アプロディアから、バルバトスのシステムの大半を担っているハルファスガンダムを破壊するか鹵獲する事で、この次元圧縮を元に戻せると聞いた高槻やよい。
高垣楓達は、ポイント・ゼロと呼ばれる場所を形成して隠れているそのモビルスーツを倒す為に旅をしていたのだ。
しかし、現状の戦力では返り討ちにあうのが関の山なので、仲間の1人が「切り札」と呼べるようなモビルスーツの訓練をしているらしい。
そんな状態で本当にハルファスガンダムを倒せるのか?………と、不安に陥るやよいであったが、楓は自分の上官であるユーグ・クーロに保護して貰えないか頼んでみると話した。
このまま765プロの奪還に参加出来ないのは嫌だと思ったやよいは、自分も戦うと宣言しようとするが、楓に即座に却下されてしまう。
人を殺した経験が無いやよいは、戦闘中に何をしでかすか分からない。
それでもこのキャリー・ベースに居続けたいと望んだやよいは、土下座をしてでも楓に頼み込む。
彼女の本気を悟った楓は、仮登録という形であったが、搭乗員として認める事に。
しかし、ここで部隊名が決まっていなかった事に気付き、やよいが提案をする。
元アイドルも含めた女の人ばかりが集まっている部隊なので、「シンデレラガールズ」がいいと。
その案を受け入れた楓によって、バルバトスの野望を阻止する為の部隊………シンデレラガールズがここに発足する。
こうして、やよいはシンデレラガールズに身を預ける事になる。
彼女の今後は………?
そして、変わってしまった765プロの現状は………?
やよいがシンデレラガールズの仲間になった頃、コロニー「765」では巨大なドームに人々が集まっていた。
その熱気が集まるステージの中心に、真紅のリボンを頭の両サイドに付けたマントを羽織った人物が登っていく。
その姿を見た「ファン」が、一斉に「閣下」と興奮した叫びをあげた。
全周囲から歓声を受けたその「アイドル」………天海春香が変貌したハルシュタイン閣下は、左手を掲げるとステージ上に立ててあったマイクを使い大声を発する。
「諸君!私はハルシュタイン閣下である!!」
声が聞こえた事で更にヒートアップしたのか、集まったファン………洗脳された「愚民兵」は、一斉に閣下と声を張り上げた。
ハルシュタインは、掲げた左手を胸に当てて問う。
「諸君らに問おう!!この世界の統治者に相応しい者は誰か!?」
傲慢とも言える宣告であったが、洗脳されている愚民兵達に常識は通用しない。
今度は一斉に閣下の大合唱を唱え、ハルシュタインを鼓舞していく。
コールを受けた彼女は両腕を掲げ、強気の笑顔で更に聞く。
「この世界の恒久の平和をもたらすのは!?」
より響いて行く、閣下コール。
洗脳によって思考を支配された愚民兵達は、端から見れば熱狂的なファンなのだろう。
だが、その目は攻撃的に染まっており、やよい辺りが見たら恐怖をする。
いや………それ以前に、これはアイドルの活動では無いと、断言するだろう。
しかし、そんな事はつゆ知らず、ハルシュタインはより会場を煽るように声を上げていく。
「この世界に生きる諸君らが忠誠を誓うのは!!」
御親切に、全周囲から散発的ではなく、一斉に声を揃えてタイミング良く発せられる閣下コール。
その統制力に満足したのか、ハルシュタインは笑顔を見せて宣言をした。
「ありがとう諸君!私はこの場で諸君らに誓う!この世界から、無駄な争いを消し去ると!!このハルシュタイン閣下が、公正なる裁きを下し、人が人を憎む世界を無くしてみせると!!」
最後に両手を組み、ステージの真ん中で回り、愚民兵達を見渡してアピールをした。
「さあ、共に行こうでは無いか!我らの望む理想郷へ!!」
一番の閣下コールが響いた。
大演説は成功し、ハルシュタインの愚民兵に対する宣言は終わる。
この演説を計画したのは、765プロの仲間の内の頭のキレる人物。
「彼女」は、愚民兵達に裏切り者がいないかを調べる為に、ハルシュタインをステージに立たせ、その忠誠心を試したのだ。
その結果は大成功と言えよう。
(ふふふ………流石は天海春香。予想以上のカリスマだ。こんなにも早く、人が集まり我に忠誠を誓うとはな………。)
愚民兵の閣下の大合唱を浴びながら、ハルシュタインは内心でほくそ笑んでいた。
彼女の知る人というのは、このように何の考えも無しに「機械」に支配される存在。
全ての罪と業を機械に押し付けた、取返しの付かない存在。
(所詮は愚かなる人ということか。「愚民」という名は、案外的を射ているのかもな。)
これ以上に無い皮肉を考えながらも、ハルシュタインは笑みを崩さなかった。
愚民兵の戦闘適性や能力は、正直そこまでの物では無い。
しかし、鍛えればそれなりの数にはなるだろう。
まずは戦える者達を揃えなければ、流石に自身の計画を実行に移す事も出来ない。
これは、その頭のキレる765プロの人物に言われた事であった。
(今は精々、利用させてもらうとしよう。基盤を作る位の役目は、果たしてくれるだろうからな。)
ハルシュタインは………春香に根付くバルバトスは、人を道具としか見ていなかった。
情などは、全く感じていなかったのだ。
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「……………眠れない。」
部屋をあてがって貰ったやよいは、1人就寝して体を休めようとしていたのだが、どうしても、睡眠を取る事が出来なかった。
何故ならば、目を閉じようとしたら、リーオーを破壊され………神谷奈緒が死ぬ光景が浮かんでしまうからだ。
彼女が実際に生きていたにも拘らずに………だ。
その原因は、ある程度は想定が付く。
「楓艦長は………私が奈緒さんを殺しそうになったって言ってた………。」
恐怖から極限状態に陥り、暴走したやよいは、目の前の試作2号機を消し去ろうとした為に、流れ弾で庇った奈緒機を破壊しようとしてしまった。
その事実が、更に彼女に重く圧し掛かっていたのだ。
「私………人を殺す事なんて………。」
楓に改めて問われた、人を殺める覚悟。
良くも悪くも、今のやよいには全くなかった。
「私は………アレ………?」
ここで、入口の扉が軽くノックされる。
誰か来たのだろうか?………と思ったやよいは、寝間着姿のまま扉を開けて驚く。
そこには、同じく寝間着姿の栗原ネネが立っていたのだから。
「ネネ………さん………?」
「ちょっと寝付けなくて………。良かったら、一緒に寝ませんか?」
「あ……………。」
しばらく茫然とした後、思わずやよいはネネに抱き着く。
ネネが、1人で眠れないとは思えない。
恐らく、不安に陥っているやよいに配慮して、わざわざやって来てくれたのだろう。
その気遣いに感謝して、やよいは彼女の優しさを受け入れた。
ベッドの上でネネと共に眠る事になったやよいは、その体温を感じながら、ポツリポツリと色々な事を話し始める。
水瀬伊織をはじめ、765プロで仲が良かった面々の事。
楽しさに満ち溢れた、アイドル活動の事。
豹変した事務所から命からがら逃げて来て、ずっと恐怖であった事。
そして………人を殺す事に抵抗があるという事。
ネネは、その全てを静かに聞き入れてくれた。
故に、徐にやよいは聞く。
「あの………ネネさんも、人を殺した事があるのですか?」
「………ありますね。実際、やよいちゃんを助けた戦闘でも、1人殺しました。」
その言葉を聞いた瞬間、やよいは思わず引いてしまう。
反射的とはいえ、その行動に後悔した彼女は慌てて謝った。
「ご、ゴメンなさい………でも………。」
「何故、人を殺すのか?………と言いたいのですね。」
ネネは少しだけ悲しそうな眼をしていたが、やよいを非難する事は無かった。
只、彼女はやよいを見つめると静かに告げる。
「私が戦い、人を殺すのは、みんなを「守る」ためです。「カサレリア」では、妹達を守る為にモビルスーツを駆りました。」
「ま、守る為って………だからって殺す必要………。」
「残念ながら………私にはそこまでの技術は無いんです。」
やよいの言葉に対し、ネネはより悲しそうな顔をする。
モビルスーツを無力化出来るような腕前を持っているのは、このシンデレラガールズでは、それこそティエレンを鹵獲した藤原肇ぐらいしかいないのだ。
他のパイロット達には、そこまでの力量は無いし、そもそも躊躇していたら死ぬのは自分か仲間達である。
「やよいちゃんの言う通り、殺さずに済むのならば、それに越した事はありません。でも………それが選べないのならば、私は大切な人達を守る為に敵を殺します。」
「……………。」
「………幻滅しましたか?」
ネネの固い決意に、やよいは僅かに迷ったが、首を横に振る。
彼女は悟った。
自分の言っている事は、綺麗ごとでしか無いのだと。
でも、だからと言って、やはりネネのように、守る為に人を殺す事なんて出来そうに無かった。
「どうすれば………そんなに割り切れるんですか?」
「………割り切ってはいません。でも………私達の世界の敵勢力………「ベスパ」が攻めて来た時に、悪い夢を何度も見たんです。」
「悪い夢って………。」
「妹がギロチンで処刑される夢です。」
あまりにも衝撃的な言葉に、やよいの表情が凍り付いた。
ネネが言うには、ベスパという組織はギロチンによる処刑を利用した恐怖政治を行っているらしい。
実際にテレビではそういった処刑シーンが何度も映し出されており、住民の恐怖を煽っているらしかった。
「その夢を初めて見た時、私は訓練をして戦う道を選びました。大切な人達がギロチンで殺される所を、黙って見ているわけにはいきませんから。」
「初めて人を殺した時は………平気だったんですか?」
「………勿論、初めて人を殺した時は、嘔吐もしましたし、別の悪夢も見ました。でも………だからと言って、私は止まるわけにはいかなかったんです。」
徐々に真剣な瞳に代わっていったネネの表情を間近で見ていたやよいは、彼女の芯の強さに眩しい物を感じた。
しかし、同時にその奥に何処か暗い物も感じ、何か過去にあったのか?………と疑問も抱く。
「ネネさん………。」
「心配しなくても、やよいちゃん達の命は守りますよ。私はもう、手を汚してしまったんですから。」
一転して包容力のある笑みを見せたネネに頭を撫でられ、やよいは自身の情けなさと安堵から涙を流してしまう。
そんな彼女を、ネネは優しく包み込んだ。
(ずっと、泣いてばかりだ………。)
やよいは思う。
ネネのように、自分は強くはなれないと。
それが辛くて苦しくて歯がゆかった。
(私は………どうすればいいんだろう………私………は………?)
やがて、やよいは泣き疲れて眠る事になる。
ネネはずっと、傍から離れないでいてくれた。
だが………彼女は、やよいが完全に寝静まった後に、ボソリと呟く。
「ベスパのギロチン政治を………この次元圧縮で混ざった世界で………それこそ、やよいちゃんの世界で繰り返させない。それが伯爵………貴方への恩返しにもなりますよね。」
彼女の脳裏に、忘れられない映像が浮かんだ。
「カサレリア」に寄ってくれた際に、よく自分と妹を可愛がってくれた人物が………ギロチンで首をはねられる映像が。
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やよいが寝静まった頃である。
コロニー「シャングリラ」の宇宙港にて、奈緒の物と似た青いパイロットスーツを着ている2人の少女が、とある整備されているモビルスーツの前で話をしていた。
機体は、赤・青・白のトリコロールカラーになっており、色々と全身に増加パーツを追加しる最中。
そのコックピット席に座りながら、凛々しい声の少女が通信を送る。
「こちら、渋谷凛(しぶやりん)。これより、「へリオポリス」へと向かいます。」
「大丈夫、凛?隊長から一応、許可が出たとはいえ、まだ機体に体が追い付いてないんでしょ?」
何処か体を痛めているのか、コックピットの前で凛を覗き込みながら、若干弱々しい声で呟くのは、北条加蓮(ほうじょうかれん)。
凛と同じ部隊に所属しており、彼女の出撃を最後まで見守っていた。
そんな加蓮にヘルメット越しに笑みを見せながら、凛は親指を立てて見せる。
「心配いらないって、加蓮。コイツとの付き合い方は大体掴めてきたし、自分の限界は把握しているつもりだからさ。」
加蓮を心配させないようにしている部分もあるが、凛は自信を持って彼女に告げる。
自分は「託された」この機体を、扱って見せると。
少々無理している………と感じながらも、加蓮はその機体の顔………アンテナが付いたツインアイを見上げる。
「………この機体が「切り札」になるんだね。ハルファスガンダムと戦う為の。」
見上げた機体には表情が無いはずなのに、心なしか凛と同じく自信が備わっているように思えた。
凛自身も瞳を閉じると、しばしの間拳を握りしめ、改めて決意を固める。
そして、加蓮を見つめると力強く宣言した。
「うん………これ以上は好き勝手やらせないよ。バルバトスは私が止める。この………「ガンダム」で!!」
人を操り軍勢を拡大するバルバトス。
人を殺せず不安を抱き、怯える高槻やよい。
そして、人を救う切り札であるガンダムを駆る、渋谷凛。
彼女達の想いや思惑が、この先交錯していく事になる。
栗原ネネさんが高槻やよいさんに語った戦う理由。
やよいさんの疑問は当然ですが、敵と味方どちらかを守るべき対象を選べと言われれば、当然ながら答えは決まってしまいますよね。
最後に登場した決戦兵器ガンダム。
どのガンダムかは………初見の人でも、分かるかもしれませんね。
さて、これにて、PHASE1は完結になります。
PHASE2までは作り溜めしているので、まだいつものペースで投稿していこうと思います。
PHASE3以降は、全部書いた後で確認したうえで、また順次投稿していきますので、不定期になりますが、気が向いた方は、まだまだ待っていて貰えると有り難いです。
勿論、今後もまだまだ新規デレステアイドルやガンダムキャラが登場しますよ!