逃げ遅れた人々がいるシャングリラのジャンク山での戦闘は、想定以上に苦戦をする事になった。
周りに被害を出さないように気を配らないといけない以上、空中を縦横無尽に動き回るガザD部隊に対し、どうしても不利になるパイロット達。
そんな中、ブランリヴァルの浅野風香は、ゴットン・ゴーがエンドラで牽制砲撃を繰り出す瞬間を待っていた。
メガ粒子砲の冷却時間を逃さずに艦を浮上させた彼女は、フェイフェイ達に指示を出し、艦首を向けてミサイルランチャーで単装メガ粒子砲の砲塔だけを破壊する。
母艦が撤退をせざるを得なくなった事で、ガザD部隊も大半は退く事になったが、最小限に抑えたとはいえ、人的被害を出した事に風香は心を痛めていた。
一方で、高槻やよい、栗原ネネ、桃井あずきを探していたハイゴッグを駆る北条加蓮は、エンドラの牽制射撃でスクラップ品が彼女達に飛来するのを防ぐため、機体で咄嗟に庇う。
お陰で、やよい達は無事であったが、衝撃で加蓮は古傷が開いて気絶しかけてしまい、ネネと共に危うい状態に。
過去のトラウマから戦えないあずきを見たやよいは、決意を固めてハイゴッグを操り、ガザDと対峙する。
様々な人々の想いを背負い、モビルスーツで本当の初陣を飾る事になったやよい。
ネネを、あずきを、加蓮を生かす為に、彼女は戦いの舞台に足を踏み入れる。
「行きます!」
やよいは、先手必勝と言わんばかりに、ハイゴッグ胴体の「腹部マシンキャノン」を放つ。
ザク・マシンガンと同等の破壊力を持つそれは、当たればガザDならば砕けるだろう。
しかし、ダメージを受けても尚、機動力のあるガザDは、機体を捻るように回り込ませるように回避していく。
やよいは必死にモニターを凝視していた為に気付いたが、周り中には、飛び散ったスクラップ品や潰れたジャンク屋の店、そして人間だった亡骸も見える。
「こんな………ことって………!」
胃の中の物がこみあげて来そうであったが、ここで吐くわけにはいかない。
やよいは必死に歯ぎしりをして堪えながらも、腹部マシンキャノンを何とか当てようとする。
そこに、後ろからあずきの声が聞こえて来た。
「やよいちゃん………あのガザD、ミサイル・ランチャーがもう装填されていない。変形もしていないし、ずっとビーム・サーベルを構えているだけだよ。満身創痍なのかも。」
「私がなめられている可能性は!?」
「だったら、初撃で「ナックル・バスター」っていう、高出力のメガ粒子砲を撃って終わらせて来ると思う………。」
自信が無いようにガザDの特徴について説明するあずきであったが、やよいはその言葉を信用した。
実際、彼女達が知る由も無かったが、凛によって傷つけられている機体なのだ。
ミサイルは使い切り、ジェネレーター出力が落ちているので、撤退も出来ずビーム・サーベルで道連れだけを考えていた。
「……………あずきさん、ネネさんと加蓮さんを、しっかりと支えて下さい。」
「え?」
やよいは右腕を振りかざすと、腕部先端中央から「ビーム・キャノン」を放つ。
だが、ガザDに当てようとしても、そう簡単にはいかない。
故に、やよいはわざとその足元を狙った。
「貰ったああああああああ!!」
相手の自棄になったパイロットが、マイクで叫びながらビーム・サーベルを大上段に振り上げて跳躍する。
当然、斬り下ろされれば、やよい達は一巻の終わりだ。
だが、やよいは今日、その動きをシミュレーター上ではあるが、ジム・ストライカーで実際に行ったばかりである。
対戦してくれていた工藤忍が、ズゴックEでどのような対応をしたのかも。
「飛び込みます!!」
やよいは、振り下ろされたサーベルが刺さる前に、思い切ってバーニアを噴射し、ハイゴッグの腹でジャンク山を強引に滑った。
結果、ハイゴッグはガザDの足下を潜り抜け、敵機のビーム・サーベルは、足下のスクラップ品に突き刺さる。
「し、しま………!?」
相手が戸惑っている隙に、やよいは長い左腕で機体を起こし、素早く反転させる。
ガザDがようやく振り向いた時には、右手の「バイス・クロウ」で掴みかかり、ジャンク山に叩きつけていた。
「これで………!」
「こ、殺さないでくれーーーッ!!」
マイクが、入っていたからだろう。
やよいは怯える敵パイロットの声を聞いた。
死の瞬間に怯える人間という存在。
ここで、殺してしまうのは残酷なのでは?
命を奪ってしまっていいのか?
助けてあげるのも手では無いのか?
やよいの中に、そんな選択肢が浮かぶ。
だが、敵の右手にはまだしっかりとビーム・サーベルが握られている。
恐らく、解放したら逆転されて死ぬのはやよいだ。
それだけならば、まだいい。
一緒に自分を助けてくれた3人の仲間も、巻き添えになる。
やよいにとって、一番許してはならないのは、彼女達が死ぬ事なのだ。
「ゴメン………なさい………ッ!」
「や、止め………止め………!」
故に、腹を括る。
この瞬間、やよいは甘えを捨てた。
バイス・クロウの中のビーム・キャノンを光らせ、ガザDを貫く。
やよいが小さく飛びのくのと同時に、沈黙した敵機は爆発を起こした。
「……………。」
「な、何という事を!?」
しばし茫然とする中、背後に若い男の声がしたので、やよいはハイゴッグを振り向かせる。
そこには、ジュドーのZガンダムと追いかけっこをしていたガルスJ………マシュマー・セロが居た。
彼は、ようやく自分の部隊の被害状況を知った為、一時的にこうして戻って来たのだ。
そして、目の前で繰り広げられた「部下への惨劇」に、憤りを感じている様子であった。
「貴様に騎士道精神は無いのか!?騎士同士の決闘の邪魔をするだけでなく、部下を残虐に殺しておいて………!」
「……………貴方が、それを言う権利があるんですか?」
「何!?」
低く響いて来た声に、マシュマーは驚愕する。
やよいは、この男はこの期に及んで何をふざけた事を言っているのだろうか?………と本気で思っていた。
この男がやって来たせいで、ネネが自分を庇って大怪我をした。
この男が動き回ったせいで、沢山のジャンク屋が被害を受けた。
この男が部下をコントロールできなかったせいで、沢山の死者が出た。
勿論、マシュマーは元々コロニーに被害を与えたくない立場であったのだし、そういう意味では不遇な部分もあるだろう。
だが、そんな男の心情など知らないやよいにとっては、彼こそが全ての元凶としか映らなかった。
「貴方が来たせいで………!貴方が戦いを起こしたせいで!みんなが不幸になった!!」
「いきなり何を言って………!?」
「そんな貴方が………騎士とかふざけた事を口にしないで下さいッ!!」
怒りに燃えるやよいは、困惑するマシュマーに対し、両手のビーム・キャノンを連射する。
マシュマーは慌てて反応し回避したが、持っていたビーム・サーベルが破壊されてしまった。
「だから、貴様に騎士道精神は無いのか!?いきなり、不意打ちを………!?」
「そんなふざけた物、いりませんよ!!」
尚も、腹部マシンキャノンも同時に連射した事で弾幕が形成され、マシュマーは近づけない。
だが、彼はエンドラの艦長としての立場を担っている者。
先程のガザDパイロットとは腕前が違う。
「侮るな!!」
左右に逃げ回るのでは駄目だと考え、跳躍したガルスJ。
僅かにやよいの上下への反応が遅れたのを見て、主兵装の「エネルギー・ガン」を放つ。
それは、やよい機の右腕の根本に当たり、吹き飛ばした。
「当たった!?」
「部下の仇、討たせて貰う!!」
そのままガルスJは着地すると、素早くハイゴッグに近づき、右腕を振りかぶる。
「「アーム・パンチ」だよ!?」
「っ!!」
あずきの警告で、咄嗟にやよいは残った左腕のバイス・クロウを使い、右手のパンチを掴む形で受け止めた。
中のビーム・キャノンが衝撃で壊れるが、やよいは構わなかった。
「うあああああああああああッ!!」
ここまで来たら、もう戦法とか関係ない。
半ば悲鳴と化した雄たけびと共に、彼女はガルスJをそのまま反対方向に思いっきり放り投げる。
「のわああああああああああッ!?」
マシュマーにしてみたら、予想していなかった行動だったのだろう。
そのまま頭からジャンク山に叩きつけられるガルスJ。
やよいは腹部マシンキャノンを追撃で放とうとするが、ここで弾切れを起こしている事に気付く。
周りの被害を抑える為なのか、高威力の「魚雷発射管」や「ハンド・ミサイル・ユニット」は、加蓮の乗っていた機体には最初から備えられて無かった。
「だったらぁッ!!」
残っているのは、もう左腕のバイス・クロウのみ。
コックピットを真っすぐ貫く勢いで一気に突進するが、その前に起き上がったガルスJがもう1度エネルギー・ガンを撃ち、左腕も吹き飛ばす。
しかし、やよいは勢いを止めず、ハイゴッグの頭でそのまま頭突きを食らわせた。
「ええい!?何という無茶苦茶な戦い方だ!?………って、ガルスJ、どうした!?」
再びジャンク山を転がる事になったガルスJであるが、当たり所が悪かったのだろう。
武装が上手く機能しなくなった事で、マシュマーは捨て台詞を吐く。
「覚えておけ!ジュドーに、そこの卑怯なパイロット!この勝負、次に預けておく!!」
そう言うと、マシュマーは反転して飛びあがり、コロニーを脱出するために撤退していく。
やよいのハイゴッグも満身創痍である為、どうしようもなかったし、もうこれで気力もほとんど無くなっていた。
「わ………たし………。」
「大丈夫か!?………って、加蓮じゃないのか!?」
モニターにやよいの知らない男のパイロット………ユーグ・クーロが映る。
只、加蓮という名が出た事で、味方であるのは分かった。
やよいの前にグフカスタムを始めとしたファントムスイープ隊の機体が現れる。
その中に、忍のジム・スナイパーⅡを見つけた事で、やよいは通信を送った。
「敵………は………。」
「今は大丈夫。………やよいちゃん、頑張ったんだね。ありがとう。」
「……………。」
状況を悟った忍の感謝の言葉に、やよいはしばし茫然としていたが、やがて口元を押さえ、盛大に嘔吐する。
自分は今日、初めて人を殺した。
覚悟はしていたけれど、その重みを彼女は痛い程実感する事になったのだから………。
しかし、この戦い自体はまだ終わらない。
また、空間にヒビが入った途端、ジェネレーション・ブレイクが発生してしまったのだ。
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ジャンク山の更に北方に位置する人工林に隠れながら、白色の専用機のシグーが、6機のジンと共に待機をしていた。
シグーの搭乗者は、ラウ・ル・クルーゼ。
仮面を付けた人物であり、その素性は謎に包まれている凄腕パイロットである。
何を隠そう、この人物こそが、「ヘリオポリス」の襲撃を計画したのだ。
「ほう………アークエンジェルを追っていたら、噂のアーガマに出会うとは………。次元の歪みとやらは、中々、不可思議な縁を導いてくれるものだ。………後々別の所で割り込んで貰うと厄介だ。今の内に沈んで貰うとしよう!」
クルーゼはそう言うと、部下達に命令をする。
そして、コロニーの南側で隠れて待機をしているシグーアサルト………黒川千秋にも指示を出す。
「陽動はこちらで行う。隙が出来た所で、一撃で破壊してくれたまえ。」
「……………本当に、目的はアーガマだけなのですよね?」
「どうしたんだね?君らしくもない。随分と滅入っているみたいだが?」
クルーゼは特段、その様子を嫌悪する事も無く告げる。
千秋は、「ヘリオポリス」の戦闘で藤原肇と対峙した際に、居住スペースの跡地で子供の亡骸を見つけた。
そこで、肇に言われたのだ。
本当に、一般市民を巻き込まない自信があったのかと。
実際、戦いという物は残酷であり、一度起これば無関係の者も巻き込んでしまう。
「ヘリオポリス」然り、今回の「シャングリラ」も然りである。
それまでナチュラルの蛮行からコーディネイターを守る為に戦っていた千秋は、肇に堕ちたものだとハッキリと言われてから、自分の行為に疑問を持ってしまっていたのだ。
勿論、迷いを抱えて戦っていいわけが無い。
でも、あの子供の亡骸が、どうしても頭の中から離れなかった。
クルーゼも彼女の迷いを察したのか、問いかけて来る。
「ならば、君は今回の作戦は控えた方がいいだろう。無理にトドメ役を担わなくてもいい。」
「い、いえ………クルーゼ隊長の下で折角重要な役目を与えて下さるのですし………!」
千秋は、慌てて取り繕う。
今回懸念材料であったのは、むしろジンのバルルス改特火重粒子砲による、大型のビーム砲であった。
ジャンク山でそんな物を連発すれば、それこそどんな被害が出るか分からない。
だったら、自分が、「キャットゥス500mm無反動砲」で確実にアーガマのブリッジにトドメを刺した方が無難に終われるのは確かであった。
「任務は確実に成功させます。クルーゼ隊の一員として、私も誇りある人物ですから。全ては………ザフトの為に!」
「ふむ………では参ろうか。邪魔者が入らない内にな。」
クルーゼ達が、人工林から飛び出していく。
また新たな望まざる来訪者達が、現れようとしていた。
仲間を救う為に、初めて人を殺した高槻やよい。
その覚悟は、今後何をもたらすのか………?
高槻やよいさん搭乗のハイゴッグVSガザD。
ここで、PAHSE3-1のシミュレーターでの経験が生きる形になりました。
但し、その代償に仲間を守る為に、やよいさんは初めて人の命を奪う事に…。
VSマシュマー・セロ搭乗のガルスJとの戦いでは、もはやなりふり構わずだったのが、功を奏する形に。
高威力の火器が備え付けられてなかった事で、被弾した際の誘爆が防がれたのも密かなポイントです。
初めて殺意を向ける事になった経験は、色んな意味でやよいさんに変化をもたらすはず。
優しい彼女は、それに耐える事が出来るのか?