ファントムスイープ隊である北条加蓮は、神谷奈緒や渋谷凛と久々の再会を楽しむ。
隊を率いるユーグ・クーロは苦労している様子であったが、高垣楓はとりあえず何処かで久々に飲みながら語らおうと言う。
そして、御供の姫川友紀、客人であった安斎都と並木芽衣子と共に、馴染みの店へと向かう事に。
一方で工藤忍は、現ファントムスイープ隊の母艦であるブランリヴァルへと赴いていた。
クローンの失敗作である、フェイフェイ達。
自称小心者の艦長である、浅野風香。
そして、現ファントムスイープ隊のパイロットを務める辻野あかり・砂塚あきら・夢見りあむ。
彼女達との再会を楽しみながら、時を過ごしていく。
ユニークな人物達が登場する中で訪れる、憩いの時。
シンデレラガールズの面々は、どのようにして過ごすのか?
街に繰り出した高槻やよい・栗原ネネ・桃井あずきの3人は、早速デパートで衣服を買っていた。
やよいにどんな服がいいか聞いてみた所、色々と彼女は迷ったが、黄色とオレンジの長袖トレーナーに青のデニムスカートに落ち着く事に。
「他にも最低、下着や寝間着を買わないといけませんね。」
「タオルや小物も買わないと。自分の部屋で衣食住が出来るようになるには、色々と必要だし…………。」
「うー………初めての場所だから、何処が安いのか分からないのが辛いです………。」
必要な物を取りそろえようと躍起になるネネとあずきに対し、やよいはあくまで品質より値段を基準に判断している。
物はまとめ買いをする事で、少しでも安く済ませようと考えるのは、765プロではそこまで裕福で無かった彼女ならでは。
「お金は私が出しますから、気兼ねしなくても大丈夫ですよ?」
「でも、甘えるわけには………。」
「こういう時は、お姉さん達に甘えて下さい。」
結局、ネネがそう言って納得させる事で、やよいの衣食住のセットは一通り揃えていく。
只、調子に乗って買い過ぎると、オープンカーに乗せられないので、ある程度は控える事に。
ネネは、何回か往復する必要があるとも思っていた。
「こういう時、伊織ちゃんがいると頼りになるんですけれどね。伊織ちゃん、大きな家に住んでいるから、大きな買い物も得意なんですよ。」
「そうなんだ。2人って親友だったよね?………決め付けたらいけないけれど、何か意外。」
あずきの言葉に首を傾げるやよい。
確かに裕福で無いやよいと裕福である水瀬伊織が、お互いウマが合うのは、端から見たら少々違和感を覚えるかもしれない。
それでもやよいに嫉妬心の欠片も無い所を鑑みるに、伊織の方もやよいの事を本当に大切に想っているのだろう。
………でなければ、自分の身を犠牲にしてでも、やよいを逃がそうとは絶対に思わない。
「人間関係って………やっぱり立場とかに縛られない物なんだね。」
あずきは独り言ちる。
自分達フリルドスクエアの面々も、自由な価値観から集った者達だ。
仲間、友達、親友………この関係性は、常識に縛られる事は無いのだろう。
「服は実際に着替えましたし、まずは小物類を探しましょう。やよいちゃん、まだまだいけますね?」
「はい!宜しくお願いします!」
自分に見合った衣服を手に入れたやよいは、絶好調の証であるガルウイングで礼をした。
3人の買い物は、まだまだ続く。
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「今年のキャッツはねぇ!!外国人の補強枠が良かったんだよぉぉぉッ!!」
酒場の方では、ビールをがぶ飲みし過ぎて泥酔した友紀が、意味の分からない叫びをしていた。
完全に飲み過ぎているらしく、それでもジョッキを手放さない所を鑑みるに、かなり豪快ではある。
隣でユーグと共に日本酒をチビチビと飲んでいた楓は、酒場のマスターを呼び、彼女に水を渡すように頼んだ。
「お客さん、お水ダヨー。これ飲んで元気出すネー。」
「あー………ありがとう。五臓六腑に染み渡る~………。」
もはや自分の言葉の意味すら分からなくなっている友紀は、ジョッキを持つ手とは反対の手で、酒場のマスターから水を受け取り、一気に飲み干す。
ちなみにこのマスター、何故か黒子衣装であり、顔を隠していた。
楓達が気にしないのは、昔から店のマスターが、ずっとこの格好で過ごしているからだ。
要は、人に見られたくない秘密があるという事。
とにかく、そんな友紀の暴飲を見ながら、ユーグが若干引いた様子で楓に問う。
「止めなくて良かったのか?どう見ても中毒を起こしそうなレベルだが………。」
「ふふっ、ゴメンなさい。隊長とこうして飲むのも久しぶりだし、私も舞い上がっちゃったみたい。」
「大人の魅力を見せつければ、何でも許して貰えるわけではないぞ?」
「もう、隊長のイケず。」
どうも、残念な25歳の美女………というか25歳児扱いして欲しい様子であるが、これが楓の本来の姿でもある。
彼女の感情を表現するのは如何せん難しいが、どうしようもない人扱いされると、とても嬉しいらしいのだ。
そういう意味では、古い知り合いであるユーグに甘えたくなるのも、ある意味では当然かもしれない。
ユーグの方はというと、しばし楓を若干呆れたように見ていたが、やがてグラスを置き、真剣な顔で問う。
「……………怪我の具合はどうだ?」
「大分良くなってきましたよ。折角なら見てみます?」
「冗談を言われると、誤魔化したいのかと勘ぐってしまう。」
「そうですね、ゴメンなさい。」
楓もまたグラスを置くと、少し赤みがかった頬を見せながら、彼に言う。
その顔は、見る人によっては色っぽく映り、魅了されたかもしれなかった。
「流石にモビルスーツを運用する事はまだ出来ませんが、日常生活には問題無さそうです。」
「………すまない。俺のミスのせいで部隊は全滅し、唯一の生き残りのお前も、重傷を負わせてしまった。」
頭を下げるユーグに対し、楓は少し拗ねたように頬を膨らませる。
彼は一々会う度に、こうして彼女に謝罪をしているのだ。
謝られる側からしてみたら、たまったものではない。
「もう………あまり女性を困らせる物ではないですよ。………全てを巻き込む戦争だったんです。誰だって覚悟はしていました。生きているだけ、儲けものですよ。それに悪い事ばかりではありません。退役軍人となった事で、得る事の出来た出会いや絆も沢山有ります。」
そう言うと、楓は指を丁寧に折りたたみながら、シンデレラガールズのメンバーの名前を口にしていく。
勿論、やよいの名前もしっかりと含まれていた。
違う点があるとすれば、皆の事を呼び捨てでなく、「ちゃん」付けで呼んでいる事だ。
これもまた、楓の本当の素の姿。
「本当に、素敵な子達に出会う事が出来ました。私は果報者ですよ。」
「そうか………。」
そんな楓達の様子を見ながら、ジョッキをマスターに渡して、少し酔いが収まった友紀が、顎に手を付けてテーブルに肘を置きながら眺める。
ここまで楓が素の側面を見せつけるのも、珍しいと。
「やっぱり、それだけユーグさんとは、長い付き合いなんだろうなぁ………。」
「それが戦友って物だろうからネー。只、普段メリハリを付けないといけないのは、大人として色々大変なものヨー。」
実際、自分の不始末で若い世代の命を棒に振ってしまう可能性だってあるのだ。
だから、時に冷徹と言える程の決断力が必要とされる場面が有り、とても責任重大なのが上の職を任される者。
逆に言えば、そういう重い立場だからこそ、こういった所で愚痴を吐き出す余裕は持たせてあげたかった。
尚も、友紀はこっそりマスターに告げる。
「ユーグさんも大変だよね。一年戦争の時に部隊を全滅させられて、「部下殺し」って陰口を叩かれてるんでしょ?」
「責任感の強い人だからネー。いつも後悔し続けていて、悪夢を見る事もあるらしいヨー。」
ユーグはある意味負の循環に囚われている人物だ。
常に部下を大切にしようとするが、逆に彼等に慕われるからこそ、窮地の時に庇われ自分だけが生き残ってしまう。
おまけに英雄という「プロパガンダ」として祭り上げられている人物の1人なので、除隊も出来ないのだ。
「何か悲しいね………。」
「そうだネー。それが戦争の辛い所ヨー。………さて、もうすぐ都と芽衣子が来客を連れって来る予定だから、御飯仕上げるネー。給仕が新しく入ったから、注文はそっちに頼んでヨー。」
「了解。………って、言ったら何だけど、こんな店に新しく入る給仕ってどんな人だろ?」
マスターが黒子の怪しい店に出入りする自分達が言うのもなんだが、こういう店で働こうとする者が何者であるのか、友紀は少しだけ興味を持ってしまった。
やがて、その人物が店の奥からお盆を持ってやって来る。
「……………。」
友紀は、しばしの間固まってしまった。
その人物は、ショートボブの黒髪の中性的な少女であったのだが、顔に舞踏会で付けるような仮面を装着していた怪しい人物だったのだ。
黒子であるマスターがマスターならば、給仕も給仕である。
「えーっと………新入りの給仕さん?」
「やあやあ、酔いは冷めましたか?」
「まあ、その姿を見れば………えっと、お名前は?」
友紀が恐る恐る尋ねると、給仕はそうだねぇ………と言って、ニヤリと見えている口元に笑みを浮かべた。
嫌な予感がした友紀の前で、彼女はトレーを置き、ダブルピースでキュートにキャピッとポーズを決めて叫ぶ。
「美少女仮面・マコマコリン(びしょうじょかめん・まこまこりん)!!」
「仮面!?マコマコリン!?何それ!?」
「美・少・女!ココ重要ですからね。」
そういう問題では無いだろうと、友紀が唖然とする中でマコマコリン(敬称略)は、もう1度キャピッとポーズを取ってキュートらしさを強調。
どうもクールでは無く、その路線で行こうと思っているらしい。
「………………。」
「おっと、絶句しないで下さい。ボクのキュートパワーでやられたのは分かりますが………。」
「んなわけないって!!」
友紀が思わず激しくツッコミを入れる。
一方で楓もその新人の給仕の登場には茫然としており、何者なのかとユーグを見ていた。
彼はとりあえずキュートパワーという物を気にした様子も無く、楓に言う。
「あのフェイフェイ達やここのマスターと同じく、色々と理由があるという事だ。」
「その割には自由ですが………私も見習った方がいいでしょうか?」
「君は既に十分自由だと思うが?」
的確にツッコミを入れながら、ユーグは言う。
今頃忍がお世話になっているブランリヴァルの50人のフェイフェイクローン達の事情は、楓や友紀も知っている。
勿論、「オリジナル」が何処にいるかまでは分かっていないが、色々と深い事情があるのだろう。
1週間前の安斎都や並木芽衣子の話で、連邦軍の闇は更に嫌と言うほど知ったのだから………。
「失礼します。一応、「彼女達」のモビルスーツも持ってくる許可を取っていたら、時間が掛かりました。」
「その代わり、今から私達も飲み会に参戦するから楽しく時間を過ごそうね!」
入口が開き、その都と芽衣子に連れられて、2人の女性が店内に足を運ぶ。
1人は長髪の女性で、何処か憂いのある表情に大人の雰囲気を醸し出していた。
もう1人は逆にショートボブの活発そうな女性で、都や芽衣子以上に童顔に見える。
「貴女達ももしかして………。」
「ええ、カジマ大佐の部下で凛ちゃんの特訓係よ。私は服部瞳子(はっとりとうこ)。楓ちゃん、宜しくお願いしますね。」
「アタシは水木聖來(みずきせいら)!瞳子さん達とは違う次元出身だけれど、カジマ大佐の下でお世話になっています!」
服部瞳子と水木聖來という真逆のタイプの成人女性を含む4人がやって来た事で、賑やかになる店内。
瞳子と聖來はユーグと楓の席に。
都と芽衣子は友紀の席に座った。
「改めて、お礼を言わせて下さい。凛を鍛えて下さり、ありがとうございます。」
「艦長さんにそう言って貰えると嬉しいわ。今は凛ちゃんをガンダム乗りにするのに、ブランリヴァルの風香ちゃんの下でお世話になっているけれど………そろそろカジマ大佐達の下に戻るつもりよ。」
新たにマコマコリンが持って来たシャンパンを飲む瞳子が言うには、彼女自身は元々ジオン系の組織の兵士であったらしい。
しかし、様々な事があって戦いに失望してしまい、戦場を脱走して機体を捨てて地球に降下して戦いから離れて暮らしていたらしい。
只、色々あって地球の辺境基地で再び連邦軍人として素性を偽ってモビルスーツを駆る事になり、そこをカジマ大佐の目に留まったというのだ。
「瞳子さんの再起の切っ掛けは何だったのですか?」
「そこは女の秘密という事でお願い出来ないかしら?只、カジマ大佐は私の全てを聞いても、受け入れてくれたわね。」
ほんのりと顔を赤らめながらシャンパンを口にする瞳子は、何処か遠くを見つめていた。
人に言えない秘密があるのは、誰にでもある事。
故に楓は、それ以上詮索しようとは思わなかった。
自分自身もまた、一年戦争で色々とあった身だから。
「聖來ちゃんは、何処の次元から来たのですか?」
「アタシはアフター・ウォーって世界からです!バルチャーっていう職でしたね。」
ハゲタカを意味するバルチャーは、モビルスーツのパーツ等のジャンク品を売りさばく組織だ。
彼女の世界では、昔の大戦でコロニー落としが頻発しており、ボロボロの世界であったらしい。
それ故に、聖來はそういう地球を荒らす輩が大嫌いであるらしい。
「本当は、そろそろストリートダンサーとして鞍替えしたいんですけれど、その為にはバルバトスを退治しないとダメですからね。」
そう言うと、聖來はグラスを置いて店内のステージで軽くダンスを踊って見せる。
かなり上手である所を鑑みるに、日々鍛えているのが素人の楓にも分かった。
「本当に色々な人々に支えられているのですね………私達は。」
ビシっと決めた聖來に拍手を送りながら、楓は呟く。
新たに出会う事になった、渋谷凛の特訓相手であった服部瞳子と水木聖來という2人のパイロット。
謎の黒子のマスターに、給仕のマコマコリンという人物も合わせ、様々な人々に支えられているシンデレラガールズ。
バックの強さを実感した高垣楓は、一層身の引き締まる思いを感じた。
小説版だと分かりにくいですが、今回の話でようやく高槻やよいさんは、いつもの私服をゲット出来ています。
それまでは、栗原ネネさんのお古だったので、特に袖とかぶかぶかだったのは、苦労していたでしょうね。
新規登場アイドルは更に続き、今回は服部瞳子さんに水木聖來さんが登場しています。
酒場で高垣楓さんや姫川友紀さんを中心に飲むのは、大人ならではの楽しみを感じるでしょうね。
ちなみに私事ですみませんが、実はお酒が飲めません。
なので、酔っ払う楽しさというのは、少し憧れる部分もあります。
黒子のマスターに仮面の給仕…果たしてその正体は?