?文香殿の友達も、そうなったと聞きます。」
「え!?」
文香は静かだったが、怒気をはらんでいるのが分かった。
本を持つ手が、わなわなと震えているのが見える。
「2人………犠牲になりました………。気軽に呼び合える仲の人と、本を買う際に荷物持ちを手伝ってくれる人がいたのですが………ある日、私の事が分からなくなって………。」
今思えば記憶を消されたのだと、文香はハッキリと認識できる様子だったという。
住民がジェネレーション・システムを信奉しているからこそ可能であった、全てを騙す行為。
思わず、未央もつられて怒りそうになるが、冷静にならなければならない。
美由紀がそっと握る手を強めてくれたのが、有り難かった。
「名前は………?」
「言う必要が………あるのですか?」
「その2人が生きていたら、話し合えます。他人の空似の人物が生きている可能性だって、あり得ます。ゆいゆいみたいな事は、避けないといけないですし。」
大槻唯は、別次元の相川千夏に出会った事で、錯乱してしまった。
誤射に繋がったところを考えれば、未央を含め事前に知らせた方がいいだろう。
その意味を悟った文香は、若干悩みながらも静かに告げる。
「瀬名詩織(せなしおり)と、日野茜(ひのあかね)ちゃんです………。長い黒髪を持つ私と同じ年齢の方と、茶髪のポニーテールが特徴的な元気な年下の子ですね………。」
「分かりました!みどりんは、そういう人いますか!?」
「え!?」
話を急に振られた翠は、思わず言い淀む。
この反応に、亜里沙が話しだす。
「翠ちゃん、いるの?私達に話していないだけで………。」
「文香さんのような立場の人がいる中で、私の立場を話すのは迷惑だと思ったので………。」
「それって、元の世界の人だったら、記憶は奪われていないって事ですよね!?だったら、猶更話し合う余地がありますって!」
「わ、分かりました!」
未央も後押しした事で、翠は話す事を決意する。
緊張した面持ちだったが、深呼吸すると喋り出す。
「実は………私も2人、学校での友達がいたんです。多分、消滅したと思いますが………。」
「名前は!?」
「………綾瀬穂乃香と藤原肇と言います。」
今度こそ、未央は絶句してしまった。
最後の水野翠さんの言葉を聞いて、違和感を覚えた方…正解です。
明らかに、おかしい部分があります。
詳しくは次回語りますが、矛盾している事があるんですよね。
…とはいえ、色々とこの1話だけで衝撃展開になりました。
西島櫂さんと和解して、謎の2人の墓にお祈りして丸く収まるかと思った所にコレですからね。
ジェネレーション・システムの知られざる秘密が出て来た以上、頭がパンクしてもおかしくないかも。
本田未央さんは何とか自分を保ちますが…果たしてこの後、どうなるか?