引き続き、柳瀬美由紀、持田亜里沙、桐野アヤ、遊佐こずえ、大和亜季と共にアメリアスの母艦内を回っていく本田未央。
しかし、水野翠の友達に、その世界の藤原肇と綾瀬穂乃香がいたという事で話がややこしくなる。
特に後者は他人の空似では無さそうだったため、シンデレラガールズで穂乃香が、肇の存在に対して動揺していないのが不思議でならなかった。
とにかくショックを受けた翠を古澤頼子と鷺沢文香に任せ、未央達は、アメリアスの所へ。
そこで出会った原田美世と池袋晶葉と共にコンタクトを試みるが、アメリアスは全てを拒絶する状態であった。
医者も匙を投げたくなるほどに、現実に向き合わないアメリアスに未央は苛立ち失望してしまうが、出ていくときにコード・フェニックスの名前を聞く。
美世からコード・フェニックスこそが、アメリアスの教育係になるはずのシステムであった事を知る未央。
しかし、消滅した可能性が高い為、結局落ち着くのを待つしかないと考えるのであった。
そして、最後にアメリアスとは別に、この勢力を纏めるボスの所に行く。
相原雪乃に案内される形で未央が出会ったのは………、和風の大人しそうな少女、依田芳乃であった。
「よしのんが………ボス?」
「左様でー。わたくしが、皆の者に「ぼす」と言われている存在なのでしてー。」
独特な喋り方をする少女だと、未央は感じた。
柔らかに微笑む姿は、やはり破滅思考の持ち主のように感じない。
それでも皆にボスと言われるのだから、「何か」を隠し持っているのだろう。
未央は緊張しながらも、芳乃に問う。
「ボスという事は………貴女がリーダーなのですね。」
「そうですねー。アメリアスがあのような状態なのでー………わたくしが、この船の運航方針を担っているのでー。」
「では………様々な場所を襲撃し被害を出しているのは、よしのんの命令なのですか?」
未央の声のトーンが、低くなる。
しかし、芳乃は全く動じる事無く、しかし微笑みながら頷いた。
その上で、未央に静かに語る。
「この船を見て回ったのならばー、わたくし達が皆、世界を憎悪する理由は分かるでしょー。わたくしは皆の願望を叶える為にー、後押しをしているだけでしてー。」
ジェネレーション・システムによる人々の意識の操作と記憶の消去。
アプロディアすら欺いた、統率者達が企んでいた次元戦争による多次元への侵略。
その果てに起こったのが、バルバトスによる世界の消去であるのならば、やっていられないのは分かる。
しかし………それが許されるはずも無い。
「関係の無い人達を、巻き込んでいい理由にはなりません。よしのん達のやっている事は、怨念返しです!」
「怨念返し………確かに的確な言霊でしょうねー。」
「分かっているのなら………!」
「雪乃さんー。怨念返しとはー、英訳すると何て呼ぶのでしょうかー?」
食って掛かる未央であったが、芳乃は何処吹く風。
彼女はのんびりと雪乃に未央の告げた言葉の意味を問う。
雪乃は、粛々と答えていった。
「「リターニング・グラッジ」と呼びますわね………組織名にしますか?」
「何の名前も無いのも味が無いのでー………では、これからわたくし達は、怨念返しの組織という事で、動かせて貰いますねー。」
「人の話、聞いているんですか!?」
人の生死が掛かっているのに、この目の前の少女は悪い意味で落ち着きすぎている。
それどころか、堂々と自分達が憂さ晴らしをしていると認めてしまったのだ。
この船に来て、色々とフラストレーションがたまっていたのも有り、思わず未央は怒号を上げてしまう。
「よしのん!貴女は知っているんですか!?貴女達の破壊行動で、滅茶苦茶にされる人々や建物の事を!?」
例えば「イングレッサ領ノックス」は、美由紀が攻め入った事で大打撃を受けた。
被害にあった人々も多く、未央が望まぬ形で止めなければ、更に深刻な事になっていただろう。
しかし、芳乃は怒る様子も怖がる様子も無く、微笑みを崩さずに淡々と告げていく。
「わたくし達が参加しなくても、戦いを起こせば被害は出るのでー。第一、それならば、シンデレラガールズも、同罪では無いのでー?」
「少なくとも、私達は進んで虐殺はしないよ!!」
あくまで笑みを崩さない芳乃に、いつの間にか苛立ちを覚えていた未央。
オブラートに包んでいた発言も、徐々に生の感情がむき出しになっていく。
精神体でなければ、今度は顔が真っ赤になっていただろう。
とにかく、この目の前の少女の態度が気に食わなかった。
「「ノックス」の時は、戦車が街を蹂躙していったんだよ!?」
「そうですねー………美由紀さんには、もうちょっと頑張ってほしかったのですがー………。」
「ふ………ざけるなぁッ!!」
少々困った顔で、美由紀が力不足だったと暗に芳乃が告げた事で、未央は頭の中で何かがブチッと切れるのを感じた。
あんなに憎悪に支配されていた14歳の少女の、負の感情を後押しした。
あんなに後悔を覚えていた心優しい少女の、優しさを後押ししてくれなかった。
醜態と絶望に嘆く姿を見ているのも有り、未央の琴線に触れるには十分な発言であったのだ。
「ボスなんでしょ!?人を何だと思ってるの!?」
「美由紀さんをはちの巣にした人の言葉とは、思えませんねー。」
「この………!」
「み、未央ちゃん!美由紀の事はいいんだよ!?美由紀が出撃を望んだんだし!!」
自分の為に未央が完全にキレたのを見てられなかった美由紀が、思わず止めに入る。
それもあって、一旦未央は落ち着こうとするのだが、それでも表情をほとんど変えない芳乃の姿に、思わず精神体であるのも忘れて殴りたくなってしまう。
だからこそ、未央は勢いに任せて叫んでしまった。
「アンタは狂ってるッ!!」
「………逆に聞きますがー、いつわたくしが狂っていないと思ったのでー?」
「え………?」
あっさりと自分は正気では無い………と認めた芳乃の言葉に、未央は頭から沸騰していたはずの血が引いていく。
芳乃は相変わらず微笑んだままだ。
だが………明らかに纏う空気が変わった気がした。
「何が………あったの?」
ここで未央は、冷静になって気付く。
まだ芳乃と雪乃の憎悪の理由を聞いていない事に。
その感情を読んだかのように、芳乃が冷静に語り出す。
「雪乃さんは、わたくしに付き合ってくれているだけなのでー。わたくしは、ちょっとした事があって………他人の幸せが大嫌いになったのでしてー。」
とんでもなく、どす黒い発言であった。
だが、「ノックス」で美由紀も吐き捨てた言葉なので、未央はまだ耐性がある。
1回深呼吸をすると、未央もなるべく落ち着くようにして芳乃に聞いた。
「よしのん………そのちょっとした事って………何なの?」
「未央さんはー………「愛」を知っていますかー?」
「程度にもよるけれど………多分、まだだと思う。」
「わたくしは知りましたー。16歳という身でありますがー………愛し合う「そなた」と営みを望むくらいにはー………。」
かなり深い愛だと、未央は思った。
喜多見柚が、プロデューサーに想いを抱いていたが、それはまだ「愛」では無く「恋」だ。
少なくとも、シンデレラガールズに「愛」を知っている者は、自己申告している者ではいない。
「よしのんにとって………その「そなた」って人は………。」
「たった1人の愛すべき者なのでー。我慢が出来なかったので、ジェネレーション・システムに逆らって、雪乃さんに式場を用意して貰ったのでー。」
「無理にでも結婚式を挙げようとしたの!?」
「でもー………そしたら、そしたら………あろうことか、そなたとの永遠の誓いを………口づけを行う間際で………ふふ、ふふふふふふふ!」
ここで、芳乃が顔を隠し、本当に狂ったように笑い出した。
笑っているのに目からは涙が流れており、それだけで未央は彼女が言いたい事を察してしまう。
「バルバトスによる………世界の消去。」
「全て幻だったので!愛するそなたは………わたくしの前で、粉のように消えてしまったので!」
「よしのん………。」
「バルバトス!あの存在がわたくしを含め、全てを狂わせたので!全てを!!愛すら奪い去ったのでぇーーー!!」
大声で叫ぶ芳乃は、顔から手をどかして未央を見る。
泣いているのか笑っているのか分からなかったが、明らかに狂気が感じ取れた。
「直接わたくしが見つけて………引きちぎってやれば良かったものの!千載一遇の機会に、歌鈴さんが失敗しなければ!そもそも、わたくしのそなたは、まだ見つけられないので!?早くして欲しいので!!」
「ボス………。降霊術が使えないからって、歌鈴さんに八つ当たりするのは良くありませんよ?」
「五月蠅いので!!」
段々とヒステリックになっていく芳乃の姿に、今度は悲しい物を覚えていく未央。
だが、愛という感情の重さを知らない故に、芳乃の苦しさが分からなかった。
一応は釘を刺している雪乃であったが、静かに未央を見ると告げる。
「ボスは疲れているみたいです。退室をお願いしても宜しいですか?」
「……………。」
他人に理不尽に当たる今の芳乃に、まともな価値観は通用しない。
アメリアスとは別ベクトルで問題児になっている彼女には、掛けるべき言葉が見つからなかった。
「よしのん………。」
アメリアスもボス………芳乃もバルバトスに心を壊されていた。
その事実が、未央を失望させてしまう。
彼女は唇を噛みながら、部屋を出ていった。
――――――――――――――――――――
「ボスは………芳乃ちゃんは、あの世界が存在していた頃は、このような性格ではありませんでした。」
部屋の外で扉を閉めた雪乃は、静かに自身の思っている事を独白していく。
雪乃が言うには、本当に愛する「そなた」と共に仲の良い姿を披露しており、皆に優しい性格であったらしい。
「でも………今のよしのんは………。」
「はい………正直、彼女の夫になるべき人には、見せられない姿です。そもそも彼女がボスとして振る舞う事になったのは、アメリアスが一番心を許しているからなのですよ。」
「許してるって………その理由ってもしかして………。」
「私達の中で、一番怖い物をすべて破壊してくれると感じているからでしょうね。」
何とも危険な依存関係だと、未央は感じた。
少なくともアメリアス勢力を率いる者がこの性格では、今すぐ何かを変えられるとも思えない。
「そもそもボスは未央ちゃんを呼んで、このような事を言いたいわけでは無かったはずです。本当は、皆の立場を説明したかったはず。でも………冷静に振る舞おうとしても、感情のコントロールができないのですよ。」
「………ゆきのんは、よしのんを狂わせたバルバトスが許せないんですね。」
「はい………一度、ハルシュタインに憑依するバルバトスを討伐するチャンスがありましたが、何も出来なかった時は、未熟さを感じましたわね。」
「え………それ、本当ですか?」
天海春香の肉体を使っているとはいえ、バルバトスが直接戦場に出ているのは、初耳だった。
もしかしたら、765プロを洗脳している元凶の1人も、何かしらの動きを見せているのかもしれない。
只、何の目的で行動しているのかは、雪乃達でも分からなかったらしい。
「私が出来る事は、ボス………芳乃ちゃんをなるべくコントロールする事くらいです。それで、未央ちゃん………お願いがあります。」
「………ハルファスガンダムの事?」
「はい………アメリアスとボスの暴走を止める1つの手段になるかもしれませんし………。」
「こっちの願いは………全部無視するのに?」
未央は思わず雪乃を睨みつけてしまう。
西島櫂などにハルファスガンダムはどうにかすると言ってはいるが、雪乃のお願いの仕方は気に食わなかった。
頼み方が一方的なのだ。
自分達は破壊行動を止めないし、ハルシュタインを狙うという事は天海春香も殺そうとしているという事である。
そうなったら高槻やよいを始め悲しむ人がいるのに、強硬策を決行しようとする姿勢は気に入らなかった。
「無視と言われましても………。」
「私が春香さんを殺さないでくれと願ったら、努力してくれるの?」
「残念ですが、ハルシュタインとなった時点で彼女は………。」
「自分達の憎悪による行為を棚上げして、何を言っているのさ!?」
努力するように持ち掛けて来ておいて、自分達は努力義務を放棄している。
その身勝手さに、落ち着きかけた心がまたざわつく。
あまりにも理不尽な要望を突きつけられ、未央は怒りを再び抱いた。
だが………ハルファスガンダムをどうにかするのは、シンデレラガールズの最終目的である為、無視できないのも難点だ。
雪乃も、いつの間にか自身が卑怯な取引を持ちかけていた事に気付いてしまったのだろう。
素直に未央に対して、頭を下げる。
「ゴメンなさい………貴女の心を踏みにじる発言でした。でも………バルバトスへの憎悪を止められないのも事実なのです。………例え、天海春香を殺す事になっても。」
苦しそうに俯きながらも、唇を噛んでいる様を見せつけられると、もう未央は何も言えなかった。
今の自分では、アメリアス勢力の破滅願望を止める事は出来ない。
それが悔しくて苦しくてたまらなかった。
「ゆきのんも十分身勝手だよ………私達の立場を利用して………ッ!」
「……………。」
「それで………どうするんだ、未央。アタイ達を全員、見捨てるか?」
「………アヤちゃん?」
ここで静かに言葉を紡いだのは、それまで静観していたアヤだった。
しかし、彼女は雪乃の発言を無視し、続けてとんでもない事を言いだす。
「見捨てるなら………アンタにだけは、この船の名前を教えてもいい。」
「アヤちゃん!?そんなことをしたら、全員が総攻撃を受けて………!?」
思わず雪乃がアヤに怒号をぶつけるが、彼女は心配そうに見つめるこずえの頭を撫でながらもハッキリと告げる。
「未央はアタイ達に真摯に向き合ってくれている。………それなのに、まともに向き合わないヤツや利用しようとするヤツばかりじゃ、失礼でしかない。」
「ボス達を………見捨てるつもりですか?」
「そのボスを始めとした奴らが、未央の心を踏みにじって無礼を働いているんだぜ………?アタイはそっちの方が我慢ならないな。」
「でも………貴女だって、このまま死ぬのは嫌でしょう!?」
震える雪乃の問いにアヤは静かに頷く。
しかし、その上でこう告げた。
「バルバトスをぶっ潰すまでは死にたく無いな。世界への憎悪も消えるわけがない。でも………アタイもこずえも、未央に託すのなら、まだ納得できる。」
「きりのん………。」
「選べよ、未央。アタイはアンタに消されるなら本望だ。少なくとも、そう思えるだけの行動を、この船で見せてくれた。このままアタイ達が殺戮を行うのがイヤなら、力づくで止めろ。」
物騒な言葉とは裏腹に、アヤは笑っていた。
こずえも、それにならって、にっと笑ってくれる。
止めようとしていた雪乃も、自身の発言に正当性が無い事を理解している為、無言になった。
未央は、その全員の態度を確認したうえで、静かに告げる。
「力づくで止めます。………でも、きりのんの望むやり方じゃない方法になりますね。」
「………説得を繰り返すのか?無駄だと分かっていても。」
「無駄じゃ無いですよ。………少なくとも、きりのんが証明してくれましたから。ありがとう。」
微笑む未央に対し、アヤは肩を竦める。
しかし、それが未央らしさなのだと感じ、改めてニヤリと笑みを浮かべた。
未央は笑顔で返した後、改めて雪乃に頭を下げて告げる。
「さっきは無茶言ってゴメンなさい。ゆきのんも辛い立場なのに、私の立場だけで屁理屈を押し付けちゃって………でも、私達はちゃんと約束を守りますから。」
「未央ちゃん………私は………その………。」
「そろそろ私は、キャリー・ベースに戻ります。皆さん、本日はありがとうございました。………みゆみゆ、お願いしてもいいかな?」
「うん、分かったよ。」
美由紀は行ってくるね………と皆に告げると、近くに来た亜里沙に体を預ける。
次の瞬間、未央の精神体が消え、美由紀の身体から力が抜けた。
亜里沙は美由紀の身体を抱えながら、静かに呟く。
「あの子の純粋さに応えられない………それが、とてつもなく苦しいわね。」
「……………。」
俯いて黙っている雪乃の肩を、こずえを連れたアヤが叩く。
ホログラムである亜季は、少し自身の立場について考え込んでいた。
亜里沙は、少しずつ影響を与えている未央の存在に、何かしらの運命を感じ取り始める。
未央は帰還する。
キャリー・ベースへ。
ここで得た全ての真実を、伝える為に………。
愛という感情は、時によっては全てを狂わせます。
グラハム・エーカーが、愛は憎しみに変わると言っている通りですね。
ここの依田芳乃さんは、その被害者の1人であり、本来の性格からは壊れてしまっています。
闇落ちよしのんという名称がピッタリかもしれませんね…。
ちなみにここで初めて相原雪乃さんの口から、バルバトスの動向を知る本田未央さん。
しかし、ここでシンデレラガールズの方針とアメリアス勢力の方針の違いから、苛立ちが募り…。
ある意味では、そんな彼女を桐野アヤさんが救ってくれます。
未央さんの行動は、少しずつ着実に変化をもたらしているのかもしれませんね。
次回でPHASE8は最後になります。
後1話…お楽しみください。