柳瀬美由紀、持田亜里沙、桐野アヤ、遊佐こずえ、大和亜季と共にアメリアス勢力の母艦内を回っていく本田未央。
その中で、口論になりそうになった西島櫂の気持ちに寄り添い、何とか彼女の信頼を得る事に成功する。
真鍋いつき、道明寺歌鈴と一緒に案内される形で付いたのは、母艦が廃船だったころに漂っていた2人の人間らしき人物の墓であった。
3人と別れた後に修練場へと赴いた未央は、古澤頼子、鷺沢文香、水野翠と出会う。
そこで知ったのは、頼子と亜季がジェネレーション・システムで記憶を失ったという情報であった。
更に未央達の住まうような別次元に次元戦争を引き起こす為にアメリアスが生み出されたという衝撃的な事実も知った事で、足下から崩れそうになる。
何とか自身を保った未央は、騙されて記憶を失ったという文香の友達………瀬名詩織と日野茜の名前を聞き出す。
加えて、翠にも友達がいたという事で名前を聞き出すが、その人物は………綾瀬穂乃香と藤原肇であった。
「なあ未央………藤原肇って、まさかあのヅダに乗っていたパイロットじゃ………。」
「はい………今は違う機体に乗っているけれど、シンデレラガールズの小隊長をやっています。」
「えぇ!?」
以前、「マゼラン残骸」にて、藤原肇の名前を聞いているアヤは、未央に恐る恐る確認する。
彼女の経歴を考えれば「他人の空似」の人物だろうが、シンデレラガールズに藤原肇というパイロットは間違いなく存在した。
一応、同姓同名の別人で無い事を確かめる為に、身体的特徴を翠に説明するが、青ざめていく彼女の反応を見るだけで、その可能性は無い事が分かった。
「そ、そんな………!?そんな事って!?」
「はじはじは、まだいいんです………。問題は、ほのっち………穂乃香ちゃんの方なんです。」
こちらは、翠たちと同じ世界で消滅を免れた人物だから、他人の空似でない可能性が高い。
未央は、フリルドスクエアというアイドルユニットに参加していなかったか?………と聞いたが、翠は思わず正座から立ち上がろうとし………ふらつき膝をつく。
それだけで、ビンゴである事が分かってしまった。
「嘘………!?まさか………!?」
「み、未央!?穂乃香もアプロディアの元にいるのか!?」
「でも………だったら、おかしくない?」
「そうなんです………ほのっちは、はじはじを見ても、全く動揺していない。」
亜里沙の疑問の声に、未央は頷く。
シンデレラガールズ結成の際に、穂乃香は肇に対し初対面の反応であった。
公私混同はしなさそうだし、感情を隠すのも上手そうだが、だからといって無反応なのはどう見てもおかしい。
まるで、それこそ記憶がすっぽ抜けてしまっているかのようであった。
「実際にアプロディアに記憶を抜かれたとかー?」
「その線………もしかしたら間違ってないかも。」
「ふぇ?」
若干皮肉を交えた美由紀の言葉であったが、未央は可能性があるとしたら、それしか思い浮かばなかった。
穂乃香は自身の世界が消滅する際、アプロディアと深くつながっていた為に、別次元のモビルスーツ等への索敵能力や判別能力を手に入れている。
だからシンデレラガールズの核の1人になっているのだが、その手に入れた能力に反動が生じないとは思えなかった。
「脳内に………アプロディアが住まう領域が出来て………半端に記憶が抜けた………という事でしょうか?」
荒い息を吐く翠を支える文香の推理に、未央は首を縦に振る。
少なくとも、ここにある情報で導き出せる答えはそれだけだ。
「アプロディアは、力をほとんど失っているから………ほのっちへの負荷の比重が大きいのかもしれない。」
「でもー………あぷろでぃあー………はなれられないー………。」
「そうなんだよね………ほのっちが索敵や判別ができなくなったら、バルバトスを何とかするどころじゃ無くなるし………。」
こずえの鋭い指摘に、未央は思わず頭を抱える。
とにかくキャリー・ベースに戻ったら、アプロディアに確認を取らないといけなかった。
只、彼女の性格を考えれば、あらかじめ言うべき事は事前に話しているようにも思えたので、穂乃香と共に頭から抜けている可能性の方が高いと感じてしまう。
「ゴメンなさい………何かややこしい事になってしまって………。」
「気にしないで下さい。少なくとも、貴女が気を遣ってくれている事は………分かりましたから。」
頼子の言葉に申し訳なさを覚えながらも、未央は頭を下げる。
とりあえず、翠は文香と頼子が医務室まで運んで行く事になった。
「色々と関係性がややこしくなったみたいですが………そろそろアメリアスの所に行きましょうか。」
翠たちを見送った後で、亜季が改めて反対側の道に踵を返す。
未央は記憶を奪われた事や次元戦争の話題も合わせ、頭が混乱しそうであった。
――――――――――――――――――――
アメリアスのいる部屋は、モビルスーツの格納庫に近い所にあるらしい。
………といっても、船の作りまで教えて貰えていない未央にとっては、今自分がどこを歩いているのか全く分からないのだが。
とにかく、そうやってしばらく歩んだ彼女は、とある部屋の前へと案内された。
しかし、その前にはデモを防ぐ警官隊が持つような盾を構えている2人の人物が………。
1人は黒髪のショートボブのそこそこ背の高い女性。
もう1人は若干小柄のツインテールにアンダーリムのピンクの眼鏡の少女。
「2人は………?」
「あ、もしかして貴女が未央ちゃん?あたしは原田美世(はらだみよ)。この船のメカニックをやっているよ!」
「私は池袋晶葉(いけぶくろあきは)だ。同じく船や機体の整備を担当している。宜しく頼む。」
「宜しくお願いするね。………じゃあ、はらみーとあきはっちで。」
渾名を付けながらも、2人が何故このような盾を持って部屋の前で待機しているのか未央は分からない。
そこに気付いた美世が、少し困った顔をしながらも教えてくれた。
「アメリアス、最近ヒステリックだからさ。あまり部屋に入らない方がいいんだけれどね。」
「だが………入るのだろう?だから、準備をしていたというわけだ。」
溜息をつく晶葉の言葉に、未央は少々申し訳なくなってしまう。
柳清良の言葉が確かならば、会うだけ無駄のような状態であるらしい。
それでも、試さなければ何も始まらないというわけで、未央は入らせて欲しいと願う。
「私達がハルファスガンダムを何とかするって言えば………多少は落ち着くかなって。」
「お人よしだな。まあいい………では、開くぞ。」
晶葉が扉を開く。
未央は、元気よく挨拶をしようとしたが………。
「いやああああああああああああああああああああああああああああッ!?」
「うわっ!?」
エコーの掛かった少女の大声と共に飛来して来たのは、大きな花瓶。
精神体でなければ、顔面にぶつかって大怪我だっただろう。
部屋は電気を付けていないのか真っ暗で、中心に猫耳を生やした小柄な少女が座っている。
だが………その肌は人の物と呼ぶには青白く、人間でないと分かってしまう。
この少女がシステム・アメリアスであるのは、未央でも容易に理解出来た。
「あ、あのさ………私………。」
「こないで!こないで!こないでーーーッ!!」
「みんなでバルバトスを………。」
「消えてええええええええええええええッ!!」
大声で喚きながら、部屋の物をガンガン未央に投げつけてくるアメリアス。
一応、手を繋いでいる美由紀を守る為にも、美世と晶葉が盾で防いでくれるが、未央の話を聞いてくれる素振りは全然ない。
むしろ、未央の存在に恐怖している様子すらあった。
「いや!いや!いやあッ!?」
「……………。」
全ての事柄から耳を塞いでいるアメリアスの姿に、未央は無言になってしまう。
これでは看護師である清良がお手上げと言うのも無理はなかった。
何を言ったって、話を聞こうともしない。
流石の未央も、苛立ってきた。
「ねぇ………まさかと思うけれど、自分だけが被害者だって思ってない?」
「……………。」
「貴女のせいで、沢山の人達が犠牲になっているんだよ?それなのに………。」
「……………。」
しかし、アメリアスは手で耳を塞いで、首をブンブン横に振るばかりだ。
これでは、話し合う以前の問題である。
未央は、遂に溜息が出てしまった。
「………私がダメなら、誰だったら話を聞いてくれるのさ?」
「……………。」
医者も匙を投げたくなるような状態に、未央はもう無理だと感じた。
清良でなくても、失望したくなるだろう。
様々な現実と、このシステムは向かい合う事をしていない。
自身が加害者でもあるという認識を、全く持っていないのだ。
未央は放っておくしか無いと感じた為、美世や晶葉に頭を下げて部屋を出る。
しかし………その間際、消え入るような声が聞こえた。
「………「コード・フェニックス」を探して。」
振り向いてその意味を確かめたかったが、扉は閉じてしまった。
――――――――――――――――――――
「コード・フェニックスというのは、アメリアスの教育係になるはずのシステムだったんだよ。」
部屋から少し離れた場所で、美世が説明をしてくれる。
何でも彼女も、亜季や頼子と同じく記憶を消されているらしく、次元戦争に関する使命と能力が頭に入っているらしい。
それ故に、コード・フェニックスについても、知識として入っていたのだ。
「そう言えば………アプロディアも言っていたっけ。アメリアスは生まれたばかりのシステムだから、教育係が付く予定だったって。でも………。」
「蓋を開けてみれば、どちらも次元戦争を導く為のシステムだからね。アプロディアが知ったらひっくり返るんじゃない?」
少し苦笑してしまう美世であったが、未央は笑えなかった。
美世で少なくとも3人は、ジェネレーション・システムに記憶を消された者の名前をこの船で聞いている。
文香の友達も入れれば5人。
これに加え、更に沢山の人がいたというのだから………真面目にアプロディアが事実を知ったら、ショックを受けると思えた。
「どんな人がいたんだろう………?」
「ええっと、マーク、ラナロウ、エリス、マリア、フォルド………まあ、とにかく個性的な人達ばかりだよ。」
「………現在進行形なんだ。」
「歌鈴ちゃんが瞑想しながら降霊術で、魂を宿している事が多いからね。たまに会話するんだ。」
歌鈴の宿している力は、想像以上に凄いらしい。
未央はそういう努力をしている人物の為にも、アメリアスには現実と向かい合って欲しかった。
「とにかく………コード・フェニックスっていうシステムを探せば………って、消滅している可能性もあるんだよね………。」
「まずは、落ち着くのを待つしか無いだろう。それより未央………そろそろアプロディアの所に戻るか?」
晶葉の言葉に、未央は自分が想像以上に疲れている事に気付く。
それだけ今回、情報を知り過ぎた。
落ち着く意味でも、1回戻るべきかもしれないとも思ったが………。
「とりあえず、みんなの言うボスにも会ってからの方がいいかな。ちなみに………話は出来るよね?」
「まあ………可能ではあるな。」
「じゃあ、行きたい。」
未央の言葉に、晶葉は少々含みのある回答をしながらも歩き始める。
美世と共についていく一同であったが、その晶葉が続けてボソリと呟いた。
「私の父は………元の世界では、モビルスーツの開発に携わっていた。私がここでメンテナンスを行えるのは、父の知識から得た部分も大きいが………。」
そこで、1回彼女は、何かを考え込む。
手が握りしめられている所を見ると、堪えているようにも思えた。
「父はジェネレーション・システムに騙され、次元戦争の準備を進められていたんだ。私達の世界の統率者達は………色々と厄介な物を残していってくれたみたいだな。」
「……………。」
晶葉の独白に、未央は何も言えない。
彼女は父をもてあそんだジェネレーション・システムを………そして、その世界の統制者達を憎んでいるのだろう。
様々な負の感情を置いて消滅した者達。
その負の財産に付き合わされるのは、やっていられないのかもしれない。
未央は、ちゃんとこの船で得た事を、包み隠さずシンデレラガールズの皆に伝えようと決意した。
――――――――――――――――――――
そして………アメリアスの部屋から数分歩いた所で、彼女達はある部屋へと到達した。
「お待ちしていましたわ。」
部屋の前には、長い三つ編みが特徴的な柔らかな物腰の人物がいた。
何処か上品そうな出で立ちは、高貴な雰囲気を感じさせる。
「私は相原雪乃です。ボスの側近………という立場で今は振る舞っていますわ。」
「ゆきのん………宜しくお願いします。この部屋に、ボスがいるんですね?」
「ええ………では、入りましょうか。」
アメリアスの時と違い、何の警戒も無しに部屋を開ける雪乃。
美世と晶葉とはそこで別れる事になるが、美由紀、アヤ、こずえ、亜里沙、亜季とは一緒だ。
未央は深呼吸して部屋に入った。
これが本来は当たり前なのだが、部屋は電灯がつけられていた。
普通の部屋と変わりないが、美由紀達の部屋と違いがあるとしたら、畳の部分が有り、そこにちょこんと少女が座っている事だろう。
長い栗色の髪が印象的であった。
着物を着ており、和が似合う人物である。
年齢はこの船の中では若い方に見えて、未央とそこまで変わらないと感じた。
柔らかく微笑む姿は………とても破壊勢力のボスとは思えない。
「ようこそー………わたくしは、依田芳乃でしてー。」
「よしのんが………ボス?」
依田芳乃(よりたよしの)。
アメリアス勢力で、皆にボスと呼ばれる人物が………そこに座っていた。
綾瀬穂乃香さんが藤原肇さんを見ても、動揺しない理由。
本田未央さんは、色々と考えてしまいますが…果たして真実は?
様々な人達との出会いを重ね、アメリアスといよいよ相対した未央さん。
しかし、全てを拒絶する状態では、会話も何も出来ない状態。
聞く耳を持たない相手に、受け入れて貰う事は色々な意味で難しいでしょうね。
そんなわけで、最後にボス…依田芳乃さんと出会い、一種の望みに賭ける未央さんですが…。
果たして彼女は、どんな対応を見せるのでしょうか?
…原田美世さんの語った名前を聞いて、ビックリした方もいるはず。