キャリー・ベースに艦隊戦をさせる事で、アークエンジェルの火力を活かし、一気に右翼を突破した2つの艦。
去り際にそれぞれの艦長である高垣楓とマリュー・ラミアスは、自己紹介を交わす。
キラ・ヤマトもまた藤原肇達に感謝をして、工藤忍はグランドスラムの大剣を貰い、ロウ・ギュールに至っては、渋谷凛達が望むガンダムを意地でも作ってやると宣言。
色々な事があったが、皆が無事に「へリオポリス」から脱出できた。
その後、凛と彼女に連れられた護衛の安斎都と並木芽衣子が楓達と対面。
語られたのは、一騎当千の活躍を見せた凛が、まだまだガンダム乗りとしては半人前であるという恐ろしい事実であった。
決戦兵器ガンダムの奥は深いと思う楓と千川ちひろであったが、ここで彼女の演習相手を務めた都と芽衣子に付いて疑問を抱く。
二つ名を持つ芽衣子はともかく、何故、都は状況判断能力に長けていたのか?
そこで、26歳の都は13歳の頃、燃え盛る「グローブ」の町で桃井あずきと出会い、地獄のような光景から逃れたのが切っ掛けだと答える。
一年戦争後の連邦の汚点とも言える事件を話題に出された事で、ショックを受ける楓達。
やり切れない空気に包まれようとした所で、芽衣子が自分の話を切り出し、話題を変えようとする。
都の言う「グローブ事件」とは果たして?
そして、芽衣子の正体とは?
「楓艦長達は、「悠久の旅人」っていう私の二つ名は知っていますか?」
「それはもう………。戦争終盤の「ア・バオア・クー」の攻防戦で、「真紅の稲妻」と呼ばれるジョニー・ライデンを撃墜した英雄と言われていますからね。」
真紅の稲妻の二つ名で呼ばれているジョニーは、ジオン公国軍の中でも屈指の実力を持つパイロットで、高機動戦闘を得意とする腕利きであった。
しかし、そのジョニーを撃墜する事が出来たのが、悠久の旅人と呼ばれる連邦の女神のようなパイロットと呼ばれる女性………即ち芽衣子なのだ。
「先程の戦闘を見ても、貴女が負ける要素が見つからないのは当然でしょうね。何せ、真紅の稲妻を倒したのですから。」
「うーん………そこなんだけれど………実は、プロパガンダなんですよね。」
「え?」
少々困った顔で応える芽衣子に、楓は驚く。
真紅の稲妻を倒したというのは、嘘であるという事なのだろうか?
それに対して、芽衣子は予想の斜め上の回答を告げる。
「真紅の稲妻って………実はあの時、複数人居たんですよ。私が撃墜したのは、実力が本物よりも見劣りする偽物。」
「そ、そうなのですか!?………初耳です。」
「だって、連邦の高官は、その事実を隠していますからね。だから、「プロパガンダ」なんです。」
あっさりと告白する芽衣子の姿に、楓はしばし茫然とした後に溜息を付く。
先程の都の「グローブ事件」といい、地球連邦軍は闇が多いと実感したからだ。
そもそも、女性パイロットが実力を見せたから祭り上げようというのは、ある種の男女差別であるし、単純すぎると思ってしまう。
芽衣子もまた、苦労をしているのだな………と思った時であった。
何かに気付いたちひろが、遠慮がちに芽衣子に聞いてくる。
「芽衣子さん………1つ気になったのですが、どうして貴女が倒したのが「偽物」だと分かったのですか?」
「それは勿論、その後に「本物」にケチョンケチョンにされたからですよ。」
芽衣子は、その時もまたハイブースト・ジムを愛機にしていたらしいが、ジョニー・ライデンの偽物を撃墜した後に、本物のジョニー・ライデンと対峙したらしい。
しかし、実力差が違い過ぎて相手にならず、防戦一方で後少しで撃墜される所でもあったらしいのだ。
「命が助かっているのは、相手が補給に戻ったからです。結局の所、見逃されたって事ですね。運は良かったけれど、プライドはボロボロです。」
「……………。」
運が良かった………という発言を聞き、自身もまた「同じような立場」である楓は、更に溜息。
一応、補給に戻る所まで粘る事が出来たのを鑑みると、芽衣子が実力者である事は間違いなさそうだが、その遥か上を行く本物のジョニー・ライデンの恐ろしさに、寒気すら覚えた。
性格には問題があったが、「赤い彗星」のシャア・アズナブルといい、ジオン公国軍には二つ名付きのパイロットが多い。
そんな中で、よく連邦軍が一応の勝利に持ち込めたと改めて感じた。
「ジオン公国軍は、人数不足が問題だったのでしょうね。私も一年戦争末期は学徒兵として「オッゴ」で出撃しました。」
「13歳ほどで、学徒兵!?………しかも、オッゴですか!?」
腕を組んで天井を見上げるように呟いた都の言葉に、ちひろが思わず驚愕する。
学徒兵とは、練度の低い有り合わせで補充された兵士達の事である。
更に、オッゴというのはジオン公国版のボールのようなものだ。
都は冷静に語っているが、グローブ事件といい、生きた心地のしない生活を送っている。
もしかしたら、その死と隣り合わせの生活の連続で、彼女の中の死生観がマヒしているのかもしれなかった。
「答えられる範囲で教えて欲しいのですが………貴女達が、カジマ大佐の下で今も戦っている理由は何なのですか?」
「私は単純に、プロパガンダだから退役が認められないからですね。そういう意味では、似た立場のユーグ大尉には、共感します。」
先に芽衣子が、軽い調子で重い理由を答える。
プロパガンダ役が退役する事は、基本的に許されない。
だからこそ、ずっと軍で戦わざるを得ないのだ。
やり切れないと楓は内心思いつつも、話題を都に振る。
「都も………聞いていいですか?ジオン公国軍に所属していた貴女が、「ジオン共和国」になったとはいえ、連邦で戦い続ける理由は………。」
「あの「地獄」を繰り返さない為です。そもそも、あの光景はジオンのコロニー落としが無ければ始まらなかった。私は、そういう悪辣な行為を正義ぶって騙る者達が許せないだけです。」
彼女の声は落ち着いている。
しかし、最後の方の棘のある言葉が、安斎都という人物の本心を語っていた。
コロニー落としは、当然ながらジオン公国の民の住居を奪う行為でもある為、被害は地球だけでなく宇宙の方にも出ている。
そういった外道行為が許せないというのは、都の過去を考えれば当然とも考えられた。
「2人とも、実力も信念も備わっているよ。だから、私も鍛えてくれたんだ。」
凛がとても頼りになる人達だと、補足する。
楓もちひろも、それには感謝をせざるを得なかった。
こうした人物達の強力があるからこそ、凛はガンダム乗りの一歩目を踏み出せているのだから。
「ありがとうございます、都、芽衣子。改めてお礼を言わせて下さい。先程も述べた通り、本艦は「シャングリラ」に向かうので、しばらくはここで休んでください。………と、そうでした。凛、もう、やよいには会いましたか?」
「うん、事情も聞いたよ。健気な子だから、助けたくなるよ。」
凛達がモビルスーツハンガーに戻って来た際に、高槻やよいは綾瀬穂乃香やあずきに連れられて、凛達3人に挨拶をしていた。
その際に、勿論自身が765プロのアイドルであり、バルバトスに洗脳された仲間達を取り戻したいという想いも告げている。
只、そこまで話した凛の顔が少しだけ暗くなり、遠慮がちに告げた。
「今は………穂乃香やあずきを追いかけて、柚達の所に行ってる。やっぱり気になるだろうからね………。」
「そうですか………。」
楓が落ち込んだ顔をすると、周りを見渡し告げる。
ここは、柚達に任せようと。
避けては通れない道なのだから………。
――――――――――――――――――――
自室で、柚は椅子に座り、物思いにふけっていた。
室内には、忍、穂乃香、あずきも部屋の中の同じような椅子に座っているが、3人とも何て声を掛けたらいいのか分からない状態だ。
それだけ、あのケリィ・ニューロの言葉は、柚に突き刺さっていた。
(その世界は既に手遅れだった。人は既に人としての業すら捨て去る身だったのだ。)
(私情で世界を語るな、小娘!!その世界の人はもはや、存在自体が罪だったのだ!!)
「違う………違うよ………あの人は………。」
柚は唇を噛み締めながら、言葉を絞り出す。
彼女には、そのケリィ・ニューロの………バルバトスの言葉を否定する「何か」を抱いていた。
ちっぽけかもしれないけれど、確かな何かを………。
「柚さん、柚さん。あの、今宜しいでしょうか?」
「やよいチャン?あ、どうぞ。」
そこで扉が開き、やよいがおずおずと入って来る。
彼女は忍や穂乃香、あずきの3人にも挨拶をすると、色々と考えている様子であった。
「えっと………、うーんと………、その………、今日はいい天気ですね!!」
「ここ、宇宙ダヨ?」
一連のコントのような流れに、忍と穂乃香とあずきは、思わず椅子から転げ落ちそうになる。
ツッコミを入れた柚に至っては深く溜息を付いており、やよいは思わず大慌て。
「す、すみません!何か明るい話題を持ち掛けないといけないかなって!あ、違、そんな深い意味は無くて、えとえとえっと!?」
両手をバタバタ振りながら、何とか言葉を紡ごうとするが、余計に墓穴を掘るだけであった。
最終的に、柚は参った様子でやよいに告げる。
「あー、うん、そんな気を遣わなくていいよ。何となく、やよいチャンが来ることは分かっていたからさ………。」
そして、彼女は椅子から立ち上がると、やよいに頭を下げた。
「さっきの戦闘中はゴメン。勝手に会話に割り込んだうえに、1人でキレちゃってさ。」
「柚さん………。「プロデューサー」って言ってましたよね。じゃあ、もしかして………。」
プロデューサーを愚弄するな。
そう、柚はケリィ・ニューロに叫んでいた。
やよいの知る知識を基に、額面通りに捉えるのならば、それは………。
「うん………アタシも………というか、アタシ達4人も「アイドル」だったんだ。もう昔の事だけれどね………。」
やよいが周りを見渡すと、忍も穂乃香もあずきも皆、頷いていた。
この4人は、バルバトスに滅ぼされた世界で、やよい達と同じくアイドルをやっていたのだ。
島村卯月や本田未央と言い、本当に元アイドル達が集まる部隊だとやよいは思った。
そんな中、柚が周りの3人を見渡して頷き合うと、ボソリと話し出す。
「………少し、昔話をしてもいいカナ?アタシ達の世界の話を。アプロディアやバルバトスが支配していた世界を。その世界に存在していたアタシ達のプロデューサーの話を。」
柚はやよいに椅子を差し出し、座って貰う。
そして、息を吐いて語り出した。
――――――――――――――――――――
大体、柚の生まれる30年位前の事である。
その世界では、人々の終わらない戦いの歴史に終止符を打つ為、各国の指導者達が知識を集約させて、「ジェネレーション・システム」が生み出された。
『人が支配をする限り、誰かが人の欲に塗りつぶされ、不幸になってしまう。人の破滅を防ぐために、絶対的な第三者に当地の手を委ね、誰もが平等の世界を作ろう。』
それが、当時の指導者達の共同宣言であったのを、柚は今でも覚えている。
以降、人々の技術は急速に発展する事になった。
各国が協力関係を取る事で、知識と技術が集約されたのだから、当然と言えば当然なのかもしれないだろう。
それまでは、そんな当たり前のことすら出来ていなかったのだから、大きな皮肉とも言える。
何せ、協力するより前に、目先の利益に拘り、戦争や国家レベルの政治闘争に明け暮れていたのだから。
「お陰でアタシの生まれた頃には、色々と凄い物があったよ。」
「例えば、どんな物があったのですか?」
感慨にふける柚に対し、やよいは問う。
柚は少し悩んだ挙句、こう答えた。
「うーん………例えばモビルスーツカナ?暴徒鎮圧用に色々と開発をされていたんだ。ハルファス以外にも、色んなガンダムが存在していたんダヨ。」
「へ~………アレ?」
ここで、やよいは疑問を抱く。
戦争が無くなったのに、何で争いの道具を作り出しているのかと。
柚はそのやよいの疑問にも、丁寧に答えていく。
「何時の時代にも、機械の統治に反対する組織は存在していたんダヨ。何か理由を付けて反政府活動を行い、自分が支配する機会を狙う輩。戦争は無くなったけれど、厳密な意味での争いは無くならなかったんだ。」
しかし、相手は世界を統治できるシステムである。
何かの暴動を起こしたり、悪質なウイルスを撒き散らそうとした時点で、不穏分子として即刻除去された。
機械が四六時中支配しているのだから、悪質な事は出来ないのが、その世界であったのだ。
柚は自分の言葉に少しだけ哀しさを覚えながらも、上を向きこう述べる。
「その機械の支配を「当然」と受けいれられれば、楽園と言える世界だったのかもしれない。………少なくとも、アタシはそう思っていた。あの人に出会う前は………。」
少しだけ笑みを浮かべた柚は、やよいの目を見る。
そして、優しく………それこそ乙女のように頬を赤く染めて語り掛けた。
「アタシがあの人に出会ったのは、クリスマスの夜。何か面白い事は無いカナ~って、外をぶらついていたんだ。そしたら………。」
そこで、柚は思い出し笑いをした。
モビルスーツパイロットではあったが、その時は年相応の少女らしい顔をする柚を見て、やよいはどんなロマンが起こったのかと胸を高鳴らせた。
そして、柚は告げる。
彼女が言うには、赤いハチマキをした派手な格好をした男と出会い、不注意からぶつかってしまったらしい。
柚は思わず謝るが、男の方は彼女をジッと眺めていて………。
「ティンと来た!!」
「それが、アタシとプロデューサーの出会いだったん………。」
「いや、ちょっと待って下さい!?」
気付けば、神速でやよいがツッコミを入れていた。
柚ははにかんだ顔で………それこそ恋する乙女のような顔で語っていたが、内容はやよいが想像したようなロマン溢れる展開から、完全に遠ざかっていたからだ。
「何ですか、今の!?クリスマスの夜に出会ったっていうのに、ロマンの「ロ」の字も無いじゃ無いですか!?うちの社長じゃあるまいし、そんな一言でアイドル界に突入なんて、あんまりじゃないですか!?」
「………悲しいけれど、これって事実なのよねぇ。」
やよいのこれ以上に無い猛ツッコミを受けた柚は、思わず乾いた笑いを浮かべる。
流石に、やよいにここまで激しく言われるとは思っていなかったらしく、彼女の目は死んでいた。
周りを見ると、忍も穂乃香もあずきすらも、笑いを必死に堪えている様子だ。
やよいは思わず冷めた目で、柚を見つめてしまっていた。
「……………。」
「そんなわけで、アタシのアイドル道が始まったんだ。だけれど………。」
柚はやよいの反応を他所に、更に苦笑する。
怪訝な反応をするやよいであったが、柚は構わず語り出す。
一体、彼女とプロデューサーには、どんな関係が結ばれていたのか?
そして、昔話の行き着く先は………?
安斎都さんの設定が、「機動戦士ガンダムUC」の設定を参考にしたのに対し、並木芽衣子さんの設定は、「ジョニー・ライデンの帰還」の設定を参考にしています。
真紅の稲妻のジョニー・ライデンは複数人居たという説を採用してみた所、こんな人物設定が出来上がりました。
ジオンに二つ名のあるパイロットが多かった所を鑑みると、連邦もプロパガンダとして英雄を祭り上げたくなったのも当然なのかもしれません。
ちなみに、二つ名を「悠久の旅人」にしたのは、旅好きの芽衣子さんというのもありますが、一番の理由は勿論、アイドルマスターゼノグラシアから取っています。
私のアイマス………実はそこから入ったんですよね。